ドローン飛行のニアミスを回避するため、ドローン同士で直接通信し位置情報を共有~ドローンの安全性と利便性向上のための取り組み

INTERVIEW

情報通信研究機構(NICT)
ワイヤレスシステム研究室
主任研究員 松田 隆志

近年ドローン(無人航空機)の商用化が急速に進められており、ホビードローンだけでなく、農業や林業での植物生育状況の空撮・センシングや、災害時の状況調査、宅配など物流分野などその応用は多岐に渡っています。一方、墜落事故が相次ぐなど安全性については厳しく検討され、飛行条件が厳しく規定されています。今回は、ドローンの安全性を確保するための通信技術を研究している情報通信研究機構(NICT)に、ニアミスを回避するためのドローン間の直接通信技術についてお話を伺いました。

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近年、ドローン(無人航空機)の商用化が急速に進められようとしています。農業や林業では、植物の生育状況を見るための空撮・センシングや、空中散布などの用途に率先して実用化が進められています。その他にも災害時の状況調査や救援物資輸送などへの活用や、宅配など物流分野への応用も検討されています。さらには、人が乗れるドローンの開発も進められています。

便利な世の中を実現してくれそうなドローンですが、新しく登場した技術だけに、社会に適合させるにはさまざまな課題が立ちはだかっています。中でも、墜落事故が相次いだこともあり、安全性については厳しく検討され、飛行条件が厳しく規定されています。

2015年にはドローン規制法(改正航空法)が施行され、ドローンを飛ばせるエリアや条件に制約が設けられました。ただし、本体重量200g未満のホビードローンはこの規制の対象外です。

国土交通省の許可なくドローンを飛ばしてはいけないエリアの条件として、
(A) 空港等の周辺(進入表面等) の上空の空域
(B) 150m以上の高さの空域
(C) 人口集中地区(平成22年の国勢調査の結果による)の上空
の3つが定められています。

また、上記のエリアに該当した上で、飛行のルールとして、次の6つが定められています。

1.日中(日出から日没まで)に飛行させること
2.目視(直接肉眼による)範囲内で無人航空機とその周囲を常時監視して飛行させること
3.人(第三者)又は物件(第三者の建物、自動車など)との間に30m以上の距離を保って飛行させること
4.祭礼、縁日など多数の人が集まる催しの上空で飛行させないこと
5.爆発物など危険物を輸送しないこと
6.無人航空機から物を投下しないこと

このように、現在は厳格にドローン飛行が規制されています。市街地の上空はほぼ飛行させることができず、日中に目に見える範囲でのみ飛行が可能ということなので、活用範囲がかなり限定されているのが現状です。遠隔地への配送や、人が見ていない場所での自動運転などは、現行の法律では不可能です。

今後、ドローンのさらなる有効利用を進めるためには、安全性を担保する新たな技術を搭載して、規制を緩める方向の法改正が検討されることになるでしょう。つまり、安全性を確保する技術の確立が、非常に重要となってくることは間違いありません。では、どのような技術が必要なのでしょうか。

ニアミスを回避するため、GPS送受信機による各機体の正確な位置情報共有が必要

NICT(国立研究開発法人 情報通信研究機構)ワイヤレスシステム研究室に所属する松田隆志(まつだ・たかし)主任研究員は、そうした将来を見据え、ドローン間の通信技術の開発に取り組んでいます。

NICTでは、2011年から、無人飛しょう体に搭載する通信機の開発を進めています。当初は、飛行機型の無人航空機を経由して通信を行う技術の開発をスタートしました。東日本大震災の直後だったということもあり、災害時の応用が主な目的でした。研究の結果、通信インフラが寸断されて電波が届かなくなった地域に電波を受発信できる無人航空機を長時間飛ばし、通信を確保する技術が実現可能であることを実証しました。

その後、2015年頃からは、3つ以上のプロペラを持ち垂直水平飛行するマルチコプター型のドローンに搭載する通信機及び通信技術の開発に移行。松田氏は昨年から無人機研究チームに配属され、主に飛行の安全性を確保するための通信技術の研究を行っています。

「現在取り組んでいる主な研究テーマは、無人航空機位置情報共有システム、ドローンマッパー(R)の開発です。ドローンを安全に運行するためには、各機体の正確な位置情報を共有することが必要になります。そのため、ドローンにGPS機能を備えた送受信機を搭載し、緯度、経度、高度、速度、方位、通信強度を示すRSSI(Received Signal Strength Indicator)をマップアプリ上に表示するシステムを構築しました」

現状ではドローンの通信は、ドローンと操縦者の持つコントローラーとの間でのみ行われています。それに対し、ドローンマッパーは、ドローンと操縦者のみ通信だけでなく、ドローンと有人ヘリコプター、ドローンとドローンとの間でも通信を行います。ドローンマッパーを搭載したドローン同士は、自分がGPSで取得した位置情報を相互に教えあいます。

現在、ドローンの操縦に用いられる主要な電波は920MHz帯(送信出力20mW)。免許不要で使用できる周波数帯です。ドローンマッパーにおいても、920MHz帯で位置情報の通信が行われています。

搭載する送受信機は、当初は大きめの電源アダプターほどの大きさでしたが、試作を重ねることで送受信機の大幅な小型化に成功しました。

ドローンマッパーの送受信機。左端の黒いボックスは当初のもの、右端の白いタイプが最新のものと小型化が進められています。
ドローンマッパーの送受信機。左端の黒いボックスは当初のもの、右端の白いタイプが最新のものと小型化が進められています。


