都市鉱山リサイクル技術によって廃電子基板から金属を抽出し再利用~都市鉱山リサイクルが重要視される背景とは

INTERVIEW

アステック入江 FM事業部
技術グループ
マネージャー 高橋 宏幸

総務グループ/技術グループ
水江 太一小森 裕司

都市鉱山の存在が知られるようになったのは、2017年東京大会でアスリートに授与される総計約5000個の金・銀・銅メダルの材料を都市鉱山からつくるという取り組みからでした。都市鉱山リサイクルでは、スマートフォンなど電子機器基板等に含まれている金・銀等の貴金属やレアメタル(希少金属)をどのように抽出するのでしょうか。今回は、廃電子基板から金属を抽出し再資源化している株式会社アステック入江に、都市鉱山リサイクルの重要性や、都市鉱山リサイクル方法、エッチング用塩化鉄液のリサイクル方法についてお話を伺いました。

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今や私たちの生活には欠かせない、パソコンやスマートフォン、デジカメやゲーム機などの電子機器。これらに使用されている電子基板などには金・銀・銅などの貴金属やレアメタル(希少金属)が含まれていることから、都市にある鉱山という意味で「都市鉱山」と呼ばれています。

天然の鉱山は、採掘に膨大なエネルギーと水を使用し、大量の廃棄物を出し、また森林の伐採や地下水脈の汚染、労働搾取や健康被害、マフィアの資金源となるなど、さまざまな問題を引き起こします。また、地下資源の採掘、鉄道や船舶による鉱石の輸送、金属の精錬のプロセスで、多くの化石燃料を使い、大量のCO2を排出します。SDGsの課題となっている項目が非常に多いのです。そのように天然の鉱山から金属を抽出するプロセスに比べ、都市鉱山からリサイクルによって金属を回収するプロセスは、環境や社会に与える負荷を大きく削減できるのが特徴です。

また天然の鉱石に比べ、廃電子基板は金属の含有率が非常に高いのも特徴です。自然の金山から採られる金の含有率は、金鉱石1tあたり約5gしかありません。森や山を切り崩して採掘した石のほとんどが廃棄物となるという事実も、いかに鉱山採掘が環境にダメージを与えるものであるのかを物語っています。一方、携帯電話1t(約1万台)あたりの金の含有率は約280g。58倍にも及びます。それでも廃棄物を出すわけですが、残りの銅や鉄、レアメタル、プラスチックなどもきちんとリサイクルされれば環境問題はかなり抑えられます。

このような背景から、都市鉱山リサイクルのニーズが高まっています。

都市鉱山リサイクルの重要性と日本の取り組み

金や銅、レアメタルなどが濃縮されている廃電子基板
金や銅、レアメタルなどが濃縮されている廃電子基板


日本は天然資源の少ない国として知られていますが、都市鉱山に関しては世界有数の資源国と言えます。例えば、2008年にNIMS(国立研究開発法人物質・材料研究機構)が発表した試算によれば、日本でそれまでに蓄積された都市鉱山の金は、6,800tとされています(すでに地中に埋められてしまってリサイクル不可能なものも含む)。これは世界の金の産出国の上位の国の埋蔵量に匹敵します。

人類がこれまでに採掘して精錬した金の総量はおよそ18万tで、現在、世界の地中に天然鉱石として埋蔵されている金の量は5万4,000tほどと言われています(新たな金鉱脈が発見されれば増える)。2020年の世界の年間の天然の金の産出量は3,200tですから、このままのペースで掘り続ければ2030年代後半に金の天然資源は枯渇します。都市鉱山がいかに貴重であるか、使用済み電子機器のリサイクルがいかに重要であるか、わかります。

しかし、かつては、使用済み電子機器は一般廃棄物として、その多くが破砕して埋め立て処分されてきました。また違法な回収業者によって不法投棄されたり、違法に海外に輸出されたりして、有害物質の汚染で重大な環境問題も引き起こしてきました。こうした問題は世界中で起こっています。

日本では2001年に「家電リサイクル法」が施行され、テレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンの4品目に関しては回収、分別、無害化、リサイクルが行われてきましたが、それ以外の家電は対象外で、一般ゴミとして処分されてきました。1年間に約65万tの小型家電が廃棄されています。

