宇宙データ活用事例、農業や観光業などにおける最適地発掘〜宇宙ビッグデータの民間活用に向けて(後編)

INTERVIEW

株式会社天地人

COO 百束 泰俊
広報担当 木村 華

キウイの栽培に必要な主な気象条件は、キウイの栽培者が蓄積してきた栽培ノウハウといえます。しかし、実際にある土地で栽培をしてみなくても、衛星リモートセンシングデータと地上で得られるさまざまなデータをかけあわせることで、栽培に適した気象条件を満たすキウイの栽培最適地を見つけることができるといいます。今回は、引き続き宇宙ビッグデータを解析・加工し、ビジネスや公共事業向けに提供している株式会社天地人に、農業や観光業などにおける宇宙データ活用事例などを伺いながら、宇宙ビジネスの今後についてお話を伺いました。

 

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人類はこれまで、宇宙に8,000を超える人工衛星を打ち上げ、そのうちおよそ4,400機が現在地球の衛星軌道を回りながら通信や観測を行っています。その中でも、地球の天候や地形や温度や分布などを観測する人工衛星を「地球観測衛星」と言い、地球観測衛星が獲得するデータを「衛星リモートセンシングデータ」と言います。

日々、膨大な量の衛星リモートセンシングデータが地球に届き、蓄積されています。この膨大な宇宙ビッグデータを、私たち人類はどう活用していったらよいのでしょうか。その取り組みは、まだ始まったばかりです。
宇宙ビッグデータをさまざまなビジネスや公共事業を通じて社会に還元することを目的に、2019年5月に起業したスタートアップが株式会社天地人です。広報担当の木村華(きむら・はんな)氏、取締役COOの百束泰俊(ひゃくそく・やすとし)氏に伺いました。


キウイの最適な栽培地を見つける~宇宙データ活用事例①

前編では、衛星リモートセンシングデータを活用して、高級フルーツなど高付加価値の農作物の栽培に適した「ポテンシャル名産地」を見つけるビジネスモデルをもとに、株式会社天地人が起業したことを述べました。

では、具体的に宇宙のデータを使って、最適な栽培地を見つけるとはどういうことでしょうか。天地人が最初に取り組んだ作物は、キウイでした。ビタミンや食物繊維、カリウム、葉酸など、栄養価が高く、人気の果物であるキウイですが、その産地として有名なのは、ニュージーランドです。

「ニュージーランドに本拠地を持つ、キウイの栽培・販売の大手企業、ゼスプリ・インターナショナル(以下、ゼスプリ)では、ニュージーランド国内だけでは生産量が伸びず、年間を通して供給できないという課題がありました。世界戦略として、自国からの輸出に頼るのではなく、世界のあちこちに契約農家を作りたいと考え、日本でもキウイの栽培適地を探していますが、なかなか見つからずにいます。かたや、日本の農家では、土地に高いポテンシャルがあっても適切な作物や名産品を育てることができず、高齢化で耕作放棄されるなど、土地を活用できていないところがたくさんあります」(木村氏)。

キウイの栽培に必要なおもな気象条件は、早春、霜が降りる日が2日以下であること、1年を通じた最低気温がマイナス3℃以上であること、冬の平均気温が10℃以下であること、夏の最高気温が35℃を超えないこと、南向きの斜面で水はけがよいこと、などです。この条件は、ゼスプリが蓄積してきた栽培ノウハウですが、日本の農家は知りません。

そこで天地人は、JAXAの気候変動観測衛星 「しきさい」(GCOM-C)が観測した地表表面温度のデータ、そして、陸域観測技術衛星 「だいち」(ALOS)が観測した地形の3Dマップをはじめとした衛星リモートセンシングデータに、地上で得られるさまざまなデータをかけあわせ、キウイの栽培に必要な条件の情報を入れ込んでアルゴリズムを組みました。

こうして、データプラットフォーム「天地人コンパス」でキウイ栽培に適する候補地をスクリーニングすることが可能になったのです。

その結果「佐賀県、愛媛県、宮崎県の中に、キウイの栽培最適地が浮上しました。ゼスプリでは、実際に、私たちのデータをもとに、この三県の契約農家で日本国産のゼスプリキウイの栽培を実施しています」(木村氏)。


アスパラガスのハウス栽培や稲作のスマート農業化~宇宙データ活用事例②

「衛星のリモートセンシングデータに加え、地上で取れる降水量のデータや日射量のデータなども幅広く集めて加味し、病害虫の発生、高温での栽培障害、水害などのリスクをマップ化して、総合的に条件を吟味することで、より精度の高い土地選定ができます」と木村氏。時系列での推移を見るために、過去のデータを参照します。

「温暖化で条件が変わってこれまで育てていた作物がうまく育たなくなったという土地でも、作物が変われば最適地になることもありえますし、高級フルーツなど高付加価値の作物の栽培に適していることがわかるという例もあります。『この土地と似た条件の土地』という形でいくつかの候補地を出すこともできます」(木村氏)。

高齢化、過疎化による農業の担い手不足が深刻な山間部などで、高い収益の見込める新たな農作物の可能性が見出せれば、子世代、孫世代や、新規就農希望者に向けて、「戦略的に利益を出せる農業」をアピールすることができます。

