植物廃材を利用した「セルロースファイバー樹脂」の特徴と、プラスチック代替材としての可能性~プラスチックごみ問題解決に向けたエコマテリアルの開発

INTERVIEW

パナソニック株式会社
マニュファクチャリングイノベーション本部
生産・環境技術研究所
名木野 俊文

プラスチックは、私たちの生活のさまざまなシーンで利用される素材ですが、もともとの製造原価が安いこともあり金属に比べてさほどリサイクルは進んでいません。そのため海洋に流れ込むプラスチックごみ問題は深刻であり、世界的にプラスチック使用量削減へと動きが進んでいます。今回は、その取り組みの一つとして植物廃材を利用したバイオマス素材「セルロースファイバー樹脂」を研究開発しているパナソニック株式会社に、セルロースファイバー樹脂の特徴、同社が行った製造方法の改善と同素材の性能についてお話を伺いました。

手軽で適度な強度を持ち、耐久性に優れ、成形がしやすく、耐水性があり、安価に生産できるなど、非常に便利な素材であることから、私たちの生活のさまざまなシーンで利用されている「プラスチック」。日用品、食器や食品トレー、レジ袋やペットボトル、文具や玩具などパッと見てわかるもの以外にも、金属や木材、繊維などからの置き換えも進み、その利用範囲は自動車、家電、電子基板、建築資材、衣類などにも広く使われています。

実際、世界で消費されるプラスチックの量は年間3億トンを突破しており、その量はさらに増加の傾向にあり、今では年間4億トンとも言われています。このプラスチックが引き起こすさまざまな問題が今、指摘されています。


プラスチックの廃棄問題、リサイクルはわずか14%

まず、プラスチックには「廃棄」の問題があります。使われなくなったプラスチックの一部はリサイクルされていますが、多くは可燃ゴミとして焼却処分されるか、不燃ゴミとして埋め立て処分がなされます。ただし、きちんと処分されず、投棄されるなどし、「プラスチックごみ」となって環境中に流出してしまうものもあります。プラスチックは安く手軽に使える分、手軽に捨てられてしまう現状があります。

特に問題なのが川や海などの水辺での投棄です。海水浴や釣り、キャンプなどのレジャー客が投棄したペットボトルや弁当のトレー、ビニール袋、発泡スチロール、破損した漁業用の網などが海に流れ込み、海洋プラスチック問題を引き起こしています。また、石油由来のプラスチックは環境に主に2つのマイナスの影響を与えます。まず、枯渇資源である石油を原料としている点、それと、焼却処分をした際にCO2を排出する点です。

プラスチックはきちんと回収すればリサイクル可能なのですが、もともとの製造原価が安いこともあり、金属に比べて、さほどリサイクルは進んでいません。

リサイクルによって、再資源化されるプラスチックは全体の廃棄量のわずか14%と言われています(国際連合環境計画資料より)。残りの86%のうち、海洋に流れ込むものはわずかだったとしても、地球全体では膨大な量となります。2050年には海のプラスチックごみの量が世界中の魚の重量を超えてしまう、との予測も発表されるなど、深刻な環境問題となっているのです。この問題を解決するためには、プラスチックのリサイクルと廃棄処理をきちんとすることはもちろん、そもそものプラスチックの使用量を減らすことが必要となるでしょう。そして、そうした動きの一つとして、石油由来ではない代替プラスチックの普及も期待されます。

2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の14番目の項目に「海洋汚染の防止および大幅な削減」が掲げられていることからもわかるように、またCO2削減の観点からも、いま世界中でプラスチック使用量の削減が求められています。

こうした世界的なプラスチック使用量の削減の動きを受け、2015年からエコマテリアル(環境を意識した材料)の研究開発をスタートさせたのがパナソニック株式会社(以下パナソニック)です。


プラスチック代替素材の模索と、バイオマスプラスチックの課題

同社が生産する家電には、プラスチックが多く使われています。同社は20年ほど前から、家電リサイクル法(2001年4月施行)に定められたエアコン、冷蔵庫、テレビ、洗濯機の4つの家電に関しては、使わなくなったものを回収し、リサイクルする仕組みを構築してきました。

マニュファクチャリングイノベーション本部 生産・環境技術研究所の名木野俊文氏は「4つの家電に関してはリサイクルすることで、再資源化しているプラスチックの割合は90%を超えている」と言います。ただ、リサイクルできている家電はその4種類のみであるのが現実です。

