ロケットエンジンの種類と、電気推進(イオンエンジン)の仕組み~超小型衛星に載せるエンジン開発の最前線(前編)

INTERVIEW

東京大学大学院
新領域創成科学研究科
准教授 小泉 宏之

民間宇宙飛行士を乗せた米国の宇宙開発企業の宇宙船が国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングに成功するなど、宇宙ビジネスは花盛りを見せています。その宇宙ビジネスで注目されているのが超小型衛星であり、その要素技術の研究開発も活発に進んでいます。今回は、超小型人工衛星に搭載する「エンジン」に注目し、小型エンジンの研究をリードしている、東京大学大学院新領域創成科学研究科の小泉宏之准教授に、ロケットエンジンの基礎から最新研究について3回にわたって解説頂きました。第1回目は、ロケットエンジンの種類や、はやぶさにも使用されたイオンエンジンの仕組みについてお話を伺いました。

宇宙ビジネスの中でも特に、活用が期待されているのが小型人工衛星を使ったビジネスです。気象衛星、通信衛星、放送衛星などさまざまな用途のものが地球の周辺を回っています。打ち上げてから軌道を変えることができる小さなエンジンの開発に世界がしのぎを削っています。


ロケットエンジンの種類、「化学推進」と「電気推進(イオンエンジン)」のメリットとデメリット

──── 人工衛星に搭載する小さなエンジンを研究されていますが、ロケットエンジンについて教えてください。

小泉准教授(以下同):
積み込んだものを投げる、というのがロケット推進です。簡単にロケットエンジンを分けると大きさ、そしてエネルギーの源(みなもと)が化学の燃焼か、電気かで分けることができます。
化学エネルギーの例をプロパンガスの燃焼でみると、エネルギー密度が高く、1キログラムあたり10メガジュールです。これは、電気推進であるリチウムイオン電池の約13倍、太陽電池の1,000倍に相当します。もっともコンパクトで強力なエネルギー源となり、打ち上げロケットはこの「化学推進」が必須でした。

一方、「電気推進」は、電気エネルギーを使います。排気速度が大きくとれることに特徴があり、その代表例が、2003年に打ち上げられた「はやぶさ」のイオンエンジンでしょう。
電気推進の歴史自体は1900年代に遡ることができますが、本格的な実用は2000年代まで待たなければなりませんでした。
電気推進の大きい利点は、宇宙機の質量を軽くすることができることです。静止衛星でも楕円軌道から静止軌道に変更したり、その軌道を維持するためにエンジンが必要です。これをすべて電気エネルギー(電気推進)で行うと、化学燃焼の場合の質量の半分程度に抑えることが可能になります。質量を抑えることができれば、打ち上げコストも下がります。

H2Aロケットの打ち上げコストは1本約100億円、そこに人工衛星を1基載せるなら、コストは100億円となります。しかし、質量が軽くなり2基搭載できれば、人工衛星の打ち上げコストは計算上半分になります。推進剤も多く載せられるため、衛星の寿命も長くすることもできます。


──── 電気推進の弱点もあれば、教えてください。

パワーが弱いため、化学燃焼だと数日で到達するところが、数か月要します。ビジネス的にみると、日数がかかるのは大きなデメリットです。もう一つのデメリットは時間がかかることから、地球の磁場にとらえられた高エネルギーの粒子が集まっているヴァン・アレン帯(Van Allen radiation belt)を通過する際、人工衛星内に搭載している半導体が損傷してしまうことです。

しかし、2012年、ボーイングが軌道変更にもイオンエンジンを使う全電化静止衛星を受注したことを発表し、電気推進業界に激震が走りました。
2015年3月には、世界で初めての全電化静止衛星がスペースXのファルコン9(Falcon9)により打ち上げられました。このとき、2基の静止衛星が積まれており、1基あたりの価格は事実上、半分に抑えることができました。2基の人工衛星は約半年間の軌道上昇後、静止軌道に到達しました。これ以降、欧州も全電化衛星を打ち上げ、全電化推進の研究開発が活発化してきました。


