水素発電のための水素ガスタービン燃焼技術の開発と、コージェネレーションシステム(CGS)の活用~脱炭素社会に向けた水素エネルギーの活用(6)

INTERVIEW

川崎重工業株式会社
執行役員・水素戦略本部副本部長
西村 元彦

脱炭素社会の実現に向けて「水素エネルギー」の活用に注目し、産学官からの水素エネルギーに関する取り組みを紹介していく本連載。第6回目は、引き続き水素エネルギー普及に向けたサプライチェーンを構築しようとしている「産(民間企業)」に注目します。川崎重工業株式会社の水素戦略本部副本部長の西村元彦氏に、同社が取り組んでいる水素発電のための水素ガスタービン燃焼技術の開発と、水素発電からの熱と電気を近隣施設に供給するコージェネレーションシステム(CGS)の活用についてお話を伺いました。

水素社会の実現に向けて、神戸市は一歩先を行く取り組みを行っています。神戸ポートアイランドにおいて、大林組と川崎重工業とNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、水素のみを燃料としたガスタービン発電によって、熱と電気を近隣施設に供給するエネルギーシステムの実証試験を実施しました。

水素の燃焼温度を下げる「水噴射方式」水素ガスタービンを開発

神戸ポートアイランドに建設された水素発電所の水素ガスタービン発電装置
神戸ポートアイランドに建設された水素発電所の水素ガスタービン発電装置


日本で一般的な火力発電は石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃やし、蒸気やガスでタービンを回転させて発電する仕組みです。化石燃料の燃焼過程では大量のCO2が発生します。

菅義偉首相は2020年10月26日の所信表明演説の中で、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しており、CO2を排出しない発電方法が重要視されています。

そうした中、注目を集めているのが燃やしてもCO2を排出しないクリーンなエネルギー「水素」を燃料とするガスタービン発電です。水素をエネルギー源とする発電方法は燃料電池が知られていますが、規模の大きな発電にはガスタービン発電の方が向いています。大量のエネルギーを使用する発電所でCO2フリーの水素が利用されるとCO2削減のインパクトは非常に大きくなります。

そんな水素ガスタービン発電の開発に取り組んでいるのが川崎重工業株式会社(以下川崎重工)です。同社は、NEDOが展開する「水素社会構築技術開発事業」の中で、2017~2018年度にかけて、水素と天然ガスを併用する発電方式が水素発電導入期に需要が見込める技術と捉え、大林組と共同で水素ガスタービンの実証運転を行いました。

その際、川崎重工が開発したのが、局所的な高温燃焼の発生によるNOx(窒素酸化物)生成を抑制するため「水噴射方式」を採用した水素ガスタービンです。川崎重工 執行役員・水素戦略本部副本部長の西村元彦(にしむら・もとひこ)氏はこう語ります。

「水素は、天然ガスの7倍の速さで燃えることに加え、燃焼温度が高くなる特性があります。技術的には、燃料ノズルの焼損、不安定な燃焼、大気汚染物質であるNOx発生の増大などの課題を克服しなければなりません。こうした水素の特性に対応した燃焼器の開発には、高い技術力が求められます」(西村氏)

たとえば、高温の炎から保護するために、燃料ノズルをセラミックで覆うといった工夫を実施。また、高温になればなるほどNOxが発生しやすくなるという問題については、燃焼温度を下げるために水を噴射する仕組みを採用しました。

「独自の燃焼方式で水素と天然ガスの混合燃焼、さらに水素100%燃焼(専焼)を実現させ、ガスタービン本体は天然ガス用のままで水素の燃焼特性にも対応可能な燃焼器の開発に成功しました。すなわち、既設の当社製ガスタービンを使用している顧客は、燃焼器を改造することで水素燃料にも対応できるようになります」(西村氏)

そのガスタービン発電の仕組みを活用し、2018年4月19日と20日に、世界初の実証実験を実施。それが神戸ポートアイランド、市街地におけるガスタービンによる純水素を燃料とした熱と電気の同時供給です。

神戸市の旧港島クリーンセンター敷地内の一角に設けられた発電・ボイラ設備から、近隣のスポーツセンターや市民病院など4施設に、コージェネレーションシステム(Co-Generation System、CGS)として電気と熱(蒸気と高温水)を供給することに成功。スポーツセンターでは高温水が温水プール用に、市民病院では蒸気が医療器具の滅菌用に使われました。供給されたエネルギーは、電気が約1,100kW、熱が約600kW(最大2,800kWまで可能)でした。

ちなみに、このコージェネレーションシステム(CGS)は水素を燃焼させてガスタービンを回して発電。さらにガスタービンからの高熱の排気ガスで蒸気を作り、これを熱として周辺施設に供給するという仕組みになっています。


