人工流れ星の宇宙空間への放出技術と安全性の取り組み~人工流れ星実現を通じた宇宙ビジネス事例(前編)

INTERVIEW

株式会社ALE
チーフエンジニア
蒲池 康

人工流れ星は、宇宙空間にある直径1mmから数cm程度のチリの粒が地球の大気圏に突入、衝突して気化し、大気の成分と混ざり合って光を放つ現象である流星を人工的に再現するものです。太古の昔より人々を魅了するこの流星群が、決まった日にち、決まった場所に降らせることができたらどうでしょうか。今回は、この人工流れ星で宇宙ビジネスに参入しようとしている株式会社ALEのチーフエンジニア蒲池康氏に、同社が取り組んでいる人工流れ星の宇宙空間への放出技術や安全性の取り組みについてお話を伺いました。

これまで各国政府や機関が主導してきた宇宙開発ですが、技術革新が進み、市場も広がったことで、世界的に民間企業が多く参入し、日本でもいわゆる「宇宙活動法(人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律、平成28年法律第76号)」と「衛星リモセン法(衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律、平成28 年法律第77号)」という宇宙二法の成立を受け、新たな産業創出へ動き始めています。宇宙産業への民間企業参入にはさまざまなケースがありますが、株式会社ALE(東京都港区)は創業者でCEOである岡島礼奈(おかじま・れな)氏の夢である「人工流れ星」を実現しようというスタートアップ企業です。そこで、同社のキーテクノロジーである人工流れ星、そしてスペースデブリ(宇宙ゴミ)という問題解決のための技術について、同社チーフエンジニアである蒲池康(かまち・こう)氏にお話をうかがいました。

人工流れ星サービスとは

──── 御社が起業した理由をお聞かせください。

蒲池(以下略):
これは弊社CEOの岡島から聞いた話ですが、岡島が東大で天文学を勉強していた頃、天文学をはじめとした基礎科学には素晴らしい研究がたくさんあるのに、公的資金に頼らざるを得ず、またその獲得が大変なことがボトルネックになっていて科学発展がしにくくなっている点に問題意識を抱いていたそうです。そして、岡島が千葉の牧場でしし座流星群を見たとき、これを人工で再現できたら見たい人がたくさんいるんじゃないかという体験があって人工流れ星の発想を思いついたと言います。

人工流れ星を実現させるには、サイエンスや技術がなければ成立できませんが、もし実現できれば、天文学をはじめとした科学技術とビジネスを結びつけることができるのではないかと考え、弊社を立ち上げたというわけです。


──── 人工流れ星には需要があるということでしょうか。

人工流れ星がビジネスとして成立できるかどうかといえば、実際、世界中から問い合わせがきていますので、実現さえすれば見たいという人はたくさんいると考えています。


──── 人工流れ星はどのようなサービスになりますか。

実際に人工流れ星を降らせる場合、いろんなパターンが考えられます。何月何日、地球上のどこどこに人工流れ星を降らせてほしいというリクエストに応えることも可能ですし、アミューズメントパークなどに毎晩、決まった時間に人工流れ星を降らせることも可能です。数か月前から大きなイベントが催されることがわかっていれば、人工衛星の軌道をそこへもってくることはできます。


──── いつでもどこでも人工流れ星を降らせることができますか。

人工衛星は1日に地球の周りを15周くらい回ります。回る場所は同じではなく、3,000kmくらい離れた場所の上空を通過します。2023年に打ち上げ予定の3号機が1台あれば、地球上ほぼどこにでも人工流れ星を降らせることは可能ですが、より細かく場所を指定するためには、人工衛星の高度を制御し、周回する位相を微調整しなければなりません。

そうした制御の準備に数週間から数か月必要になります。ですから、人工流れ星を降らせるための人工衛星が通り過ぎる時間や場所はあらかじめ決めておかなければならないので、例えば、大リーグの大谷翔平選手がホームランを打ったときに合わせて降らせるようなことは技術的に難しいと思います。

