水素燃料電池ハイブリッド車両の開発と、燃料電池と蓄電池のハイブリッド駆動システム~脱炭素社会に向けた水素エネルギーの活用(7)

脱炭素社会の実現に向けて「水素エネルギー」の活用に注目し、産学官からの水素エネルギーに関する取り組みを紹介していく本連載。第7回目は、水素を主な動力源とするするハイブリッド車両(燃料電池)を開発している「産(民間企業)」に注目します。今回は、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)、トヨタ自動車株式会社、株式会社日立製作所に、3社が取り組んでいる水素燃料電池ハイブリッド車両の概要と実証実験、水素機関(燃料電池)とリチウムイオン電池(蓄電池)の「ハイブリッド駆動システム」についてお話を伺いました。

2020年10月6日、東日本旅客鉄道株式会社(以下JR東日本)、トヨタ自動車株式会社、株式会社日立製作所の3社は、新しい鉄道車両のプロジェクトを発表しました。現在、世界を走る鉄道の機関車には、石炭を主な動力源とする「蒸気機関車」、石油系燃料を主な動力源とする「ディーゼル機関車(気動車ともいう)」、電気を主な動力源とする「電気機関車(電車)」があります。この3種類の鉄道に加え、4つ目の動力源の鉄道として開発されようとしているのが、水素を主な動力源とする「水素機関車(燃料電池車両)」です。新しい車両の名は、HYBARI(ひばり)(R)。このHYBARIプロジェクトについて、JR東日本、トヨタ自動車、日立製作所の3社にメール取材を行ないました。


鉄道が運輸部門で占める二酸化炭素排出量と、モーダルシフトへの動き

(出典:国土交通省ウェブサイト「運輸部門における二酸化炭素排出量」)
(出典:国土交通省ウェブサイト「運輸部門における二酸化炭素排出量」)


2019年度における日本の二酸化炭素排出量(11億800万トン)のうち、運輸部門からの排出量は18.6%(2億600万トン)を占めています。そのうち、86%が自動車(自家用車、タクシー、トラック、バス、オートバイ等)です。自動車以外では、航空が5%、海運が5%、鉄道は4%を排出しています(参考文献1)。

こう聞いて、鉄道のCO2排出量が意外に少ないと思った人もいるのではないでしょうか。通勤や通学でほとんど毎日電車に乗るという人は多いでしょう。日本は世界的にみても非常に鉄道網が発達し、交通機関として鉄道が多く利用されている国です。世界各国の鉄道事業者によって組織される国際的機関である世界鉄道連合のデータによれば、日本の一人当たりの鉄道利用距離(年間)はスイスに次いで世界2位(1,910km)であり、鉄道利用日数は世界1位(年間69回)となっています。

現在、日本の旅客輸送量全体(自家用車での移動を含む)における鉄道の割合(人数×km)は30%弱となっています。それに対して、鉄道のエネルギー消費量は全体の4%しかありません。一方、旅客輸送量全体における自家用車の割合は57%、それに対するエネルギー消費量は84%もあります。

人を1人1km輸送するのに、自家用車では147gのCO2を排出しますが、対して鉄道は19gしかCO2を排出しません。鉄道は自家用車の7分の1以下です(参考文献2)。また、バスのCO2排出量は51g、航空は109gであり、鉄道のCO2排出量は他の交通手段に比べて格段に少なくなっています。さまざまな乗り物の中で、鉄道がエコロジーな乗り物であることは明白です。

また、貨物輸送については、かつては鉄道が主要な手段でしたが、この半世紀ほどのあいだにトラック輸送が大きく伸び、鉄道貨物輸送は日本全体の輸送量の4%程度へと減少しています。