「それ以外の家電は一般の不燃ごみまたは大型ゴミとして廃棄され、回収すらできていないのが正直なところです。家電リサイクルをより推進することは私たちの命題ですが、将来的に、製品に従来の石油由来のプラスチックを使い続けることも見直したいと私たちは考えています。プラスチック代替素材の一つとして、植物を原料として作るバイオマスプラスチック(植物由来樹脂)があります。バイオマスプラスチックは、環境に対して2つのメリットがあります。1つは枯渇資源ではなく、サステナブルであること。もう一つは、CO2の排出が削減されることです。可燃ゴミとして焼却処分を行えばCO2は排出されてしまいますが、原料とする植物が生育する際にCO2を吸収しているため、トータルでCO2排出量を削減できるのです」と名木野氏。

ただし、バイオマスプラスチックには別の課題がありました。現在、世界で開発されているバイオマスプラスチックの主な原材料は、とうもろこしやサトウキビなどのでんぷんを多く含む穀物。畑で育てられる、食べられる植物です。これらは、食料問題とバッティングしてしまう可能性が指摘されています。そのため、地球環境対策としては良くても、SDGs全体で見ればプラスとは言い切れない部分があります。さらに、穀物価格は変動するため、高騰すると、生産コストが上がってしまうという課題もあります。

そこで2015年から、プラスチックと似た性質を持ちつつも、石油由来の材料の量を減らした新素材の研究開発を開始したパナソニックは、畑で育てられる食べ物ではない植物を由来とした、新たなプラスチック素材を模索しました。そうした考えのもと、目をつけた素材が「セルロースファイバー」でした。


「セルロースファイバー樹脂」の特徴と、全乾式製法の開発によるCO2排出量の低減

セルロースファイバーは間伐材など林業、木材加工業の廃材から作ることができる(提供:パナソニック株式会社)
セルロースファイバーは間伐材など林業、木材加工業の廃材から作ることができる(提供:パナソニック株式会社)


セルロースファイバーとは、木材チップから木材繊維(パルプ)を抽出及び微細化、それに補強用繊維として他の樹脂に混ぜ込んでつくるものです。プラスチックそのものになるわけではなく、セルロースファイバーが樹脂のつなぎ役として機能することで、強度を増し、使用するプラスチックの量を減らすことができます。繊維強化プラスチックの一種と言えます。軽さ・強度を実現しながら、環境にも配慮した成形材料になりうるバイオマス素材です。

木材繊維(パルプ)は、林業から出る間伐材や材木加工から出る廃材などの森林資源、稲や麦わら、とうもろこしの非可食部分やサトウキビの搾りかすなどの産業廃棄物からも取り出すことができます。食料問題とバッティングしないだけでなく、廃棄物処理にも寄与します。

また、処分がしやすいという特長もあります。繊維強化プラスチックの代表的なグラスファイバー(ガラス繊維)樹脂の場合は、使用後に燃やすとガラス繊維が残ってしまうため、埋め立てなどの最終処分が必要となってしまいます。一方、セルロースファイバー樹脂は植物繊維を採用しているため燃やしてもなにも残りません。

このように、非常に可能性の高い素材であるセルロースファイバーですが、これまでに他社で開発されてきたセルロースファイバーの製造過程には課題もありました。その課題が、エネルギーコストや生産性です。名木野氏はこう語ります。

「木材から得た繊維を微細化する解繊(かいせん)の過程において、化学処理と機械処理という2つの方法が確立されています。ただ、どちらも水中で行う湿式製法のため、その後に乾燥工程が入る。そのため、大量の水と、乾かすためのエネルギーが必要となり、CO2が排出されるなどエネルギーコストの面で課題がありました」

そこで、パナソニックは水を使用せず、樹脂融液の中で繊維を解繊して、複合樹脂化する独自の「全乾式製法」を開発。乾燥させる工程をなくしたことで、より効率的に、少ないエネルギーで製造できる仕組みを構築しました。


従来の湿式方式に比べ、パナソニックが開発した全乾式のセルロースファイバー製造プロセスでは、CO排出量が4分の1以下に抑えられる(提供:パナソニック株式会社)

 

 

「この全乾式製法によるセルロースファイバーの製造方法は、従来の湿式製法がセルロース1kgあたり2.3kgのCO2を排出していたのに対し、全乾式製法は0.5kgと、セルロース1kgあたり約1.8kgのCO2を削減できます」(名木野氏)

また、湿式製法は樹脂ペレット化するまで「解繊」「変性」「乾燥」「混練」という4つの工程が必要でしたが、パナソニックが考案した全乾式製法は乾式同時処理によって、これらの工程を一貫処理することで1工程化を実現しています。

