「紙・プラスチックの代替素材」、石灰石からつくるメリットとその素材の特徴~マテリアルリサイクルを通じた循環型社会への取り組み

INTERVIEW

株式会社TBM
開発・生産本部マネージャー
松田 聡

サステナビリティに対する意識が世界的に高まっている中、環境に大きな負荷を与える既存の材料を見直す動きが出てきています。例えば、製造工程で多くの二酸化炭素を排出するほか、海洋プラスチック問題を起こしているプラスチックや、枯渇が危惧されている水・森林資源でつくる紙に代われる素材への研究開発がなされています。今回は、石灰石から紙・プラスチックの代替素材を開発している株式会社TBMに、石灰石からつくる環境面でのメリットや、代替素材としての特徴についてお話を伺いました。

取材のため訪ねたのは株式会社TBMの東京本社。お話を聞かせていただいたのは、開発・生産本部マネージャーの松田聡(まつだ・さとし)氏です。名刺交換をした際に手渡されたのは、LIMEX(R)でできた名刺でした。見た目は紙そのものですが、よく感触を確かめてみると普通の紙よりも張りがあり、やや弾力も感じられます。

埋蔵量が豊富な石灰石から作る「紙・プラスチックの代替素材」

「LIMEXを使った最初のプロダクトは名刺でした。名刺にも書かれている通り、LIMEXは製造工程で大幅に水資源を節約することができるのです」と松田氏。名刺の下を見ると、「石から生まれたLIMEXの名刺は100枚で約10ℓの水を守る」と記されています。LIMEXとは一体、どのような素材なのでしょうか?

LIMEXの「LIME」は、英語で石灰石を意味する「LIMESTONE」から取られています。このことが示す通り、LIMEXは石灰石の主成分である炭酸カルシウム(CaCO3)を主原料としたプラスチック・紙の代替素材なのです。


LIMEX(R)の原材料の一つである石灰石
LIMEX(R)の原材料の一つである石灰石


「LIMEXは、粉砕した炭酸カルシウムをポリプロピレン(polypropylene、PP)などの石油由来の熱可塑性樹脂や添加剤と混ぜ合わせた複合体で、炭酸カルシウムなどの無機物を重量比で50%以上含んでいます。それを適切な温度・圧力で加工することにより、さまざまな製品を作ることができます」(松田氏)

LIMEXの主原料である石灰石は、言ってみればどこにでもある資源。日本だけでも240億トンの埋蔵量があるとされており、石油と比較して枯渇リスクが非常に低いと言われています。また、海外には水資源や森林資源が少なく、紙の製造が容易ではない地域がありますが、LIMEXは水と森林資源をあまり使うことなく紙の代替製品を製造できるうえ、海外にも豊富な石灰石が埋蔵されているため、世界各地で地産地消のコンパクトなサプライチェーンが構築可能で、地球規模で環境負荷を低減できるというメリットがあります。


石灰石から作ることで、CO2排出量と水使用量の削減に

さらに、石油由来プラスチックは製造工程で加熱などを行うため大きなエネルギーが必要になりますが、石灰石は粉砕加工により炭酸カルシウムを得るため、原材料調達段階のCO2排出量を石油由来プラスチックの約50分の1に抑えることが可能。炭素の含有量が少ないため、焼却などの処分工程でのCO2排出量も石油由来プラスチックの約58%と大幅に抑えられます。

「CO2排出量の削減が世界的な課題となっていますが、水資源の枯渇もグローバルリスクとして持ち上がっています。また、発展途上国では排水処理も問題となっています。潤沢な埋蔵量のある石灰石という資源を使いつつ、水資源の使用を大幅に削減できるLIMEXは、サステナビリティが叫ばれる現代において未来を救う非常に有用な素材であると考えています」(松田氏)


紙・プラスチックの代替素材としての特性

現在、LIMEXは大きく分けて、紙の代替品となる「LIMEX Sheet」と、プラスチックの代替素材となる「LIMEX Pellet」の2種類の形態で製造されています。

紙の代替素材としての特徴

紙状に加工した「LIMEX Sheet」は、溶融状態の複合体を延伸加工することでシート状に成型したもので紙の代替として使われます。

「『LIMEX Sheet』は耐水性・耐久性に優れることから飲食店のメニュー表やカレンダーなど幅広い用途で使われています。開発当初は密度が高く、重量がかさむという弱点がありましたが、延伸工程で空気の粒をたくさん含ませることで軽量化を実現しました。また、従来は透明度が高く透けやすい素材でしたが、最新のものは、空気の粒が光を散乱させることで白さが増し、より印刷に適した素材になりました。表面にコーティング加工をほどこしているため、オフセット印刷やレーザープリント、業務用インクジェットプリントなど、さまざまな印刷方法にも適合しています。耐水性・耐久性に優れることから、現在は飲食店のメニュー表や買い物袋など幅広い用途で使われています」(松田氏)

