月に単独で着陸する超小型探査機のミッションとは《OMOTENASHIの技術:前編》~アルテミス1号に相乗りする日本のキューブサット(1)

INTERVIEW

宇宙航空研究開発機構(JAXA)
 OMOTENASHIプロジェクトリーダー

東京大学大学院
 工学系研究科電気系工学専攻 教授

橋本 樹明

人類が初めて宇宙飛行士を月面に着陸させた1969年の「アポロ計画」。半世紀を経て、再び月を目指して「アルテミス計画」という新しいプロジェクトがNASA主導で進められています。そのアルテミス計画の第一弾として2022年初頭に打ち上げ予定の「アルテミス1号」には、無人宇宙船ORIONのほか、13の「相乗りミッション」が実施されます。その13のうち、日本から2つが採用。本連載では、この2つのプロジェクト「OMOTENASHI」「EQUULEUS」の技術やミッションについて、JAXAの各プロジェクトリーダーからお話を伺いました。第1回目は、「OMOTENASHI」前編として、同プロジェクトのミッションやそのミッションが持つ意味などについて伺いました。

ニール・アームストロング(Neil Alden Armstrong)船長とエドウィン・オルドリン(Edwin W. Aldrin Jr.)操縦士の2人が月面に降り立ったのは1969年7月20日。彼らを含めて、月に降りた宇宙飛行士はわずか12名。「アポロ計画」は1972年に終了し、以来、人間は月に足を踏み入れてはいませんでした。あれから半世紀を経て、人間は再び月を目指そうとしています。新しいプロジェクトの名は、「アルテミス計画」。アメリカ航空宇宙局(NASA)、NASAが契約している米国の民間宇宙飛行会社、欧州宇宙機関(ESA)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、カナダ宇宙庁(CSA)、オーストラリア宇宙庁(ASA)などの国際的パートナーによって実施されます。

アルテミス計画は、2025年までに宇宙飛行士を月面に送り込んで多数のミッションを実行。同時に、月の周回軌道上に有人拠点Gateway(宇宙ステーション)を設け、Gatewayなどを通じて月に物資を運んで月面基地を建設。月面に人が居住できるようにし、さらにその先には人類を火星に送るという計画です。

このアルテミス計画の第一弾として打ち上げられるSLS(Space Launch System)ロケット「アルテミス1号」は、テスト飛行として、無人の宇宙船ORIONを載せ、月軌道を周回した後、地球に帰還するまでの行程をシミュレーションします。当初は2018年に打ち上げられる計画でしたが、延期され、いよいよ、2022年の初頭には打ち上げられる予定です。

さて、そのアルテミス1号にはNASAが主導する月ミッションのほかに、13の「相乗りミッション」が実施されます。具体的には、アルテミス1号に13個の6Uサイズ(11×24×37cm、NASAが規定した最大重量は14kg)の超小型探査機キューブサット(CubeSat)が搭載されて打ち上げられます。その後、月へ向かう軌道上でキューブサットが放出され、それぞれにミッションをこなすというものです。その13のミッションのうち、日本から2つのプロジェクトが採用されました。

そのうちのひとつ、「OMOTENASHI(おもてなし)」は、超小型探査機の月着陸技術を開発実証するプロジェクトです。簡単に言えば、宇宙空間からキューブサット単体で直接月面に着陸させます。着陸した後も壊れずに地球と通信ができればミッションは成功です。OMOTENASHIのミッションは2つあり、もうひとつのミッションは、地球から月までの軌道上での放射線環境を測ります。

なぜそのようなミッションを行うのでしょうか。OMOTENASHIの概要・技術のポイントや、その成功が今後の宇宙開発にもたらす意義について、JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系教授で本ミッションプロジェクトリーダーの、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻橋本樹明教授に聞きました。前半はOMOTENASHI設計の技術開発の苦労についてお話いただきました。


アルテミス1号の打ち上げ延期と、相乗りする超小型探査機(キューブサット)への応募

──── もともとアルテミス1号は2018年に打ち上げが予定されており、OMOTENASHIプロジェクトが採択されたのが16年4月。打ち上げ予定までの期間が非常に短く、開発には苦労されたと聞きました。しかしそれから数度延期となり、2022年初頭までには打ち上げられるめどが立ったとのことですが、ようやくですね。

