宇宙輸送サービスを実現するため自前のロケット打上げ射場を建設した狙いとは~小型衛星打上げ市場における宇宙ビジネス事例

INTERVIEW

スペースワン株式会社
代表取締役社長
太田 信一郎

宇宙輸送サービスは、小型衛星などの対象物を希望するタイミングで宇宙へ打上げ希望する軌道へ輸送するサービスですが、従来の大型ロケットへピギーバック(相乗り)するのではなく、専用射場を用いて低軌道に小型ロケットを打ち上げることで契約から打上げまでの期間が「世界最短」、打上げの「世界最高頻度」を目指す企業が現れています。今回は、打ち上げ時期と軌道の調整が可能な自前の打上げ射場を建設、小型ロケットなどを開発しているスペースワン株式会社 代表取締役社長 太田信一郎に本ビジネスに取り組む背景となった小型衛星打上げ市場や宇宙開発に関する法制度整備の現状に加え、ロケット打上げ射場建設の狙いについてお話を伺いました。

宇宙開発や宇宙ビジネスは近年、技術革新が格段に進み、市場も広がっています。とりわけ小型ロケットによる小型衛星の打上げビジネスは、世界的に民間事業者が多く参入し始め、日本でも新たな産業創出へ動いています。

スペースワン株式会社(東京都港区)は、契約から打上げまでの期間が「世界最短」、打上げの「世界最高頻度」となる宇宙輸送サービスの提供を目指す企業です。2019年には和歌山県串本町に国内初となる民間企業ロケット打上げ射場の建設を開始し、2021年度のサービス開始を目指しています。同社の代表取締役社長である太田信一郎(おおた・しんいちろう)氏にビジネス展開や技術的な課題、宇宙開発の将来性などについてお話をうかがいました。


小型衛星打上げ市場の現状と、ピギーバック(相乗り)衛星の課題

──── まず、小型衛星打上げ市場における日本の状況についてご説明いただけませんか。

太田信一郎氏(以下同):
現在、世界的に多くの民間事業者が小型ロケットを用いた小型衛星打上げ市場に進出し始めています。米国のロケットラボ(Rocket Lab)はニュージーランドに専用の射場を持ち、その射場から自社の専用のロケットであるエレクトロンをすでに約20回、打ち上げています。また、米国のヴァージンオービット(Virgin Orbit)もボーイング747から空中発射させたロケットで衛星を地球周回軌道へ投入させています。このように特に米国には日本より先んじている民間事業者が存在しています。日本でも、弊社を含め複数の企業が小型衛星打上げ市場に進出しようとしている認識です。


──── 小型衛星の打上げでは、大型ロケットへの相乗りサービスがありますが。

国外で小型衛星を打ち上げる場合、米国、欧州、ロシア、インドのロケットを使っていますし、日本でもJAXAのロケットを使って衛星を打ち上げています。おっしゃるとおり、その多くは大型ロケットへのピギーバック(Piggyback)、相乗りが現状です。この場合、打上げ時期、軌道も大型ロケットに載せられるメインの衛星の条件に従わざるを得ないという課題があります。つまり、たまたま大型衛星のタイミングと軌道に合っていた場合を除いて、小型衛星を自分の希望するタイミング、自分の希望する軌道へ打ち上げることが難しいのが実情です。


──── 御社はそうした状況の中で設立されたというわけでしょうか。

そうです。こうしたピギーバック・サービスは今後も続いていくでしょう。しかし、打ち上げたいときに打ち上げたい軌道へ小型衛星を投入したいというお客さまがいます。特に多数の衛星を最適に軌道上へ配置する宇宙ビジネスを行うお客さまにとっては大きな問題です。我々はここにビジネス・チャンスがあると考えています。宇宙サービスには国境がないことが重要で、お客さまは日本のみならず、世界を視野にいれることができます。現状の課題をどうブレークスルーしていけばいいのか、こうした課題を解決するために我々はスペースワンを立ち上げたというわけです。


──── 小型の衛星は今後、増えていくとお考えですか。

小型衛星にこれまで専用のロケットがなかった理由として大きいのは、それほど大きな需要がなかったことがあります。しかし、今後の10年間では、過去10年に打ち上げられた数の4倍もの小型衛星が打ち上げられるという市場調査があり、小型衛星に対する需要が非常に増えてくることが予想されます。なぜなら、技術的なイノベーションが進んで高性能かつ小型の衛星が低コストでできるようになっているからです。もちろん、大型の衛星に比べれば機能は限定されますが、地球観測や通信や気象データ収集などを含み、小型の衛星自体の性能がかなり高くなってきています。


──── 小型ロケットによる衛星打上げサービスに可能性はありますか。

我々は専用の小型ロケットを開発し、それを希望のタイミングで打ち上げられる専用の射場を用意したうえで、お客さまの小型衛星を、お客さまの希望するタイミングでお客さまの希望する軌道へ打ち上げる「オンタイム、オンオービット」の宇宙輸送サービスの事業化を目指しています。もちろん、大型ロケットに小型衛星を相乗りさせるピギーバックのサービスはなくならないと思いますが、ニーズをしっかり捉えながら、国際的な競争環境の中でサービスを競い合っていくことで、より多くの顧客を獲得することができると考えています。