「イオンエンジン」の仕組みと、はやぶさに採用された「マイクロ波放電式」

──── 2003年5月に、宇宙科学研究所(ISAS)によって打ち上げられた探査機「はやぶさ」は、イオンエンジンを搭載し,小惑星「イトカワ」へのランデブーに成功しました。電気推進の代表のイオンエンジンを使っていたとのことですが、イオンエンジンについて教えてください。
 
イオンエンジンといえば、深宇宙、小惑星の探査の「はやぶさ」、「はやぶさ2」を思い浮かべると思います。
わかりやすく説明しますと、イオンエンジンはイオン(電子が一つ以上はずれた原子)を外に出すことで推力を得ることができます。イオンと電子が好き勝手に飛び回っている状態を「プラズマ」と呼びます。プラズマを作り出すために、ガス(推進剤)と電力を供給し続けなければなりません。

どのような物質であっても、温度を上げればプラズマになりますが、効率が求められます。そのためには、プラズマ化のしやすさや、原子が重いこと、また貯蔵しやすく、安全で取り扱い性が良いといったことが条件になります。プラズマ化のしやすさからいえば、セシウム(Cs)が代表的ですが、問題は大気中の水分にも反応するほど反応しやすいため、安全性は劣ります。他にリチウム(Li)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)などもプラズマ化しやすいですが、同様に反応性が高く、簡単に燃焼したり、水分に反応して爆発をおこしたりして、安全とはいえません。水銀(Hg、原子番号80)は高密度で貯蔵もしやすいですが、水俣病の原因になったように人体に悪影響を及ぼすことがわかっています。1970年代には実際、水銀が使用されましたが、最近では使われることはありません。

気体のときの状態も重要です。複数の原子が連なった状態では分解させるのにエネルギーを使うため、単原子分子の方が効率が良くなります。希ガスの代表例はヘリウム(He)やアルゴン(Ar)、キセノン(Xe)があります。これらは、プラズマ化のしやすさだけでみれば良い方ではありませんが、元素の中で重く、80気圧ほどで水よりも密度が高くなり、麻酔剤で使われるほど安全性が高いという点で、キセノン(Xe)がイオンエンジンの多くに使われています。


──── プラズマを作るにはどうすればよいのでしょうか。

加熱すればよいのですが、代表的な方法としては3つあります。ガスの中に電子を流す「直流放電式」、コイルに高周波電流を流す「高周波放電式」、電子レンジのようにマイクロ波を流す「マイクロ波放電式」です。はやぶさのイオンエンジンは、最後に紹介した「マイクロ波放電式」です。

マイクロ波とは、周波数が1mm~1mの電波です。電力は32W。家庭用の電子レンジは500~700Wですので比べると、とても小さい。しかし、温度は10万~20万℃とはるかに高い。これは、はやぶさイオンエンジンの容器内のガスが0.001mgと小さいうえ、電力すべてがガスの中に入るため、温度を非常に高くすることができるのです。
マイクロ波放電式の利点は、非接触で寿命が長いことと、マイクロ波を放出するアンテナと磁石のみという、単純な構造にあります。

「はやぶさ」は、「イトカワ」に着陸したときの衝撃にも耐え、4基あるイオンエンジンのトラブルに見舞われながらも地球に帰還しました。それは、シンプルな構造で丈夫なマイクロ波放電式だったからといえます。
 
「はやぶさ」のイオンエンジンである「μ10」(ミューテン)は、世界初の往復探査航行で使用され、世界初のマイクロ波放電式イオンエンジンの宇宙空間での作動となり、その時間は、当時最長となる累積4万時間を記録しました。
2007年4月に小惑星「イトカワ」を発った「はやぶさ」は3年かけて、地球に帰還しました。私はその3年の間、プロジェクトに携わりました。


──── 研究室では、小型イオンエンジンの研究にも取り組まれています。

「はやぶさ」のイオンエンジンの超小型版の開発です。10W以下の電力で動かすことができる小型化に成功しました。電源損失を入れてもシステム全体で15Wで動きます。実際は34Wになりました。当時、イオンエンジンに必要な電力は50W程度だったため、大幅な低電力化ができました。しかし、電圧制御などの周辺機器がなければ宇宙に持って行くことができません。
周辺機器の研究は大学では難しい。なぜなら、小型化に対応するという周辺機器の研究は新技術ではないからです。かといって、民間企業も難しい。

