水中ドローンへのワイヤレス給電とデータ通信が可能、高周波電流を用いたワイヤレス給電方式とは~水中ドローンによるスマート漁業の実現に向けて

INTERVIEW

豊橋技術科学大学
准教授 田村 昌也

空中を飛ぶドローンが農業や輸送など様々な商業利用に期待される一方、水中を泳ぎ回る「水中ドローン」は漁業の人手不足解消へ期待されています。水中ドローンはケーブル式が実用化されていますが、深い海底設備の点検や漁業分野に応用するためには、ワイヤレス式の技術開発が望まれます。今回は、水中でワイヤレス給電とデータ通信可能な高周波電流を用いた方式を開発している豊橋技術科学大学 田村昌也准教授に、同方式の動作原理や他のワイヤレス給電方式との違い、実証実験の成果についてお話を伺いました。

自由自在に空を飛び回る無人航空機、ドローンが大きな注目を浴びています。東京オリンピックの開会式では米インテル社製の1,824機のドローンが見事な隊列飛行を行ったドローンショーが話題になりました。空中ドローンは今、目視範囲内での飛行のみ認められていますが、遠方への自動飛行の開発も進められており、目的も撮影だけでなく農業などでのリモートセンシングや探査や輸送などさまざまな商業利用が始まろうとしています。
しかしドローンは、空中で活躍するものだけではありません。実は今、水の中を泳ぎ回る「水中ドローン」の研究開発も盛んに進められています。空中と同じく、水中もまた人間が活動しづらい環境であるため、無人の水中ドローンによる探査や作業技術の開発が求められているのです。


ワイヤレス式水中ドローンの実現に向けた課題、水中給電とデータ通信

水中ドローンの活躍が期待される分野の一つに漁業があります。日本では漁業従事者が減少しており、高齢化も進んでいます。漁業が人手不足になる原因のひとつとして強い負荷のかかる作業が多いということが考えられます。特に養殖業においては、いけすの網の状態や生育状態の確認、水質など生育環境の管理などのために、潜水服を着、タンクを背負って水中に潜る必要があり、それが従事者にとって大きな負担となっています。そのため、人に頼ることなく、水中ドローンを使ってそれらの仕事を自動化するスマート漁業の実現が待ち望まれているのです。

水中を動き回ることができる水中ドローンは主にケーブル式のものが実用化されており、一般に市販されている製品もあります。しかし、深い海底設備の点検や、漁業分野に応用することを考えると、利便性の高いワイヤレス式の水中ドローンの技術開発が望まれます。

しかしワイヤレス式の水中ドローンとなると、動作性能以外にクリアすべきハードルがあります。それが、ドローンへの給電と、海中で取得したデータの受信です。一般的な水中ドローンは数時間程度でバッテリーの充電が切れてしまいます。現在、水中ドローンへの給電方法としては、一度、地上に引き揚げてバッテリーを充電したものに交換するしかありません。また、ワイヤレス水中ドローンの場合は、その際にドローンが取得したデータも回収されます。

しかし、長時間の作業を行う場合、このバッテリー交換を何度も繰り返す必要があり、非常に手間がかかってしまうという難点があります。特に水深数十mから数百mといった深い場所での活動は、沈降と上昇にかなり時間がかかるため、業務効率が低くなります。その問題を解決するために検討されているのが、海底付近にいながらにしてワイヤレス充電と情報通信を行う給電ステーションを海底に設置する方法です。実は現在、世界中でこの研究が進められていますが、実現に至っていません。そんな中、豊橋技術科学大学の田村昌也(たむら・まさや)准教授らのチームが、画期的な技術の開発に成功しました。


水中給電実現への有力な技術、磁界結合方式WPTの課題

これまで、水中給電ステーションを実現するための有力な技術として、磁界結合方式WPT(Wireless Power Transfer、ワイヤレス電力伝送)が有力視されてきました。これは、スマートフォンや電動歯ブラシの「置くだけ充電」と同じ仕組みで、高校物理でも習う電磁誘導の原理が使われています。