橋本氏(以下同):
そもそも、2015年8月にNASAからJAXAに、相乗りのキューブサットの枠を国際パートナーにも解放するのでプロジェクトを募集しますという打診があったのですが、その時点で締め切りまで2週間ほどしかなかったんです。そこで急いで計画書を書いて採用されたという経緯がありますので、当初から苦労の連続でしたね。

新型コロナウイルスの流行などもあり、延期に継ぐ延期となりましたが、22年の初頭には打ち上げられると聞いています。22年の年始に最後の実証実験をしてその結果で確定するようです。あとは天候などにもよって打ち上げ日程は前後する可能性があります。当初の予定からは3年以上遅れましたが、実際にはこちらも作業が間に合っていなかったところが間に合うなど、遅れて助かったところもあります。ただ、これ以上遅れると、人の確保やスケジュールの面でも、ほかのプロジェクトに影響が出てしまうので、このタイミングで決まってほっとしています。

2021年7月に渡米して、NASAにOMOTENASHIの実機を引き渡しました。コロナ対策として渡航後10日、帰国後2週間の自主隔離や、それ以前にも半年近く、各種の感染対策などの準備があり、それはそれで大変でした。現在、打ち上げまで最終調整を重ねているところです。もちろん打ち上げにはつねに不安がつきまといますが、ここまでさまざまな苦労を重ねて、成功に向けてのトライアルを重ねてきたので、今はその成果を見たいという期待が一番大きいです。


「超小型」探査機が単独で月面に着陸する意義と、OMOTENASHIのミッション

OMOTENASHIの実機。最小のCubeSat6個分(6U)のサイズ。(提供:JAXA)
OMOTENASHIの実機。最小のCubeSat6個分(6U)のサイズ。(提供:JAXA)


──── OMOTENASHIのメインミッションについてお尋ねします。アポロ計画で使われたような大きな月着陸船を使わず、超小型の探査機が単独で月に直接着陸することの意義を教えてください。

これまで、宇宙探査機や人工衛星の打ち上げに専用のロケットを飛ばせば数百億円ほどかかるのが普通でした。地球の軌道上を周回する中型の民間の人工衛星の打ち上げでも数十億円はかかります。ましてや、月の周回軌道上に投入する人工衛星や、月面探査機の打ち上げにかかる費用はそれよりもはるかに大きくなります。月は遠いですし、月に向かう宇宙船は人工衛星よりもかなり大きく重いため(ORIONは長さ2.7m、直径4.5m、総重量25トン)、SLSロケットのような巨大なロケットを飛ばす必要があります。月の探査は、多くの人員と莫大な時間とコストがかかるのです。


──── 月の探査は、アポロ計画で有人飛行を成功させているアメリカはもちろん、月の裏側への着陸に成功している中国や、ロシア、インド、イスラエルなどが挑戦していますが、巨大プロジェクトのイメージです。

それが大学や民間に降りてくるとしたらどうでしょうか。今回のOMOTENASHIプロジェクトで、相乗りで打ち上げられることが前提の超小型のキューブサットが、そのまま月着陸できることが実証できれば、これまでよりはるかに少ない人数で、地球軌道の人工衛星にかかる費用の数10分の1、数100分の1の数億円ほどの費用で月探査ができることになるわけです。巨大な資本がなくても、大学の研究室のコラボレーションや、日本のスタートアップや中小企業でも宇宙探査に取り組めることになります。世の中が確実に変わります。

今回われわれがミッションに使うキューブサットは6ユニット(11×24×37センチ)という非常に小さなサイズのものですから、着陸させるというところまでしか実証できません。メインミッションは、OMOTENASHIが月面着陸し、搭載した機器が電波を発信し、それを地球上で受信して、確認するところまでです。「着陸して、電波が出続けました」というのが目標です。これが実証できれば、その先には、もうひとまわり大きいキューブサットを使い、月面着陸する探査機に小型ローバーなどの観測機を乗せることもできるようになるでしょう。そうなれば、月まで宇宙船を飛ばして大型の月探査機を着陸させなくても、超小型探査機を単体で月に着陸させて月面観測できるという要素技術の確認になります。