そうした理由から、将来のカーボンニュートラルに向けては、環境への影響が最も大きな自動車の省エネルギー化、CO2排出量の削減が求められるのは当然なのですが、それと同時に、自動車そのものの利用を減らし、鉄道利用を増やすというモーダルシフト(Modal Shift)も大切になってくるでしょう。自動車は目的地まで乗り換えなしに行くことができ、荷物も積めるので非常に便利ですが、環境負荷が大きいのです。自分で運転する必要がなく、時間に正確で、環境に優しい鉄道の優れた点を、今一度見直す時期がきているのかもしれません。

水素で走る「ハイブリッド車両(燃料電池)」の開発と実証実験

HYBARIの外観イメージ。燃料電池の化学反応から生まれる水を、碧いしぶきと大地を潤すイメージでとらえ、スピード感と未来感を持たせた車両デザインにしたという。(提供:トヨタ自動車)
HYBARIの外観イメージ。燃料電池の化学反応から生まれる水を、碧いしぶきと大地を潤すイメージでとらえ、スピード感と未来感を持たせた車両デザインにしたという。(提供:トヨタ自動車)


それほど環境に優しい乗り物である鉄道を、さらにエコロジーな乗り物にしようという取り組みが、始まっています。それが水素をエネルギー源とした水素機関車の開発です。

このプロジェクトは、JR東日本、トヨタ自動車、日立製作所の3社が共同で行なっています。開発する車両の愛称は、HYBARI(ひばり)(R)。HYdrogen(水素)と、HYBrid Advanced Rail vehicle for Innovationという2つの由来を持っています。もちろん、美しいさえずりの音と姿が日本人に親しまれてきた鳥である「雲雀」をイメージして名付けられています。春に縄張りを主張して大きな声をあげることから、春の訪れを告げる鳥としても知られています。

HYBARIは2両編成で、最高速度は100km/h、航続距離は約140km(最大)となる計画です。開発はすでに始まっており、2022年3月ごろから、JR鶴見線、JR南武線尻手支線、JR南武線(尻手〜武蔵中原)区間で、実証実験を行うことを予定しています。


2022年3月ごろから実証実験を開始するHIBARIの路線(提供:トヨタ自動車)
2022年3月ごろから実証実験を開始するHIBARIの路線(提供:トヨタ自動車)


HIBARIの水素機関の核となるテクノロジーは2つあります。一つは、日立製作所がJR東日本と共同で開発し、すでにディーゼル機関車で使用しているハイブリッド駆動システムの技術。もう一つは、トヨタ自動車がクルマで実用化した水素をエネルギー源とした燃料電池自動車の技術です。この2つの技術を融合させ、水素機関車のハイブリッドシステムを作ろうとしています。


水素機関(燃料電池)とリチウムイオン電池(蓄電池)の「ハイブリッド駆動システム」

水素をエネルギー源とする燃料電池ハイブリッド駆動システムの仕組み(提供:トヨタ自動車)
水素をエネルギー源とする燃料電池ハイブリッド駆動システムの仕組み(提供:トヨタ自動車)


まず、ディーゼル機関車で使用されているハイブリッド駆動システムについて解説しましょう。日立製作所は、営業車におけるハイブリッド駆動システムとしては、世界初の実用化を達成しました。これはどのような技術なのでしょうか。

ディーゼル機関は、ドイツの技術者ルドルフ・ディーゼルが1892年に発明したピストンエンジンの仕組み。ピストンによって圧縮加熱した空気に液体燃料を噴射して自己発火させ、ピストンを回し、その動力を車輪に伝え、走ります。

ディーゼルエンジンは、機関車だけでなく、船舶、自動車、バス、トラック、建設機械、農業機械などにも使用されています。都市圏に居住している人は、鉄道イコール電車だと考える人が多いかと思いますが、地方ではディーゼル機関車によって旅客車や貨物車が走っている路線も多くあります。現在、日本の鉄道の電化率は67%ほどであり、それ以外は、静岡県の大井川鉄道や埼玉県の秩父鉄道などの蒸気機関車の観光目的の運用を除いて、ほとんどがディーゼルです。ディーゼル路線は電線(架線)を整備する必要がないため、低コストで運用できることがメリットです。そのため、本数が少ない、乗車率が低いなどの路線では、電車よりもディーゼルが適しています。