磁界結合方式WPTでは、充電器と水中ドローンの両方にコイルが内蔵されます。充電器側の送電用コイルに電気を流すことで発生した磁界が、ドローン側の受電用コイルを通ることにより、誘導電流が発生し、充電できるというわけです。この方式では、送電用コイルをサーカスの火の輪のようにリング状にすれば、その中をドローンが通過するだけで理論上は充電ができるため、非接触でも充電できるという点も注目されていました。潮の流れやうねりのある海中で充電器と水中ドローンをドッキングすることは簡単ではないと考えられているためです。ただし、水中での磁界結合方式WPTには複数の懸念点があると田村氏は指摘します。

「まず、送受電コイルの周囲に発生する磁界の問題があります。コイルの周囲に円を描くように漏れ出す強力な磁界が、ドローン内部の電子機器を破損させたり、生物に何らかの影響を与えてしまう可能性があるのです。そのため、送受電器を特殊な磁性体構造で囲って磁界の漏れを防ぐ方法が検討されていますが、その磁性体自体が脆いため、運用時に破損する恐れが指摘されています。

また、水中ドローンに径の大きい受電コイルや磁性体構造などを搭載しなければならず、ドローン自体の総重量や体積が大幅に増加します。単に重くて大きいというだけでなく、浮力制御や姿勢制御を再設計する必要が出てくるという問題も出てきます」(田村氏)

そこで田村氏は、磁界結合方式WPTではない、新たなアプローチの給電技術の開発を試みました。それは、「電界結合方式WPT」です。送電側と受電側にそれぞれ電極を設置し、電極が近接したときに発生する「電界」を利用してエネルギーを伝送する技術のこと。そこで目をつけたのは、元々、専門としていた「電磁波工学」における高周波電流でした。

田村氏が考える水中ドローンの給電システム。給電ステーションの上にドローンが乗るだけで、給電及びデータの送受信が行われる。(提供:田村昌也准教授)
田村氏が考える水中ドローンの給電システム。給電ステーションの上にドローンが乗るだけで、給電及びデータの送受信が行われる。(提供:田村昌也准教授)


高周波電流による電界結合方式WPTの動作原理と、磁界結合方式との違い

田村氏は2014年に高周波電流を用いた電界結合方式WPTの開発をスタート。水中での伝わり方の特性を調べることから始めました。

「最初は淡水中で、充電器から高周波電界を加えることで水分子の分極回転によって高周波電流が流れ、受電器へ給電できると考えて実験を行いました。すると、ある特定の周波数帯の高周波電流を使えば、淡水中であっても、電界による給電ができることがわかったのです。

続いて、塩水中で給電する実験を行いました。NaイオンとClイオンが豊富な塩水は、イオンの移動を利用することで高周波電流による低損失な給電が可能なのではないかと予想しました。そこで送電周波数を変えながら、水中の塩分濃度を変化させた時に給電効率がどのように変化するか実験で確認することにしました。すると、ある一定濃度以上になると給電効率は一気に高まり、海水と同じ塩分濃度ではかなり給電効率が高まることがわかったのです」

田村准教授の予想は正しく、一定以上の塩分濃度の水中では、NaやClなどのイオンの移動により、以下のような順序で高周波電流が流れることがわかりました。

 1.高周波電圧を送電器に加える
 2.送電器から電磁界が発生
 3.送受電器間のイオンが移動
 4.受電器に対となる電荷が発生
 5.電荷量の変化から電力を取り出す

このような動作原理で高周波電流による給電が可能になるという道筋が見えた田村氏は、等価回路による設計理論を構築し、広帯域で高効率の給電を達成できる送受電器を設計しました。磁界結合方式WPTでは必要だったコイルを搭載せず、特殊な磁性体構造で覆う必要もありません。

それにより、受電器と電力系統回路を合わせて、約270gという軽量な装置を開発することに成功したのです。


実証機では、ドローン下部に取り付けられた受電器と給電ステーションの発電器が接触して給電と情報通信が行われる(提供:田村昌也准教授)
実証機では、ドローン下部に取り付けられた受電器と給電ステーションの発電器が接触して給電と情報通信が行われる(提供:田村昌也准教授)