プロジェクトを巻き込むことで実用化しようと、JAXAや宇宙科学研究所(ISAS)、日本の宇宙ベンチャーのアクセルスペース(Axelspace)社などに開発したエンジンの搭載を持ち掛けましたが実現しませんでした。最終的には、東大の中須賀 真一教授がリーダーになって開発していた1辺約50cm、重さ60kg程度の超小型衛星「Hodoyoshi(ほどよし)」に採用が決まりました。
「ほどよし」の意味は、小型衛星に適した「ほどよい」衛星です。教授は4基開発しており、私のイオンエンジンは「ほどよし4号」に使用されることになりました。

エンジンの構成はマイクロ波電源、イオンを加速する高電圧電源ユニット、キセノンガスを高圧タンクから供給するユニットからなり、「小型イオン推進システム(Miniature Ion Propulsion System、以下MIPS)と名付けました。スラスタ(thruster、推進システムの総称)のビーム直径は約1.6cm、推力は300μN、比推力は1,200秒になります。
2014年6月、重さ64kgの小型衛星「ほどよし4号」はロシアのヤースヌイ宇宙基地からドニエプルロケットに搭載され、宇宙に放出されました。衛星自体がきちんと動くかのチェックが先にありますので、MIPSを動かしたのは4か月後の同年10月でした。100kg以下の衛星に搭載された小型イオンエンジンの宇宙作動は世界初となりました。


「ほどよし4号」(提供:東京大学 小泉宏之准教授)
「ほどよし4号」(提供:東京大学 小泉宏之准教授)


大学で宇宙関連研究を行う際のハードル

──── ロケットを打ち上げるには、コストがかかります。大学で研究するうえでハードルもあるのでは?

機械科や電気科で研究したことの応用は、企業と一緒にやることができます。例えば、機械だと自動車やパソコン、電気でも応用先は身近です。しかし、宇宙の場合は、応用先が少ないのが現実です。宇宙産業自体がまだ小さく、プロジェクト自体も少ない。さらにいえば、宇宙は身近ではないのです。我々は、宇宙に行ったこともなければ、人工衛星を操縦したこともありません。車でいえば、運転したことがないのに研究するようなものになります。研究者にとってプロジェクトはとても重要です。JAXAにいたとき、私自身もその重要性を認識しました。

自身の研究が使われる喜びもあり、実際になにが求められているのかということが見えてきます。その需要を察知して研究する。この両輪が必要です。


東京大学大学院新領域創成科学研究科 小泉宏之(こいずみ・ひろゆき)准教授。
1977年、東京生まれ。慶応義塾大学理工学部卒業後、2002年、東京大学工学系研究科航空宇宙工学を専攻修了。2003年に同専攻助手、2006年、博士(工学)。2007年にJAXA宇宙科学研究助教、ISAS助教。2011年、東京大学大学院工学系研究科准教授、2015年、現職。著書に『宇宙はどこまで行けるか ロケットエンジンの実力と未来』(中公新書)、『人類がもっと遠い宇宙へ行くためのロケット入門』(インプレス)。
東京大学大学院新領域創成科学研究科 小泉宏之(こいずみ・ひろゆき)准教授。
1977年、東京生まれ。慶応義塾大学理工学部卒業後、2002年、東京大学工学系研究科航空宇宙工学を専攻修了。2003年に同専攻助手、2006年、博士(工学)。2007年にJAXA宇宙科学研究助教、ISAS助教。2011年、東京大学大学院工学系研究科准教授、2015年、現職。著書に『宇宙はどこまで行けるか ロケットエンジンの実力と未来』(中公新書)、『人類がもっと遠い宇宙へ行くためのロケット入門』(インプレス)。


──── 「はやぶさ」を代表するイオンエンジンは燃焼材としてキセノン(Xe)を使ってきましたが、キセノンにも弱点があり、水を使ったエンジンの開発が進められています。次回は水推進エンジンについて紹介します。

文・写真/杉浦美香


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