しかし2013年に「小型家電リサイクル法」が施行され、徐々に回収・リサイクルが進められています。その結果、使用済み電子機器に含まれる有害物質を処理するとともに、金などの希少金属をリサイクルする取り組みが進んでいます。その取り組み例の一つが、2017年4月にスタートした「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」です。

「都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト」は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)でアスリートに授与される、総計約5000個の金・銀・銅メダルの材料を都市鉱山からつくる、というもの。実際、2019年3月末までにメダルの原料として必要な金32kg、銀3,500kg、銅2,200kgをすべて回収しています。この取り組みをきっかけに、多くの人に都市鉱山の存在が知られるようになりました。


エッチング用「塩化鉄液」のリサイクル方法、銅やニッケル等の金属を抽出し再利用

そんな都市鉱山の廃電子基板から、金、銅などの貴金属やレアメタルを抽出して再資源化する「都市鉱山リサイクル事業」を展開しているのが、株式会社アステック入江です。

福岡県北九州市で1910年に創業し、1世紀以上にわたって鉄鋼関連事業を行ってきた同社が、都市鉱山リサイクル事業を立ち上げたのは今から7年前、2014年のことです。その背景には同社が1994年にスタートしたFM(ファインメタル)事業の「塩化鉄液リサイクル」が大きく関係しています。

アステック入江の鉄鋼関連事業から派生したリサイクル事業 (提供:株式会社アステック入江)
アステック入江の鉄鋼関連事業から派生したリサイクル事業 (提供:株式会社アステック入江)


アステック入江のFM事業は主に鉄粉製造、塩化鉄液リサイクルから成り立っています。まず鉄粉製造に関しては、製鉄所転炉工程で発生する浮遊粉塵を集塵装置で集め、そこから回収した粗粒ダストを原料として鉄粉を製造します。鉄粉は塩化鉄液リサイクルに還元剤として使用されるほか、販売もしています。

塩化鉄液リサイクルは、半導体や電子部品の製造におけるエッチングの工程で、不要な金属を腐食するのに使われる塩化鉄液をリサイクルする処理です。銅やニッケル等が溶け込んだエッチング廃液(廃塩化鉄液)から、銅やニッケル等を取り出し、ピュアな塩化鉄液へと再生します。塩化鉄液は何度でもエッチングに使用できます。

廃液中から銅やニッケルを分離・回収するための還元剤として、自社で製造した鉄粉を使用します。塩化鉄液をリサイクルし、抽出した金属を再利用する技術は独自の塩化鉄再生処理プロセスとして、同社は国内で大きなシェアを持っています。

塩化鉄液リサイクルの詳細について、アステック入江 FM事業部技術グループマネージャーの高橋宏幸(たかはし・ひろゆき)氏は、こう説明します。

「塩化鉄液には塩化鉄(Ⅱ)、(Ⅲ)の2種類があり、塩化鉄(Ⅲ)は銅、ニッケルなどの金属を容易に溶解することができるほどの強酸です。この性質を利用し、エッチングで利用しています。ここで言うエッチングとは、電子回路など求める形状を残し、不要な部分を溶解する方法です。

エッチングに使用した後の塩化鉄廃液には銅やニッケル、クロムなどの金属が溶解しており、かつては中和処理を行って処分をしていました。当社は精製した鉄粉を使用することで、塩化鉄廃液から銅やニッケル、クロムなどを分離し、塩化鉄(Ⅱ)を製造。さらに塩素酸化処理を施して、再度エッチング用の塩化鉄(Ⅲ)へと再生するのです」(高橋氏)

還元剤である鉄粉を自社で製造することで、質の高いリサイクルが可能になっているそうです。


都市鉱山リサイクルの方法、廃電子基板を破砕・濃縮し金属を分離・再利用

そこで培った技術を活用し、発展する形で2014年にスタートしたのが「都市鉱山リサイクル事業」です。アステック入江 FM事業部総務グループの水江太一(みずえ・たいち)氏は「塩化鉄液リサイクルの実績を踏まえ、社内で『塩化鉄液を活用して、新しく何かできないか?』といった声があがるようになり、都市鉱山リサイクル事業は立ち上がりました。この事業はアステック入江の技術を集約し、それらを活用した事業」と言います。

