高血圧症患者のためのオンライン診療、通院せず自宅で薬を服用し続ける仕組みとは~医療現場に聞く遠隔医療のものづくり(7)

INTERVIEW

一般社団法人テレメディーズ 代表理事
医師・医学博士

谷田部 淳一

高血圧症は、がんに次ぐ日本人の死因である脳心血管病の重大な危険因子であり、現在日本には約4,300万人の患者がいると言われています。高血圧症の治療は適切な血圧値を維持するための薬を服用し続ける必要がありますが、多くの患者は薬をもらうための通院が続けられず治療を中断してしまうといいます。今回は、高血圧症患者が通院せず自宅でも薬を服用し続けられるサービスを提供している一般社団法人テレメディーズの谷田部淳一医師に、高血圧のオンライン診療の仕組みと今後と課題についてお話を伺いました。

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病院で測定した収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上、家庭で測定した収縮期血圧が135mmHg以上、拡張期血圧が85mmHg以上の場合を高血圧といい、どちらか一方でもこの値を超えていると高血圧症と診断されます。しかしこの基準値を知っている人は少ないかもしれません。高血圧症は、がんに次ぐ日本人の死因である脳心血管病(脳卒中や心疾患)の重大な危険因子ですが、そのリスクをきちんと認識している人は少なく、治療対象なのに治療を受けていない人も多いのが現状です。

一般社団法人テレメディーズ(telemedEASE)は、この状況を変えるため、2019年から、高血圧オンライン診療支援サービス「テレメディーズ(R) BP」の提供をスタートさせています。国内初の「自宅で受診でき、降圧薬も郵送で受け取れる」サービスはいかにして生まれたのでしょうか。

高血圧症患者が治療を受けない理由、薬をもらうための通院が続けられず

日本高血圧学会が発表した「高血圧治療ガイドライン 高血圧の話」によれば、現在日本には約4,300万人の高血圧症患者がいると言われています。実に日本人のおよそ3人に1人が高血圧という状況にあり、まさに国民病と言っても過言ではありません。高血圧となる原因には、肥満、塩分の摂りすぎ、ストレス、喫煙、飲酒などが挙げられます。ただし、これらに気をつければ問題がないというわけではありません。どんな人でも通常、加齢とともに血管が硬くなり、血圧は上がっていきますので、特に生活や体調に変化がなくてもいつの間にか高血圧になっている人は大勢います。

高血圧は単純に血圧が高いというだけにとどまらず、糖尿病や脂質異常症と同じ生活習慣病のひとつ。放置しておくと動脈硬化が進み、心疾患や脳血管疾患を起こすリスクが高くなります。心疾患や脳血管疾患を発症すると、命の危険が高まるだけでなく、助かったとしても半身まひなど大きな後遺症が残ることもあるのです。

高血圧は治療が必要な病気です。治療は患者にとって負担の大きなものではなく、基本的には治療薬(降圧剤)を服用するだけです。ただし、適切な血圧値を維持するためには治療薬を服用し続ける必要があります。

しかし 「自覚症状」がないことから治療を受けずに放置している人が多数います。高血圧だからどこそこが痛い、高血圧だから体がだるい、といった特定の症状がないのです。そのため血圧計で測って血圧が高くても病院に行かなかったり、高血圧症と診断されて治療薬を処方されても、薬をもらいに行くための通院が面倒になって治療を勝手に中断してしまう人も多いのです。

また血圧は、測定する時間帯や、測定前の運動や食事、緊張状態などによってバラつきが出ます。測定した時にたまたま低く出る場合もありますし、また高い数値が出ても、「たまたま高かっただけではないか」と考える人もいます。

そうして、無症状のまま、大切な血管や臓器を蝕んでいくため、高血圧は「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれ、私たちの健康長寿をおびやかす大きなリスクになっています。

2014年の調査結果によれば、医療機関で治療を受けている高血圧患者は約1,010万人。約4,300万人いる高血圧症患者のうち、約3,000万人もの人が高血圧を放置して治療を受けていません。日本人の4人に1人が危険な状態にあるのです。家庭用血圧計などの普及により、診断も比較的容易となり、よい治療薬もたくさんあるにもかかわらず、多くの人はきちんと血圧をコントロールできていない──これは「高血圧パラドックス」と呼ばれ、問題視されています。

