ピーマン収穫ロボットの開発と販売仕組みの構築で、農家の人手不足解決へ~農業ロボット開発による人とロボットが共存する農業に向けて(前編)

INTERVIEW

AGRIST株式会社

取締役 秦 裕貴
高辻 克海

「適切に収穫できれば収量も増えるのに、その人手が確保できない」など、日本農業の人手不足は深刻な課題です。人手不足が解決できなければ「儲かる農業」は実現できず、新規就農者や後継者も増えません。そこで、AIとロボット技術でこの課題の解決に挑んでいるのが、農業ベンチャーAGRIST株式会社です。今回は、同社に吊り下げ式、2度切り可能なピーマン収穫ロボットについて、その開発経緯や販売仕組みについてお話を伺いました。

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農業でもっとも深刻なのは、なんといっても人手が足りないということです。儲かる農業であっても人手不足から持続できないのが実情です。ビジネスが継続的に成り立てば、新規就農者も増え、後継者不足の課題解決につながります。AI(人工知能)とロボット技術で社会課題を解決しようとしているのが、AGRIST(アグリスト)という農業ベンチャー企業です。収穫ロボットを活用した新しい農業の仕組づくりが宮崎県新富町で始まっています。

ピーマン収穫ロボットの開発経緯、農家の人手不足を解決するため

宮崎県新富町。JR日向新富町駅から車で約2~3分。スーパーマーケットだった空き店舗を活用した共用オフィスビルの一角に、農業ロボットベンチャー企業「AGRIST株式会社」のオフィス兼ラボがあります。設立は、2019年。きっかけは、2017年から定期的に行っていた若手農家の勉強会でした。
「適切に収穫できれば収量も増えるのに、その人手が確保できない」
農業者の平均年齢は67歳。ピーマンの収穫は手作業で、家族で足りないところはパート労働にお願いするしかありませんが、そのパート労働者の確保が年々難しくなり、ボトルネックになっていました。新富町には町外からの新規就農者の移住はありますが、人手不足が解決できなければ「儲かる農業」は実現できません。
ロボットが代替してくれればよいのですが、ピーマン収穫のロボットはありませんでした。地域づくりに取り組む、町が出資する地域商社「こゆ地域づくり推進機構」の代表理事である齋藤潤一(さいとう・じゅんいち)氏が2018年末、福岡県北九州市にある北九州工業高等専門学校に訪れ、秦裕貴(はた・ひろき)氏に出会い、ロボット開発が具体的に動き出します。


秦 裕貴氏。1993年5月生まれ。福岡県福津市出身。ものづくりが好きで北九州工業高等専門学校に進学、機械工学と制御、ロボットや自動化システム開発の基礎を学ぶ。5年で開発した重心移動で推進するスケボー型パーソナルビークル開発に携わり、高専の教諭や卒業生らで作るベンチャー企業「合同会社Next Technology」に参画。ホームロボットの試作や3Dプリンターの開発。2017年から代表社員就任。現在、AGRIST取締役。
秦 裕貴氏。1993年5月生まれ。福岡県福津市出身。ものづくりが好きで北九州工業高等専門学校に進学、機械工学と制御、ロボットや自動化システム開発の基礎を学ぶ。5年で開発した重心移動で推進するスケボー型パーソナルビークル開発に携わり、高専の教諭や卒業生らで作るベンチャー企業「合同会社Next Technology」に参画。ホームロボットの試作や3Dプリンターの開発。2017年から代表社員就任。現在、AGRIST取締役。


秦氏(ここから以下同様):
人材育成も行っているAGRIST社長の齋藤が、北九州工業高等専門学校を訪れた際に、高専出身者で作った「Next Technology」(北九州市)に立ち寄ってくれました。その際にピーマン収穫ロボットの話になりました。

Next TechnologyはIoTデバイスの受託開発などをしており、臭いを計測する犬型ロボットで、テレビ取材を受けたこともあります。齋藤と出会った2〜3か月後に宮崎県新富町に出向き、ピーマン収穫ロボットのプロトタイプを作ってみようとなりました。その際、同じ高専でロボコンに打ち込んでいた後輩に声をかけました。新富町には、ピーマン専業農家で自らITを駆使してデータを活用、スマート農業を先進的に実践している、「レジェンド」と言っていい、福山望(ふくやま・のぞみ)さんがいらっしゃって、福山さんと一緒に、収穫ロボットのプロトタイプを作り始めたのが2019年のことです。

