「地熱発電」開発が遅れている要因、そして地熱有望地域開拓のため空中物理探査技術~カーボンニュートラルの実現に向けて(後編)

INTERVIEW

JOGMEC
総務部広報課長
尾崎 敏樹

地熱発電は、輸入に頼らない純国産のエネルギーであり、マグマの蒸気を使ってタービンを回すためCO2排出量が他の再生エネルギーより少ないなどのメリットがあります。しかし、日本はそのポテンシャルを十分に生かしきれておらず、それは稼働までのハードルが高いことが大きな要因となっています。今回も引き続き、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)に、地熱発電開発が遅れている要因を伺うとともに、地熱有望地域開拓のため行われる空中物理探査技術、温泉事業者など地域と共存共栄を図る取り組みについてお話を伺いました。

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前編で、日本は大量の地熱資源に恵まれた世界有数の地熱大国であることをお伝えしました。しかしながら、過去数十年にわたり、さまざまな制約により地熱発電の開発が進まず、そのポテンシャルを生かしきれていませんでした。独立法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(Japan Oil, Gas and Metals National Corporation、以下JOGMEC)は、そのような現状を打破するために、民間企業による地熱資源開発推進のサポートを行っています。

そうした成果として、大規模な地熱発電所としては23年ぶりとなる松尾八幡平地熱発電所(岩手県)が2019年1月に、山葵沢地熱発電所(秋田県)が2019年5月に運転開始しました。さらに今、JOGMECのサポートにより地熱発電プロジェクトが進行しています。

地熱資源開発にはどのようなハードルがあり、JOGMECはそれをどのように解決しようとしているのでしょうか。 前編に引き続き、JOGMEC地熱統括部(現在、総務部広報課長)の尾崎敏樹(おざき・としき)氏にお話をうかがいました。


地熱発電開発が遅れている要因、稼働までの長いリードタイム

地熱発電の開発が遅れている大きなハードルとして、プロジェクトをスタートさせてから実際に発電を始めるためのリードタイムが非常に長いということが挙げられます。そのため、JOGMECでは、開発事業者に対して、財務的支援と技術的支援の2つのバックアップを行っています。

地熱資源開発は次のようなプロセスで進められます。

 ① 地表調査や掘削調査により地熱資源があるかどうかを調べる初期調査(約5年)
 ② 蒸気の噴気試験等を行い、地熱貯留層の存在を確認する探査事業(約2年)
 ③ 環境への影響を評価する環境アセスメント(約4年)
 ④ 地熱発電所を建設する開発事業(約3年)
 ⑤ 地熱発電所の操業開始


この一連の流れを実行するには、10年以上もの歳月を要することになり、その間に多額の投資が必要となります。

そこでJOGMECではさまざまな財務的支援を行って、企業の財務リスク低減に取り組んでいます。前述①の地表調査や掘削調査に必要な経費に対する助成金の交付、②の地熱資源の存在が有望視される地域で探査を行う企業への探査資金出資、④の地熱発電所建設のために必要な掘削やパイプライン敷設に使われる資金の債務保証などを実施し、開発フェーズに応じた支援を行っています。

「リードタイムは長く要しますが、発電所さえ操業開始すれば、後は燃料費がかからないため、非常に低いランニングコストで発電し続けられます」

JOGMEC地熱統括部(現在、総務部広報課長) 尾崎敏樹氏
JOGMEC地熱統括部(現在、総務部広報課長) 尾崎敏樹氏


地熱有望地域開拓のため行われる「空中物理探査」

またJOGMECでは、独自に地熱資源探査などの技術開発に取り組み、より効率的な地熱資源開発をバックアップしています。

まず、新規有望地点の開拓のために、地熱資源のポテンシャルが高いと思われる地域を対象に、ヘリコプターによる空中物理探査を行っています。「空中重力偏差法探査」、「時間領域空中電磁探査」、「空中磁気探査」の3つの手法を使い、データの計測を行います。


新規有望地点の開拓のために地熱資源のポテンシャルが高いと思われる地域を対象に、ヘリコプターによる空中物理探査を実施 (提供:JOGMEC)
新規有望地点の開拓のために地熱資源のポテンシャルが高いと思われる地域を対象に、ヘリコプターによる空中物理探査を実施 (提供:JOGMEC)


空中重力偏差法探査

「空中重力偏差法探査」は、地下の岩石密度の分布を反映する微小な重力の空間変化を捉え、広い範囲の地質構造を詳細に把握することのできる手法です。地下の岩盤の割れ目を重力構造から推定することで、有望な地熱貯留層の発見を目指します。

時間領域空中電磁探査

「時間領域空中電磁探査」は、地下の岩石の電気抵抗の分布を調べることのできる手法の一つです。高温の蒸気や熱水の影響を受けた地下構造や地表の粘土化変質帯等などは電気抵抗が低くなるため、こうした特徴を示すエリアには地熱貯留層の存在が期待できます。

空中磁気探査

「空中磁気探査」は、地磁気の分布を調べることができる手法です。鉄鉱物が熱水によって影響を受けると磁気的な性質が変化します(変質)。そこで、岩石の磁気を調べることで、地下に広がる地熱資源の分布域の推定や、マグマ溜りの深度分布を推測することができます。