スペースワン株式会社代表取締役社長 太田信一郎(おおた・しんいちろう)氏。
1946年、東京都出身。通商産業省で環境立地局長や機械情報産業局長、商務情報政策局長を歴任し、2002年に特許庁長官、2005年より電源開発副社長を務めた後、2018年から現職。(提供:スペースワン株式会社)
スペースワン株式会社代表取締役社長 太田信一郎(おおた・しんいちろう)氏。
1946年、東京都出身。通商産業省で環境立地局長や機械情報産業局長、商務情報政策局長を歴任し、2002年に特許庁長官、2005年より電源開発副社長を務めた後、2018年から現職。(提供:スペースワン株式会社)



日本政府による宇宙開発に関する法制度整備と、民間企業らのコラボレーション

──── 政府が国策として宇宙開発への民間事業者の参入をうながしています。

私は経済産業省、当時は通産省でしたけれど、霞が関にいた2〜30年前から、人類に残された最後のフロンティアは、深海と宇宙だということで強い関心を持っていました。しかし、深海や宇宙の開発に取り組む環境が整えられるまでには、かなり時間がかかったわけです。ようやくここにきて民間事業者による宇宙開発が、技術的にも資金的にも法的にも現実味を帯びてきました。


──── 政府が後押しすることで宇宙開発が進んでいく側面は大きいのでしょうか。

政府による環境整備は重要だと思います。なぜ日本が米国などに比べて遅れていたかといえば、まず宇宙開発に参入するには民間事業者ではリスクが大きかったことがあります。米国や欧州では以前から宇宙活動法のような民間企業が宇宙活動を行うための法制度が整備されていました。日本における法的な整備は2008年に宇宙基本法が制定されたことが最初で、これが日本の宇宙政策の全体を方向づけました。この中に「民間事業者による宇宙開発利用の促進」が謳われており、2016年11月に日本でも人工衛星などの打上げや人工衛星の管理に関する「宇宙活動法」、衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する「リモセン法」という、いわゆる宇宙二法が制定され、2018年11月に施行されました。

「宇宙活動法」では、人工衛星などの打上げなどに関係する許認可に関する制度や人工衛星などの落下などによって生じる損害賠償に関する制度を設けています。このように安全確保のための制度や宇宙開発に関する第三者損害賠償制度などのルールも整備されたことによって、民間事業者も安心して参入できるようになってきました。


──── 法整備も含めた政府のこうした動きの中で御社が立ち上げられたということでしょうか。

宇宙産業への新規参入に取り組んでいたキヤノン電子、イプシロンなどの固体ロケットを開発したIHIエアロスペース、地上インフラはもちろん宇宙での建設事業に関心を持っている清水建設、そして長期のエクイティファイナンス(Equity Finance)にも強みを持つ日本政策投資銀行の4社が集まり、法律制定に関する政府の議論を踏まえて2016年の法律制定よりも前から宇宙ビジネス、宇宙開発についてなにかできないかということを話し合ってきたわけです。


──── 4社はうまく協調して事業に取り組んでいるのでしょうか。

こうした集まりは本当に日本では珍しいと思いますが、異業種の大企業4社が集まって宇宙開発や宇宙ビジネスに対し、いろんなアイディアを出し合ってきました。その結果、法整備も整ってきた環境の中、2017年8月に新世代小型ロケット開発企画株式会社という企画会社をまず作りました。そしてその後の1年間、宇宙開発の可能性やビジネスの実現性などについて徹底的に議論・検討した結果、低軌道に小型ロケットを打ち上げ、小型衛星市場の発展を背景に小型ロケットと専用射場を用いた宇宙輸送サービスを提供しようということになり、翌年2018年7月に弊社スペースワンを立ち上げたというわけです。


──── 4社は異業種だからうまくいっているのではないでしょうか。

私自身は4年前に弊社の代表として宇宙開発や宇宙ビジネスの世界に入ったわけですが、その際にある本を読んでいたら、民間事業者が宇宙活動に取り組み始めるためにはその国の総合力、例えば技術力、ものづくり、サービス、ファイナンスといった底力がないと難しいと書かれていました。弊社のような異業種4社のコラボレーションによりノウハウや知見を集めるというのは、まさに宇宙活動に対する日本の総合力を発揮することになることだと思います。もちろん、単に集まればいいというわけではなく、2017年にまず企画会社を作ってそれぞれの特色を認識し、それを活かしてシナジー効果を引き出すことに力を注ぎました。


宇宙輸送サービスの実現のため小型ロケットを開発

──── 小型衛星打上げサービスでは世界ですでに多くの競合が現れています。こうしたライバルに勝つためにはコスト的な課題も大きいと思いますが。

当然、信頼性とともに価格については十分に留意しています。現在、開発中ですから技術的なことや企業戦略を含め、あまり詳しいことは言えませんが、小型ロケットを用いた競合に対して価格は重要なポイントですし、相乗りのピギーバックには価格ではかなわないものの我々は「オンタイム、オンオービット」というサービスの質で十分に対抗していけると考えています。


