「ローカル5G」の「低遅延」通信が水陸両用バスの自動化で重要になる理由~自動運転社会の実現に向けた水陸両用バスの自動化への取り組み(後編)

INTERVIEW

株式会社エイビット
5Gビジネスユニット長
工学博士 池田 博樹

埼玉工業大学 工学部情報システム学科
教授 渡部 大志

5G、次世代の通信インフラとして社会に大きな技術革新をもたらすと言われていますが、その特徴である「高速・大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」はお互いトレードオフの関係にあるといいます。今回も引き続き、離島の新たな交通・物流インフラになる可能性を秘めている、水陸両用バスの自動運転化を取り組んでいるコンソーシアムに、水陸両用バスの自動化に「ローカル5G」の特徴の中で「高速」より「低遅延」が重要になる理由や、「協調型」自動運転の重要性と課題についてお話を伺いました。

前編では、離島における物流の課題と、自動運転水陸両用バスの概要について、ITbookホールディングス 経営企画室 室長の大久保達真(おおくぼ・たつま)氏と、自動運転技術の研究開発では第一人者として知られている埼玉工業大学 工学部情報システム学科 教授の渡部大志(わたべ・だいし)教授のお話をご紹介しました。
「一番の問題は船員になりたい人が減っていたり、離島に行って荷物の積み下ろしをしようと考えたりする人がいなくなってくること。このままでは離島に荷物を届けることが成り立たなくなる可能性があります。それを防ぐためにも、まずは技術、自動運転の可能性を社会に対して提示していければ、と思っています」と大久保氏が言うように、自動運転水陸両用バスの普及は日本の離島の社会課題を解決する可能性を秘めています。

ただ、前編で述べたように、自動運転には通信システムが重要であり、また入水や出水の際などにトラブルがあった時には遠隔操作も行わなければなりません。そこで、当プロジェクトでは、遠隔操作が必要なエリアに「ローカル5G」を利用しています。水陸両用バスの自動運転化において重要な技術「ローカル5G」とは一体どういうものなのか。また、この実証実験の先にある構想についてもお話を伺いました。


水陸両用バスの自動運転化に重要な「ローカル5G」の特徴

「水陸両用無人運転技術の開発 ~八ッ場スマートモビリティ~」プロジェクトで、通信システムの開発を担当するのは、通信機器および通信システムを開発する株式会社エイビット(ABIT)です。

「当社は5年ほど前から、情報通信研究機構(NICT)の5G(第5世代移動通信システム)の測定器の試作を請け負うなど、国内でも初期の頃から5Gの測定器を開発しています。また、今では各携帯キャリアの5G基地局の立ち上げ支援も展開しています。そんな5Gの事業で培ってきた技術やノウハウを、今後伸びてくるであろう自営網にも活用しよう、ということで、ローカル5Gの検証機を開発しました」とエイビット執行役員 5Gビジネスユニット長 工学博士の池田博樹(いけだ・ひろき)氏は語ります。


自動運転バスに実装している株式会社エイビットが開発したローカル5G検証機「AU-500」(左)とアンテナセット「AU-900」(右)(撮影:嶺竜一)
自動運転バスに実装している株式会社エイビットが開発したローカル5G検証機「AU-500」(左)とアンテナセット「AU-900」(右)(撮影:嶺竜一)


エイビットが提供するAU-500は、実証実験などでの利用を想定したローカル5Gの検証機。ローカル5Gシステムの構築に必要な端末、基地局、サーバー(5Gコア)をセットで提供するパッケージで、実証実験の環境を迅速に構築できるのが特徴です。またローカル5G用の周波数帯の中でエリアの構築が比較的に容易とされる4.7GHz帯に対応しているほか、網構成には運用の自由度が高いスタンドアローン(SA)方式を採用しています。

「今回のプロジェクトにおいて重要なのは、リモートで遠隔操作をする際にいかに低遅延であるか。また、水の上の電波の飛び方は陸地と異なるので、水の上でしっかり5Gの電波を飛ばすことができるかどうか。ここが私たちにとって技術的なチャレンジになると思い、水陸両用バス自動化をめざすプロジェクトに参画しました」(池田氏)

