OMOTENASHIが月に着陸するまでの手順と着陸技術《OMOTENASHIの技術:後編》~アルテミス1号に相乗りする日本のキューブサット(2)

INTERVIEW

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
 OMOTENASHIプロジェクトリーダー

東京大学大学院
 工学系研究科電気系工学専攻 教授

橋本 樹明

1969年の「アポロ計画」以来半世紀を経て、再び月を目指す新しいプロジェクト「アルテミス計画」。その計画の第一弾として2022年初頭に打ち上げ予定の「アルテミス1号」には、無人宇宙船ORIONのほか、13の「相乗りミッション」が実施されます。その13のうち、日本から2つが採用。本連載は、この2つのプロジェクト「OMOTENASHI」「EQUULEUS」の技術やミッションについて、JAXAの各プロジェクトリーダーからお話を伺いました。第2回目は、「OMOTENASHI」後編として、アルテミス1号から分離して月に着陸するまでの着陸技術などについて伺いました。

JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系教授で本ミッションプロジェクトリーダーの、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻橋本樹明教授へのインタビューの後編では、技術の説明の続きと、今回の成果がどのような宇宙開発の展開につながるかをお聞きします。

OMOTENASHIがアルテミス1号から分離して月に着陸するまでの手順と着陸技術

OMOTENASHIの内部構造。中心に減速用の固体ロケットモーターがあり、点火すると、固体ロケットモーター+クラッシャブル材+機器ボックス(着陸モジュール)が後方にスポッと抜け出る(提供:JAXA)
OMOTENASHIの内部構造。中心に減速用の固体ロケットモーターがあり、点火すると、固体ロケットモーター+クラッシャブル材+機器ボックス(着陸モジュール)が後方にスポッと抜け出る(提供:JAXA)


──── 試行錯誤のなかで、当初予定になかった設計変更などもあったのでしょうか。

橋本(以下同):
月面に着陸する角度を変えることになり、大きな設計変更がありました。地球から月に行くには相当な速度がなければなりません。そして、その速度のままでは、月を通り越してしまいます。月に着陸するためには、この勢いを殺さなければいけません。

当初は月面に対して水平方向に侵入して速度をゼロにして、地球の重力の1/6にあたる月の重力による自由落下をさせようと考えていました。減速する速度(水平速度)に多少誤差があっても、月面に衝突する方向の速度(垂直速度)が小さければ良いと考えました。そのため、水平方向に転がっても良いように、エアバッグを膨らませて衝撃を吸収するつもりでした。しかし、水平侵入ではなく、真上から垂直に落とす方法に変更しました。

というのも、減速する際の固体ロケットの推進力の誤差よりも、減速する方向の誤差の方が大きいことがわかりました。月面に衝突する方向の速度を最小にするためには、垂直方向に着陸した方が有利なのです。必ず固体ロケットを下側にして着陸することになったので、固体ロケット側に付いているクラッシャブル材で衝撃が吸収できることがわかりました。そのため、収納スペースに問題があったエアバッグのガス配管を削除して膨らませることはやめました。ただし、エアバッグは残し、アンテナとして機体の上につけることにしました。

手順としては、アルテミス1号が打ち上げられ、ORIONが切り離されてから、13機のキューブサットが次々と放出されます。OMOTENASHI(おもてなし)はその勢いのまま、ガスジェットによって着陸までの軌道を調整しながら、月に向かって進みます。

探査機が月に近づいたら、OMOTENASHIの中心部分にある固体ロケットモーターに点火して逆噴射し、同時にそれまで入っていたキューブサットから、着陸する部分だけがスポッと抜け出すように分離します。放射線測定装置や通信機器や制御装置などの入ったキューブサットはそのままのスピードで進みます。

逆噴射しているのは17秒です。それにより、秒速50mまで速度は下がります。その速度で、固体ロケットと着陸モジュールは月に落ちていきます。これら特に意図的に分離はしませんが、着地の衝撃で、固体ロケットと着陸モジュールは分離すると考えています。

分離したキューブサットには放射線測定装置や通信機器や制御装置などが入ったままですが、減速しないので、先に月面に衝突して、大破します。それまでに測定をしていた放射線環境のデータはすでに地上に送信されているので、機械は破損しても問題ありません。キューブサットの月面衝突速度は約秒速2.5km、時速9,000kmというとんでもない速さです。

さて、着陸する方ですが、電波を出す小さな通信機が入った着陸モジュールの下部には衝撃吸収材であるクラッシャブル材が入っています。強い衝撃を受けると車のバンパーのように、ぐしゃっとつぶれることで、その衝撃を吸収するような金属板を入れており、エアバッグなみに衝撃を吸収することが可能です。しかし、減速したとはいえ、秒速50mという速度では、地球上の重力の1万倍、1万Gもの衝撃があります。それはクラッシャブル材だけでは吸収しきれないので、通信機器の回路はエポキシ系の樹脂接着剤でがちがちに固めて、壊れないようにしています。こうしたいくつかの衝撃吸収技術の開発も今回のプロジェクトの目的のひとつです。


固体ロケットモーターに点火すると、キューブサットから抜け出し、逆噴射によって減速する(提供:JAXA)
固体ロケットモーターに点火すると、キューブサットから抜け出し、逆噴射によって減速する(提供:JAXA)


アルテミス1号から分離後の軌道修正と姿勢制御、独自に開発した4つの部品

──── アルテミス1号から13機のキューブサットが切り離される順序や場所は?

