金属3Dプリンターの造形物が熱収縮による反り変形する理由と、「マルテンサイト変態」を利用した変形低減技術~金属3Dプリントの品質向上に向けて(後編)

INTERVIEW

石川県工業試験場
主任研究員
高野 昌宏

粉末金属材料を敷いた床上にレーザーをあてて溶融凝固させながら造形(粉末床溶融結合法)する金属3Dプリンター。前編で解説した金属3Dプリンターによる造形プロセスの課題は、造形品質のばらつき以外にも、熱収縮による応力によって生じる反り変形があります。今回も引き続き、金属3Dプリンターの造形物の品質向上に向けた技術研究を行っている石川県工業試験場に、熱収縮による反り変形が生じる理由や「マルテンサイト変態」を利用した変形低減への取り組みについてお話を伺いました。

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2015(平成27)年3月、試験場内に「3Dモノづくりラボ」という研究所を開所し、主に3Dプリンターの技術、AM(Additive Manufacturing)として金属、樹脂、石膏といった3種類の3D造形という新しいモノづくりの技術を研究開発していると言う石川県工業試験場。前回に続き、金属3Dプリンターの造形の課題、その解決法などについて同試験場機械金属部の主任研究員、高野昌宏(たかの・まさひろ)氏のお話をご紹介します。

金属3Dプリンターによる造形品質のばらつきを低減、火花観察から自動補正を目指す

──── 火花を観察し、そのデータをAIによって解析することで、自動的に補正しつつ、品質にばらつきのない金属3D造形ができる装置になりますか。

高野氏(以下略):
そう考えています。金属3Dプリンターでの造形では、積層している造形中に発振器に異常が出たり、光学系にヒューム(煙)が影響してレーザーの品質が下がったりしますから、火花粒子の状態から現在どんな層が形成され、その層の空隙率がどの程度かを推測することができれば、空隙率が上がっているであろう層へもう一度、レーザーをあてる作業を繰り返すことで空隙率を下げ、品質のばらつきを少なくすることができるでしょう。

こうしたシステムを使って、スポット径などを自動的に補正しながら造形する装置はまだこれから開発しなければなりませんが、技術的には可能と考えています。


──── 実際に装置を使うユーザーが操作するわけではないのでしょうか。

製品化としてのAIによる学習は、製品の仕様としてメーカー側があらかじめパッケージしておくことを考えています。例えば、マルエージング鋼の粉末金属材料を使った場合などに応じてユーザーは特に学習させる必要はなく、造形を行う際に火花粒子をモリタリングして火花粒子状態から空隙率を推測し、空隙率が上がった層に対しては自動的にフィードバックして補正したデータによってレーザー照射と積層を繰り返すことになるでしょう。

ユーザーの環境によるシステムへの影響としては、AIによる学習をやっておけば個々の環境の違いや装置のメンテナンス状態などによる調整は不要になると考えています。


──── この技術の製品化について教えてください。

現在は測定ができるようになった段階で、フィードバックして空隙率を下げるまでにはいっていません。ただ、診断さえしっかりできれば、フィードバック自体はそれほど難しくないと考えています。今後、株式会社ソディックへ技術移転し、2022年に実用化の予定になっています。

金属3Dプリンターの造形で、熱収縮による反り変形が生じる理由

──── 金属3Dプリンターでの造形プロセスの課題にはほかにどんなものがありますか。

そうですね、金属3Dプリンターでの造形では、熱による応力が発生します。造形物のサイズが大きければ大きいほど、熱収縮によってひどい場合は割れてクラックが発生してしまいます。


──── なぜこうした現象が起きるのでしょうか。

金属3Dプリンターでの造形では粉末金属材料をベースプレートの上に積んでいくわけですが、溶かしては固め、溶かしては固めということを繰り返しますから、ベースプレートは縮まないのに比べ、造形物は熱収縮をするのでベースプレートへ圧縮の力が作用する結果、下方向へ凹む反り変形が生じるからです。

この課題を解決するためには、「マルテンサイト(martensite)変態」という膨張する現象を利用し、その膨張によって反りを低減させる方法があります。このマルテンサイト変態というのは、一種の相変態で、鉄鋼の焼入れ時に鉄の原子の間に炭素原子を取り込んで硬い組織にする過程を言い、凝固から室温までの冷却過程で、通常、金属は収縮します。が、炭素鋼の場合、このマルテンサイト変態が起き、冷却過程で固くなると同時に膨張が生じるんです。

金属3Dプリンターによる造形で生じた熱変形とクラックの様子(提供:高野昌宏氏)
金属3Dプリンターによる造形で生じた熱変形とクラックの様子(提供:高野昌宏氏)


「マルテンサイト変態」を利用して、熱収縮による反り変形低減へ

──── マルテンサイト変態について説明してください。

なぜマルテンサイト変態という現象が起きるのかといえば、加熱された鉄鋼がオーステナイト(austenite)状態という結晶構造(面心立方格子)になり、冷却してある温度になると今度は異なった結晶構造(体心立方格子)になります。この時、分子の並び方が変わって体積も増えますが、同時に炭素原子が鉄の原子に入り込んで結晶構造を押し広げ、その過程で体積も変わってより膨張します。この現象をマルテンサイト変態というのです。