「ドローンに搭載した際に飛行性能を阻害しないためには、送受信機はできるだけ小型で軽量な方がいいんです。現在では、920MHz帯の電波だけでなくBluetoothの受発信も可能なマルチ送受信機をカードケースサイズにまで小型化できました」

操縦者を介さず有人ヘリコプターや他のドローンと直接通信しニアミスを避ける

実証実験の際のドローンマッパー(R)の動作画面 (提供:NICT)
実証実験の際のドローンマッパー(R)の動作画面 (提供:NICT)


ドローンマッパー(R)は、ドローンの場所を把握するだけでなく、ドローン間で通信することにより位置情報を共有し、操縦者を介さずとも安全に自律飛行ができるようにすることを大きな目的とした技術です。

「ドローンマッパー(R)を応用すれば、複数のドローンがお互いの位置情報をもとに、相手との接近を回避したり、追従したりすることが可能になります。また、送受信機を搭載すれば、ドローンだけでなく有人ヘリコプターとの通信も可能になります。2019年には、ドローンマッパー(R)の技術を用いてドローンと小型有人ヘリとの直接通信により衝突の危険を自動で回避する実験に成功しました」



ドローンと有人ヘリコプターとのニアミス回避実験の際の通信の概念図 (提供:NICT)
ドローンと有人ヘリコプターとのニアミス回避実験の際の通信の概念図 (提供:NICT)


松田氏は、福島県南相馬市の「福島ロボットテストフィールド」で行われた実験の映像を見せてくださいました。フィールドの上空高くには1台のドローンがホバリングしています。しばらくするとドローンは、操作していないのに徐々に高度を下げ、最初に離陸したポイントまで戻ってきて着陸しました。それから間もなく、小型ヘリコプターが上空に姿を現しました。操縦者からは見えないところから接近してくるヘリコプターの正確な位置をドローンが把握し、自動的に着陸することで衝突を避けたのです。

「ドローンとヘリコプター、そして地上の操縦者はお互い見通しが取れる場所であれば約9kmの距離を隔てて1秒ごとに互いの位置を確認することが可能です。そこで、この実験では5km圏内にヘリコプターが接近したら着陸して回避するというコマンドをドローンに設定しました。すると狙い通り、操縦者が目視する前にヘリコプターを回避することができました。ヘリコプターは着陸時に機体の下方の視界が確保しにくいという弱点があるため、ドローンとの衝突事故が起きやすいという懸念がありますが、そうした危険を回避するためにも、この技術の応用を進めていきたいと考えています」


ドローン間通信の利便性向上、中継機利用とドローン用周波数帯920MHzと169MHz両方の利用

ドローン間の通信技術は、安全性を向上させるためだけでなく、利便性をさらに高めるためにも応用できます。その代表的な例が、NICTが開発した「コマンドホッパー」という技術です。

「コマンドホッパーは、山や建物などで電波が遮蔽されてドローンを飛ばすのが難しい環境でも、間に中継機を搭載した他のドローンを飛ばすことで電波をバケツリレーのように繋ぎ、低遅延での操縦を可能にする技術です。ドローンの操縦には、920MHz帯に加え、2016年から新たに169MHz帯がドローン用電波の周波数帯として運用されることになりました。この周波数帯は電波の到達範囲が広いという特徴があり、目視できないくらい遠距離でドローンを操縦するのに適しています。2つの周波数を使えるため、どちらかの周波数が使えなくなった場合にはもう片方の周波数がそれを補い、通信を継続することができます」

コマンドホッパーは、災害で通信が絶たれた地域の調査などに利用できるほか、人が立ち入るのが困難な山林や船でしか行けない港湾区域の調査、島しょ部への荷物の運搬など、幅広い分野で役立つと期待されています。

さらに、松田氏のチームが次に見据えている目標が、複数のドローンを同時にコントロールする「群飛行」の実現です。

「例えば、複数のドローンがヘリコプターを回避しようとすると、避けた先に別のドローンがいて衝突してしまうという事態が起き得ます。そうならないために、群飛行では、より高度で複雑な衝突回避のプログラムを組まなくてはなりません」

と松田氏は課題を挙げます。現在、松田氏のチームは実機を使って3台まで同時に飛ばす実験を行っています。技術的には10台同時に飛ばすことが可能だそうですが、10台以上に増やそうとすると1台あたりの通信の遅延が大きくなるため、それを改善することが1つの課題となっているそうです。

松田氏はさらに、ドローンに大きな可能性を感じていると言います。

「研究が発展していけば、将来的には空中を飛ぶドローンだけでなく、地上で活動するロボットに指令を送ることができるようになるなど、より立体的でダイナミックな通信が可能になると期待しています。また、現在、地上20kmの成層圏を飛行する無人飛行機を通信基地局(High Altitude Platform Station、HAPS)として運用し、災害などの影響を受けない通信を確保するという技術の開発が進められていますが、こうした未来の技術を駆使すれば、空をもっと有効活用できる時代が来ると考えています。

実現したいのは、地上から空中まで、動くものすべてを一元的に管理できる統合型モビリティ通信です。そのためには、電波資源の枯渇に対応して電波をさらに有効利用する方法を検討したり、10〜20分程度しかないドローンの飛行可能時間を伸ばすなど、さまざまな分野において技術の進歩が必要になります。しかし、統合型モビリティ通信を確立できた暁には、今まで以上に便利で、しかも安心安全な暮らしが実現でするはずです」


文/高須賀哲


参考情報
・ドローンマッパーは、ナシュア・ソリューションズ株式会社の登録商標です。

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