再生可能エネルギーの中で大きな割合を占めている太陽エネルギーに注目し、日本太陽エネルギー学会の監修により基礎解説をしていく本連載。第5回目は、太陽光発電とともに再生可能エネルギーの主要な発電方式の一つである「風力発電」についてです。太陽エネルギーと風は無関係のように思われがちですが、地球に降り注ぐ太陽エネルギーが大気を動かし、風を発生させていますので、大きなくくりでは風力発電も太陽エネルギー由来だとも言えます。今回は、風力発電の仕組みや導入量の推移、洋上風力発電について解説します。
風力エネルギーは、世界的に最も導入普及が進んでいる再生可能エネルギー技術の一つです。風車は風のエネルギー(=1/2×空気密度×風速3×ロータ面積)をロータ(風車の回転部)で動力に変換し、その動力を発電機で電力に変換する装置であるため、発電電力量の増加には、1)パワー係数(風のエネルギーからロータ動力または出力電力への変換効率)の向上、2)ロータ面積の拡大、3)ウィンドファームとしての集合設置、4)高風速地への設置が重要です。以下、このような観点で、これまでの風力発電の動向と今後の見通しについて解説します。
世界の風力発電導入量推移と、日本における風力発電の割合
<図1>に示すように、世界の風力発電の導入量は、2000年代より急速に導入が進み、2019年には、世界全体で年間約60GW、累計で651GWに達しています。特に、2010年代以降、洋上風力の伸びが顕著であり、2017年以降は新規導入量の約9%、累積導入量の約5%を占めるまでになってきています。
主要な先進国の中で、国土の面積や人口が日本に比較的近いドイツでは、2020年の電力需要における風力の割合は約26%で、さらなる導入拡大を目指しています。一方、日本では、2020年では4.4GWで、電力需要の約1%を占めるに過ぎませんが、2040年の目標として20年に発表された洋上風力30~45GWの官民目標が達成されれば、現在の欧州の先進地域の水準に近づくことになります。

風車のいろんな形式と、その特徴
さまざまな形式のロータの周速比(風速に対する翼端周速)に対するパワー係数を<図2>に示します。

3枚翼と2枚翼のプロペラ型ロータの特徴
今日の発電用の風車は、ほぼすべてが高効率を示す3枚翼プロペラ型ロータによるものであり、前項の統計も、ほとんどすべてがこの形式のものです。一般的な大型風車ロータのソリディティ(Solidity、ロータ面積に対する全ブレード面積の比)は、5%(1/20)未満です。言い換えると、回転することにより、ブレード面積の20倍以上の面積のエネルギーを取得できることが、プロペラ型ロータの優れている点です。また、ソリディティが小さいロータでは、より高い回転速度で効率(パワー係数)が高くなるので、2枚翼ロータの最適周速比(パワー係数最大)は3枚翼ロータよりも高めになります。
2枚翼ロータは、回転速度が高いため騒音が大きく、2枚翼特有の自励振動があるため、陸上用としてはほとんど普及していませんでしたが、洋上では騒音は大きな問題ではなく、輸送・設置に大きなメリットが見込めることから、将来の技術として有望視されています。
また、プロペラ型ロータは、タワーに対してロータを風上側に配置したアップウィンドロータがほとんどを占めます。しかし、ロータを風下側に配置したダウンウィンドロータは、ブレードの剛性要求が小さく空力的安定性に優れているため、超大型風車や特定の形式の浮体式洋上風車に有利なコンセプトとして有望視されています。
水平軸型「プロペラ型」と垂直軸型「ダリウス型」のパワー係数の違い
ブレードの断面に流入する速度と同断面が発生する力を<図3>に示します。<図2>グラフ横軸の周速比は、各ブレード断面における流入角φを決定します。通常の発電条件では、風速の分布、流れの角度(ヨー角)、ロータ速度の変化は緩慢なため、周速比はほぼ一定となります。そのため、軸の向きが地面と水平の「プロペラ型ロータ」では、ブレード断面の幅(翼弦長)と取付角(捩れ角)を比較的効率のいい値に設定することができるため、50%前後の高いパワー係数が実現します。それに対して、軸の向きが地面と垂直の「ダリウス型ロータ」では、ロータ回転中に流入速度ならびに流入角は大きく変化するため、最大パワー係数はプロペラ型よりも原理的に低くなります。

プロペラ型風車の仕組みと、風力発電の出力制御方法
プロペラ型風車の仕組み
通常のプロペラ型風車は、ロータ直径と同程度の高さのタワー上に、増速機、ブレーキ、発電機からなる「ナセル」を搭載し、ロータを空中の高い位置に保持します。代表的なナセルを<図4>に示します。ロータのトルクは主軸を介して増速機で増速して発電機に入力し、ロータに発生するそのほかの荷重は、主軸軸受や増速機を介して、ナセルの架構、さらには、タワーに伝達されます。<図4>は、高速の巻線誘導型発電機を使用した一般的なものですが、多極の永久磁石または巻線の同期発電機を使用することで増速機を排除したギアレス(またはダイレクトドライブ)の風車も普及しています。

