マイクロニードルの種類と、生体溶解型マイクロニードルの製造方法~マイクロニードルの医療分野での可能性(前編)

INTERVIEW

東京大学
生産技術研究所
教授 金 範埈

マイクロニードルといえば、既に実用化されている美容分野のヒアルロン酸のマイクロニードルパッチを思い浮かべるかもしれませんが、今医薬品を身体に投与するドラッグデリバリーシステム(以下DDS)としてのマイクロニードルパッチの開発が進んでいます。皮膚の薄く硬い角質層というバリアを乗り越えて定量の薬剤送達を可能にする技術とはどのようなものでしょうか。今回は、生体溶解型マイクロニードルを開発している東京大学生産技術研究所 金範埈教授に、マイクロニードルについての解説として、その種類や生体溶解型マイクロニードルの製造方法などについてお話を伺いました。

マイクロニードルは主に美容分野で実用化されてきました。今、注目されているのは医薬品を身体に投与するDDS(Drug Delivery System)としてのマイクロニードルパッチです。痛みもなく、安定的で冷凍保存の必要がなく、医療廃棄物も発生しません。まだ、標準化されていないため、複数の分野で基準を作るなど克服しなければならない課題もありますが、世界中で研究が進んでいます。

マイクロニードルとは、マイクロニードルの4つの種類

──── マイクロニードルについて教えてください。

金範埈教授(以下同):
マイクロニードルは1970年代から存在していますが、製造コストが高く、実用化には程遠い状況でした。それを変えたのが、MEMS(Micro Electro Mechanical System)と言われる半導体のシリコン基板にセンサーやアクチュエーター、電子回路を集積したシステムです。マイクロニードル製造にはこの微細加工技術を応用しています。

我々が薬を身体に投与する方法としては注射、飲む、塗布するという3つがあります。同じ効果なら副作用もない、手間もかからない、痛くない、塗るだけで治癒できるのがベストですが、実際は、血管を通して薬剤投与する場合がほとんどです。

なぜなら、塗ったり貼ったりしても、我々の皮膚は、厚さ10~15㎛(1㎛は1mの100万分の1)の薄く硬い角質層があります。その下に表皮、真皮、皮下組織があるのですが、角質がバリアになり薬剤を浸透させることが難しいからです。角質層を透過するためには、薬剤の分子量が500程度以下のものに限定されてしまいます。ワクチン、美容のためのヒアルロン酸などは分子量が大きいため入らない。そこを突破するのがマイクロニードルになります。

これは蚊が血を吸う原理です。人は蚊に刺されたとき、痛くはありません。直径が60㎛しかない尖った口で毛細血管を探して血を吸っているからです。痛点を避けているため、痛くないのです。後でかゆくなるのは異物が入ったからです。

マイクロニードルには、①ソリッド(solid)型、②ソリッド型のコーティング型、③中孔(hollow)型、④生体溶解(bio-dissolvable)型の4種類があります。
ソリッド(solid)型では折れて、異物が残ってしまう恐れがあります。作る費用もかかります。コーティング型も費用がかかります。中孔(hollow)型は、薬剤の投与量に制限がないという利点はありますが、製造が難しく、強度が弱いという欠点があります。一番小さくても直径180㎛はあり、やはり痛みもあります。


ソリッド(solid)型マイクロニードルの種類(提供:金範埈教授)
ソリッド(solid)型マイクロニードルの種類(提供:金範埈教授)


そこで最近、登場したのが生体溶解(bio-dissolvable)型のマイクロニードルです。安全性が高く、定量の薬剤送達が可能です。薬剤自体を固めて作った針は、皮膚を刺した後、角質を通して皮膚内の水分で解け、表皮に浸透するため効率も良いのです。
既に実用化されているのが美容分野でのヒアルロン酸のマイクロニードルパッチです。欧米では一般に普及、日本でもコスメディ製薬、資生堂からも商品があります。富士フイルム、東レエンジニアリングなども開発研究しています。