正攻法であれば、地上走行型のロボットで収穫するということになります。しかし、ピーマンハウスの地面には剪定した枝や葉が落ちており、水を与えるため土はぬかるんでいます。地上走行ではロボットが倒れたり、途中で動かなくなる可能性があります。ハウスを加温するダクトも張り巡らされており、これもロボット走行の邪魔になります。ドローンを使うといったことも考えましたが、早い段階でワイヤーで吊り下げ、空中を移動するロボットを作ることに到達しました。参考にしたのは、ロープウエイです。
 
ワイヤー吊り下げ式のベースのアイデアは農家の福山望さんです。アイデアマンの福山さんと高専の後輩と一緒に、どんなロボットならいけるのか、試行錯誤しました。最初のプロトタイプを作ったのは、2019年前半になります。


──── 研究技術を生かすために大学発ベンチャーが誕生するなどしますが、AGRISTの場合は技術ありきではなく、ニーズありきだったわけですね。

農家が困っている人手不足を解決するために、収穫できるロボットが必要、そのためにエンジニアを集めて、ロボットを作ろうと始まりました。


ピーマン収穫時の2度切りも可能な、吊り下げ式収穫ロボットの開発

──── 仕組みを教えてください。
 
ロボットはハウス内に設置したワイヤーに吊り下げられていて、ロープウエイのようにワイヤーをつたって移動します。ワイヤーは一般的な農業資材の鋼線を利用します。
カメラ画像から、ロボットはピーマンのサイズを、機械学習で認識します。アームは上下、奥行き方向に伸縮できるようにしており、アームが稼働して設定したサイズのピーマンの茎を把持して切断、本体のリザーブタンクで一時保管し、3kg程度たまったらコンテナに放出します。

通常、人が収穫する際には切った茎をさらに短くするために「2度切り」を行います。2度切りするのは、茎が出ているとコンテナ内で他のピーマンを傷つけ、商品価値を下げてしまうからです。我々の収穫ロボットはこの2度切りが実現できる収穫ハンドを搭載しています。福山さんと一緒に開発していなければ、この着想は生まれなかったと思います。
 

──── 何回ぐらい試作していますか?

ロボット全体のプロトタイプでいうと今のところ6回ぐらいです。収穫ハンドなど部位ごとの試作は無数に繰り返しています。2019年前半の最初のモデルは、天井に張るワイヤーが2本でしたが、今は1本です。農場のすぐそばで開発をしているため、実環境で出てくる課題に対して試作のPDCA(Plan Do Check Act)を高速で回すことができています。


──── 2度切りについて国際特許を申請されています。

創業した2019年に、特許を申請して、2020年夏、新規性があると評価をいただいています(参考情報1)。


収穫ロボット開発にはロボコン優勝の高専出身者も

ロボット開発には、秦氏の高専の後輩である高辻克海(たかつじ・かつみ)氏が開発最初からインターンで参加、今は休学して収穫ロボットの開発をされています。ロボコンに打ち込んでいた後輩というのが高辻氏です。
1998年9月生まれの若干22歳。2019年3月に北九州工業高等専門学校電子制御工学科を卒業、高専専攻科に在籍しながら収穫ロボットの開発にかかわっています。


高辻氏(ここから以下同様):
2019年8月に、この新富町に引っ越してきてちょうど2年になります。最初は高専のインターンシップで来ましたが10月からは休学しました。 今も休学中でAGRISTで働いています。
 

──── 全国高等専門学校ロボットコンテスト全国大会に2015年から4年連続で出場、2017年には全国優勝。中国で開催される世界ロボットコンテスト「RoboMaster」で3位入賞されています。ロボットコンテストの手法がこの収穫ロボット開発に生かされていますか?