OMOTENASHIのミッション。打ち上げ初日にSLSロケットから分離し、軌道を修正しながら、地球から月に到達するまでの間の放射線環境を計測。打ち上げから4〜5日後に月に着陸する(提供:JAXA)
OMOTENASHIのミッション。打ち上げ初日にSLSロケットから分離し、軌道を修正しながら、地球から月に到達するまでの間の放射線環境を計測。打ち上げから4〜5日後に月に着陸する(提供:JAXA)


超小型探査機が月面に着陸する方法と、「固体ロケットモーター」の役割

──── OMOTENASHIの月面着陸の方法は、大型の探査機の着陸とはどのように違うのでしょうか。

精密な機械を多く積み、宇宙飛行士を載せた大型の着陸船は、できる限りソフトランディングする必要があります。着陸時の衝撃を避けるため、逆噴射で減速しながらゆっくり、水平に着陸します。そのためには、大小さまざまなセンサーを積んで、速度や角度を計測しながら、推力を調整できるエンジンを積む必要があります。そのため、推進機構と制御機構部分が大きくなってしまいます。

今回のキューブサットはスペースが限られていますから、そもそもそうした構造にできません。ですから、センサーや微妙な速度調整ができるエンジンは積んでいません。OMOTENASHIの中心部には、全長約300mm・重量約4kgの、固体ロケットモーターが搭載されています。固体ロケットモーターは、モーターケースの内側に火薬類の一種である固体推進薬が詰め込まれた推進装置で、推進薬が燃焼する際に発生する高温・高圧の燃焼生成物をノズルから排出することによって推進力を得ます。

OMOTENASHIに搭載された超小型の固体ロケットモーターは、わずか20秒弱の燃焼時間中に、着陸モジュールである約0.7kgのサーフェスプローブを頭部に載せた状態で、約2,500m/sも速度を変えることができます。この固体ロケットに点火して逆噴射して一気に減速させ、燃料を使い切ったところで、月の重力に任せて着陸します。固体モーターは燃焼中の推力を調整できないため、いわゆるソフトランディングはできず、セミ・ハードランディングになります。これが難しい点でした。着地速度は秒速50m程度の速度になり、1万G(地球上の重力の1万倍)もの衝撃がかかる可能性があるので、着陸時にある程度の衝撃を覚悟し、それに耐えるものを作らなくてはなりません。ある程度の衝撃を吸収する機体にし、耐衝撃技術も開発しました。


地球・月周辺の放射線環境測定と理由、世界の無線家との交信キャンペーン

──── OMOTENASHIのもうひとつのミッションである、宇宙空間の放射線の測定の意義はどのようなものでしょうか。

地球・月周辺の放射線環境測定を行うため、超小型の放射線モニターを搭載しています。地球磁気圏の外側の放射線はこれまであまり測られていませんでした。過去に探査機にセンサーを積んで計測した例は2、3機にとどまっています。しかし、いまや一般の人も宇宙に行こうという時代です。宇宙空間に飛び交う放射線が人体に与える影響を十分に評価できなければなりません。

実は、地球のまわりの比較的低い軌道(高度300〜400km)については、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士が交代で連続的に滞在しており、放射線環境や、人体影響のデータがそろっていて、研究も進んでいます。ただ、地球のまわりには磁場があり、ISSでは、宇宙にある強い放射線もある程度シールドされています。これに対して、地球から離れた惑星や月では、強い放射線が人体にまともに当たるので、その影響を測定しなければならないということです。今後、小さい探査機が数多く打ち上げられ、それらすべてがデータを取ることができれば、質より量で、多少データの精度が悪くても、時々刻々変化する放射線環境について、多面的にわかるようになります。


──── 民間のアマチュア無線との交信も予定されていますね。

今回、月に着陸する探査機は、着陸直前にJAXAと交信する通常の高度な機能を持つ通信機を分離してしまうため、着陸確認は本体から出す電波をアマチュア無線で拾ってもらうことで、着陸が成功したことの実証となります。それから、主たるミッションではないのですが、月へ行くまでの間に、民間アマチュアの無線のUHFのバンド通信機も搭載し、空き時間ができれば、世界の無線家にある特定のメッセージを送信して確認してもらうキャンペーンを行う予定です。大きなアンテナを持っていなければ受信できないのですが、日本にも世界にも大きなアンテナを持つ好事家がたくさんいます。