生体溶解型のマイクロニードルが薬剤を浸透させる仕組み(提供:金範埈教授)
生体溶解型のマイクロニードルが薬剤を浸透させる仕組み(提供:金範埈教授)


生体溶解型マイクロニードルの3つの製造方法

──── 生体溶解型マイクロニードルの製造方法としては、大きく分けて①マイクロモールディング(Micro molding)②ドローイング・リソグラフィー(Drawing lithography)③ドロップレット・ボーンエア・ブローイング(DAB、Droplet-born Air Blowing)などがあります。金先生の研究室はどの方式を採用しているでしょうか?

マイクロモールディング(Micro molding)が従来の半導体加工式金型を作る方法になります。この過程は以下となります。

 ①フォトリソグラフィとイオンエッチング方法、マイクロ加工技術を使って、
  シリコンや金属のマイクロニードルを製作して鋳型として使用。
 ②その上にポリジメチルシロキサン(Polydimethylsiloxane、以下 PDMS)状の
  柔らかい穴のあいたPDMSの金型を作る。
 ③PDMSの金型の中に溶解性物質を真空や遠心分離で詰めて加熱したり、
  紫外線を照射したり、数十時間かけてゆっくり乾燥し硬化させる。
 ④硬化後、金型から取り出す。

マイクロニードルの95%が、このマイクロモールディング(Micro molding)で作製されています。しかし、ニードルの長さは500㎛ないと効果がなかなか出ません。また、細長い蚊の針と違って針の形がピラミッドや円錐の形をしており、先端の直径は20㎛、大きくても30㎛以下でないと刺すと痛みがあります。

また、生体分解のポリマーは、ハチミツのようにドロドロして粘りがあり、金型で使う金属と熱伝導率が違います。このため、中のポリマーまでドライにしようと加熱すると、ドライすぎて金型から取り出すときに壊れてしまう恐れがあります。逆に加熱を弱くすると中(ポリマー)がまだ柔らかく、金型にくっついてしまうといったデメリットがあります。さらに難しいのは、中を真空にして空気を抜かないと、針の先端がシャープにならず、不良品になってしまうことです。

ドローイング・リソグラフィー(Drawing lithography)は、熱硬化性の溶解性物質を基盤に塗布して、熱を加えて硬化させながら溶解性物質を引き延ばし、マイクロニードルを作成します。しかし、やはり加熱が必要なことと、基盤をコーティングする過程で薬物の損失が大きいといった欠点があります。

これらの、欠点を克服するために、主に化粧品のマイクロニードルパッチを製作する韓国のラパス(RAPHAS)社が開発したのが、ドロップレット・ボーンエア・ブローイング(DAB、Droplet-born Air Blowing)になります。


マイクロニードルを製造するドロップレット・ボーンエア・ブローイング(DAB)方式の特徴

──── ドロップレット・ボーンエア・ブローイング(Droplet-born Air Blowing、以下DAB)方式について教えてください。

DAB方式では、インクジェット技術を使って、薬を混ぜた溶解性物質のDroplet(液滴)を基板上に等間隔に付着させます。その後、もう1枚、別の基板を重ねてから2枚の基板をゆっくり引き離します。溶解性物質はハチミツのように粘土が高く、Dropletは引き延ばされます。そこに冷風をあてるとすぐに固まり、上下真ん中で切れます。形としては、円錐型チョコレートのようなイメージです。この方式は、マイクロニードルの分野ではない、食品工学の研究者のアイデアでした。従来のマイクロニードルの製造方法にとらわれなかったところから生まれました。

このDAB技術のメリットは、製造工程にかかる時間が数十分以内と短く、加熱しないで常温、送風で乾燥させるため、熱や紫外線に弱い薬物を扱うことができることです。2014年、この方式を開発したラパス(RAPHAS)社から東京大学の私の研究室に声が掛かり、国際共同研究として、DAB方式の改良と新規シャドウマスクを用いたDAB方式を開発、低コストで大量生産することが可能になりました。
 