大きな課題があって、そこにたどりつくにはどうすればよいのかと取り組む入口のところは似ています。しかし、ロボコンはフィールドが用意されていて、ルールが厳密に決まっています。それに沿って作りますが、収穫ロボットでは、ルールすら自分で作るというか、自由度が高い。そこが逆に難しいと思います。



まずは人がとりきれない部分を補う収穫ロボットの販売仕組みを構築

──── ロボットは売り切りではなく初期導入費用150万円のレンタルで、ロボット収穫の売り上げの10%の手数料を請求するという仕組みになっていますね。

秦氏(ここから以下同様):
ワイヤーの設置やロボットの初期設定をはじめとした初期導入費として最初に150万円をいただくようになっています。軽トラック1台分というイメージでしょうか。年間収量の20%程度をロボットが収穫する想定で、その分の売り上げの10%を手数料としていただくという仕組みにしています。

画像認識する収穫ロボット(提供:AGRIST)
画像認識する収穫ロボット(提供:AGRIST)


ピーマンの特性で、Lサイズまで育ったピーマンをすぐに収穫しないと、Lサイズがどんどん栄養をとり、同じ枝の他のピーマンは大きくなれないままです。大きくなりすぎたピーマンは規格外になって価格が下がるし、Sサイズのピーマンは大きくならない。Lサイズになったらすぐに収穫できれば、隣のSサイズのピーマンがLに育つよい循環が生まれます。収穫できないと、大きくなりすぎた規格外のピーマンが多くなり、収量が減少、売り上げも減ってしまいます。

そこをロボットが補いL、もしくはMサイズのピーマンを画像認識して収穫するのです。ロボットの形やLサイズのピーマンをタイミングよく収穫するという意味もこめ、ロボットの名前は「エル」と名付けました。

20%程度をロボットが収穫すると設定することで実用化の道を早めます。最初から100%収穫できるロボットを目指すと、費用も時間もかかります。まずは人がとりきれない部分を補ってくれる程度のロボットでいいということで進めています。この辺りも農家の福山さんと一緒に開発しているからこその視点です。


収穫ロボット開発の課題、ハウス内の過酷な環境とロボットのバッテリー

──── いま、一番の課題は何ですか?

いろいろありますが、まずは環境です。ハウス内は、温度が夏には40℃まで上がるうえ、湿度も高く、結露します。温度だけではなく、加温で重油を使うので、硫黄系化合物や粉塵もあります。農薬も散布されます。人間の労働環境としても大変ですが、ロボットを動かすにも過酷です。短期間であれば問題ないですが、長期的な耐久性をどうすればよいのか、クリアにしなければなりません。
また、ロボットの稼働時間とバッテリーも課題です。バッテリーの交換は人が行いますが、充電の頻度をできる限り少なくするために消費電力を抑える必要があります。

以前は、エンジニアは3人でしたが、今は10人。高専出身者が多いですが、メディアに取り上げられるようになり、全国から応募があります。ユーザーである農家さんと近いところで開発ができることと、下請けではなくゼロからロボットを作ることに魅力を感じてもらっていると思います。課題を解決するために、常にエンジニアを募集しています。


世界市場を目指し拡大中のAGRISTの面々
世界市場を目指し拡大中のAGRISTの面々


──── 今後の展開を教えてください。
 
面積が30アール以上、ハウスでいうと3棟ぐらいの規模で、比較的儲かっている30代~50代の農家がターゲットです。ロボット導入して今後10年は農家を続け、収穫量を増やすことに意欲的な農家さんへの導入を想定しています。リースという形にしているのは、ロボットが常にバージョンアップすることを想定しているからです。

AIでハウス全体のデータを集積、分析します。データを活用して、病害虫の早期発見ということも視野にいれています。
導入は、まずは九州、次に北関東、茨城を考えています。宮崎はピーマン全国2位の生産量ですが、茨城は全国1位です。ピーマンの次は、キュウリ、次にトマトやナスへと広げようと思っています。ピーマンで収穫ロボットを確立すれば、他の作物への応用は可能です。世界への展開も考えています。トマトの世界市場は年間1億8226トン、55兆円以上です。
 
後編では、レジェンド農家の福山望氏の視点で開発秘話を伺います。

《後編に続く》

文・写真/杉浦美香


参考情報
・参考情報1:「特許第6894586号」の特許権者は「AGRIST株式会社」、発明の名称は「取得装置」です。


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