具体的にどのような仕組みとなっているのでしょうか。まずは一般的な都市鉱山リサイクルの方法を説明します。小型家電リサイクル法によって回収された小型電子機器は、認定のリサイクル工場で、分解、破砕、選別などが行われます。そうしたプロセスを経て、金やレアメタルなどが多く含まれる廃電子基板は細かく破砕された状態になります。電子基板にはプラスチック製の板に銅や金がめっきされていたり、コンデンサなどの電子部品がはんだ付けされていますが、それらの分離はできていません。この状態で、金属を製造する精錬会社へ販売されます。

破砕された電子基板から電子部品や各種金属を分離、再資源化するのは精錬会社です。精錬する前に、各金属成分を濃縮していくことが重要視されており、そのために廃電子基板を磁選、比重分離、分級などの手法を使って分別することで、濃縮を行っています。それから、化学処理や熱処理を使って金属を分離し、精錬へと進みます。精錬工程に入る前にいかに濃縮するかが重要です。そのため、精錬会社は、できるだけ濃縮された状態の原料を購入したいと考えています。

アステック入江の都市鉱山リサイクルは「廃電子基板から電子部品や各種金属を分離させ、濃縮する点が大きな特徴である」と、FM事業部技術グループの小森裕司(こもり・ゆうじ)氏は語ります。

「私たちの都市鉱山リサイクルはまず、過熱水蒸気を用いて『はんだ』を溶解させることで、廃電子基板を粉砕せずに電子部品を基板から分離します。分離した部品は選別し、それぞれのリサイクル工程に送ります。次に、部品の取れた電子基板やICチップから、金属を回収します。ここで、エッチングに用いる塩化鉄液を利用します。塩化鉄(Ⅲ)の性質を用いることで銅やニッケルを溶解する一方で、金は溶解せずに濃縮することも特徴となっています」(小森氏)


廃電子基板(左)から、はんだを溶解させ電子部品を取り除いたもの(右)
廃電子基板(左)から、はんだを溶解させ電子部品を取り除いたもの(右)


具体的には廃電子基板を塩化鉄(Ⅲ)液に浸透させます。するとめっきされてある金、銅、ニッケル等が電子基板から分離します。ただし、塩化鉄(Ⅲ)液には、銅やニッケルが溶け込みますが、金は溶け込むことはなく、遊離、沈殿します。その液体を濾すことで、金のみを回収することができます。ろ過した液体は廃エッチング液と同様の状態なので、塩化鉄液リサイクルを施し、銅やニッケルを回収します。

小森氏は「非常に単純な方法ですが、銅やニッケルは溶け込んだ使用済みの塩化鉄液、特にニッケルが溶けている液については、私たちが開発したニッケル回収の技術を使って塩化鉄液リサイクルが最も適している」と語ります。現在、アステック入江では年間100tの廃電子基板を処理しているとのこと。


廃電子基板から分離した電子部品の選別作業にAIの活用を

回収した金を金めっきに利用し、マラソン大会などの金メダルを製作
回収した金を金めっきに利用し、マラソン大会などの金メダルを製作


この手法によって回収した金は、もともと基板に使われている金が高純度の金であるため、回収した金も高純度であるのも特徴です。一般的に回収した金は精錬して純金にしてから利用されるのが一般的ですが、アステック入江は回収した金をそのまま金めっきに利用しています。

高橋氏は「純金への精錬工程を省くことで、そのエネルギーコストも省いた環境負荷の小さい金めっきになっている」と語ります。実際、金めっき部分の金は純金相当の純度になっているそうで、アステック入江の都市鉱山リサイクルの技術は、オリンピック・パラリンピック競技大会の金メダルの試作にも活用されました。

また、アステック入江が開発した塩化鉄液のリサイクル技術と、廃電子基板から部品を分離して選別する新しい技術によって、一般的な手法よりもより精密な濃縮が可能となっていることから、「金などの販売先である精錬メーカーからの反応も良い」と小森氏は語ります。

高橋氏は「現在は年間100tほどしか廃電子基板を処理できていませんが、近い将来には年間300tほどを処理できるようにしたい」と語ります。そのために、現在は人手で行っている、分離した電子部品の選別作業にAI(人工知能)の活用も進めている、と言います。

「AIが部品を選別できるようにするためには、AIが部品の種類を把握していなければなりません。そのために現在はAIに部品を学習させているところです。ただ昨年にある程度の目処は立ったので、今年中に実用化できればと思っています」(小森氏)

工業の街・北九州から生み出された都市鉱山リサイクルの技術。金メダルの製作から始まり、その活用方法は今後さらに広がっていきそうです。


文/新國翔大


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