バイオトイレ普及への取り組み、山岳用、災害対策用として活用〜SDGs時代におけるバイオトイレの可能性(中編)

INTERVIEW

正和電工株式会社
代表取締役
橘井 敏弘

前編では、日本のトイレの9割が公共下水道または合併処理浄化槽を使って処理されていますが、1割はまだ汲み取り式などの非水洗トイレであり、そうしたトイレにバイオトイレが適しているという解説と、正和電工がバイオトイレの開発を始めるきっかけについて紹介をしました。しかし、上水道も下水道も浄化槽も必要なく、糞尿が消滅し、匂いもしない、良質な肥料ができるトイレがあることを、世間にはなかなか認知してもらえず、国内では法律の障壁もあり、認められるまでには長い年月がかかりました。中編では、日本で認められるまでのストーリーを紹介します。

水洗式トイレが当たり前のように普及している日本において、水を使わずに排泄物を処理する「バイオトイレ」の必要性はなかなか感じづらいかもしれません。しかし、日本中に下水道が張り巡らされているわけではなく、公共下水道のカバー率は8割。残り2割のうち、1割が合併処理浄化槽を使って処理されており、1割が汲み取り式トイレとなっています。山間地や離島、登山道などでは、いまだ糞尿の処理が課題になっています。また、災害時には深刻なトイレ問題が発生することがあります。

そうした課題を解決する存在として期待を寄せられているのが「バイオトイレ」です。北海道・旭川に拠点を構える正和電工株式会社が開発するバイオトイレ「Bio-Lux(R)」は、2013年に世界文化遺産に登録された富士山や、世界自然遺産の白神山地、知床をはじめとする日本の山岳トイレや、都市部のビルや公共施設での防災用トイレとして採用が始まっています。そこに至るまでの過程について、正和電工株式会社代表取締役橘井敏弘(きつい・としひろ)氏のお話を続けましょう。


富士山の山岳トイレ処理による汚染~「バイオトイレ」普及への取り組み①

日本の都市部で生活をしているとトイレで困ることはありません。商業施設やコンビニ、街中にも綺麗な水洗式トイレがあるため、トイレになにか課題があるとは思わないでしょう。そのため、正和電工がバイオトイレを開発し、1995年に販売を開始しても、あまり多くの人に興味を持たれませんでした。

また、当初は日本の法律(建築基準法第31条、下水道法第11条の3)にも抵触していました。トイレ設置に関する建築基準法第31条には、公共下水道が整備されている地域では「水洗便所(汚水管が公共下水道に連結されたものに限る)以外の便所にしてはならない」と明記されており、日本の8割のエリアで、設置すら認められていなかったのです。

下水道整備区域以外の地域でも、「汚水を公共下水道以外に放流する場合は、政令で定めた技術的基準に適合するし尿処理槽を設置しなければならない」と定められており、汚水を出さないバイオトイレは適法ではあったものの、怪しげなトイレと警戒され、新聞広告を掲載することもできなかったと言います。

そうした状況の中でも、橘井氏はバイオトイレの可能性を信じ続け、開発を続けました。そして、静岡県環境部富士山保全室、 環境庁、富士山トイレ研究会と共同で、2000年から富士山山頂で「Bio-Lux(R)」を活用した実証実験を行います。

当時、富士山の登山道にあるトイレは処理がされておらず、タンクに溜めたものを登山シーズン終了後に山腹に投棄する、いわば垂れ流し状態で、非常に不潔であり、水で溶けたトイレットペーパーが「白い川」を作り、景観も損ねていたこともあって、問題になっていました。2013年に「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録される以前たびたび世界遺産の候補に挙げられていたのにも関わらず、なかなか登録されなかったのは、トイレの問題があるからだと言われていました。


富士山山頂(久須志岳標高3,720m付近)に設置されたバイオトイレ(提供:正和電工株式会社)
富士山山頂(久須志岳標高3,720m付近)に設置されたバイオトイレ(提供:正和電工株式会社)


まず、2000年7月14日から、富士山の5合目の駐車場に、約45日間、「Bio-Lux(R)」を設置。約8,000人、ドラム缶に換算し約8.6本分の排泄物及びトイレットペーパーをバイオトイレのみで分解処理できることを証明しました。そして、2001年7月20日からは富士山山頂(久須志岳標高3,720m付近)に36日間2台設置し、約7,800人が利用し、問題なく処理できることを証明しました。この山頂のバイオトイレは現在までに多くの人に利用されています。その後、富士山ではバイオトイレを含む複数の処理方式のトイレが導入され、2006年以降はすべてのトイレがきちんと汚水処理されるようになっています。富士山以外でも、正和電工のバイオトイレは白神山地や知床、屋久島などの世界遺産、観光地などにも設置されています。

そうした実績づくりと同時並行で、橘井氏は現行の法律上でもどこでもバイオトイレが問題なく使えるようにしてほしいと内閣府の制改革推進室に「下水道処理区域内における便所方式の見直し」を提案した申請を出します。そして、12回もの申請を続けた結果、2012年にようやく「当該規定は適用しない」として認可を得ることができました。

トイレ設置に関する建築基準法第31条に「下水道処理区域内では水洗便所以外の便所にしてはならない」と明記されていますが「下水道処理区域内に於ける便所方式の見直し」として、バイオトイレは、「当該規定は適用しない」と国土交通省住宅局建築指導課から通達が出たのです。