ここ1年ほどで通信キャリア各社が大々的にCMを打ち、頻繁に耳にするようになったことで、馴染み深くなった第5世代移動通信システム「5G」。5G対応機種も続々とラインナップされ、通信キャリア各社も5Gの対応エリアを拡大しつつあります。

そんな5Gには大きく3つの特徴があります。それが「高速・大容量」「高信頼・低遅延通信」「多数同時接続」です。例えば、5Gは高周波数帯を利用した超広帯域伝送とMassive MIMOというアンテナ技術によって、高速・大容量を実現。通信キャリア各社がCMなどで大々的に打ち出している5Gの特徴は、この高速・大容量です。

次世代の通信インフラとして社会に大きな技術革新をもたらす、と言われている5Gですが、エイビットの池田氏は、これら3つの特徴はすべてトレードオフの関係にあると言います。

「5Gの特徴は『高速・大容量』『高信頼・低遅延通信』『多数同時接続』ですが、これらはトレードオフの関係にあり、どれかひとつを選ぶと、他の2つを犠牲にしなければなりません。例えば、高速・大容量を選ぶ設定にすると、高信頼・低遅延通信が犠牲になります。ここが大きなポイントで、通信キャリアが提供する5Gの場合、高速・大容量を優先する設定になっているのです。ただ、病院内や工場内などでは高速・大容量よりも、高信頼・低遅延通信や多数同時接続が必要になる場合がある。そうした際に有効な手段として、ここ数年で注目を集めるようになってきているのが『ローカル5G』です」(池田氏)

ローカル5Gとは、地域・産業のニーズに応じて地域の企業や自治体等が個別に利用できる5Gネットワークのこと。通信キャリア各社が全国で提供する均一な5Gの通信サービスに対して、ローカル5Gは、地域・企業が主体となって、自らの建物内や敷地内といった特定のエリアで自営の5Gネットワークを構築し、運用・利用することができます

※ローカル5Gを利用するには国で指定された無線局免許の取得が必要。

 

通信キャリア各社が提供する均一な5Gとは異なり、定められた通信規格の中で自社のニーズに合わせた形で、5Gをカスタマイズできる。これがローカル5G、最大の特徴です。

「私たちのクライアントにも、高速通信ではなく、電波をより遠くに飛ばしたい、より多くのセンサーを搭載したいという人たちがいます。そういうクライアントには、Wi-Fiのように5Gの基地局を設置できるローカル5Gを提案しています。特定のエリアだけ、自分たちのアプリやサービスに特化したネットワークを設置できるのがローカル5Gの特徴と言っていいでしょう。今後は通信キャリアが提供する5G、ローカル5G、Wi-Fiの3つが適材適所で普及していく流れになっていくと思っています」(池田氏)


自動運転AIに任せきれない入水・出水時、ローカル5Gの「低遅延」通信を使って「遠隔操作」

今回の水陸両用バスの自動化に関しては、高速通信よりも「低遅延」であることがより重要です。自動車の遠隔操作では、遅延があってはならないためです。そのため、現在のプロジェクトでは、エイビットが開発したローカル5G検証機「AU-500シリーズ」を活用しています。基地局を船揚げ場に設置し、発信機をバスに搭載します。

無人の水陸両用バスは水の上を航行しているときになにか障害物があれば、センサーで察知し、十数mほど離れる形で障害物を避ければ良いでしょう。ただ、入水や出水の際の「細い道」に障害物がある場合、それをクリアするのが難しい場合があります。

「入出水のときは船揚げ場のスロープを利用しますが、かなりの傾斜があり、水に濡れて滑りやすい状況で、他の船の間を抜けて上陸するのには、非常にセンシティブな運転技術が必要になります。これを完全に自動運転AIに任せるのはまだ難しいのが現実です。そこで、ローカル5Gの低遅延の特性を使って遠隔操作を行えばいいのではないかと考えたのです。例えば、自動運転で上陸できなくなってしまったときに、バスの運行会社の操縦室から熟練のドライバーが遠隔操作をするイメージです」

