半導体の低コスト技術。プラットフォーム化で実現したシステムLSIの低コスト化〜半導体入門講座(25)

半導体において低コスト技術の開発が一つの重要テーマになっていた米国と比べ、日本は相変わらず先端技術の開発に重きが置かれていました。低コスト化に注目すると、半導体メモリのような大量生産品は設備投資を続け生産能力を上げるという製造にて対応が行われてきましたが、システムLSIのような少量多品種へ移行すると設計と製造の両面からアプローチが必要となっています。今回は、米国と日本の意識の違いを注目しつつ、プラットフォーム化により実現したシステムLSIの低コスト化を解説します。

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これまで、大量生産は安いが少量多品種は高い、が常識だった。しかし少量多品種時代に入る以上、少量多品種製品をいかに安く作るかが問われるようになっていった。それまでの、少量多品種は高いから仕方がない、という考えでは低コストで作ることはできない。米国では、低コスト技術の開発が一つの重要テーマになっていたのに対して、日本は相変わらず先端技術の開発に重きが置かれていた。最近では、少量多品種を安く作るための技術がデジタルトランスフォーメーション(DX)だという業界筋の意見もある。

メモリのような大量製品は、ひたすら量産効果を追いかける。そのために設備投資を続けて生産能力をいかに上げるか、がコストを下げる鍵だった。かつての日本の半導体はDRAMで世界を制覇したため、多大な設備投資=生産能力を上げること、に邁進していた。しかし、韓国Samsung社と米国Micron社に敗れ、DRAMを諦めシステムLSIに切り替えたのにもかかわらず、少量多品種に対応できなかった。米国ではいち早くファブレス化を進め、少量多品種のシステムLSIに対応できた。以前紹介したように、ファブレスだと生産数量を考えなくてもすむようになったからだ。


半導体製造の「低コスト技術」における米国と日本の意識の違い

米国でも大手のIntel社やTexas Instruments社(以下TI社)などの大手IDM(Integrated Device Manufacturer、垂直統合型デバイスメーカー)は、コスト意識がたいへん強かった。そして、簡単に値下げはしなかった。半導体ICの価値をセールスパーソンに植え付けるようにしたからだ。採算割れで売ることはしなかった。特にIntel社のマイクロプロセッサは、サンプル価格は数万円、量産価格でも数千円(米国では平均単価は40ドルといわれていた)と高価であった。これに対して日本が得意としていたDRAM単価は1〜2ドルしかなかった。

また、米国では研究開発のコンソーシアムSEMATECH(SEmiconductor MAnufacturing TECHnology)を当初、国家プロジェクトとして組織化したがうまくいかず、民間主導のInternational SEMATECHになって低コスト技術をテーマに入れるようになった。International SEMATECHには韓国のSamsung社のような外国企業もメンバーに加わっており、米国だけの組織ではなかった。そのうち、Internationalは当たり前になり、SEMATECHだけの名前に戻った。システムLSIのような少量多品種の製品を安く作るためには、設計と製造の両面からアプローチしていかなければならない。

これに対して日本のICは、簡単に値下げされた。また歩留まりが上がらない時期では、このことを理由に値下げを抑えたが、歩留まりが上がればすぐに値下げされてきた。ICの価値を議論することが少なかった。加えて、コストを抑えて利益を上げる、という意識が薄かった。コストを抑えて安く売る、という日本の常識に囚われすぎていたためだ。低コスト技術の開発=安売り競争、という図式を持つ半導体経営者さえいた。


半導体設計の低コスト化を実現した基本回路の「標準化」

設計面では、狙うべきシステムに合わせて標準的なプラットフォームともいうべきチップアーキテクチャを生み出し、それを2〜3世代続けて、IP(Intellectual Property、知的財産)などの基本回路をできるだけ流用するような手法を採った。ゼロから作り直すのでは設計コストがかかりすぎるからだ。業界では半導体上の価値ある回路のことをIPとも呼ぶが、IPをできる限り再利用できる形に整えて保存しておくことが、次に使う時のコストや手間(作業時間)を考えると望ましい。

さらに、入出力回路などはできるだけ標準化する努力を尽くしてきた。標準化はデファクトスタンダードを採って世界で勝つための道具ではなく、共通回路をできるだけ標準化して、入出力回路のように各社が共通化しておけば、各社いろいろなICとつなげられるようになる。もちろん、自社のICをたくさん使ってもらえるようにもなる。アナログ時代のビデオ規格β方式とVHS方式の争いようなVTR時代でのデファクトスタンダードとはまったく違ってきていた。

デジタル時代になっても日本企業や霞が関は残念ながら標準化意識にも乏しかった。つい12年前まで、霞が関は日本発の標準化回路や方式を世界に提案することを目標として掲げていた。標準化はデジタル時代にはみんなで議論して決めていく技術である。例えば最先端の5G通信規格は3GPP(The Third Generation Partnership Project)という欧州を中心とする団体が決めるため、この団体に参加しなければ標準規格の仕様をいち早く知ることができない。

LSIの設計ツール(EDA)でも出力形式の微妙な違いがあるため、これも標準化して決めようとしてきた。標準化案を決める時、EDAベンダーのトップ3社が話し合いの場を2週間程度ごとに持ち、それをIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers、電気・情報工学分野の学術研究団体、技術標準化機関)に提案して決めるため、すぐ決まる。IEEEで決める場合は会合が半年に1回程度しか持たれないため、標準化に時間がかかってしまう。このため大手3社が中心となって別組織として標準化案の策定会合を持ち、最終的にIEEEで議論するという形をとっている。