風力発電の出力制御方法
2MWを超える大型の風車の出力制御として可変速「ピッチ制御」が一般的です。これは、定格よりも低い低風速域では、ブレードのピッチ角を固定し、回転速度に対して発電機のトルクを<図2>のパワー係数が最大となる周速比近くで発電します。なお、通常の風車はナセルの頂部に風速計を持ちますが、この風速でロータ風速を代表させることはできないので、発電機速度の2乗に比例するように発電機トルクを制御します。
また、高風速域において最適条件のまま発電し続けるとパワーは風速の3乗に比例して急速に増加しますが、このような頻度が低い高風速を想定するのは無駄な設計となるので、通常は11~14m/sの定格風速を超える風速域では、出力を一定(定格出力)として、ロータ速度の増減をブレードピッチ角で制御します。また、暴風時にはブレードピッチ角を約90°として、ロータが高速で回転しないようにして待機します。
また、プロペラ型風車では、ロータと風向の偏差が大きい場合には、出力が低下し、変動荷重が増加するため、ナセル上で計測した風向(ヨー角)の偏差が予め定めた角度を超過した場合には、正対させるようにナセルとタワー間のベアリングをモータで回転させます。これを、「ヨー制御」といいます。
洋上風力発電の基礎形式の特徴と、大型化・大規模化の流れ
上記の概要で述べた発電電力量の増加策のうち、2)ロータ面積の拡大、3)ウィンドファームとしての集合設置、4)高風速地を満たす条件として、近年、「洋上風力発電」が本格化しています。洋上風力には、風車を海底に固定した基礎の上に設置する「着床式洋上風車」と、係留した浮体上に設置する「浮体式洋上風車」があります。

<図5>に示すように、多様な基礎形式がありますが、着床式としては比較的低コストのモノパイル型が優先的に選択され、水深が大きい場合などにジャケット型が選択されます。世界初の着床式の洋上風車は1991年にデンマークのVindebyに設置されました。これは、11基の450kW風車で構成するもので、今日の風車としては非常に小さいサイズの風車を使用したもので、発電コストも陸上の2倍以上でした。
洋上風力は、着床式洋上風車に適した、北海やバルト海の比較的水深が小さく海底地形が比較的平坦で風速が高い海域から導入が進みました。近年の洋上風力の伸びは<図1>で示した通りですが、<図6>に示すように、近年、ウィンドファームの大規模化によるコスト低減が進んでいます。日本でも着床式の洋上ウィンドファーム推進のための環境が整いつつあり、今後、急速に導入が進むことが期待されます。

より水深の大きい海域に有望な技術として、係留した浮体上に風車を設置する浮体式洋上風車があります。浮体式洋上風車は、歴史が浅く、まだ十分成熟していないため、<図5>に示すような多様な形式が検討されていますが、スパー型、バージ型、ならびに、セミサブ型の開発が比較的先行しています。浮体式洋上風車では、通常の浮体の運動・応答に加えて、浮体の動揺を考慮する必要がありますので、より技術的に高度なシステムです。しかし、一般的な着床式洋上風車と比較して、コストの多くを占める海洋工事を圧縮し、発電コストを劇的に削減できる技術が出現する可能性もあります。
いずれにしても、洋上風力は、四方を比較的水深の大きい海に囲まれ、世界第6位の排他的経済水域を持つ日本において、極めて有望な技術として期待されています。
前述のように、発電電力量はロータ面積に強く依存します。ロータ面積増加によりコストも増加しますが、それ以上に発電電力量増加への効果が大きいため、これまで、風車は大型化してきました。陸上の風車では、重量や大きさにより、輸送性・建設性で制約を受けますが、洋上においてはそれらの制約が小さいため、大型化の制約は陸上ほど強くありません。また、風車の資本コストや運転・保守コストは、出力よりも基数に依存するものも多いので、大型化・大規模化が発電コスト低減のための基本的な方向性です。そのため、<図7>に示すように、洋上風力が本格化してきた2000年以降、大型化の流れが加速し、大型化競争の様相を呈しています。今日、風車サイズは10~14MWに達していますが、今後、どこまで大型化が進むか、また、如何なる技術が開発・適用されるかが注目されます。

文/吉田茂雄(佐賀大学 海洋エネルギー研究センター教授、九州大学 応用力学研究所教授)
監修協力
日本太陽エネルギー学会
太陽エネルギーをはじめとする風力・バイオマス等の再生可能エネルギー利用、並びに、持続可能な社会構築に関する基礎から応用についての科学技術の振興と普及啓蒙を推進。
▽参考文献
参考文献1:Global Wind Energy Council, Global Wind Report 2019, 2019.
参考文献2:Hau, E., Wind Turbines Fundamentals, Technologies, Application, Economics, Springer, 2006.
参考文献3:Burton, T., et al., Wind Turbine Technologies, Wiley, 2011.
参考文献4:Nordex, Erection Instructions, 2008.
参考文献5:NEDO, 浮体式洋上風力発電技術ガイドブック, 2019.
参考文献6:International Energy Agency, Offshore Wind Outlook 2019, 2019.
参考文献7:Global Wind Energy Council, Global Offshore Wind Report 2020, 2020.
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- (1)世界と日本の太陽光及び風力発電など「再生可能エネルギー」の割合と導入推移
- (2)太陽電池の構成単位、製造プロセス、性能指標、そして最新技術
- (3)太陽光発電システムにおけるパワーコンディショナ(PCS)の役割とMPPT制御アルゴリズム、そして環境性能
- (4)太陽光発電の出力予測を支える日射量予測技術
- (5)風力発電の仕組みと導入量の推移、洋上風力発電の基礎形式と展望
- (6)太陽熱利用システムの6つの種類と特徴、太陽熱利用システムの設置面積の推移
- (7)建築・住宅における太陽エネルギー利用の4つのトレンド
- (8)バイオマスとは。定義や種類、利用形態を分かり易く解説
- (9)水素エネルギーとは。製造プロセスの種類による色分けや利用形態を分かり易く解説
- (10)再生可能エネルギーの導入ポテンシャルから、日本の地域毎の再エネ政策を考えてみる
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