2021年5月26~28日に、東京ビッグサイトにて「第30回 Japan IT Week [春] 2021」が開催されました。Japan IT Weekは、ITシステム、IoT、5G、AIなどのIT系の企業が出展する展示会です。今回はオフライン開催に併せ、6月のオンライン展示会の開催によって、より多くの人に向けて企業交流、技術展示が行われていました。今回は、山間部に設置したカメラ内蔵LoRaデバイスを使った画像監視システムや感圧センサーに使える導電性の不織布などの最新技術をリアル展示会から紹介するほか、スタンドアローンで使用可能なキャリアボードをオンライン展示会からご紹介致します。
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Japan IT Weekは、情報システム、経営企画、データストレージ、IoT、5G、AI、設計開発などのIT系の企業が出展する展示会です。構成展示会は、第30回ソフトウェア&アプリ開発展【春】、第26回セールス自動化・CRM EXPO【春】、第24回組込み/エッジコンピューティング EXP【春】、第23回データセンター&ストレージ EXPO【春】、第18回情報セキュリティ EXPO【春】、第15回Web&デジタル マーケティング EXPO【春】、第12回クラウド業務改革 EXPO【春】、第10回IoT&5Gソリューション展【春】、第9回次世代 EC&店舗 EXPO【春】、第4回AI・業務自動化 展【春】、第1回 システム運用自動化展【春】の11展示会となっていて、組み込みシステム関係のハード、ソフト、コンポーネント、AI活用、情報セキュリティ、IoTや5G、電子契約・電子はんこ、新型コロナ感染対策関連の技術などが出展されていました。
体温測定、3密の回避、マスク着用、手指衛生といった新型コロナ感染対策をほどこして実施していました。今回そんな「Japan IT Week [春] 2021」から興味深い技術を出展していた企業をピップアップしましたが、同じ主催者が6月に開催したオンライン展示会についても紹介します。
DRPを組み込んだIoT向けCPUモジュール
コンピュータ関連機器の開発、製造、販売をしているシマフジ電機株式会社(東京都大田区)が出展していたのは、IoT向けのCPUモジュールです。説明してくださった同社営業部営業部長、荒瀬茂之(あらせ・しげゆき)氏によると、同社はクライアントの要望に応えて多種多様なシステムの設計をし、国内製マイコン(動的再構成プロセッサ、DRP:Dynamically Reconfigurable Processor)を組み込んだモジュールと言います。
同社ブースではこのモジュールを応用したデモが展示されていましたが、画像ストリーミング処理により、映像データからエッジコンピューティングによって処理したデータのみ送るシステムになっているそうです。荒瀬氏によれば、同社は宇宙関係の仕事もしているそうですが、新型コロナの影響もあって世界的なチップ不足が続いているそうです。

山間部に設置したカメラ内蔵LoRaデバイスを使った画像監視システム
情報伝送機器、監視制御装置、通信ネットワーク関連機器、移動体通信機器、計測器などの設計、開発、製造、販売をしている大井電気株式会社(神奈川県横浜市)が出展していたのは、カメラ内蔵LoRaデバイスを使った画像監視システムです。説明してくださった同社第三営業本部、金子龍太郎(かねこ・りゅうたろう)氏によると、無線エンコード技術であるLoRa(Long Rage)規格は長距離無線を低コストで実現できる技術と言います。
同社のシステムでは、スーツケースに入れた可搬型のLoRaWAN(R)ゲートウェイにより、電源が届かない山間部に設置したカメラ内蔵LoRaデバイスからの画像データを受信し、クラウドなどへ送って監視・管理することができるそうです。この可搬型のゲートウェイを管理事務所へ運び、8kmほどの距離で届くカメラ・デバイスから送られてくる静止画によって降雨の状況、砂防ダム、河川の様子などを確認でき、防災などに生かすことができます。

RGBカメラよりも、人間の目が見ている色に近いカメラ
画像計測装置の設計、製造、販売、計測用センサー機器の設計、製造、販売などをしている株式会社パパラボ(静岡県浜松市)が出展していたのは、人間の目がもつ感度を忠実に再現しようとするカメラです。説明してくださった同社営業部長、小澤治(おざわ・おさむ)氏によると、同社設立のきっかけは、静岡大学の下平美文(しもだいら・よしふみ、現・静岡大学イノベーション社会連携推進機構、特任教授)氏らが開発したXYZ等色関数と等価なフィルターを使ったカメラを開発しようとしたことだったと言います。
この特殊なフィルターにより、従来のRGBカメラとはまったく異なった特性が可能になったそうで、RGBカメラよりも人間の目が見ている色に近い画像を撮影することができるそうです。この技術は二次元色彩計とよばれ、S1、S2、S3という人間の視細胞に近い3枚のフィルターを重ねたカメラを製品化したと言います。

