物流倉庫の省人化!クラウドコンピューティングによるAMR(自律走行搬送ロボット)でピッキング作業の歩行時間を大幅に削減~人とロボットの協働による人手不足の解消へ

INTERVIEW

ラピュタロボティクス株式会社
執行役員 森 亮

ネットショップなどのEC市場は右肩上がりで拡大を続けていますが、物流業界は倉庫内で商品をピッキング・梱包する作業に従事する人材の不足に悩んでいます。そこで、ピッキング作業の自動化が注目されていますが、この作業はコンピューターとロボットで行うには難易度が高く、自動化は進んできませんでした。今回は、作業の一部をロボットが補助する形で省人化を目指しているラピュタロボティクス株式会社に、同社が開発しているクラウドコンピューティングによるAMR(自律走行搬送ロボット)が、どのようにピッキング作業を省人化しているかお話を伺いました。

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EC(Electronic Commerce、電子商取引)市場の拡大により、物流に大きな変化が起きています。従来、店舗まで箱単位で商品を届け、店舗で店員さんが開封して店頭に並べていましたが、ECでは、倉庫内で商品を在庫し、個人の注文に対して商品をピッキングし、仕分けし、個別の段ボールに梱包して発送します。このピッキング〜梱包作業が年々増加しているのです。

この作業に従事する人材の需要が高まる一方で、人手不足に悩んでいます。その解決策として注目されているのが、ピッキング作業の自動化による省人化・効率化です。これまで、パレット単位や箱単位での仕分け・出荷作業などの自動化は進んできましたが、個々の商品を一つずつ棚から集めて一つの箱に詰めるピッキング〜梱包の作業はコンピューターとロボットで行うには難易度が高く、自動化は進んできませんでした。そこで、完全自動化を目指すのではなく、作業の一部をロボットが補助する形での自動化・省力化システムの開発・導入が進められています。

Amazonを筆頭に多くの企業がピッキング作業の自動化に舵を切っており、世界の物流ロボット市場は、2018年の43億5,620万米ドルから、2027年には202億9,340万ドルにまで拡大するという調査(The Insight Partners調べ)もあります。ピッキング作業の自動化・省力化システムにはいくつかのパターンがありますが、そのうち、AMR(Autonomous Mobile Robot、自律走行搬送ロボット)と言われるシステムで物流の省力化に取り組んでいるのが、ラピュタロボティクス株式会社です。

同社のロボットソリューション「ラピュタAMR」はすでに日本通運株式会社や佐川グローバルロジスティクス株式会社(SGL)といった国内大手企業の倉庫に導入されており、生産性を2倍に引き上げるなどの高い成果を出しています。ラピュタロボティクス執行役員の森亮(もり・りょう)氏に話を聞きました。


ピッキング作業の自動化・省人化システム、「GTP」と「AMR」

人の手によるピッキング作業では、ピッカー(ピッキングスタッフ)が注文伝票を見て、カートを押して商品の棚を探し、商品をピックアップして、注文分をすべて集めると、仕分けする場所に持っていき、仕分けスタッフに商品を渡します。

ピッキングスタッフはこの作業の効率を上げるために、伝票を見て、歩行ルートを短くしようと頭で考えて動きます。また、広い倉庫内を早いスピードで歩き回るので、体力のいる仕事です。脳にも肉体にも負担がかかる仕事と言えるでしょう。この作業にコンピューターとロボットを導入し、半自動化することで効率を高めるシステムを、ここでは2つ紹介します。

GTP(Goods To Person、棚搬送型ロボット)

そのうちの1つは、GTP(Goods To Person、棚搬送型ロボット)というものです。このシステムでは、倉庫内の商品が置かれている棚の下に自律可動式のロボットが潜り込み、棚を持ち上げて運ぶ仕組みになっています。注文伝票に対して、人が倉庫内を歩いて棚まで商品を取りに行くのではなく、梱包ステーションまで棚がやってきます。棚が列を作ってピッカーの前に並びます。ピッカーは棚から商品を取って箱に詰めるだけです。GTPは非常に先進的なシステムであり、省人化が進んだシステムと言えます。GTPで有名なのは世界各国のAmazonの倉庫に同システムを導入しているAmazon Robotics社で、2016年に新設された日本のAmazon Japanの倉庫でも導入されています。

ただし、GTPの導入はハードルがあります。まず、従来の棚が使えません。システムも大掛かりです。省人化としての効果は高いですが、棚がまるごと移動できる経路を設けるなど、大規模な倉庫を一から設計する必要があり、自動化を導入するためのコストが高いのが特徴です。そのため、新規に建設する倉庫では導入しやすいのですが、既存の倉庫に導入するのは少々難しいと言えます。

AMR(Autonomous Mobile Robot、自律走行搬送ロボット)

もう1つのシステムが、AMR(Autonomous Mobile Robot、自律走行搬送ロボット)です。これは、既存の倉庫と同じく、固定の棚が並んだ倉庫の中を、人と自律走行搬送ロボットが動き回り、人とロボットが協力してピッキング作業を行う仕組みです。