株式会社ALE チーフエンジニア 蒲池康(かまち・こう)氏。
千葉県出身。早稲田大学大学院理工学研究院物質開発工学専攻修了。その後キヤノン株式会社入社。プラズマ処理やイオンビーム加工、電子線改質、3Dプリンター開発のプロジェクトリーダーを務める。2016年、ALEに入社。ALEではチーフエンジニアとして、人工流れ星を正確に明るく光らせる研究開発、流れ星の軌道解析や発光強度計算、人工衛星の設計、システム安全設計、次世代技術の研究開発など技術開発全般を担当している。
株式会社ALE チーフエンジニア 蒲池康(かまち・こう)氏。
千葉県出身。早稲田大学大学院理工学研究院物質開発工学専攻修了。その後キヤノン株式会社入社。プラズマ処理やイオンビーム加工、電子線改質、3Dプリンター開発のプロジェクトリーダーを務める。2016年、ALEに入社。ALEではチーフエンジニアとして、人工流れ星を正確に明るく光らせる研究開発、流れ星の軌道解析や発光強度計算、人工衛星の設計、システム安全設計、次世代技術の研究開発など技術開発全般を担当している。


流れ星の素(粒)放出装置と人工衛星の開発

──── 2019年1月に人工流れ星のための1号機を打ち上げましたが、1号機は現在、どのような状況でしょうか。

1号機は現在、高度を下げるための過程にあります。2019年1月に高度500kmの軌道へ投入しましたが、高度が国際宇宙ステーションへの影響がなくなる400km程度まで下がれば流星源の放出が可能になる予定です。しかし、太陽活動が穏やかなため、予定よりも高度はまだ高いままです。1号機を稼働させて人工流れ星を降らせるための高度400kmまで下がってくるのは数年先と考えているので、現在、急ぎ2023年に打ち上げる予定の3号機の開発を進めているところです。


──── 2019年12月に打ち上げた2号機には動作不良が起きて人工流れ星が実現できなかったということですが、その原因は何だったのでしょうか。

2号機には多種多様なセンサーを搭載していますから、軌道上でそれらを使った実験を行ない原因を探ったところ、動作不良の原因は宇宙空間の真空の影響だったと考えています。人工流れ星のタネのような特殊な材料の粒があるんですが、この粒を宇宙空間へ放出し、それが流れ星になるわけです。

この粒が搬送される経路が故障しやすい箇所なんです。複数の粒が連なって搬送されるので、私たちがジャムと呼ぶ「粒が中で引っかかってしまう現象」が起こると、放出が不可能となります。2号機ではこのジャムが起きてしまったというわけです。


──── 宇宙空間で人工流れ星を放出する技術はかなり難しいのでしょうか。

放出装置ついては、打ち上げ前はもちろん、打ち上げ中、実際に放出するまでの間に絶対に作動してはいけない装置です。人工流れ星の粒が不意にコントロールなしに放出されてしまうとロケットや人工衛星を破壊してしまうためです。

そのため、運用開始までの間に、複数のロックを外すためのいろいろな動作を行わなければ、最初の放出ができないように作ってあります。例えば、粒が搬送される経路は最初は空にしておいて、まずは地上からのコマンドによりこの経路内に粒を充填する必要があります。今回はこの充填動作の中でジャムによる動作不良が起きてしまいました。


──── 1号機の開発期間はどのくらいでしたか。

JAXAのイプシロンロケットに相乗りさせてもらうので、打ち上げ時期は自分で選ぶことはできません。1号機の開発期間はゼロから始めて約2年で打ち上げましたが、プロトタイプを約1年で作って審査を通し、審査の試験が通ったらフライト品というプロトタイプのコピーを打ち上げます。実質、1年もない中で1号機をゼロから作ったわけで、日程的に厳しい部分もありましたし、最初の開発メンバーは私一人、その後もう一人加わって3〜4か月は2人でやっていたという状況でした。


──── 人工流れ星の技術はこれまでにないものだったんですね。

そうです。まだ誰もやったことのない、人工衛星搭載型の放出装置を短期間の開発で成功させようとしていたというのは、技術的にとてもチャレンジングなことだったと思います。また人工衛星を打ち上げるには、JAXAによる宇宙関連技術ならではの厳しい安全審査がありますが、特に世界で初めてのことをやろうとすれば、審査に向けた技術的に安全であることを証明するためのエビデンス取得や資料づくりが開発のほとんどを占めるような状態でした。

2019年1月18日、JAXAのイプシロン4号機ロケットに搭載された同社の人工衛星ALE-1(提供:株式会社ALE)
2019年1月18日、JAXAのイプシロン4号機ロケットに搭載された同社の人工衛星ALE-1(提供:株式会社ALE)