ITbookホールディングス 経営企画室 室長の大久保達真(おおくぼ・たつま)氏は、このように語ります。現在、水陸両用バスの自動化の取り組みは実証実験を繰り返し、そこで見つかったさまざまな課題を解決し、2022年3月までに自動運転実現を目指します。

「昨年から実験を繰り返し、実は電波が飛ばないケースもあるなど新たに分かったこともあります。そういったデータをもらいながら、自動運転の技術を少しずつ改善していっています。技術内容は研究開発としても有意義な内容になっていると思います」(池田氏)


埼玉工業大学のキャンパス内に設置された自動運転技術開発センターでシステム開発に取り組む埼玉工業大学の研究員。開発したシステムをすぐに実装して走行テストができる環境。(撮影:嶺竜一)
埼玉工業大学のキャンパス内に設置された自動運転技術開発センターでシステム開発に取り組む埼玉工業大学の研究員。開発したシステムをすぐに実装して走行テストができる環境。(撮影:嶺竜一)


自動運転の「自律型」と「協調型」の特徴、車車間「コミュニケーション」手段不足の課題

自動運転システムの実証実験を行う予定の水陸両用バス(提供:埼玉工業大学)
自動運転システムの実証実験を行う予定の水陸両用バス(提供:埼玉工業大学)


今回の水陸両用バスの自動化に活用されている「ローカル5G」ですが、昨今は一般自動車や観光バスなどでの活用も生まれてきています。

「今後はローカル5Gの周波数帯とキャリアの周波数帯、両方を受信できるような端末が普及していくと思います。そうなってくると、信号機でローカル5Gの電波を拾うことで、交通事故を減らすなどの取り組みがいろいろと考えられます。実際、信号機に360度のAIカメラをつけて、人の動きを見て危険を感知したときに車に信号を送り、ブレーキをかけるといった取り組みもあります」(池田氏)

一般的に自動運転には主に「自律型」と「協調型」の2つがあります。自律型はカメラやレーダーなどの車載システムを使って、周囲を認識して走行するものです。単独で機能させることができるというメリットがあり、現在の自動運転技術はこれが使われています。

一方の協調型は外部から提供される情報を通信などを使って取得し、走行するタイプのものです。協調型では、歩車間通信(V2P)、車車間通信(V2V)、路車間通信(V2I)の3つを含む「V2X」と呼ばれる技術が協調型では欠かせないと言われています。

自律型よりも広範囲の道路交通に関わる技術を得られるため、「予測」などの高度な自動運転が可能です。ただ、「車車間通信を行う場合には双方の車に同様のシステムが搭載されている必要があり、システムの普及や自動運転業界内での基準づくりが課題となっています。どこを落としどころにするかは社会全体で考えていく部分でしょう」と埼玉工業大学工学部情報システム学科の渡部大志(わたべ・だいし)教授は語ります。

「交通参加者が増えてくると、さまざまな問題が発生しやすくなります。歩車間通信(V2P)、車車間通信(V2V)、路車間通信(V2I)など、自動運転を実現する上で最終的にはコミュニケーションの部分が課題として残ってくるでしょう。現在の自動車に搭載されているウィンカーやハザードなどのコミュニケーション能力だけでは圧倒的に不足している。それをどうネットワークで解決できるのか、考えるべきことはたくさんあります」(渡部氏)

自動運転社会の実現に向け、さまざまな会社が技術開発を行っていますが、社会実装の観点では、まだまだ解決すべき課題があると言えそうです。水陸両用バスの自動化の取り組みなどを筆頭に、自動運転社会の実現にあたって、ローカル5Gはどのような役割を担っていくのか。今後の動向にも注目していくべきでしょう。


文/新國翔大
写真/嶺竜一



▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)