「バイオトイレ」が必要な理由、水を使わず排泄物を処理できるメリットとは〜SDGs時代におけるバイオトイレの可能性(前編)

INTERVIEW

正和電工株式会社
代表取締役
橘井 敏弘

トイレは私たちが当たり前のように毎日使用していますが、日本のおよそ9割が使用している水洗式トイレは、都市部のように下水道が整備なしでは使用できない設備であり、人口密度の低い農村部などでは汚水処理の設備が整っておらず汲み取り式トイレが使われています。日本のおよそ1割が使うこの汲み取り式トイレは、衛生面で安全とは言えません。今回は、水を使わずに微生物の力で排泄物を処理する「バイオトイレ」を開発・販売している正和電工株式会社 代表取締役 橘井敏弘氏に、バイオトイレが必要な理由と、26年前から開発を始めたきっかけ・商品化までの道のりについてお話を伺いました。

地球上に暮らす人のほぼ全員が、毎日何度も繰り返し使っている「トイレ」。その多くは便器に水道管を接続し、流水によって便器内の排泄物を下水道に押し流す「水洗式トイレ」です。日本の都市部では下水道が整備されていますから、都市部に住んでいるほとんどの人は水洗トイレしか利用していないため、トイレは水洗というのが当たり前でしょう。

ただし、日本全体では、水洗式トイレのある住宅の割合は、合併処理浄化槽で処理している住宅も含めて、およそ9割。人口密度の低い農村部や山間部などの古家などでは、いまだに汚水処理の設備が整っておらず、汲み取り式トイレを使用しています。1か月に1〜2回程度バキュームカーに糞尿を吸い取ってもらう汲み取り式トイレは、ご存知の方も多いと思いますが、臭く、虫が発生し、衛生的ではありません。また、自然公園や登山道などに設置されている公衆トイレも、汲み取り式のものが多く残っています。

そんな中、水を使わずに微生物の力を使って便器の中にある排泄物を処理する「バイオトイレ」を開発・販売している企業があります。北海道・旭川市に拠点を構える正和電工株式会社です。

同社の創業は1974年10月。当初は照明器具の卸問屋としてスタートしましたが、今から26年前の1995年にファブレスメーカーとして、バイオトイレの生産を開始しています。

今、環境問題や災害時の観点から注目を集めているバイオトイレですが、なぜ20年以上も前から生産に取り組んでいるのか。正和電工株式会社代表取締役の橘井敏弘(きつい・としひろ)氏にお話を伺いました。


日本の水洗式トイレの利用状況と課題

水洗式トイレは主に2種類があります。公共下水道に繋ぐタイプのものと、各家庭の庭の地下などに設置する合併処理浄化槽に繋ぐタイプのものです。以前はトイレのし尿のみを処理する単独処理浄化槽がありましたが、生活排水を処理せずに川などに垂れ流すため、環境への配慮から2001年4月1日以降に新たに設置することは法律で禁止されています。

公共下水道に流された汚水(トイレからの排水)と雑排水(台所、お風呂、洗面所などからの排水)は、下水処理場で処理され、河川などに排出されます。都市部など人口密度の高い地域ではほぼ下水道が整備されており、現在の全国の公共下水道の普及率は、約80%です。

すべての家が公共下水道を使えるように整備することができれば良いのですが、ポツンと離れた数件の集落や一軒家のために、莫大な費用をかけて下水道を整備することは難しいのが現実です。また、公共下水道および下水道処理設備には、維持管理などのコストもかかります。そのため、現状以上の普及は難しいと考えられます。

正和電工代表取締役の橘井氏は「旭川市の下水道施設の維持管理費だけで毎年130億円ほどかかっている」と言います。また、下水管の寿命は40年ほどと言われていますが、その寿命が過ぎ、水漏れを起こしている下水管も多くあるそうです。

「老朽化した浄水場や水道管も増えていて、地震や事故による断水や、大雨によって下水道が噴出するなどのトラブルが発生し、生活にも影響が出てくる可能性があります。トラブルに対応したり整備をしなおしたりするのに莫大な費用がかかり、このままでは、上下水道の料金が高騰する可能性があります」(橘井氏)