低コスト技術は、安く売るための技術ではなく、安く作り高く売り、利益を生み出すための技術であった。利益が潤沢にあれば次の技術開発に十分投資できるからだ。このため米国を取材するたびに、一にも二にもコスト、コストと言われた。例えば、TI社がテキサス州リチャードソンに300mmウェーハ工場を建設する場合でさえ、できるだけコストを減らすことを我々取材陣にも伝えた。日本企業は、売り上げ至上主義から利益重視へと経営を転換した2010年以降になってようやく低コスト技術の重要性を認識するようになった。


システムLSIの低コスト化を実現した少量多品種製品の「プラットフォーム化」

画像処理用LSIを開発、提供するベンチャー企業(スタートアップ)を10年ほど前に取材したことがある。Ambarella(アンバレラ)と呼ぶその企業は、わずか350名しかいないベンチャーで、とても大手と戦えるほどの体力はなかった。しかし、わずかな人員であるのにもかかわらず、新製品チップを創業後6年で8品種も市場に出していた。

画像処理プロセッサやアプリケーションプロセッサのようなシステムLSIは一般に、設計から商品化までに大手企業でさえ、3〜4年はかかる。にもかかわらず、このスタートアップが次々と新製品を投入できるという秘密はなにか。

ここにも低コスト技術としてLSIのプラットフォーム化がある。スタートアップである以上、コストを抑えて運営しなければならない。このスタートアップは、画像圧縮して少ないメモリで画像を通信で送ることのできるようなチップを開発している。例えばヘルメットの横にカメラを装着して、自転車やスキー、スノーボードなどの走行を体験できるような映像を撮影しYouTubeなどに送るというシステムLSIでは、基本機能として画像圧縮・伸長(コーデック)やWi-Fiなどを搭載するため、その仕組みをプラットフォーム回路とする。最初の製品を第1世代とすると、第2世代ではメモリを増強したり、カメラの2台分を搭載したり、第3世代では新しい圧縮方式を採用する、など次々と新製品を生み出していく。

この画像処理LSIでは、制御用のCPUコアにコーデック用(MPEGとH.264)のビデオDSP(Digital Signal Processor、デジタル信号処理)と画像修正や拡大・縮小、OSD(On-Screen Display)などの処理を受け持つ画像DSPを中心として、周辺回路やI/Oインターフェイスを備えている。この基本回路ブロックを変えずに、第2世代、第3世代製品では周辺回路を改良したり、新要求に合わせたりすることで対応する。このためチップ面積はほとんど変えない。チップの集積密度を上げて面積を小さくするために、レイアウト設計をやり直すことは基本的にしない。無理にチップをレイアウトし直して時間もコストもかかるのなら、かえってコスト高になるからだ。しかも数量が数十万個/月しかない少量多品種の製品だからである。

もちろん、新しい圧縮方式、例えばH.265の規格が決まったら、ビデオDSPコーデック部分を設計し直すが、できるだけ既存の回路を踏襲することでコストアップを避ける。


プラットフォームにおいて拡張性を持たせるアーキテクチャの考え方

上記の例に見る基本回路をプラットフォームと呼び、これもコストを抑える技術である。プラットフォーム化の本質は、多数の顧客を回って最大公約数的な考えで基本構造を構築したらできる限り、その構造を踏襲することだ。数年は同じプラットフォームで設計するため、基本構造を作る場合にはできるだけ拡張性を持たせる考えも必要である。そのためには、可能な限り多くの顧客の意見を聞き、それらを集約して共通項をまとめ基本機能を作り、拡張性を持たせる部分も想定しておくというアーキテクチャの考え方が必要となる。

基本的なプラットフォームの考え方は、スマホの開発にもみられる。例えば、Samsung社はさまざまな種類のスマートフォンを数か月ごとに市場に出してきたが、ここでも同様の考え方を採用している。スマホの頭脳となるアプリケーションプロセッサ(APU)を開発するのに必要な期間はやはり3〜4年かかるため、一つのプロセッサを開発すれば、当分はそれで新機能を追加していかなければならない。

プロセッサはCPUと同様、アプリケーションソフトウエア(アプリ)を追加することである程度は機能拡張できるが、ソフトだけで性能が劣る場合には、やはりハードウエアを開発せざるを得ない。そこで、追加機能の開発に、小型のFPGA(Field Programmable Gate Array)を使うのである。CPUを内蔵したAPUはそのままだが、高速の機能を追加したい場合には、小型のFPGAにその機能を追加するのである。FPGAは機能の追加分しか持たないため、短期間でスマホを開発できるし、APUで制御できることも確認できる。つまり、ここでのプラットフォームは、APUとなる。

システムLSIは、さまざまな回路ブロックを集積し、それを28nm、14nm、7nmへと微細化していくたびに、実際に製造して性能を確認する必要がある。これはファウンドリ側の役割だが、ファブレス半導体側でも、微細化前のIPが微細化後のIPと等価であり、しかも性能が高いことを確認できたら、それを別なシステムLSIチップにも使えるように再利用できるように、フォーマットを揃えておく必要がある。



著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。

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