「世界一」のスーパーコンピュータを作る日本が、なぜデジタル時代の「勝ち組」になれないのか (1/3)

浅羽 登志也(株式会社情報工場 シニア・エディター)
浅羽 登志也
株式会社情報工場 シニア・エディター

国産スーパーコンピュータ「富岳」が8年半ぶりに「世界一」に返り咲き、日本の半導体およびハードウェア技術が今なお世界水準であることが立証された。しかし、米国発のGAFAは、ソフトウェア技術と大量のデータを駆使して巨大プラットフォーマーに成長した。モノづくり産業の未来も「デジタル化」にかかっているのは間違いない。世界に誇れるハードウェア技術に、いかにソフトウェアおよびデータ解析の技術を上乗せできるか。それこそが、日本が科学技術立国として復活するカギになるはずだ。今後の日本におけるモノづくりの課題を、2冊の書籍から考察したい。

速さよりも使い勝手を重視した、日本のスパコン戦略の勝算はいかに

『「スパコン富岳」後の日本』
  ── 科学技術立国は復活できるか


小林 雅一 著
中央公論新社(中公新書ラクレ)
2021/03 224p 924円


スパコン「富岳」、3期連続世界ナンバーワンの快挙

2021年6月28日、理化学研究所と富士通は、共同開発したスーパーコンピュータ「富岳」の快挙を発表した。半年ごとに実施されるスパコンの計算速度などを競う世界ランキングで、全5部門中4部門で1位を獲得したのである。しかもこの成績は、前年の6月と11月に続く「3期連続」のものだった。

富岳が1位を獲得した4部門には、AIの処理能力やビッグデータの解析性能を競う部門も含まれる。富岳はただ速いだけではなく、先進的な分野での活用も期待できるスパコンなのだ。

本書『「スパコン富岳」後の日本』は、国産のスパコンが世界一であることの意義や、富岳の快挙に至る道のりを詳しく解説。さらにさまざまな分野における最前線の研究者へのインタビューなどから、科学技術立国日本の将来を展望する。

著者の小林雅一氏はKDDI総合研究所リサーチフェロー。著書に『AIの衝撃』『ゲノム編集とは何か』(ともに講談社現代新書)などがある。


富岳の利点は、計算速度よりむしろ「使い勝手」の良さ

2011年11月にも、同じ理化学研究所と富士通の共同開発によるスパコン「京」が、同世界ランキングで1位を獲得している。だが小林氏は、京がその後の日本の産業競争力強化につながらなかったことを指摘する。

その一因は、京がSPARCというアーキテクチャ(基本設計)を採用したことにある。SPARCは当時主流ではなく、産業界で幅広く使われていたアプリケーション・プログラムが使えなかった。そのため、企業による京の利用が進まなかった。

この反省から、富岳ではSPARCの代わりにARMを採用した。ARMは現在主流のアーキテクチャであり、スマホやタブレットでは事実上の業界標準。さらに、より大型で高性能のコンピュータにも市場を拡大しつつある。

ARMを採用した富岳は、その気になればパワーポイントのような身近なアプリも使えるという。それくらい使い勝手の良いスパコンなのだ。


超高性能のスパコンが開発できても活用できる人材が少ない

では富岳があれば日本の科学技術の将来は安泰なのか。どうやらそうとは言い切れないようだ。

本書には、創薬シミュレーションの専門家である京都大学の奥野恭史教授へのインタビューが掲載されている。その中で奥野教授は、日本ではスパコンでシミュレーションができる科学者の人数が、実験ができる科学者の人数の1%程度と極端に少ないことを懸念している。

つまり、せっかく富岳のような超高性能で使い勝手の良いハードウェアが開発できても、それを活用する人材が不足しているのが、科学技術立国をめざす日本の現状なのである。


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