水素ガスタービン発電の仕組みを活用し、市街地におけるガスタービンによる純水素を燃料とした熱と電気を同時供給する実証実験では、電気を配線網に供給するとともに、写真の神戸市ポートアイランドスポーツセンターの温水プールなどに熱を供給している
水素ガスタービン発電の仕組みを活用し、市街地におけるガスタービンによる純水素を燃料とした熱と電気を同時供給する実証実験では、電気を配線網に供給するとともに、写真の神戸市ポートアイランドスポーツセンターの温水プールなどに熱を供給している


発電効率が高い「ドライ燃焼方式」水素用燃焼器の開発と、コージェネレーションシステム(CGS)の活用

実証実験は成功しましたが、その一方で課題も見つかりました。それが「水を噴射すると少しだけ燃費が悪くなる」という課題です。その課題を解決するために川崎重工が新たに開発したのが、「水素専焼ドライ低NOx燃焼技術」というガスタービン発電の手法です。

ドライ燃焼方式は、水噴射方式に比べて発電効率が高い一方、燃焼速度が速い天然ガスよりも7倍速い水素燃焼において、火炎の逆流(逆火)を抑えながらいかに燃焼を安定させるかが課題でした。

そこで、川崎重工が考えたのが、微小な水素火炎を用いた燃焼技術「マイクロミックス燃焼」を使用した、ドライ低NOx水素専焼ガスタービンでした。

「シャープペンシルの芯が通るほどの小さなノズルから燃料を小分けにして噴出し、マイクロな炎で燃やしきる。そのことからマイクロミックスと呼んでいます。この燃焼器であれば、水を噴射せずにNOx生成を抑えつつ水素100%で燃焼させることができます」(西村氏)


ウェット方式水素燃焼(左)から、ドライ方式水素専焼燃焼(右)に変更し、現在実証実験を行なっている
ウェット方式水素燃焼(左)から、ドライ方式水素専焼燃焼(右)に変更し、現在実証実験を行なっている


2020年5月から、NEDO助成事業「ドライ低NOx水素専焼ガスタービン技術開発・実証事業」として、水素コージェネレーションシステム(CGS)実証設備にて、この燃焼器を搭載したエンジンの実証運転を開始。水素専焼ドライ低NOx発電に世界で初めて成功しています。

この水素ガスタービンと排熱回収ボイラを組み合わせたコージェネレーションシステム(CGS)からは、約1,100kWの電⼒と、約2,800kWの熱エネルギーを蒸気または温水にて周辺の公共施設へ供給することができます。

また、川崎重工と大林組はガスタービンの技術実証と併せて、燃料となる「水素」と地域コミュニティーの近隣施設で利用する「熱」と「電気」を総合管理し、経済性や環境性の観点から最適制御するための統合型エネルギーマネジメントシステムの実証も実施しています。

「開発した水素燃焼技術ならびに水素燃焼ガスタービンにより、水素を天然ガスと同様にガスタービンの燃料として使用することが可能になると、将来の水素社会および脱炭素社会の実現に大きく貢献できるはずです」(西村氏)

今後もコージェネレーションシステム(CGS)の運用を通して、ドライ燃焼方式による水素発電の安定運用や発電効率、環境負荷低減効果などの性能を検証していく予定とのことです。

「太陽光発電や風力発電といった天候に左右される再生可能エネルギーとは異なり、水素であれば石炭や石油の発電所のように出力を自由に調整できるため、安定した電力供給が可能になります」(西村氏)


水素の製造から運搬、貯蔵、活用までのサプライチェーンの構築に向けて

川崎重工が開発した液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」はまもなく運行を開始する(提供:COフリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA))

 

 

日本は2021年4月22日、23日にかけてオンライン形式で開催された「気候変動サミット」で、菅義偉首相が2030年度の温室効果ガス削減目標を現行の「13年度比26%減」から「同46%減」に大幅に引き上げる方針を表明しています。

温室効果ガス削減の目標数値は年々引き上げられていることから、CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)が取り組む水素サプライチェーン構築にかかる期待も大きくなっています。

水素を「つくる」「はこぶ・ためる」「つかう」という一気通貫のサプライチェーンの構築に向け、各フェーズで実証運用を進めている川崎重工。すでに一定の成果も出ており、今後は2030年の商用化に向けて、さらに開発を進めていきます。

世界各国が「水素戦略」を発表し、水素の活用に向けた取り組みを推し進めていく中、日本は急速に拡大する水素市場でリーダーシップを発揮できるのでしょうか。「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けて、残された時間は多くありません。今後の展開にも注目したいところです。

文/新國翔大
写真/嶺竜一


▽脱炭素社会に向けた水素エネルギーの活用

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