一方、合併処理浄化槽は、公共下水道が整備されていない地域で使われています。水洗トイレからの汚水と雑排水を地中に埋めた大きなタンクにため、槽内のバクテリアの働きで汚物を分解し、きれいな水に戻し、水路や河川などに排出します。主に農村集落や別荘地などで使用されています。現在、日本のおよそ10%の人が浄化槽を使用しています。

下水道が整備されていない地域で、かつ合併処理浄化槽がない家などで、汲み取り式トイレが使われています。現在、日本の約10%が汲み取り式などの非水洗トイレです。

公共下水道の整備されていない地域で、汲み取り式トイレをリフォームして水洗トイレにする場合、タンクを壊して取り出し、合併処理浄化槽を新たに設置し、水洗トイレを新設する必要があり、合わせて200~300万円ほどはかかります。この工事には自治体によって補助金が出るケースがありますが、自己負担額も少なくはなく、汲み取り式のままという家も多いのです。


「バイオトイレ(コンポストトイレ)」の仕組みとメリット、水の節約と肥料への利用

バイオトイレはおがくずなどを使用する。水分を吸着して蒸発させ、微生物が固形物を分解する。(提供:正和電工株式会社)
バイオトイレはおがくずなどを使用する。水分を吸着して蒸発させ、微生物が固形物を分解する。(提供:正和電工株式会社)


登山道など上水道もない場所にトイレを新設する場合には、どうしたらいいのでしょうか。そうしたケースでは、バイオトイレがその答えの一つになるかもしれません。

バイオトイレは水を使うことなく、人の排泄物を微生物(バイオ)の力で分解・処理するトイレのことです。バイオトイレでは、排泄した糞尿とトイレットペーパーは、ほぼ消滅します。そのため、上水道にも下水道にも接続する必要がありません。なお、バイオトイレで使用されているおがくずには分解された糞尿の成分だけが残り、農業や園芸用の肥料として活用することができるため、「コンポスト(堆肥)トイレ(Composting toilet)」とも言われています。

水を流さずに排泄物を処理できるという特徴は、いくつかのメリットをもたらします。まず、単独処理浄化槽や合併処理浄化槽は処理水を川などに流します。しかしバイオトイレは水分を蒸発させてしまうので、処理水が外に出ることがありません。そのため、近隣河川への水質への影響を最小限に抑えることができます。

また、水道料金、下水道料金がかかりません。合併処理浄化槽は下水道料金がかかりませんが、専門業者によるメンテナンス費用が年間3~5万円ほどかかります。バイオトイレに必要なコストは年に2~3回かかる数千円程度のおがくずの代金と、ヒーターとモーターの電気代(月1,000〜2,000円程度)です。

臭いや虫はどうでしょうか。橘井氏いわく、「排泄が終わって蓋を閉じれば、糞尿の臭いはまったくと言っていいほどしません。コバエなど虫が発生することもありません」とのことです。

バイオトイレの仕組みはとてもシンプルです。便器の下に設置された「おがくず」や「木チップ」、「そばがら」などが敷き詰められた処理槽に、排泄物を直接落とす設計になっています。微生物はおがくずなどを菌床にして生きています。正和電工のバイオトイレ「Bio-Lux」は、便器の下の処理槽におがくずを使用します。特別な菌を入れる必要はありません。

「人間の排泄物の9割は水分で、残り1割が有機物です。まず、水分をおがくずに付着させ、50℃程度に加温してスクリューでかき混ぜます。すると程なく水分は蒸発し、し尿の9割が消滅します。この蒸発する水分には臭いはありません。残った有機物は、糞尿に含まれている腸内細菌と自然界に生息している微生物の働きで、水と二酸化炭素に分解されてしまいます。そのため、体積もほぼ増えません」(橘井氏)

そして無機成分(窒素、リン酸、カリウムなど)が残さとしておがくずに吸着します。見た目はおがくずの色が変わるだけで糞尿は消滅したように見えます。これがバイオトイレの仕組みというわけです。

さて、残った無機成分が、窒素(N)、リン酸(P)、カリウム(K)と聞いて、ピンときた人も多いのではないでしょうか。これはまさに農業で使われる肥料の成分。肥料の三要素です。おがくずの交換は年に2~3回が目安。使用後のおがくずは理想的な肥料となります。