──── このマルテンサイト変態をどう活用するのでしょうか。

造形プロセス中にヒーターなどでベースプレートと造形物の温度を一定の保つ保持温度を変えたり制御する方法が考えられています。これは私たちと共同研究している株式会社ソディックの工法で、マルテンサイト変態が起きる温度であるMs点より保持温度を高くすると、造形中は鉄原子の中へ炭素原子が取り入れられる状態であるオーステナイト状態から造形終了後にマルテンサイト変態となり、Ms点より保持温度を低くすると造形中も造形終了後もマルテンサイト変態が支配的になるという違いをもとに温度制御する方法です。

保持温度の違いによる熱変形。Ms点の上下で特に高い120℃は極端な例を実験したと言う。(提供:高野昌宏氏)
保持温度の違いによる熱変形。Ms点の上下で特に高い120℃は極端な例を実験したと言う。(提供:高野昌宏氏)


──── どのようにして保持温度を制御するのですか。

マルテンサイト変態のような現象をうまく活用すれば、造形物とベースプレートの間の応力を限りなくゼロに近づけることができるのではないかということで私たちは検討しました。実際には、ベースプレートをある程度、加熱しておき、保持温度を24℃、90℃、120℃などと可変させて制御します。

私たちはステンレス鋼(SUS420J2)を用い、従来のように造形中にオーステナイト状態からマルテンサイト変態を溶融ごとに繰り返す温度である24℃、あるいは鉄原子が炭素原子を取り込みつつある状態であるオーステナイトを続けさせて造形し、最後に室温に戻す過程で造形物とベースプレートすべてがマルテンサイト変態を起こす120℃の幅で保持温度を検証してみました。


──── 保持温度を制御することで実際に応力を少なくできたのでしょうか。

はい。ベースプレートに歪みゲージをつけ、造形中の応力がどのように変化するのかを見てみたところ、24℃という低い保持温度の場合、造形中にどんどん応力が増加し、造形終了後も応力は変化せず下へ凸の熱変形が起きました。一方、保持温度を120℃にした場合、造形中は同じように応力が増加しますが、造形後にはマルテンサイト変態の膨張が起きるために応力が急激に低下しました。

この現象を調べるため、オーステナイトとマルテンサイト変態の2相の相変態を考慮した造形のシミュレーションのプログラムを作り、積層の厚みを0.04mmとして50回の繰り返し解析をしてみました。その結果、材料物性として実際に保持温度によって応力が時間変化したことがわかっています。


──── 温度の上げ下げで効果があったということでしょうか。

応力を制御して最終的に反りが小さくなることも目的ですが、一方で造形中にクラックが入るといけませんので、保持温度を120℃にしてオーステナイト状態で造形しても応力集中が生じ上への凸の熱変形が起きますから、40層程度造形した時点でいったんマルテンサイト変態が起きる温度まで下げ、再度、造形を継続することで最大応力も一定の閾値内におさめることができるのではないかと考えています。

わかりやすく説明すると、例えば120℃で造形し、25層まで積層した段階でいったん冷却工程を入れてマルテンサイト変態を生じさせ、その後また120℃まで保持温度を上げて造形を再スタートさせるといいのではないかということです。

こうした工程を挟むことで、造形中も応力が上昇しないで、クラックが入りにくくなると考えています。保持温度の制御を活用すれば、炭素鋼や焼入れ硬さ(ロックウェル硬さ、HRC)が50といった硬い材料でも、また金型のような大きな造形物でも造形できるようになるでしょう。

造形途中いったん室温まで冷却することで引張応力が低減され、クラックが生じにくくなったとのこと(提供:高野昌宏氏)
造形途中いったん室温まで冷却することで引張応力が低減され、クラックが生じにくくなったとのこと(提供:高野昌宏氏)


──── 保持温度は120℃が最適ということでしょうか。

いいえ。最も応力集中が小さくなる温度というものはあります。例えば、77℃あたりで反りも小さくなりますが、保持温度をずっとその温度に一定にして造形すると、どこかに応力集中が起きてどうしてもクラックが入ってしまいます。先程の120℃から冷却工程を挟むというのは極端なシミュレーションで、実際には70℃程度の保持温度で造形し、いったん冷却して室温程度まで冷やし、再度、造形を始めるということをするのが最適解ではないでしょうか。


金属3Dプリンターでの造形物と異種材料との接合

──── 金属3Dプリンターでの造形でほかに課題はありますか。

そうですね。ある部品をすべて金属3Dプリンターで造形すると当然、コストが高くなります。サイズの大きなものもコストがかかってしまいます。そのため、金属加工などで造ったほかの部材と接合することもよく行われています。

金属3Dプリンターでの造形物と異種材料との接合技術には、例えば金属3Dプリンターでの造形で鉄製の部品を造形し、アルミを流し込んで固め、接合する方法があります。ただ、アルミの溶融温度は700℃程度なので、その温度では鉄は溶けません。そのため、実際には形状的なアンカー効果で接合させています。例えば、鉄側の表面を剣山状にし、そこに溶けたアルミが食い込むと異種材料が接合されるのです。



金属3Dプリンターで用いる材料は硬いので、これまで熱収縮による応力が生じるなど造形が難しかったそうです。造形中の品質管理の技術も重要ですが、金属3Dプリンターでの造形では、まだまだ多くの課題を克服していく必要がありそうです。

文/石田雅彦

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