「軽量化の鍵となったのは、受電器に採用した厚さ18μmという極薄の平板電極です。また、送電器を備えた給電ステーションにドローンを着底させる際の衝撃緩和に用いるクッションダンパーを、送電側と受電側の間にある海水を外側の海水と遮断する構造として利用することで、前述の動作原理が働く環境を作りました。電流が流れるのは送受電器の間だけなので、磁界結合方式のように外へ漏れ出てドローン内の精密機器や自然環境に影響を与える心配はありませんし、余計な遮蔽物を搭載する必要もありません。つまり、高周波電流を使えば、磁界結合方式のデメリットをすべて克服できるのです」


海水と淡水で水中給電とデータ送受信の実証実験を実施

給電ステーションの上で給電中の水中ドローン(撮影:嶺竜一)
給電ステーションの上で給電中の水中ドローン(撮影:嶺竜一)


完成した実証機による海水中での給電実験では、送電距離2cmで給電効率94.5%、送電距離15cmでも給電効率85%というロスの少ない給電が可能であることがわかりました。また、開発した送受電器は平板電極で構成されることから淡水中では高周波電界で電力を送ることが可能です。つまり、海水中専用の送受電器ではなく、海水・淡水の両方で使用できます。淡水においても、送電距離2cmで給電効率91.7%という高い給電効率を達成しています。漁業や海底設備などの海中における作業や調査はもちろん、ダムや養殖池などの淡水施設でも十分利用できることがわかりました。

さらに、この装置は給電だけでなく、データの受け渡しも可能であることがわかりました。
水中ドローンのカメラモジュールで撮影した動画をリアルタイムで送信する実験を実施。給電に使うのと同じ送受電器を介して、通信帯域幅28MHz、通信速度約100Mbpsでのワイヤレス通信に成功したのです。
これにより、水中ドローンを浮上させなくても、給電中に海底調査の様子を洋上で確認することが可能になります。

「2019年に技術的な基盤が完成しました。現在は、本格的な実用化へ向けて、水中ドローンに送受電器を実装した実証実験を進めています」と田村氏。

実際に実験の様子を見せていただきました。実験室に置かれている大きなプールは、海水の素を75kg分入れた人工海水で満たされています。プールの底には給電ステーションを想定した送電器が沈められており、その上に水中ドローンが着底しています。ドローンの前方には充電状態を示す数値がデジタル表示されており、それが増加していく様子から送電器から給電が行われていることが確認できます。そして、十分に充電できたところで学生がコントローラーを操作すると水中ドローンが動き出し、PCにカメラモジュールからの映像が映し出されました。


給電を終え、給電ステーションを離れ、遊泳する水中ドローンの様子(撮影:嶺竜一)
給電を終え、給電ステーションを離れ、遊泳する水中ドローンの様子(撮影:嶺竜一)


「この実証機では、構造が確認できるように受電器をドローンの底部に露出するように実装していますが、将来的には本体に内蔵してゴミや汚れの影響を受けない構造にします。電極表面が化学変化するのを防ぐために絶縁コーティングをほどこしても、90%以上の給電効率をキープできることがわかっています」と田村氏は言います。

2020年12月、田村氏はこれまでの研究成果を論文にまとめて発表しました。最初の査読の際には、「本当にこのような技術が実現できたのか疑問だ」というコメントが付けられたといいます。高周波電流によるワイヤレス給電は、にわかには信じがたいほど画期的な技術だったのです。

陸上では磁界による給電がうまくいっていたため、多くの人が「水中でも磁界を使うしかない」と思い込んでいた中、固定観念を捨てて大きく発想を切り替えたことが、今回の成果に結びついたのでしょう。田村氏らのチームは2019年に水中無線電力伝送システムとして特許(参考情報1)を出願しました。

現在は実際に海中で運用することを想定して改良を重ねています。
「技術を開発したからには、自分の力で実用化するところまで持っていきたいですね。ダイビングのライセンスも持っているので、海の中でどのように動作するか自分の目で見てみたいです」
そう語る田村氏の顔には、生粋のエンジニアの表情が浮かんでいました。


文/高須賀哲


参考情報
・参考情報1:「特開2020-191761」の特許権者は「国立大学法人豊橋技術科学大学」、発明の名称は「水中無線電力伝送システム」です。

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