農家自ら問題を解決する開発者となってスマート農業を実践~農業ロボット開発による人とロボットが共存する農業に向けて(後編)

INTERVIEW

AGRIST株式会社
アドバイザー・福山農園経営
福山 望

農家の課題を解決するために、外部の技術者とタックを組んで新しい農業の仕組みを開発する方法もありますが、「必要は発明の母」というように、農家自ら農業における課題を解決できる仕組みを開発することも一つの方法かもしれません。今回は前編で紹介した農業ベンチャー、AGRIST株式会社のアドバイザーとして、またピーマン農家を営みながら自ら農業向け発明を行っている福山望氏に、同氏が考えた「ピーマン収穫ロボット」の基本概念や、収穫ロボットなど農業ロボットを開発することで実現する人間とロボットの共存についてお話を伺いました。

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ピーマン収穫ロボットのアイデアのベースを作ったのが、2代目ピーマン農家の福山望(ふくやま・のぞみ)氏です。これまでもハウスの省エネを実現する「内張り空気膜システム」を開発して特許を取得(参考情報1)、「レジェンド」ぶりを発揮しています。「必要は発明の母」と言いますが、自らのニーズを自ら解決する農家であり、開発者でもある福山望氏に、収穫ロボット開発について伺いました。

吊り下げ式、2度切り可能なピーマン収穫ロボットの基本概念が生まれるまで

福山農園代表 福山望氏。1973年3月生まれ。宮崎県児湯郡新富町出身。1996年、南九州大学卒業。同年、専従者として就農。1997年、独立。2012年、児湯農協青年部部長。2013年、 宮崎県農協青年組織協議会委員。2014年、同協議会副委員長。2012年〜2017年、児湯農協参与。2018年、児湯農協理事。2019年、AGRIST株式会社アドバイザー。2013年、内張り空気膜システム 特許第5260345号取得。
福山農園代表 福山望氏。1973年3月生まれ。宮崎県児湯郡新富町出身。1996年、南九州大学卒業。同年、専従者として就農。1997年、独立。2012年、児湯農協青年部部長。2013年、 宮崎県農協青年組織協議会委員。2014年、同協議会副委員長。2012年〜2017年、児湯農協参与。2018年、児湯農協理事。2019年、AGRIST株式会社アドバイザー。2013年、内張り空気膜システム 特許第5260345号取得。


──── ピーマンのビニールハウス隣にあるプレハブの建物が、ピーマンの収穫ロボット開発のために設立されたベンチャー企業AGRIST株式会社の最初の開発ラボになっていました。今も、この建物のホワイトボードには、当時のアイデアなやコンセプトが書かれています。福山氏はAGRISTのアドバイザーにもなっていますが、収穫ロボット開発の経緯を教えてください。

福山氏(以下同様):
2018年ごろから次の農業の分野は、ロボットしかないと思っていました。なぜなら、ピーマンの実を収穫する人の確保が毎年、難しくなっていたからです。私自身も年をとってきます。地域の産業としての人手不足を解決することが農業を続けるための必須の課題でした。

ピーマンの枝のつき方を見れば、ロボットを地面で移動させる方式では引っかかってしまう。レールを敷いたとしてもレール自体費用がかかります。吊り下げ式しかないと思いました。吊り下げ式は、ロボットの重さがあるので枝葉があっても進むことができます。形は、流線形にして枝葉を分け入るようにしています。
 
目標は1個でも収穫できるロボットです。全部を収穫させることを目標にすると、社会実装にも時間もかかってしまいます。早く実用化してほしいですね。

ピーマンを収穫するパートの女性(提供:AGRIST)
ピーマンを収穫するパートの女性(提供:AGRIST)


最初は、ハサミで実を切って放してボトッと落とすという方法でした。しかし、葉が生い茂っている中でピーマンを切るのは難しい。人が収穫するとき、収穫後に他の実を傷つけないように茎を2度切りしますが、ロボットで2度切りするのはどうすればよいのか悩みました。
 
娘を英会話学校に車で送り届けるときにふっと浮かんできたのが、ハサミのように切るのではなく、巻き込むように収穫するというアイデアでした。農機具のコンバインなどでチェーンベルトを使って稲を脱穀機まで送る機構に似ています。ハウス隣りのプレハブで開発にあたっていた高辻克海(たかつじ・かつみ)君(現・AGRIST執行役員)にアイデアを図に書いて説明しましたが伝わりにくい。それならと自分で試作することにしました。