しかし、DAB方式でも、ニードルの長さや形状の制限があり、機械的な強度が弱いという問題がありました。また、主に材料がHA(ヒアルロン酸)となる化粧品のマイクロニードルパッチなら作りやすいのですが、医薬品として応用する場合、混ぜる薬剤の成分にも制限がありました。

このため、我々は生体分解性のポリマーを主に材料として使い、3Dプリンティングで、さまざまな形状や寸法のマイクロニードルを製作する技術を開発しました。既存の金型式方法やDAB方法などにあるほとんどの制限をクリアし、バラつきが少なく、低コストで大量生産することが可能になってきます。


──── 皮膚にニードルが刺さることになりますが、針はどのぐらいで溶けますか?

大体1時間ぐらいですが、女性と男性、また年齢によっても溶ける時間が違います。生体分解性マイクロニードルパッチを手の甲に張り、角質層への透過性の観察、評価をしました。男性よりも女性、年齢が高い人より若い人の方が溶けるのが早いことがわかりました。溶けるためには水分が必要です。つまり、男性の方が女性よりも肌が乾燥しています。年齢も若い方が、水分が多いということです。


東京大学生産技術研究所 金範埈(Kim Beomjoon、キム・ボムジュン)教授。
学際融合マイクロシステム国際連携研究機構長・ウィルス医療学寄付研究部門長(工学博士、精密工学専攻)。韓国出身。1993年、ソウル大学機械設計工学科卒業して来日。1995年東京大学院精密機械工学専攻, 修士(微細加工)、1998年同大学院博士課程修了、工学博士(MEMS/計測)。フランス国立科学研究センター(CNRS)とオランダのトゥウェンテ(Twente)大学、博士研究員。2000年、東京大学生産技術研究所准教授。2014年から現職。株式会社BNS Medicals技術顧問及び共同研究・開発。
東京大学生産技術研究所 金範埈(Kim Beomjoon、キム・ボムジュン)教授。
学際融合マイクロシステム国際連携研究機構長・ウィルス医療学寄付研究部門長(工学博士、精密工学専攻)。韓国出身。1993年、ソウル大学機械設計工学科卒業して来日。1995年東京大学院精密機械工学専攻, 修士(微細加工)、1998年同大学院博士課程修了、工学博士(MEMS/計測)。フランス国立科学研究センター(CNRS)とオランダのトゥウェンテ(Twente)大学、博士研究員。2000年、東京大学生産技術研究所准教授。2014年から現職。株式会社BNS Medicals技術顧問及び共同研究・開発。


マイクロニードルを医薬品分野で実用化するためには

──── 実用化に向けてのハードルは何になりますか?
 
DAB方式で、最初はヒアルロン酸ナトリウム(Sodium Hyaluronate)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(carboxymethyl cellulose sodium)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)の3つの高分子物質を使用して、マイクロニードルを製造していましたが、現在は、ほとんどでカルボキシメチルセルロースナトリウム(carboxymethyl cellulose sodium)がベースになっています。

実用化されているのは美容分野になりますが、私たちが目指しているのは医薬品分野であり、新型コロナが蔓延している中、最も求められているのがワクチンのDDS(Drug Delivery System)への応用です。そのためには医薬品、医薬機器と両分野の製品認可、国際標準の確立も必要になっています。


──── 後編では、金教授の研究室が行っているマイクロニードルパッチを使った糖尿病予備軍を発見するめの血糖値センサーの開発、そしてワクチンへの応用について紹介します。


※トップ写真は最新の3Dプリンティングで製作した生体分解性ポリマーのPLA(Poly-Lactic Acid、ポリ乳酸)のマイクロニードル(提供: 金範埈教授)


文・人物写真/杉浦美香


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