宇宙へ放出された10cm以下の物体はレーダーなどで観測することが難しい

──── 宇宙空間で人工衛星からなにかを放出することはこれまであったんでしょうか。

宇宙空間で物体を放出するという過去の事例としては、NASAが上空でロケットから釘のようなものを放出して電波の反射を観測したことがあったと思います。また、高層大気を観測するために弾道ロケットからカプセルを放出した実験も何度か行なわれているようです。ただ、人工衛星から小さな物体を放出することは過去にないようです。


──── 宇宙のゴミである宇宙デブリを増やすことにつながりませんか。

そうですね。そもそも人工衛星からなにかを放出することは宇宙デブリを増やすことにつながるため、ご法度でした。例外として国際宇宙ステーションから小型の人工衛星を放出することはあります。これは10cm以上の物体なら地上からレーダーで位置情報を得ることができるから問題ないとされています。しかし、我々の人工流れ星の粒は直径1cmほどなので、レーダーなどで観測することができません。


──── 人工流れ星は、それまでなら宇宙空間に出せないサイズの物体だったんですね。

そうです。そのため、人工衛星から10cm以下の物体を放出することに対する安全審査をJAXAでやっていただいたんですが、宇宙空間の人工衛星から宇宙デブリにならずに物体を放出することをどう認めてもらうのか、そして装置の機構の安全性はもちろん、そもそもルールがないのでルール作りから始めなければなりませんでした。

人工流れ星の粒。同社が開発した材料で作られているそうです(提供:株式会社ALE)
人工流れ星の粒。同社が開発した材料で作られているそうです(提供:株式会社ALE)


「人工衛星から物体を出す機構」に関する厳しい安全審査

──── 安全性についてはどうでしたか。

放出した物体が、人が搭乗している国際宇宙ステーションはもちろん、ほかの衛星にぶつからないためにどうするかを考えなければならなかったのです。1号機、2号機の開発では、ほとんどのエネルギーを安全審査を通すために費やしたと言っていいと思います。

安全審査ですからフェイルセーフ(Fail Safe)が何重にもかかっていて、そうしたハードルをクリアしなければ人工衛星から物体を出す機構にさえたどりつけませんでした。そうしたフェイルセーフのロックの一つでも外れなければ、ミッションは成功しません。そのため、1号機、2号機では放出装置の動作検証にほとんど時間をかけられなかったという状況でした。


──── 安全性を担保するために最も大変だったのはどのあたりですか。

最も重要視したのは、宇宙飛行士が滞在する国際宇宙ステーションに絶対に当てないような人工流れ星にすることです。放出した物体が大気突入せずに宇宙空間を漂えば、いずれどこかにぶつかるかもしれません。ですから、ドム(DOM、De-Orbit Mechanism、膜展開式軌道離脱装置)という大気抵抗を使った装置によって国際宇宙ステーションの軌道よりも下げるんです。

ただ、軌道を下げて人工流れ星を下方向へ放出しても、地球に落ちずに粒が軌道を周回し始めたら、それもまた国際宇宙ステーションにぶつかってしまうかもしれません。そのため、放出する位置や方向を計算し、国際宇宙ステーションに衝突する確率を10のマイナス12乗以下という天文学的に低い確率に下げるための運用計画を立てました。


──── 人工流れ星は地上には到達しないんでしょうか。

人工流れ星は、人工衛星から流れ星の素となる約1㎝ほどの大きさの粒を放出しますが、高度約80kmまで来ると高温になって発光しながら流れ星になります。そして高度約60kmで融点を超えて完全に消滅するので地上に落ちたり、宇宙空間でゴミとなることはありません。これはコンピュータ・シミュレーションや大気突入を再現した実験によっても実証済みになっています。


──── 安全審査は順調にクリアできたのでしょうか。

人工流れ星が国際宇宙ステーションやほかの衛星に当らないか、もしくは地上まで降ってこないというようなことをどうやって証明するのか、やってみなければわからない初めての技術の安全性をどう担保するのかはとても難しいことでした。当初、JAXAの安全審査がこれほど厳しいとは予想できなかったんですが、1cmほどの小さな粒が当たる可能性は少ない、そして地上へ落ちてくるはずはないといくら言っても理論で証明できなければ納得してもらえません。