チェーンベルトのようなものがないか、いろいろ探しましたが、ホームセンターにはギア系のものが売っていません。昔、ラジコンやっていた記憶からタイミングベルトが大きさも最適だろうと、プラモデルメーカーのタミヤ製品がある地元のホームセンターを見に行ったところ、本来はギアにあたる内側にあるギザギザの部分を外側にして、2組をかみ合わせてはどうかと思いつきました。このベルト1度の動作で2度切りまでを行うわけです。

高辻君はじめエンジニアが試行錯誤してくれていますが、ベースの考え方は変わっていないと思います。ロボットハンドでつかんで2度切るとなると大掛かりになり、複雑になるところを、シンプルなものにすればよいと考えました。


収穫ロボット「エル」(提供:AGRIST)
収穫ロボット「エル」(提供:AGRIST)


ピーマン農家として必要に応じIT技術を農業に適用する開発者へ

──── 福山氏は、ピーマン農家の父から、「農業が一番儲かるぞ」と言われて育ちます。しかし、父親が13歳のときに与えてくれたのは、鋤(すき)でも鍬(くわ)でもなく、パソコンでした。福山氏の父親も、新しいことにチャレンジする地元でも「変わり者」農家でした。昭和60年代、手動だったハウスの自動開閉器を開発します。

そんな父親の背中を見て育った福山氏は自然と農家になることを選択。パソコンを活用してデータをとったり、アップルのタイムラプス動画でピーマンが育つまでを作りユーチューブに投稿して世界に発信したり……。その延長にあったのが開発でした。収穫ロボットを作るために2019年、設立されたAGRISTの収穫ロボット特許申請で申請者の一人になっていますが、特許は初めてではないと言います。初めての特許は何だったのでしょうか?


重油の価格がリッター150円まで値が上がりしたことがありました。ピーマンのハウスは冬に加温しますが、燃料費がばか高くなります。省エネのために考えたのが、内張空気膜で、フィルム2枚を袋状に張り合わせて圧着し、下面フィルムの1か所か2か所に、穴を開けて下からファンを回して風を送り込んで風船のように膨らませる方法です。ある程度に膨らむと、エアシャッターのように外に出ようとする圧力と均衡がとれ、ファンが回る間は同じ膨らみを保つことができ、ファンを止めても空気が漏れません。
 
フィルム自体30kgから50kgと重さがあるため、普通、エンジニアはブロアーで圧力をかけて空気を入れないとフィルムが膨らまないと固定観念で考えてしまいます。しかし、ブロアーでやると圧力は高いが風量はないので、膨らむのに時間がかかるし、間欠運転しないと風圧で同じ膨らみを保つことができません。ブロアーではなく、ファンで下面フィルムに接触せずに風をあてると早く膨らみます。原理は、地上や水上を風の力で走るホバークラフトの原理です。小学校のときに紙皿にファンをつけて、机の上を走らせたりしていました。

ファンは、パソコン用のものでも、55m×5mのフィルム2枚合わせの空間を20cm膨らませるのに30分程度で膨らませられます。フィルムの厚みで変わりますが燃料削減は25%以上です。

ファンはフィルムに接着せず、膨らんだ膜の状態を維持できることで「内張り空気膜システム」として特許を取得、地元の農業資材メーカー福栄産業で製品化されました。地元のJR九州のハウスに導入されています。
 
父もハウスの自動開閉の特許を申請しました。しかし、農業用自動開閉ではなくモーターでパイプを回す機構が特許で既にあり、残念ながら父の申請は特許にはならなかったのですが……。


──── CO濃度や温度、湿度、照度などリアルタイムでトラッキングしてデータをとって、ピーマンの育成に役立てていらっしゃいますね。部品は市販製品を探して自分で作るのですか?
 