13機はひとつずつ順番に切り離されます。惑星間を目指す衛星などで、遅い順番を希望しているところもありますが、われわれはなるべく打ち上げ直後に早く切り離してほしいという要望を出しました。多くの探査機ができるだけ早い切り離しを希望していて、OMOTENASHIは4番目になっています。まずアルテミス1号から宇宙船ORIONが切り離されたあと、1分間隔で次々放出されていきます。

切り離し地点は、地球から3〜4万km付近です。地球と月は40万kmほどの距離がありますから、月に向かう約1/10の距離のところではもう切り離されることになります。ただ、切り離されたときの軌道をそのまま進めば月にぶつからず、宇宙の彼方に消えてしまうので、自ら軌道変更します。


──── 今回の飛行では宇宙船ORIONは月の周回軌道を通って地球に戻ってきて地球に着陸する予定です。その月に向かう航路に放出されるのではないのですか。

違います。アルテミス1号はORIONを分離した後、自らが宇宙ゴミとなって地球や月の周辺を漂わないように、月を通過して惑星間の軌道に出るように軌道修正されます。その軌道でキューブサットが分離されるので、そのままでは月に到達しないのです。そこで、月にぶつかるような軌道に修正し、かつ、着陸時の衝撃が最小になるよう、月に衝突する速度が最小になる軌道を選びます。そのため、どういう軌道になっているか、どう変わったかを精密に測定する技術が必要です。

OMOTENASHIには減速に使う固体ロケットのほかに、ガスジェットエンジンを2つ積んでいます。それは軌道修正のためのエンジンです。なお今回、ガスジェットエンジンや姿勢制御装置は新たに開発せず、衛星用の量産品を使っています。どうしても独自に開発しなければならないもの以外は、各分野で、世界中でもっとも良品質の既存の量産品を買って組み合わせる方針で開発を行いました。


宇宙科学研究所あきる野実験場で行われた真空燃焼試験の様子(提供:JAXA)
宇宙科学研究所あきる野実験場で行われた真空燃焼試験の様子(提供:JAXA)


──── では、独自に開発された部品、また今後の宇宙開発を変えるような画期的な技術はどれですか。

部品としては、4つあります。①レーザー点火の固体燃料ロケット、②クラッシャブル(衝撃吸収)材、③エアバッグとアンテナ、地球から軌道を制御したり放射線環境のデータを地球に送る④通信機です。通信機はアルテミス1号に日本から相乗りするもうひとつの探査機エクレウス(本連載の3回目と4回目で解説)のプロジェクトチームと共同開発しました。今回、衛星と地球で交信する通信機はNASAとJAXAだけが自前で作っています。NASAの通信機はサイズが大きくて入らなかったので、私たちで開発することにしました。


「相乗りする探査機が単体で他の惑星に着陸する」ことは画期的

──── あらためて、今回のアルテミス1号に、13の探査機の相乗りがなされたことをどう思いますか。

アメリカ、中国、ロシア、インド、イスラエルなどで、月の探査計画は行われていますが、これまで1機の宇宙船を月に到達させることに主眼があり、着陸機の中に実験装置や生物や小さなロボットを積むといったことはありましたが、今回のような相乗りはありませんでした。また、相乗りした探査機が単体で他の惑星に着陸するというのはこれまでにないことです。これがもっとも画期的な点といえるでしょう。

そして、大型の着陸船以外のものを、月の裏側などへある程度狙って落としたいところに落とせるというのが、今回の画期的な点になります。OMOTENASHIでは軌道の計算プログラミングを軌道の専門家が手がけました。目的地点からどのくらいの誤差で落とせるかについては、軌道制御技術の高さがものをいいます。この技術は、今後小型探査機が直接着陸するための要素技術となります。


──── 着陸の成否はどのように判断するのでしょうか。

着陸させる部分はアマチュア無線の通信機しか積んでおらず、ただ電波が出るだけです。世界中の無線家がその電波を受信できれば、それをもって成功したと判断されます。


──── アマチュア無線家とのコラボレーションという点も、とても夢のあるお話ですね。その着陸に関して、これまで、有人の宇宙船はもちろん、大型の着陸機はソフトランディングでした。セミハードランディングが成功すると今後どのような展望があるのですか。

今後、大型の月ロケットは今後も相当数打ち上げられ、無人、有人の多くの宇宙船が月に着陸していくでしょう。しかし、それはかけるコストからしても、絶対に失敗出来ないので、安全で平坦な場所にソフトランディングさせます。人を乗せている場合は当然平らなところにしか着陸させられません。着陸場所は限られたところになります。