この全乾式プロセスによって製造されたセルロースファイバー樹脂は、2018年8月に発売されたパナソニックのコードレススティック掃除機の筐体に採用されました。

「弊社が開発したセルロースファイバー樹脂は繊維の太い部分を残しつつ、先端のみをナノファイバー化しているため、弾性率が高く、応力時のひび割れを最小化できる特性を備えています。グラスファイバー樹脂はほとんど伸びずに割れてしまいますが、セルロースファイバーはある程度伸びるので割れにくいのです」(名木野氏)

名木野氏によれば、セルロースファイバー樹脂はグラスファイバー樹脂と比較して、約8倍の強度を実現。強度を確保すると同時に、プラスチック使用量の削減を両立しています。


セルロースファイバー成形技術により、高剛性、高弾性、色味制御が可能に

パナソニックが開発したセルロースファイバー複合樹脂のチップ。右から、セルロースファイバーの比率が15%、50%、70%、85%。
パナソニックが開発したセルロースファイバー複合樹脂のチップ。右から、セルロースファイバーの比率が15%、50%、70%、85%。


パナソニックは全乾式製法をもとに、2019年にはセルロースファイバー55%以上を樹脂に混ぜ込む複合加工技術を確立。この技術を活用し、同社はアサヒビールと共同でリユースカップ「森のタンブラー(R)」の開発も手がけています。

「湿式製法はすべての繊維がナノレベルのセルロースナノファイバーを作り出せますが、繊維の長さが短く、ペレットにした際に着色自由度が低いのです。弊社が開発した全乾式製法は繊維の太い部分を残しつつ、先端のみをナノファイバー化したことで、繊維のせん断を抑え、乳白色のペレットを作り出せます。そのため、着色自由度が高く、独自の成形技術により色味を制御した木質感のデザインなども再現可能となっているのです」(名木野氏)

その後、パナソニックはセルロースファイバーのさらなる高濃度化の開発を進めていき、現在は70%濃度で樹脂に混ぜ込む複合加工技術を確立したと言います。

「セルロースファイバーの高濃度添加は、成形時の樹脂の流れ性が課題となってきますが、最大85%の高濃度添加も実現可能だと考えています」と名木野氏は言います。

また、樹脂、セルロース材料の最適化、混練方法の改良によって、高剛性タイプ、高流動タイプの2種の複合樹脂成形材料の開発に成功。高剛性タイプでは、セルロースファイバーの形状を制御することで、曲げ弾性率で9GPa以上の高剛性を実現しています。

高流動タイプでは、高濃度化の課題である流動性の改善、新たな金型構造などによる成形技術の工夫によって、1.3mmの薄肉製品の造形を可能にしています。

コスト的に、すべてのプラスチック部品への置き換えはまだ現実的ではないそうですが、高強度で高弾性、軽量であることから、人が持ち運んだり、回転したり振動したりする部材での採用から始まるだろうと考えられます。

パナソニックが開発する家電製品へのセルロースファイバー成形材料の適用について、名木野氏は「冷蔵庫や洗濯機といった大型白物家電、エコの観点から美容家電などでの展開も可能性としてはあり得る」と語ります。


さまざまな原材料で作ったタンブラー。右から、杉、檜、竹、ウイスキー樽廃材、ビール大麦(醸造かす)、コーヒーかす。それぞれに色や匂いに特徴がある。
さまざまな原材料で作ったタンブラー。右から、杉、檜、竹、ウイスキー樽廃材、ビール大麦(醸造かす)、コーヒーかす。それぞれに色や匂いに特徴がある。


また、セルロースファイバーの原料となる植物の特徴を生かした製品開発も行なっています。現在、パナソニックは自治体・企業と連携し、檜、杉、竹、麦、茶葉、コーヒーかすなどのさまざまな植物廃材を有効利用する取り組みを進めています。

これらの植物廃材を樹脂に混ぜ込むことで、植物ごとの色や香りなど感性価値を生み出すことが可能。同社が開発した複合加工技術、成形技術によって、これらの植物廃材についても70%濃度で樹脂に混ぜ込むことができ、薄肉成形加工ができます。実際、檜、杉、竹、麦、茶葉、コーヒーなどの植物廃材を使ったリユースカップの試作品もありました。

「今後、セルロースファイバーのさらなる高濃度添加を目指していくとともに、廃材の活用の幅も広げていきたいと思っています」と語った名木野氏。パナソニック製品への採用だけではなく、世界の環境問題、食料問題に影響を与えるような展開に期待したいと思います。


文/新國翔大
写真/嶺竜一




参考情報
・森のタンブラーは、アサヒグループホールディングス株式会社の登録商標です。

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