「高血圧治療のガイドラインも整い、使える降圧薬もある状態なのに、高血圧症患者を取り巻く環境はこの10年ほど変わっていません。約4,300万人のうち、約3,000万人が高血圧の治療をしていないという状況を変えるために、通院のいらないオンライン診療が効果的ではないかと思ったのです」(谷田部氏)

一般社団法人テレメディーズ代表理事であり、医師・医学博士の谷田部淳一(やたべ・じゅんいち)氏はこのように語ります。谷田部氏は約20年にわたって、高血圧の診療と研究を行ってきた人物。そんな谷田部氏が高血圧のオンライン診療に取り組み始めたのは2016年のこと。その年の11月に開催された第2回未来投資会議で、当時の首相であった安倍晋三氏がオンライン診療やセンサー、ロボットの積極的な活用推進の意向を明らかにしたことをきっかけに、オンライン診療の有効性と安全性に関する臨床試験に取り組み始めます。

「それまでオンライン診療は離島やへき地などで例外的に行われるもの、と解釈されてきましたが、2015年に厚生労働省が『離島やへき地はあくまで例示』との通知を出したことで状況は一変し、さらに安倍さんの発言でオンライン診療を活用する機運になっていきました。それで臨床試験に取り組むことにしたのです」(谷田部氏)

高血圧のオンライン診療、自宅で通信機能付き血圧計で測定し薬は郵送

Bluetooth通信機能搭載のオムロンヘルスケアの自動血圧計(左)はアプリと連携して自己血圧測定を行ったデータ(右)を蓄積できる
Bluetooth通信機能搭載のオムロンヘルスケアの自動血圧計(左)はアプリと連携して自己血圧測定を行ったデータ(右)を蓄積できる


当時、東京女子医科大学医学部内分泌内科学講座講師を務めていた谷田部氏は、2016年9月にシステム開発を行うポート株式会社と協同で、都市部での医療受診の利便性向上に向け、「都市型遠隔診療の効果実証研究」を開始します。

この研究は高血圧症の患者が、オムロンヘルスケア社製の上腕式自動血圧計を用いて家庭での血圧測定を週3回以上実施し、自己所有の通信機器(スマートフォン等)を介して測定データを随時サーバーに送信するというもの。担当医は患者の血圧データを参照して治療方針を決定します。テレビ電話に加え、必要に応じてチャットやメールなどの通信手段を用いて所見と治療方針を患者に伝えます。治療薬は郵送します。

この実証研究を進めつつ、谷田部氏はオンライン診療が保険適応となった2018年5月17日(高血圧の日)に、高血圧症のオンライン診療の普及支援を目的に一般社団法人テレメディーズを設立したのです。

そんな谷田部氏の思いに共鳴したのが、家庭用医療機器メーカーのオムロンヘルスケアです。同社は家庭での血圧測定の頻度を高めて、危険な血圧変動をとらえ、疾病リスクを予測し、発症を防ぐ「脳・心血管疾患の発症ゼロ(以下、ゼロイベント)」の実現に向けて、さまざまなチャレンジを続けています。

オムロンヘルスケアの臼井弘(うすい・ひろし)氏は「弊社は地球上の一人ひとりの健康で健やかな生活への貢献というミッションのもと、生活習慣病の予防や治療に貢献すべくグローバルで事業を推進しております。おかげさまで、弊社の家庭用血圧計は今年、全世界累計販売台数3億台を超える見込みです。」と言います。

もともと、同社は谷田部氏と10年以上の付き合いがあったそうですが、「谷田部先生が新たに法人を立ち上げ、社会をより良くするための事業に挑戦するならば、何らかの形でご支援したい」ということで、共同事業検証の下、オムロンヘルスケアはテレメディーズに一部支援を行っています。

「どうしても通常の外来診療ですと、多忙な日常を過ごしている患者様は、通院する日程が立てられず、処方薬が切れてしまうなどの悩みを抱えることがあります。

一方で、テレメディーズの仕組みであれば、処方薬が切れる前に、オンラインで診療を受けることができ、自宅に薬が届くので、処方薬が途切れることを抑制できます。また、通信機能付きの血圧計で、家庭血圧をモニタリングしているので、現在の処方薬が合っているかどうかも確認でき、服薬しているのに早朝に血圧が高いなど、効果が出ていない場合に診療予約を早め、診断の上、処方を変更するなど、血圧コントロールに向けた打ち手を行いやすいというメリットがあります。