技術的ハードルは「重量制限」、個体ロケットモーターの点火方式を光ファイバーに

──── OMOTENASHIの開発で一番苦労されたことは何ですか。

今回OMOTENASHIを含めた13機の探査機のサイズが決まっており、その小さいサイズ(11×24×37センチメートル、6Uサイズ)の中に収まるように作らなくてはならなかった点ですね。

アルテミスが打ち上げられたときに軌道速度がつくので、そこから分離した小型衛星を月面に着陸させるためには、小型衛星を減速させなくてはなりません。固体ロケットモーターを逆噴射させて使うと、比較的効率がいいのですが、衛星全体の重さを減速させるほどの固体ロケットはこのサイズには収まりません。そこで、軽くするために、月に行くまでに必要な通信装置、制御装置は、その前の段階で分離することにしました。着陸時には不要になるからです。

探査機本体に個体ロケットモーターをつけておき、着陸直前に、放射線の線量計、月までの間の地球との交信を担う通信機や姿勢制御装置など、着陸してからは使わない部分を分離して、ロケットとサーフェスプローブと呼ばれる本体だけが着陸する構成になっています。本体部分だけだと、わずか700gです。

従来でも、本体と着陸のためのロケットモーターだけが分離する衛星はあったのですが、大型でした。なぜ大型になるかというと、ロケットが誤点火すると大事故になるので、固体ロケットの点火装置には当然ながら、高い安全性が求められます。それほどの安全性を確保するには、大きな安全装置をつけざるを得ないからです。

これまで一般的な点火方式は、まず電気で小さな点火薬に点火して、その種火を燃え移らせて、ロケット本体に火をつけるというものでした。そのため、もし種火に誤点火してしまっても、すぐに本体に燃え移らないように、通常は点火薬とロケット本体の間にシャッターをつけておき、本体に点火する直前にシャッターを開けるようにして、安全を確保しています。しかし、点火薬に点火するためのモーターや、頑丈なシャッターは、数百gの重量があり、それを今回の固体ロケットにつけると、結局、探査機全体が重くなるので、それはできません。

そこで小さいサイズに収めるために、電気の代わりに光ファイバーで点火するレーザー方式にしました。レーザーが発光しないようにするための安全装置はとても軽いもので事足ります。そして、固体モーターは点火するとその勢いで飛び出るので、特別な分離装置はつけず、分離前に抑える装置をつけておいて、点火直前にその抑えを離すことで、自動的に飛び出ていくようにしました。

光ファイバーはとても細く、固体ロケットが点火して飛び出せば、簡単にちぎれてしまいますので、分離装置も必要ありません。このように、必要最低限の装置だけで分離できるように考えました。
ちなみに、レーザー点火自体は外国では既存の技術ですが、日本の衛星で使うのは初めてで、今回の実証が成功すれば、従来方式の安全装置より小型で安全に固体ロケットを飛ばせることを示せます。


光ファイバーを使って点火する固体ロケットモーター(提供:JAXA)
光ファイバーを使って点火する固体ロケットモーター(提供:JAXA)


──── とにかく小さくするという点が一番の課題だったのですね。

はい。私自身30年にわたり、衛星を開発してきましたが、一貫して重量が問題でした。スペースが十分な大きな衛星の中に、サイズの制約なく、さまざまな機器を入れ、重量の合計値を厳密に管理することが課題だったのです。しかし今回の問題は重量よりもサイズでした。今回は14kgという重量制限がありましたが、サイズ的にそれほど多くの機器を入れられないため、最終的に12.6kgに収まりました。

その代わり、どの装置をどこに入れて、隙間はどのくらい空いていればいいのか、このネジが入るか入らないか、ネジをまわすドライバーが当たってしまわないか、ネジを締めるとき、どこが障害物になるのかなど、組み立て手順を考えながら、各装置の配線や配置を考えることに腐心しました。市販の装置は大きさも形もコネクタの場所も決まっているので、それを考慮しながら、線をどう曲げて、どのようにつなげたい機器のところに持っていくかなど、CADソフトである程度は設計できるとはいえ、ケーブルをどのくらいまでなら曲げても切れないかまでは計算できません。このように小さいスペースに配線を含めた機器を収めることが技術的にはもっとも苦労した点です。

文/奥田由意

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