JAXAはやはりサイエンスの組織なので、科学的な裏付けや確固とした根拠がなければ通用しないんです。数万、数十万の数の宇宙デブリでさえ、衝突することはまれなわけで、数百個の1cmほどの粒がほかの人工衛星に衝突する確率はそれこそ天文学的に低いんですが、それでは天文学的に低い確率の定義を述べ、なぜその確率で安全なのか根拠を示せというわけです。

例えば、人工流れ星の粒がほかの人工衛星に当たる確率はいくらで、その確率以下にするためにはこれこれこういう技術的な対処をしているので安全ですというように示すわけです。またJAXAからは、こうした理論、検証、根拠を世界にも発信し、人工流れ星の技術を認めてもらわなければならないというご指導もいただきました。


──── 3号機は2023年に打ち上げる予定ということですが人工流れ星は実現可能ですか。

宇宙へ打ち上げるロケットや人工衛星は、最後の最後はやってみないとわからない部分は多少あります。ですが失敗した2号機を実証実験の一つととらえ、その経験をもとに3号機では確実に成功させるように開発しています。課題の残る技術部分、重要な部分について、エンジニアリングモデルという3号機のプロトタイプを2021年中に完成させられる見込みになっています。

また、人工衛星をまるごと入れられる大型の真空チャンバーを導入し、真空環境での地上実験も始まっています。3号機は技術実証だけでなく、そのまま事業に使うことを想定しているので、長期間の信頼製や耐久性、軌道制御の安定性がこれまでの人工衛星とは違います。このあたりを担保するために綿密な検証を行なおうと考えています。


──── 安全審査のほうはいかがでしょうか。

1号機、2号機の頃からメンバーもJAXA出身者を含めて10人以上増えていますし、ミッションの安全性については既に各国の宇宙開発機関から信頼が得られています。ですので、1号機、2号機で成功した技術はあまり変更せず、リスクのある部分だけ改良していく方向でやっています。元JAXAのメンバーが加わったことで、JAXAがこれまで蓄積してきた知見、評価の方法などを取り入れることができました。3号機については盤石な体制でかなり自信はあります。

人工流れ星から蓄積される大気圏突入データの利活用

──── 人工流れ星の技術応用はどうでしょうか。

弊社では宇宙の課題解決のための技術開発を目指しています。例えば、人工衛星は時間が経つといずれ地球へ落ちてきますが、どこに落ちてくるかわかりません。「はやぶさ1号機」の大気突入は計算されていますが、これはとても貴重なデータなんです。

人工流れ星は形や軌道などがわかっていて大気突入させますが、これまでこうした実験はほとんどされていませんし、データもありませんでした。人工流れ星の粒はこうしたデータをたくさん集めることができますし、粒の素材を変えることでバリエーションのあるデータになります。中層大気でのこうしたデータがたくさん集められれば、宇宙デブリの再突入などの現象もわかってくるでしょう。また、宇宙デブリの大きさで、燃え尽きるサイズがわかってくると思いますし、落ちてくる場所の特定にもつながると思っています。

大型の真空チャンバー(提供:株式会社ALE)
大型の真空チャンバー(提供:株式会社ALE)


──── 人工流れ星から得られるデータが貴重なんですね。

人工流れ星が大気突入する際のデータを利用すれば、有人宇宙飛行のロケットの大気突入の安全についても利用できるのではないかと思います。燃え尽きない材料などありません。燃え尽きない大きさ、厚さなどが重要で、中層大気の分子やガスとどのような反応がするのか、まだよくわかっていないことが多いんです。

宇宙はガス分子が希薄ですが、中間圏に入った途端、粘性流領域という層が現れ、その境界領域で物理の方程式が変わるんです。その変わる境界領域近傍で燃え尽きるので、どのように加熱されるのか、どのように燃え尽きるのかというデータが詳しく把握できていません。そのため、スペースシャトルのようなこれまでの有人宇宙飛行のロケットの場合、安全のために十分なマージンをとって設計していたんです。

しかし今後、低コスト化のために打ち上げロケットの再使用が一般的になっていくと考えられますから、どういう材料、どういう形状が最適なのかという研究が盛んになっていくでしょう。そのときに大気突入データがたくさんあれば、設計の効率化に貢献できると思います。

蒲池氏のお話からは、エンターテインメントだけではない人工流れ星の放出技術や大気圏突入データの奥深さが垣間見えました。
次回は宇宙デブリという問題解決に同社がどうチャレンジしているのかについてのお話をご紹介します。

文/石田雅彦

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)