大手飲食チェーン店で使われているメニュー表の実物を見せていただきましたが、印刷の発色が良く、ベタつきもありません。しかもラミネート加工した紙とは異なり隙間から水が染み込むといったこともないのですから、飲食店のメニューとしては理想的です。

「LIMEX Sheet」(紙の代替素材)で作られたメニューと「LIMEX Pellet」(プラスチックの代替素材)で作られた買い物袋
「LIMEX Sheet」(紙の代替素材)で作られたメニューと「LIMEX Pellet」(プラスチックの代替素材)で作られた買い物袋


プラスチック代替素材としての特徴

「LIMEX Pellet」は、溶融状態の複合体を均一な大きさ・形状に裁断してペレット状にしたもので、プラスチックの代替素材となります。

「『LIMEX Pellet』を用いたプラスチック代替品の開発には、最初はかなり苦戦しました。通常のプラスチックの成型工程に適合する特性を持たせるのが難しかったのです。しかし、試行錯誤した結果、既存の設備を用いた真空成形や射出成形が可能になり、多種多様なプロダクトを作ることができるようになりました。耐熱性はプラスチックと同等、強度が高いため、ポリプロピレン(polypropylene、PP)に比べて薄い容器が作れるので素材の節約にもつながります」(松田氏)


「LIMEX Pellet」から作られたプラスチック代替製品
「LIMEX Pellet」から作られたプラスチック代替製品


さらに、紙代替、プラスチック代替以外の加工方法の開発にも力を入れています。現在、実用化を進めているのが、LIMEXを数μ程度の細さの繊維に加工して織り上げる不織布です。医療用のガウンやシーツ、オムツなどの用途を想定しています。医療用品は基本的にリサイクルができないため、入り口で環境負荷を減らそうというわけです。

マテリアルリサイクルを通じて循環型社会へ

LIMEXを使った製品は、その品質や特性に注目した企業が採用しているのはもちろんですが、環境への配慮から導入されることも多いと松田氏は語ります。そうしたニーズに応えて、TBM社ではLIMEXに新たな付加価値をつけた製品の開発にも積極的に取り組んでいます。

「LIMEXはマテリアルリサイクルの観点でも優れた素材です。『LIMEX Sheet』は製造過程で端材が生じますが、それを再ペレット化して『LIMEX R Pellet』という素材を作っています。『LIMEX R Pellet』はポリプロピレンと比較すると、リサイクルした時のメルトフローレート(流動性、Melt Flow Rate、MFR)や衝撃に対する強度が劣化しにくいため、文房具や建築資材などの射出成形品として利用することが可能です。

また、使用済みのLIMEX製品のリサイクルも可能で、再ペレット化した『LIMEX UP Pellet』をトレイやランチプレートに加工するといった試みも行なっています。2020年には、LIMEXや使用済みプラスチックを再生原料として50%以上含む『CirculeX(サーキュレックス)』を発表しました。これにより、循環型社会への貢献がさらに加速すると期待しています」(松田氏)

TBM社はSDGsとLIMEX事業を照らし合わせ、17の目標の中でも、「12.責任ある消費と生産」がLIMEX事業のコアとして考えており、LIMEXの環境性能をさらに高めることを目指しています。

LIMEXは炭酸カルシウムの「つなぎ」となる材料として石油由来のプラスチックを使用していますが、その比率を下げたり、植物由来や生分解性の樹脂に置き換える研究を進めています。また、石灰石だけでなく、貝殻や卵の殻など生物由来の炭酸カルシウムを原料として利用することも検討しています。特に力を入れているのが、韓国大手財閥であるSKグループの化学素材大手SKCと進めている生分解性LIMEXの開発です。

「TBMとSKC は、炭酸カルシウムを樹脂に高充填するTBMの材料設計技術とSKグループの製造する生分解性プラスチック(PBAT)を組み合わせた生分解性LIMEXを開発・製造・販売するJV(ジョイント・ベンチャー)「SK TBMGEOSTONE Co.,Ltd」を今年の9月に設立し、2022 年中に生分解性LIMEXの上市を目指しています。弊社は、生分解性LIMEXやLIMEX製品を韓国及びグローバルに向けて販売し、世界のプラスチック問題や地域によって異なる環境素材のニーズに対応できると考えています」(松田氏)


文/高須賀 哲
写真/嶺竜一




参考情報
・LIMEXは、株式会社TBMの登録商標です。


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