ロボットとの協働により、ピッキング作業時間の約6割を占める「歩行時間」は大幅に削減

ここで、ラピュタロボティクス社が提供しているラピュタAMRの仕組みを説明しましょう。

棚が並んだ倉庫の中を人が歩いて商品をピックアップしてカートに入れていく点は従来通りなのですが、ピッカーは、伝票を持っておらず、カートも押していません。手ぶらです。その間を、コンテナを積んだ自律走行搬送ロボットが走り回っています。ロボットは次に積むべき商品の棚の前で停止します。ロボットにはモニターが付いています。ピッカーは、停止したロボットのモニターに表示された商品を棚から取り、コンテナに入れます。作業が完了すると、そのロボットのモニターに、次にピッカーが行くべき場所が示されます。

ピッカーはそのロボットと別れ、指示された次の場所に向かいます。するとそこには別のロボットが停止しており、モニターには積んでほしい商品が示されています。ピッカーは指示通りに商品を積み、またそのロボットのモニターの指示に従って次の場所へ移動します。

このようにして、ピッカーは、ロボットの指示に従いながら移動し、棚からカートに積み込む作業だけを行います。ロボットは積み込み作業が終わったら、仕分けを行う場所に行き、仕分けスタッフにカートを取ってもらい、次の伝票に従ってまた倉庫に戻ります。ロボットの走行ルートも、ピッカーの歩行ルートも、コンピューターによって最も無駄のないルートが選択されています。

「ラピュタAMRによって大きく削減されるのは、ピッカーの歩行時間です。ピッカーは注文伝票と睨めっこしたり、ピッキングする順序を考えたり、棚を探したり、ピッキングが終わったらカートを仕分けの場所に運ぶといった多くの手間から解放されます。カートを押す必要もないので、楽であり、動きが早くなります。ピッキング業務の作業時間のうち、棚と棚、あるいは棚と回収場所を移動する歩行時間は約6割を占めます。この時間を大幅に削減することで、生産性向上と労働環境の改善が同時に実現できるのです」と森氏は話します。

クラウドコンピューティングによって複数のロボットを制御、最適なワークフローを計算

ラピュタロボティクス社には現在、20ヵ国以上から約110名の国際的なメンバーが集まり、東京とインドのバンガロールにて開発を行っている(提供:ラピュタロボティクス株式会社)
ラピュタロボティクス社には現在、20ヵ国以上から約110名の国際的なメンバーが集まり、東京とインドのバンガロールにて開発を行っている(提供:ラピュタロボティクス株式会社)


AMRの中でも、ラピュタAMRの特徴は、最適なワークフローおよび経路の計算と、人に与える指示、ロボットの制御といったコンピューティングを、クラウド上で行う点です。ラピュタAMRは、同社が開発したクラウドロボティクス・プラットフォーム「rapyuta.io」の指示によって動きます。クラウドロボティクスは、ロボット工学とクラウドコンピューティングを統合したことで、大量の計算をデータセンターサーバーで行うことができます。また、ロボットから得られる情報を共有することで、AIが進化することができます。

ロボット同士でも通信を行っています。ロボットのコンピューターには群制御AIが搭載されており、歩行者との衝突や走行中のロボット同士による衝突を回避し、譲り合って行動します。


同社が開発したクラウドロボティクス・プラットフォーム「rapyuta.io」によって制御されるラピュタAMIの仕組み(提供:ラピュタロボティクス株式会社)
同社が開発したクラウドロボティクス・プラットフォーム「rapyuta.io」によって制御されるラピュタAMIの仕組み(提供:ラピュタロボティクス株式会社)


このように、クラウドコンピューティングによって複数のロボットを制御するAMRは、世界的にも非常に珍しいものです。この発想はどこから生まれたのでしょうか。

ラピュタロボティクス社は、スイス連邦チューリッヒ工科大学で、クラウドロボティクスを開発するプロジェクト「RoboEarth」のメンバーを中心に2014年7月に創業しました。創設者のひとりである代表取締役CEOのGajan Mohanarajah(ガジャン・モーハナラージャ)氏は、スリランカ出身で、日本に留学し、久留米工業高等専門学校から東京工業大学に進学して学士号と修士号を取得したのち、チューリッヒ工科大学で修士号を取得しました。ガジャン氏はチューリッヒ工科大学で、ドローンの制御システムのエキスパートであり、米Amazon.comの物流倉庫にGTPを導入したKiva Systems(2012年にAmazonが7億7,500万ドルで買収し、Amazon Robotics社に社名変更)の共同創業者であるRaffaello D'Andrea (ラファエロ・ダンドリーア)教授に師事していました。

つまりGTPの開発者の生徒たちが、AMRを開発したというわけです。GTPは倉庫内をほぼ無人化する画期的なシステムですが、既存の倉庫には導入しにくく、コストも高い。そこで研究室の生徒たちは、既存の倉庫で使えてコストの低い、人とロボットが協業するシステムを作ることを考えたのです。

ただし、ラピュタロボティクス社が開発したクラウドロボティクスシステムであるrapyuta.ioは、AMRに特化したシステムではありません。大規模な施設を監視するためのドローンやその他のロボットの制御も可能にします。同社は現在、ロボティクスを活用したプロダクトを提供する企業(ロボットソリューション会社)にrapyuta.ioを販売しています。