「バイオトイレ」開発をはじめたきっかけと、製品化までの道のり

正和電工の事務所内に設置されたバイオトイレ。温水洗浄便座も使用可能で、トイレットペーパーも捨てられる。(提供:正和電工株式会社)
正和電工の事務所内に設置されたバイオトイレ。温水洗浄便座も使用可能で、トイレットペーパーも捨てられる。(提供:正和電工株式会社)


橘井氏がバイオトイレの開発に興味を持ったのは、今から26年前。1995年のことです。きっかけは自身の胃がんの手術だったと言います。

「私は45歳のときに胃がんを患い、胃の5分の4を切除する手術を行いました。それ以降、外食したときに食べ残しが多くなったんです。それでホテルやレストランの生ゴミの行方が気になるようになり、どのように処理しているのか調べたところ、飲食店の生ゴミは『事業系ゴミ』として有料で廃棄物処理業者に出して処分していることが分かりました。調べてみると、生ゴミは微生物の力によってコンポスト処理によって肥料に変えることができると知った。そこでまずは飲食店用に業務用生ごみ処理機の開発を始めました」(橘井氏)

生ゴミが肥料になる──。そのことを知って生ごみ処理機の開発を始めた橘井氏でしたが、1990年代、すでに多くの家電メーカーが生ごみ処理機の開発に取り組んでいました。

橘井氏は「1年間で2〜3回ほど家電の展示会に足を運んでいたのですが、たくさんの業務用生ごみ処理機が展示されていた」と当時を振り返ります。

業務用生ごみ処理機からバイオトイレへと開発の軸足が移ったのは、北海道大学農学部の寺沢実(てらさわ・みのる)教授との出会いがきっかけでした。寺沢教授から「生ごみ処理機と同じ原理で排泄物も処理できるが、トイレに特化した製品をつくる業者がいない」ということを聞き、バイオトイレの開発に興味を持ち始めます。

「寺沢教授によれば、生ゴミよりも排泄物の方が、一度人間の体を通って消化されているから、はるかに処理しやすいというのです。しかも糞についてる腸内細菌もコンポスト化を助けてくれるという。それならば、と思ってバイオトイレに興味を持つようになり、北海道大学にしばしば足を運ぶようになりました」(橘井氏)

とはいえ、当時照明器具の卸問屋であった正和電工にバイオトイレを開発する技術、ノウハウはありませんでした。そこで技術を持った企業を探すうち、橘井氏は長野県にバイオトイレを開発している会社を見つけました。まだ商品化はできていませんでしたが、バイオトイレの技術に関する意匠権を取得していました。そこに商品開発をしてもらい、正和電工が販売代理店のような形で展開することを考えます。

「まず1,000万円を用意し、北海道で販売したいから商品化して売ってほしいと言ったんです。ひとつは私の自宅に設置し、残りの金額で買えるだけ買う、と言いました。ただ、先方は『北海道は遠いから機械が壊れたら修理に行くのが大変だし、寒すぎてバイオトイレは難しい』と言いました。機械は壊れたら私が直せばいいし、温度は工夫して温度上げればいいと思いました」(橘井氏)

そうしたやり取りがあり、自宅に試作品のバイオトイレを設置してもらった橘井氏ですが、北海道で販売するにあたって「ここを直してほしい、あそこも直してほしい」と希望を伝えていたら、先方から「希望通りにしていたら、値段が高くなって売り物にならない」と言われてしまいます。

「そうこうしていたら2年も経たないうちに、その会社が潰れてしまったんです。すると先方が取得していた意匠権を譲渡してくれるというので、自社でバイオトイレの開発を続けていくことにしました」(橘井氏)

そうして橘井氏は旭川市内にあるステンレス加工ができる業者、回転物を組み立てることのできる業者を探し、そこに開発をアウトソーシングする形でバイオトイレの開発に取り組んでいきました。そうして、Bio-Luxを商品化。1999年から長野県と北海道を中心に販売を開始し、現在に至ります。

前述したように、メリットの多いバイオトイレですが、水洗トイレが当たり前になっている日本において、まずそれがどのようなものであるのかを認知され、法律をクリアし、さらに、導入されるようになるまで、かなりの年月と苦労がかかりました。

中編では正和電工が開発するバイオトイレが日本で認められるようになるまでのストーリーを紹介します。

文/新國翔大


参考情報
・Bio-Luxは、正和電工株式会社の登録商標です。

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