これらの空中物理探査を行うことにより、国土情報としてのより正確なデータを取得して広域の地質構造を把握し、新たな視点による地熱有望地域の絞り込みやポテンシャル評価に活用することが期待されているのです。

またJOGMECは、地熱資源開発のリスクをさらに低減させていくため、探査精度の向上、掘削費用・期間の低減を目的とした技術開発を行っています。

「近年では、井戸を掘る際の速度の向上やコストの低減を目的として、ドリルの先端につけて岩石を破壊する部品であるPCD(Poly-Crystalline Diamond、多結晶体ダイヤモンド焼結体)ビットの研究開発に成功しました。今後はその普及が期待されています。」

さらにJOGMECでは、現在、新たな発電技術手法の開発にも取り組んでいるといいます。既存の地熱発電所では、必要な量の蒸気や熱水を安定的に生産できないため、発電出力が変動するケースが見られます。そのような発電所で地下における蒸気・熱水の流動状況を把握しつつ、熱源に人工的に水を送り込むことによる蒸気・熱水の最適化を目指す「人工涵養(かんよう)」と呼ばれる手法や、水圧をかけて地中の隙間を広げて透水性を高める手法の導入を検討しているほか、水蒸気ではなく二酸化炭素を使って発電する方法も研究しています。


地熱発電開発は、温泉事業者など地域との共存共栄を図る

大分県九重町「八丁原発電所」見学ツアーの様子 (提供:JOGMEC)
大分県九重町「八丁原発電所」見学ツアーの様子 (提供:JOGMEC)


JOGMECには、他にも重要な役割があります。それが、地域との共生です。「自然との共生、観光資源の保護を図るため、環境には最大限の配慮をしています。調査工事の現場までの道路周辺の植生を維持したり、掘削機器を景観に馴染む色に塗り替えたり、発電所の建屋を小さくして目立たなくするなど、さまざまな工夫を行っています」

地域との共生を実現するうえで、JOGMECが力を入れているのが、温泉事業者との相互理解です。地熱資源のある地域は温泉地とも重複しています。また、地熱発電も温泉もマグマの熱に由来するものですから、温泉事業者や地域住民が、温泉資源が枯渇するのではないかと不安を感じてしまうケースが多くあるのです。

「地域の理解がなければ、地熱資源開発は進みません。そのため、我々は資源調査を始める前から地域の方々には丁寧な説明を行い、正しい理解を得られるように努力しています。特に日本温泉協会とは頻繁に会合を重ねてきました。以前は地熱発電に反対という立場でいらっしゃいましたが、東日本大震災によりエネルギー問題が顕在化してきたことや、再生可能エネルギーの重要性が広く認識されるようになってきたことから、近年では互いに共存共栄の道を探るべく話し合いを続けています。実際のところ、温泉資源についてはデータが乏しく、科学的な議論や管理が十分に行えないのが現状です。そのため、JOGMECでは資源のモニタリングを実施して、地熱開発が温泉資源に与える影響を精査しています」

日本には地熱資源を産業振興に上手に活用しているお手本のような地域もあります。JOGMECは、地熱資源の有効活用に積極的に取り組むそうした地方自治体をモデル地区として選定する「地熱モデル地区PROJECT」を行っています。全国各地から応募があった結果、モデル地区に選ばれたのは、北海道茅部郡森町、岩手県八幡平市、秋田県湯沢市の3つの自治体でした。

「これらの地域は、地熱発電の排熱や蒸気を温泉旅館や農業用ハウスの暖房に利用するなど、地熱資源を最大限に活用しています。他にも、地熱を利用して水産物の養殖を行ったり、蒸気を使った蒸し料理を郷土料理として提供したり、蒸気を布に直接当てて染色をほどこす『地熱染め』を名産品とするなど、さまざまな工夫を凝らした産業が生まれています。我々はそうした取り組みを全国に発信したり、シンポジウムを開催するなどの広報・理解促進活動を通して、モデル地区の支援を行っています」

このように、地熱発電と共生できる地域が今後もっと増えていくことで、開発がさらにスムーズに進むことが期待されています。


カーボンニュートラルを実現に向けて、地熱発電の普及を

経済産業省は、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標の前に、2030年にエネルギーミックスを達成するという目標を設定しています。「エネルギーミックス」とは、特定のエネルギーに偏らず、さまざまなエネルギー資源をバランスよく組み合わせて電気の安定供給を実現する試みのことです。そのために、現時点で全体の11%となっている再生可能エネルギーの比率を22〜24%程度まで引き上げる方針が打ち出されています。地熱発電はそのうちの1.0〜1.1%を担うことを目標としていますが、それには現在約54万kWの発電設備容量を150万kW程度まで引き上げなくてはなりません。

「全体の1%程度というと少なく思われるかもしれませんが、他国に依存せず安定供給できる環境に優しい優れたエネルギーという点で、地熱発電は重要な位置付けにあります。今後10年で約54万kWを150万kWに引き上げるのはかなりチャレンジングな事業になります。しかし、そうした国のエネルギー政策は、地熱発電を普及させるうえでまさに追い風。2,347万kWという世界第3位のポテンシャルを最大限に引き出すことで、実現にこぎつけたいと思っています」


文/高須賀哲、写真/岡田晃奈

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