高血圧のオンライン診療に、家庭用血圧のモニタリングを組合せることは、日本の血圧コントロール率改善に寄与できると感じ、谷田部先生の取り組みを支援するカタチになりました。」(臼井氏)

2019年5月には東京女子医科大学との共同研究が完了。その研究において、高血圧診療は対面に比して、オンライン診療の方がより適切に血圧値をコントロールできるという結果を得られたことから、テレメディーズはオムロンヘルスケア、ポートの協力も得て、2019年5月にオンラインを活用した高血圧診療支援サービスをリリースします。

同サービスでは、ユーザーは自宅にいながらスマホやパソコンを通じて、オンラインで医師による高血圧治療を受けられます。ユーザーは、通信機能付き血圧計を使用して、家庭血圧を測定。測定データは、ポートが提供するオンライン診療プラットフォーム「ポートメディカル」とテレメディーズが提供するオンライン高血圧診療パッケージ「テレメディーズ(R)BP」を介して医療機関と共有され、高血圧治療に活用されます。ユーザーは、いつでも自分の治療状況や治療方針などを確認できます。料金は月額4,600円。この料金にコンサルタント料、診察料、薬剤費、送料などがすべて包括されています。


オンライン診療の低い認知度が課題

高血圧オンライン診療支援サービス「テレメディーズ(R) BP」のサービスの特徴 (提供:一般社団法人テレメディーズ)
高血圧オンライン診療支援サービス「テレメディーズ(R) BP」のサービスの特徴 (提供:一般社団法人テレメディーズ)


サービスの提供開始から2年。コロナ禍も相まって「オンライン診療」には注目が集まっていますが、谷田部氏は「課題はまだまだある」と言います。

「私たちのオンライン診療支援サービスはまだ全然広まっていなくて、そもそも認知すらされていません。例えば、『オンライン診療を受けたことありますか?』と1万人にアンケートをとったところ、1%の人が利用しましたと回答しました。つまり100人です。その100人の中から高血圧症状でオンライン診療を利用した人は5人。1万人中5人しかオンラインで高血圧の治療していないわけです」(谷田部氏)

しかし、高血圧症のように基本的に薬を飲み続けていればコントロールできることであれば、オンライン診療をもっと活用できる可能性があると言います。

「実際、臨床試験でオンライン診療を利用した人や、私たちのオンライン診療支援サービスで高血圧治療をされている人の8割くらいは目標血圧に達しています。定期的に血圧を見て途切れのない治療を行っていくためのツールとして、家庭血圧計のテレモニタリング、オンライン診療は有効です。しかし、そういう治療手段があることがあまり知られていないので、何とか認知を広げ、最終的にはゼロイベントが実現したらいいなと思っています」(谷田部氏)

また、オンライン診療で高血圧症の治療を始めた人たちに、『高血圧とわかってから治療を開始するまでにどのくらいかかりましたか?』とアンケートをとった結果、『3年以上』と回答する人が半分以上。残りの半分は1〜2年と回答しています。自覚症状がないため、多くの人が高血圧と気づいてから、1〜3年程度は様子見をしてしまうのです。

テレメディーズのオンライン診療支援サービスには「相談チャット」が主なモニタリングコースというサービスも用意しているため、「どこのクリニックに行けばいいかわからずに治療をせずにそのままにしているならば、オンライン相談からでもいいので、モニタリングコース等を利用して相談してほしい」と谷田部氏は言います。

オムロンヘルスケアの臼井氏は、
「オンライン診療や家庭での血圧モニタリングを活用すれば、血圧をコントロールできている人の割合をもっと増やすことができると考えています。日本のガイドライン、処方薬は優れています。通信やテクノロジーの進化とともに、もっとオンライン診療や血圧のモニタイングが社会に根付いていき、より良い治療環境が実現していくことを後押ししていきたいと考えています」と語ります。

オンライン診療を活用することで、高血圧症の治療をより身近なものに──そんなテレメディーズの挑戦は始まったばかりです。

「私は患者さんによく『毎朝血圧を測るのは、挨拶するのと同じ。血圧をきちんとコントロールするのは、顔を洗ったり歯を磨いたりするのと同じ』と話しています。血圧も身だしなみの一つとして、当たり前のように気にしていただければと思います」(谷田部氏)


文/新國翔大


参考情報
・telemedEASEは、谷田部 淳一氏の登録商標です。

▽医療現場に聞く遠隔医療のものづくり

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