特に工学の勉強をしたことはありません。部品は家庭用のIT 機器を農業用に転用しています。ないものは作りますがAmazonで部品やモーターとか、12ボルトで動くものだったらアダプターと一緒に購入するなど、簡単にできるようになっています。

CO濃度測定は、1台目は正確なログを見られるメーカー品を導入しましたが、2台目からは家庭用にあるものをハウスに持ち込みました。環境制御ができる装置を購入するとなると結構値段が高い。ピーマンの場合、2台目からはそんなに正確でなくても、そこはわかればいいので、安くて使えるものを探し活用しました。


収穫ロボットの社会実装がもたらす、人間とロボットが共存する新しい農業スタイル

──── ハウス隣のプレハブでロボットを試作していたわけですから、すぐに試すことができますね。

収穫ロボットの吊り下げ移動方法なども、ピーマンを栽培してきたから考えられたアイデアです。ピーマン栽培ハウスの場合、人が動く通路に傾斜やぬかるみがあり、温風ダクトなど障害物が多すぎてとてもロボットが地面を動くことができません。このため、現在はハウスの形状や仕様に合わせたロボット作りをしています。

しかし、ロボットの動作や収穫効率を考えると、今後はロボットが動きやすいハウスを仕立てることも考えられます。ハウスの付帯設備としてロボットをつけます。ピーマンの品種もロボットが動きやすいものを選びます。育て方も今は樹形がU字型になるように枝を誘引していますが、それでは、ロボットがアームを伸ばしてアプローチしづらい。垣根仕立てにすればロボットがアプローチしやすくなります。

今は、ロボットに20%を収穫してもらう設定ですが、それができれば100%ロボットが収穫する、まさに「ピーマン工場」ができるわけです。今年から、AGRISTはロボット用の試験ハウスを作り、ロボットと人との共存を模索していきます。


──── 初期導入費150万円、ロボットが収穫した20%の売り上げのうちの10%を手数料として納めるという仕組みについて、農業者としてどうとらえていますか。

初期費用の150万円は私が言いました。軽トラ1台位の価格です。200万円、300万円では導入が難しい。150万円は、配偶者特別控除の壁で一番働くパートさんの1年間の給与になります。
ピーマンの収穫量(重さ)、16トンのうち2割となれば、3トン超。ピーマンは収穫しないと次のものが大きくなりません。適時に収穫してあげると樹の負担がなくなり、実ができ、収量もアップします。Lサイズの実1個を早く収穫すると、次の芽ができるためMサイズが2個収穫するのと同じです。
2割取れれば3年間で元が取れるのではないでしょうか。

パートさんは土日の出勤はほとんどしてもらえないですが、ピーマンに土日はありません。ハウスの中は、夏だと気温が40℃になるときもあり、湿度も高く労働環境は過酷です。そこをロボットが代替できればよいと思います。
 

──── スケールメリットはどのぐらい必要でしょうか?

ロボットは、人と合わせた使いようですが、栽培面積4反以上(約40アール)で導入する価値があると思います。3反では頑張れば夫婦でできる面積なので導入は厳しい。ロボットの場合、人と違って教育などに時間をかける必要がなく、必要なら複数台導入できることがメリットです。主にロボットが取り残したところを、人間に収穫してもらうという使い方がよいのかもしれません。

今、ロボットに合わせた周年栽培の方法確立のため、30ℓほどの袋に土が入った状態のピーマン栽培を試験しています。それだと、例えば土ではない床面の上に置いてでも栽培できます。通常なら土づくりや土壌消毒をしなければならず次の栽培まで2〜3か月のブランクが必要になりますが、袋の場合、撤去と同時に新しい土を設置でき、すぐに次の栽培にかかれます。

年中収穫できるハウスに、ロボットを複数導入してロボットのメリットを最大限生かせるようにする。夜間に動かす試験もしました。バッテリーを交換する必要がありますが、24時間収穫することができます。将来的には、害虫を捕食してくれるスワルスキーカブリダニのような天敵(生物農薬)を導入して化学農薬を使わない、環境に優しい栽培も試したい。

やりたいことがいっぱいあります。ロボットが収穫をやってくれれば、新しいチャンレジも可能になります。


のどかな田園風景が広がる宮崎県新富町。アグリバレーとして注目されている。(提供:AGRIST)
のどかな田園風景が広がる宮崎県新富町。アグリバレーとして注目されている。(提供:AGRIST)


人手不足解消から始まった収穫ロボット導入がきっかけになり、ハウスも栽培方法も変わる。宮崎新富町方式が農業を変革するかもしれません。

文・写真/杉浦美香




参考情報
・参考情報1:「特許第5260345号」の特許権者は「福山 望」、発明の名称は「農業ハウス用内張りカーテンおよびそれに利用する給気装置」です。

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