感圧センサーに使える、導電性の不織布
高速伝送技術に使う細線同軸、ワイヤーハーネスなどの製造、販売をしている株式会社マルニックス(埼玉県越谷市)が出展していたのは電気を通す導電性の不織布です。説明してくださった同社センサーソリューション事業部の事業部長、神田雅之(こうだ・まさゆき)氏によると導電性の特性を生かした感圧センサーに使うことができると言います。
この不織布は、ポリエステルやナイロンの素材にポリアニリン(PANI)系の導電性ポリマーを練り込んでいて、柔軟性に富み、折り曲げや摩擦に強く、基材が固くなりにくいという特徴があるそうです。座席センサー、リハビリ機器、ドアの挟み込み検知、ロボットの接触検知、玩具・ゲーム機器、スポーツ用具、離床センサー、グリップセンサーなど丈夫で柔らかい感圧センサーとしての利用が可能で、荷重抵抗特性があるため、感圧の調整が可能と言います。

独自の無線通信技術により混信しないリレー式通信
東京大学発のベンチャーでセンシングに関するハードウェア、ソフトウェア、サービスの企画、設計、製造、販売をしているソナス株式会社(東京都文京区)が出展していたのは、同社が開発した無線通信技術UNISONet(R)によるリレー式の通信デモです。説明してくださった同社執行役員、一木伸彦(いちき・のぶひこ)氏によると、中継機として無線機を使った従来のマルチホップのリレー式送受信は、基本的に1対1の通信を前提にしており、メッシュネットワークで使う場合でもあらかじめ経路を設定しておかなければ、多対1、多対多というようなデータのリレーはできなかったと言います。
同社の無線通信技術では、リレーの途中にある通信機に不具合が生じても、あるいは個々の通信機の順番を入れ替えても、最初の通信機から送られたデータが終端の通信機まで確実にリレーされるそうです。従来の通信では波長が乱れて交雑するため、混信してしまうのですが、同社の技術では発信元の端末が全端末に対してデータを送信(ブロードキャスト)し、それを受信した複数の端末はデータを同時にかつほぼ同じ波形で転送するため、混信せずに通信が可能になると言います。

[オンライン展示会]スタンドアローンで使用可能なキャリアボード
一方、『第1回 Japan IT Week オンライン』は、2021年6月16日(水)から18日(金)まで(プレオープンは6月1日から15日)開催され、主催者によれば3日間で1万254名が来場(6月16日~18日の10:00~18:00に来場した数を集計。ログインID1つを1名と数え、そのIDが何度アクセスしても1名とカウント。プレオープンを含めると1万9,627名)したそうです。新型コロナの影響でリアル展示会へ来場したり出展したりすることが難しくなっている中、オンライン展示会の要望が多く寄せられ、双方向・リアルタイム、3日間(合計24時間)の限定という商談型のオンライン展示会を企画・開催したと言います。
『Japan IT Week オンライン』では、アクセスIDを登録後、サイトへアクセスすると出展社のリストがあり、目的に応じて出展社を検索することができます。事前にアポイントを取り、オンラインによる遠隔商談やテキストによるチャット商談が可能です。また、名刺交換(Business Card)も可能でセミナーを聴講した来場者とすぐに商談に進むことができると言います。

オンライン展示会へ出展していた1社にお話をうかがいました。株式会社ロッキー(東京都新宿区)は、FPGA/DSP関連、AD/DAボード、画像変換、制御機器といった多種多様な産業用の電子機器ボードなどの製品開発・販売をしており、今回はスタンドアローンで使用することができるキャリアボードなど、FMC(FPGA Mezzanine Card)技術関連の製品をいくつか出展していました。
説明してくださった同社、事業推進部広報課、内海綾子(うつみ・あやこ)氏によれば、FMCのメザニン(Mezzanine)カードというのは主となる電子基板に機能を追加するため、専用のコネクタを介して基板に重なるように平行に取り付けられた小型の電子基板のことだそうです。出展していたFMCキャリアボードはほかの各種FMCボードと組み合わせ、USB、Ethernetなどを経由してPCと接続することで多様なアプリケーションにも対応可能と言います。

同社はリアルのJapan IT Weekへは10年以上出展してきたそうですが、2021年5月に東京で開催されたリアルの展示会へは新型コロナの影響で出展を見送ったそうです。今回のJapan IT Week オンラインへは、リアル展示会に近い形でのオンライン開催ということで参加を決めたと言います。
今回のオンライン展示会で良かった点は、やはり新型コロナ感染のリスクが少ないこと、またリアル展示会より費用が少なくてすんだこと(ほぼ1/4に抑えられた)、リアル展示会より気軽にアクセスしていただけることなどだそうです。また、デメリットとして、対面でないために出展側・来場者側、双方の熱量が伝わりづらく、文字、画像、動画のみでは来場者の興味を引くことが難しいと感じたと言います。
内海氏によると、現時点ではオンライン展示会よりもリアル展示会が良いと感じているそうですが、並行して実施することができれば相乗効果も見込めると考えられるため、その場合は別途検討していくそうです。確かに電子機器のボードは、口頭やチャットの説明だけではなかなか機能性や魅力、アドバンテージなどを伝えにくいかもしれません。
リアルの「Japan IT Week [春]」から少し時期を遅らせて開催された「Japan IT Week オンライン」。取材に応じていただいた出展社は遠隔での対応がスムーズでしたが、ほかの出展社では対応に戸惑う様子もうかがえました。次回(第2回)のオンライン展示会は2021年12月1日(水)から3日(金)まで開催される予定だそうです。
文・写真/石田雅彦
参考情報
・LoRaWANは、Semtech Corporationの登録商標です。
・UNISONetは、ソナス株式会社の登録商標です。
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