災害地における仮設トイレ不足~「バイオトイレ」普及への取り組み①

バイオトイレが社会に認められるようになった背景には、2011年に発生した東日本大震災もありました。災害が発生し、断水が起きてしまうと水洗式トイレは使うことができません。また、給水車が来たり上水道が通ったりしても、下水管の破損等によって下水道に流す多くのトイレが使えなくなってしまいました。避難所などでは仮設トイレが設置されましたが、臭いや虫などが発生してしまうなど衛生的な問題が発生するほか、し尿が蒸発しないタンク式ではすぐに満杯になってしまい、汲み取りが追いつかず、トイレが使えなくなるケースが相次ぎました。そのため、排泄や飲食を我慢して、体調を崩す人も多かったのです。

また仮設住宅を建設する際にも、下水道工事や大きな浄化槽などが必要で、汚水や雑排水をどう処理するかなどの問題から、仮設住宅の建設が進まないといった問題もありました。そうした背景から、正和電工は災害時に断水などがあってもトイレが使えるよう、平時から、学校や公民館などの避難場所となる施設に、水洗トイレと併設でバイオトイレも設置することができるようになるよう、国に働きかけ、それが認められたのです。国土交通省住宅局は令和3年に「バイオ便所の建築基準法上の取り扱いに関する通知、技術的助言」と発出しました。

「普通の仮設トイレはトイレを使えば使うだけ、排泄物が溜まっていき不衛生な状態になってしまいます。ただ、バイオトイレはどれだけ使っても、微生物が排泄物を分解処理し、臭いも残らずに消えていく。とても衛生的です。また、バイオトイレに使用しているのも普通のおがくず。仮にバイオトイレが増えていけばおがくずの需要が増え、そうなると間伐材の需要も増えていくので、育林が促進されていく。おがくずの肥料としての利用も含めて、バイオトイレが普及することで、第一次産業にも、地球環境にも良い影響を及ぼす可能性があります」(橘井氏)


都心部で防災用としての活用、駆除動物の分解処理装置を開発

正和電工が開発・販売するバイオトイレシリーズ。電源がないところでも、太陽光発電式や足こぎ式などが使用可能。(提供:正和電工株式会社)
正和電工が開発・販売するバイオトイレシリーズ。電源がないところでも、太陽光発電式や足こぎ式などが使用可能。(提供:正和電工株式会社)


正和電工はこれまでに現場用仮設トイレや山岳トイレ、災害対策用の組立式バイオトイレ、女性専用の仮設トイレなど、さまざまな環境やニーズに応えるよう、約40種類のバイオトイレを開発してきました。登山道などの電気が通っていない場所でも使えるよう、ソーラー発電タイプや、手回し式と自転車こぎ式の無電源タイプなども開発しています。そのかいもあって、バイオトイレは徐々に知られてきたと言います。そして、都心部でも導入が始まりました。

「5〜6年くらい前から首都圏を中心に引き合いが増えてきており、マンションやオフィスビル、学校や公共施設などでバイオトイレの導入が進み始めています。数年前には台風による水害で停電と断水が起き、汚水の逆流も起きてしまい、タワーマンション一棟のトイレがすべて使えなくなってしまったケースもありましたね。そうした緊急事態にも対応するために、建物の各階ごとにバイオトイレを設置するなど、防災用にバイオトイレを活用しようとする動きが少しずつ出てきています」(橘井氏)

さらには、バイオトイレの技術を応用し、駆除したシカやイノシシなどの動物を分解処理する装置も開発しました。あまり知られていないかもしれませんが、近年、日本ではニホンジカ、イノシシが増加しており、生息域も拡大。駆除動物は一部の可食部分が食されるほかは、焼却、埋立処分がされますが、この費用が地方自治体の負担になっています。正和電工の動物分解処理装置では、動物の死骸をおがくずの入った機械に投入すれば、約2週間かけて微生物が死骸を分解し、骨だけを残し、血肉や毛は消滅します。導入コストはかかりますが、処分コストが下がるため、全国で導入する自治体が増えています。

駆除シカ処理機で分解処理を行った後。大きな骨だけが残る。(提供:正和電工株式会社)
駆除シカ処理機で分解処理を行った後。大きな骨だけが残る。(提供:正和電工株式会社)


また正和電工は、備長炭とそれに付着する微生物を利用し、台所、風呂、洗濯機から出る生活雑排水を専用に処理する新浄化装置「Bio-Lux Water(R)」も開発しました(参考情報1)。水は雨水と同等に浄化されるため(環境省の環境技術実証事業 ETV 実証番号020-1201)、処理水は川などに流すことが可能です。6〜7年程度はメンテナンスが不要です。

正和電工のバイオトイレは公衆トイレや災害用トイレとしては適していますが、排泄物だけを処理するため、公共下水道に繋がっていない家庭に設置するには、生活雑排水はどう処理すればいいのかという課題がありました。その課題を解決したのです。

後編では、バイオトイレの世界展開について記述します。

文/新國翔大


参考情報
・Bio-Luxは、正和電工株式会社の登録商標です。
・Bio-Lux Waterは、正和電工株式会社の登録商標です。
・参考情報1:「特許第5762134号」の特許権者は「正和電工株式会社」、発明の名称は「汚水濾過装置」です。


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