ディーゼル機関は一世紀以上も活躍している技術ですが、課題がありました。それは電車に比べ、環境負荷が比較的大きいということです。まず、温室効果ガスであるCO2、大気汚染を引き起こすNOxなどの排出量が多いこと。また、ディーゼルエンジンで直接駆動する方式のため、電気機関車にはすでに備わっていた、ブレーキの抵抗エネルギーを電力に変えて駆動に生かす「回生ブレーキ」が備わっていませんでした。そのため、燃費がさほどよくなかったのです。

そこで日立製作所は、JR東日本と共同で、環境負荷低減を目指し、従来のディーゼルエンジンと、高エネルギー密度のリチウムイオン電池を組み合わせたハイブリッド駆動システムの開発を、2001年にスタートさせました。具体的には、ディーゼル機関車両に蓄電池を新たに搭載。速度を落としたり停車する際のブレーキの抵抗エネルギーを電気に変えて蓄電し、駅からの発車の際の駆動や、空調などに利用するものです(回生ブレーキ)。このディーゼル機関とリチウムイオン電池(蓄電池)のハイブリッドシステムの開発は成功しました。燃料消費量を低減するとともに、排出ガスの低減を可能にし、JR東日本のキハE 200形新型車両に採用されました。

このハイブリッド車両は、駅に到着する前に回生ブレーキを発動した時点でディーゼルエンジンを切ります。速度を落としながら蓄電池に電気を貯めて停車します。停車中の空調や照明は蓄電池のエネルギーのみを使うことで、駅構内および周辺への排気ガスの汚染とエンジン音(騒音)をカットします。そして発車の際にも、およそ時速30kmに達するまで、蓄電池のエネルギーのみを使用します。ある程度の速度が出たところでディーゼルエンジンを起動し、ディーゼル駆動へと切り替えます。最も大きな運動エネルギーを使う走り出しの際に、回生ブレーキで発電したリサイクルエネルギーを使うことで、燃料消費量を大きく低減するとともに、エンジンに負荷がかかった際に多く排出される有害な排気ガスも抑制することができるのです。また、線路の上り下りの勾配も計算に入れ、充放電を最適にコントロールすることで、燃費を向上させる仕組みも導入しました。

今回の取り組みである、水素をエネルギー源とする水素機関車の開発においては、このディーゼル機関車に導入したハイブリッド駆動システムの技術を応用し、水素機関(燃料電池)とリチウムイオン電池(蓄電池)のハイブリッド駆動システムの開発を、日立製作所が担います。

日立製作所はこのプロジェクトの参画への思いについて、
「日立は社会イノベーション事業を通じて環境課題を解決し、QoL向上と持続可能な社会の両立をめざしています。本プロジェクトにより、水素をエネルギー源とする革新的な鉄道車両の開発していくことで、地球温暖化防止やエネルギーの多様化などによる脱炭素社会の実現に貢献していきます」と答えています。

日本政府は現在、2030年に水素導入量を年間300万トン(電気量換算すると日本の総需用量の約10分の1)に増大させ、さらに2050年には年間2,000万トン(同3分の2)にまで増やす目標設定を議論しています。鉄道を含めて交通機関への水素エネルギーの導入は国としての目標でもあります。

次回は、トヨタ自動車の役割や、JR東日本のHIBARIを含めた環境プロジェクトへの思いについて記述します。

文/嶺竜一


▽参考文献
参考文献1:『運輸部門における二酸化炭素排出量』(国土交通省)令和3年4月27日更新
参考文献2:『運輸部門における現在までの排出量及び関連データについて』(環境省)


参考情報
・HYBARI\ひばりは、東日本旅客鉄道株式会社の登録商標です。

▽脱炭素社会に向けた水素エネルギーの活用

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