──── 御社のロケット開発はどのような段階でしょうか。

現在、エンジンの燃焼試験をはじめとして、各種システム試験を実施中です。ただ、コロナ禍の影響による部品調達の遅れなどもありますので、具体的な打上げについては適切な時期に公表したいと考えています。


──── 打上げに使うロケットはどのようなスペックですか。

弊社の小型ロケットは「カイロス(KAIROS)(R)」と言います。KAIROSは「Kii-based Advanced & Instant ROcket System」の頭文字で、Kiiは射場のある紀伊半島のことです。また、カイロスはギリシャ神話に出てくる時間の神様で、チャンスを逃さないという意味にもなります。予定されているカイロスは、高度500kmだと、南北の太陽同期軌道で150kgまで、地球の自転を利用した東方向へ打ち上げる場合は250kg程度のペイロードを輸送できます。また、衛星を格納するサイズ(格納包絡域)は、直径1,150mm、高さ:基部1,000mm、尖頭部1,360mmで一般的な小型衛星を十分に余裕をもって格納できるスペースです。


──── 技術的な課題はどのようなものがありますか。

前述したようにコロナ禍の影響で部品がなかなか届かないといった問題はありますが、弊社にはこれまで宇宙開発で多くの技術的な知見を蓄積してきた企業が参加していますので、技術的課題には十分な対応能力を持っています。国際マーケットに参入するため、何よりもまずは1号機の打上げを成功させて、実績を蓄積していくことが重要です。契約から世界最短の打上げ、打上げ回数の世界最高頻度という宇宙輸送サービスの実現を目指し、お客さまをいかに多く獲得するかということにも注力していかなければならないと考えています。


ロケット打上げ射場の立地を決めるポイント

──── 和歌山県に射場を建設するということですが。

射場はそう簡単に作れるものではありません。日本ではJAXAの射場が鹿児島県の種子島や内之浦にあります。海外を含めると世界に20数か所ほどあります。しかし自前でない既存の射場はいつでも好きなときに自由に打ち上げられるわけではありませんから「オンタイム、オンオービット」というサービスを実現するためには自前の射場を持たなければならないという結論になりました。


──── 和歌山県の串本町に射場を決めたポイントはどのようなものがあるのでしょうか。

民間事業者が射場を作るというのはこれまでになかったエポックメイキングなことでしたので、地元から歓迎されるということが重要な要素の一つでした。県知事をはじめ、串本町や那智勝浦町の町長、地元の皆さまから受け入れていただけたことが重要でした。また、輸送能力のロスを少なくするためにロケットは直線的に南方へ打ち上げるのが最も効率的なことから、本州最南端であり、南方には陸地はもちろん島嶼もなく、さらに本州の複数の工場から部品などを陸送できるといったさまざまな立地的な利点がある串本町を選びました。


和歌山県東牟婁郡串本町の発射場から飛び立つロケットのイメージ(提供:スペースワン株式会社)
和歌山県東牟婁郡串本町の発射場から飛び立つロケットのイメージ(提供:スペースワン株式会社)


宇宙ビジネスの展望と、宇宙利用の重要性

──── 宇宙ビジネスでは地上でのイノベーションとの競合もあるかと思います。

前述したように宇宙利用はまだ始まったばかりですので、まさに宝の山だと思います。大企業やベンチャーに限らずあらゆるプレーヤーが宇宙を利用した活動によって情報を集め、イノベーションを起こし、産業の高度化に貢献していくことになると思います。


──── 宇宙ビジネスには大きな可能性があるということでしょうか。

そうです。コロナ禍でよくわかりましたが、宇宙空間では地上からの影響をあまり受けないので、利用価値が高まっていくと思います。今後、リモートワークなども進み、人工衛星経由のインターネットサービスなどの需要はもちろん、地球温暖化や災害防止という難題を解決するために宇宙から取得した情報の活用がますます必要となるでしょう。もちろん、宇宙開発によるイノベーションを地上でのさまざまなイノベーションと組み合わせることで、これから産業・民生・環境保全などの各分野で大きな可能性が生まれることも確かです。


──── 御社の存在意義もそこにあるというわけですね。

宇宙ビジネスを展開しようとするプレーヤーにとって、まずは衛星を宇宙空間に輸送しないことには始まりません。計画どおりに実現するには、「オンタイム・オンオービット」の宇宙輸送サービスが必要になります。我々スペースワンの意義は、まさにそこにあります。海外の競合他社と競争しつつ、質の高いサービスを提供することによって、宇宙利用促進の一翼を担っていきたいと考えています。



異業種の4社によるコラボレーションで小型ロケットによる宇宙輸送サービスの事業化を目指すスペースワン。太田氏は、まず1号機を打ち上げて実績作りをしたいと語っていました。日本発の小型ロケット打上げビジネスが、順調に軌道に乗ることに期待したいと思います。

文/石田雅彦


参考情報
・Kairosは、スペースワン株式会社の登録商標です。


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