しかし、月面には安全な着陸に適当なところ以外にも、斜面や谷、障害物があるところで観測したいところがあります。OMOTENASHIのミッションが成功して、キューブサットが単体で着陸できる技術が確立すれば、でこぼこの月面や危険な場所に、探査目的のために探査機だけで行けるのです。ひとつのロケットあたり、たとえば月面探査機を10機程度載せて、軌道上で分離し、それぞれ違うところに着陸させて10か所を探査し、いろいろな地点のデータを取ることも可能になります。
 
無人ローバーを積んだもう少し大きな探査機を同じように着陸させて、着陸してからローバーが動き出して探査するという可能性も広がります。そのような無人探査をすることを想定した超小型ローバーを開発しているスタートアップなどもあります。今回の6Uサイズの2倍、3倍のサイズの12Uや24Uならば、ロボットも乗せられるでしょう。着陸後、ロボットに周辺数十メートルを活動させるというようなことも視野に入ってきます。

※(筆者注)なお、現在JAXAでは、今回のプロジェクトとは別の、SLIMという小型月着陸実証機のプロジェクトで、月面にピンポイントで着陸する計画を進めています。そのなかで、オプションとして、小さなロボットを積む計画もあります。

 

日本は「惑星探査機」開発が得意、次のミッションは「水探査」「地震観測」等

──── 日本の宇宙開発において、小型探査機は得意分野なのでしょうか。

世界的に、大きな衛星の開発も盛んですが、同時に小型化も進んでいます。今回も、どれだけ小さくできるかに挑戦し、それができるようにしたいという思いはありました。JAXAは有人探査でもISSに多数の宇宙飛行士を派遣していて、そちらの実績もありますが、ご存知のように、はやぶさ、はやぶさ2、ミネルヴァ、ミネルヴァ2、イカロス、プロキオンなど小型でいろいろな機能を持った惑星探査機の開発は得意分野です。


──── 今回のミッションが成功すると、その技術はほかにどのような使いみちがありますか。

実は、成功確率100%ではなく、60%くらいが目標です。もし成功しなくても、どこが悪かったかのデータを蓄積するのが目的です。それも踏まえて、すでに多くの科学者から、OMOTENASHIの技術を今後こういうことに使いたいという要望をいただいています。数百億円規模のプロジェクトの場合、世界中の人の多くが認めるようなテーマでなければ実験できませんが、数億円であれば、さまざまなアイデアを試すことができます。月面探査であれば研究資金も獲得しやすいので、好きなところへ飛ばして好きなように使えると思ってもらえているようです。

現在、ニーズとして多いのは、水探査です。月面の氷を探すことですね。これまで、NASAやインドや中国が、月の極域の観測をしており、不確定ではありますが、月面には氷があるという証拠が積み上がってきています。極域やそれ以外の月表も含めて、水を検出するセンサーを小型探査機に積んで着陸させたいという需要があります。これも、水があるかないかわからないところに着陸するために、数百億円の探査機を飛ばすことは許されませんが、数億円規模なら許容されるという最たる例です。

また、地震観測の依頼もあります。月の地震観測をすることで、月の内部構造がわかります。内部構造がわかれば、その類推で、月以外の太陽系の星がどのようにできたのか、ひいては地球の歴史もわかります。精密な地震計を設置して、きれいな波形を検出することも重要なのですが、簡易な地震計をなるべく広範囲の多くの観測点に置いて同時に観測できれば、質より量で、重要なデータになるからです。
ほかに彗星(コメット)や小惑星へのアプローチに使いたいという依頼もあります。

今回は6Uで必要最低限のものをぎりぎりに詰めこんでいます。もしサイズが2倍になったら、できることは2倍になるかというと、そうではありません。それ以上です。軌道制御や減速などの月面着陸までに必要な要素は6Uでも12Uでもさほど変わりませんから、12Uになれば大きな余裕が生まれ、2倍以上のことができると考えています。数百g程度で、さまざまなことを計測できるセンサーはたくさんあります。


──── 人の月面移住に関連するような使い道はありますか。

電波灯台をちりばめるという使い方もできます。移住というより、人が月面で活動する場合、ビーコンを出せる電波灯台がたくさんあるとローバーを動かすのに便利です。電波を出すだけの装置をキューブサットで打ち上げておけば、月面ドライブなどが楽になるのではないかと思います。もちろん、周回衛星からGPSの信号を出すという方法もありますが、ナビスポットを月面に置くというアプローチを並行して開発すれば、通信手段が広がります。


──── 今後のご自身の目標は?

OMOTENASHIのプロジェクトを経て、小型探査機の月面着陸の技術を確立したいと思っています。そしてその技術をこれからどう活用していくのかについては、次の世代の研究者たちに委ねたいと思います。学会やシンポジウムで今回のプロジェクトを多くの人に聞いてもらい、みなさんの自由なアイデアをぜひ出してもらって、宇宙開発の未来へと繋げていってもらいたいと思います。


文/奥田由意


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