ラピュタロボティクス社は日本とインドに拠点を置いています。日本がロボットで解決すべき課題がたくさんある「課題先進国」であり、日本人がロボットに対して親しみ持っていることから、特に日本にフォーカスしてrapyuta.ioおよびラピュタAMRを開発しています。


AMRの特徴、導入コストの安さと、新しい作業フローに適応するまでの時間を短縮

ラピュタAMRはすでに実際の倉庫業務で活躍しています。佐川グローバルロジスティクス(以下SGL)では、2020年8月に導入されました。SGLでは、将来の人手不足への対策や既存の現場スタッフの作業負荷を軽減する目的でラピュタAMRを導入しています。

「いますぐ数個の出荷処理をしたい」といったイレギュラーな作業では人力で行った方が早いケースもあるそうですが、全体としては導入から約半年で最適化が進み、生産性は導入前と比較して2倍以上にも向上しました。1~2時間ロボットが動かないだけでも現場リーダーが作業ペースの低下を如実に感じるほど、ラピュタAMRはなくてはならない存在になっているそうです。


ラピュタロボティクスショールームにてデモの様子。人と自動走行搬送ロボットが協力してピッキング作業を行うラピュタAMRでは、複数のロボットの指示に従ってピッカーが最適な行動をとることができる。
ラピュタロボティクスショールームにてデモの様子。人と自動走行搬送ロボットが協力してピッキング作業を行うラピュタAMRでは、複数のロボットの指示に従ってピッカーが最適な行動をとることができる。


「GTPと比べた際、AMRの特徴は、既存の倉庫レイアウトを変えずそのまま使えるということです。そのため、導入コストが安いことに加え、稼働中の倉庫を止めることなく自動化を取り入れることができます」と森氏は話します。

また、ラピュタAMRは日本の物流倉庫をメインターゲットに設計されており、日本の倉庫に導入しやすいのも大きな特徴です。ラピュタAMRはコンテナを運べる90cm程度の道幅とWi-Fiを利用できる環境さえあれば、稼働中の倉庫であっても作業をほとんど止めることなく自動化を進めることができます。

まず、バーチャル空間に倉庫のレイアウトを再現。そこで稼働状況をシミュレーションすることで準備完了です。AMRのベンダーは他に海外企業がありますが、日本の倉庫では通路が小さくてロボットを導入しづらい、といったケースもあるようです。また、ラピュタAMRを導入することによって、ピッカーの人数を約半分に減らすことも可能です。

AMRの導入前には2つ検討を行います。一つ目は、ロボットとスタッフをどのような人数比率で組み合わせれば生産効率を高めることができるかのシミュレーション。二つ目は、AMRの導入後にエラーケースも含めてどのように運用を行うのか、という詳細なプランづくりです。

これは「ピッキング途中により優先度が高い製品が登場したときにどのようにフォローするのか」といった、現場で頻繁に発生する事態に対してラピュタAMRがどのように判断するかというだけでなく、現場での対応方法も確認するためのもの。複雑かつ現実的な場面を想定した検討を行い、クリアしたことで、現場リーダーのラピュタAMRへの理解度は大幅に増したそうです。

「これまでに導入したケースでは、もともとのスタッフが10名程度の中規模倉庫が多いとのことですが、今後はより規模の大きい倉庫にも導入していく予定です」(森氏)

ロボットなどを用いた自動化・省力化システムの導入に際して重要なポイントとなるのは、スタッフが新しい作業フローに適応するまでの時間です。レクチャーやトレーニングに時間がかかり、慣れるまで、生産性が落ちる、ミスが増えることは仕方のないことでもあります。しかしラピュタAMRはスタッフが混乱することはほとんどなく、約30分から1時間のトレーニングで協働が可能になるといいます。AMRの導入前には戸惑う声もあったものの、すぐに適応でき、「ロボットと仕事ができて楽しかった」といったポジティブな感想もあったそうです。

「新規のスタッフさんが入ってこられた場合、これまで業務を覚えてもらうための研修に2〜3週間程度かけていましたが、その期間が大幅に短縮されたと聞いています。むしろロボットなしの頃よりも早く仕事に慣れてもらえるのです。こうしたトレーニングのしやすさは、繁忙期に急遽人を雇った際の業務効率に大きく影響しますね」(森氏)


さまざまな規模やロケーションでの活用を目指す

物流業界でのラピュタAMRの活用は、まだ始まったばかり。今後は同規模の倉庫への導入を目指すほか、これまでの導入事例でのフィードバックを踏まえて異なる規模の倉庫での活用を視野に入れているそうです。

「もちろん将来的には海外のクライアントも獲得したいですが、日本の地方にある物流倉庫にも注目しています。これまでは連携のしやすさなどから関東での導入が中心となっていましたが、関西方面等を含めた全国的な展開が進行中です。規模や拠点のロケーションが変われば、また異なった問題を抱えているはず。rapyuta.ioの精度を向上させて、より多くの倉庫の自動化に貢献できればうれしいですね」(森氏)


文/野口直希

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