ほかにも、アスパラガスのハウス栽培をスマート農業化するプロジェクトが、天地人と、農業資材メーカー「誠和」、明治大学農学部との産学連携で進んでいます。天地人コンパスにより衛星の各種情報(日射量、降水量、温度等)を提供し、誠和の栽培支援クラウドサービス(ハウス内で測定する温度、湿度、CO2濃度)を活用しながら、明治大学農学部が栽培を行い、生産性の最大化を目指しています。


衛星データを活用した効果的なアスパラガスの栽培実証(提供:天地人)
衛星データを活用した効果的なアスパラガスの栽培実証(提供:天地人)


また天地人は2021年、米卸で国内大手企業の「神明」と、スマート水田サービスであるpaditch(パディッチ)(R)を提供する農業ITベンチャー企業「笑農和」と協業し、富山県で稲作のスマート農業化も進めています。天地人コンパスで収穫量が増える圃場や、より美味しく育つ可能性のある圃場を見つけ、スマホで水管理を自動化できるパディッチ(R)で適正な水温・水量維持することで、食味と収量の向上を目指します。収穫したお米は「宇宙ビッグデータ米」と名付けて販売を行う予定です。

一般的に名産地として知られる地域でも、地域内で地形や日射量などの環境が異なるため、さらに細かく見て、より栽培に適した区域を特定していくことも可能になります。同じ県のなかで同じものを作っている競合農家が多い場合でも、天地人コンパスでさまざまな条件をかけ合わせれば、全国的なマーケットで差別化することも可能になります。


キャンプ場の候補地を探す~宇宙データ活用事例③

農業以外では、風力や太陽光などの再生可能エネルギーの発電量推定、土地の沈下など中長期的な視点での土地の評価、災害ハザードマップへの利用、観光地としてのポテンシャルを持つ地域の発掘、道路整備の計画への活用、橋やトンネルなどのインフラの監視など、応用可能性は無限にあります。宇宙のデータを使うことで製品やサービスの信頼性を向上させたいといった引き合いも多くなっていると言います。

最近の例では、2020年10月に6道府県で11施設の運営を行う日本最大級のキャンプ場企画・運営会社「Recamp(リキャンプ)(R)」と提携し、キャンプ場の候補地を探すプロジェクトが始まっています。「宇宙から自然環境を把握してキャンプ場として魅力的な候補地を探し出せること、これまでは取得が難しかったピンポイントの地点の気象データや、日射条件、地表面温度も取得可能であることなどが評価されています。天地人が蓄積している耕作放棄地の情報も併せて、複合的な観点で貢献できると考えています」(木村氏)。

ちなみに、一般的なオンラインマップでは視覚的に環境を把握することはできても、実際にキャンプ地として快適かどうかといった地表の特性まではわかりません。複雑な地形の山間部では、数百m、数十mといったわずかな位置の違いで、日照時間が大きく違ったり、降雨量が違ったり、風の強さが違ったります。天地人コンパスならば、ピンポイントでそれらのデータも見えてきます。たとえば、寝ているあいだに底冷えする場所なのかは、ピンポイントの表面温度の取得でわかります。午後の早い時間に日陰になる場所だったり、風の通り道になっていたり、夜雨が多く、テントが乾きにくい土地を避けることもできます。キャンプ候補地の探索は、自然の資源を活かし、また地域の活性化にもつながります。

宇宙データを、いかにビジネスに活用できる状態に下処理するか

地球観測衛星のデータを活用した土地評価エンジン『天地人コンパス』(提供:天地人)
地球観測衛星のデータを活用した土地評価エンジン『天地人コンパス』(提供:天地人)


百束氏は、さまざまな応用可能性があるが、まずは引き合いのあった企業に合わせて、天地人コンパスを応用し、事業を拡張していきたいと語ります。「私たちが行っているのは、宇宙データをそのまま渡すのではなく、ビジネスに活用できる状態にしてお渡しするということです。各企業が料理人だとすれば、野菜を畑から取ってきたままではなく、洗ったり、へたを取ったりして、使いやすい食材にして渡すのが私たちです」(百束氏)。

公開されている宇宙データを、いかに下処理するか。データ解析と加工の技術の高さ、専門性の高いAIのアルゴリズムの設計、組み合わせるデータの工夫などに天地人の優位性があります。

「宇宙ビジネスは現在、民間に普及するまでの過渡期にあり、人工衛星の開発と打ち上げに何百兆円という単位のお金が投資されています。これまでは国が牽引する研究として、それは非常に価値のあることでしたが、これからは、そこで得たデータや副産物をきちんと地上のビジネスで活用し、社会全体の価値に変えていかなければなりません」(百束氏)。
 
人工衛星の打ち上げやロケットの建設ではない、宇宙ビジネスとしての宇宙ビッグデータがごく当たり前に使われ、さまざまな産業をうるおし、毎日の暮らしが恩恵を受ける日が来るのもそう遠くないでしょう。はるか宇宙から届くデータが、私達80億人の地上の生活を変えることは、ごく限られた一部の人が宇宙旅行をすることよりも、おもしろいことではないでしょうか。


文/奥田由意



参考情報
・paditchは、株式会社笑農和の登録商標です。
・Recampは、株式会社Recampの登録商標です。

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