衛星リモートセンシングデータが、民間で十分に活用しきれていない理由とは〜宇宙ビッグデータの民間活用に向けて(前編)

INTERVIEW

株式会社天地人

COO 百束 泰俊
広報担当 木村 華

現在地球の衛星軌道を回っているおよそ4,400機の人工衛星の中で、地球の天候、地形、温度分布などを観測する人工衛星を「地球観測衛星」と言い、この衛星が獲得するデータを「衛星リモートセンシングデータ」と言います。観測衛星から得られる膨大な量のデータの多くは公開されていますが、気象情報や地図以外の分野で十分に活用が進んでいません。今回は、それらのデータを民間や行政が活用できるように解析、編集し宇宙ビジネスを展開しているJAXA認定スタートアップの株式会社天地人に、宇宙データが民間で十分に活用しきれていない理由や同社の創業ストーリーについてお話を伺いました。

▽おすすめ関連記事

人類初の人工衛星は、1957年にソビエト連邦が打ち上げたスプートニク1号です。その翌年、人類初の快挙をライバル国に奪われたアメリカはエクスプローラー1号を打ち上げ、それから両国は熾烈な宇宙開発競争を繰り広げます。それから世界の先進国はこぞって宇宙開発を始めました。日本は1970年に打ち上げた「おおすみ」が初めての人工衛星です。

そして現在まで、8,000を超える人工衛星が打ち上げられてきました。NASA(アメリカ)、JAXA(日本)、ROSCOSMOS(ロシア)、ESA(欧州)、CNSA(中国)など、多くは国や地域に関連する宇宙開発機関によって打ち上げられてきました。現在は70を超える国と地域が人工衛星を保有し、近年は民間企業や大学の人工衛星も増えています。役目を終えたり故障して、高度を下げて落下した人工衛星や、スペースデブリとなってしまったものを除いても、およそ4,400の人工衛星が現役で使われています。

それだけの人工衛星が地球の衛星軌道上を回っており、それらの人工衛星から得られる膨大な量のデータの多くは公開されていますが、十分に活用しきれていないと言います。それらのデータを民間企業や行政機関が活用できるように解析、編集し、地上で得られるデータとも組み合わせ、宇宙データプラットフォームとして提供するのが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)認定スタートアップの株式会社天地人です。

人工衛星から得られるデータにはどんなものがあるのか、同社の提供する宇宙データ「天地人コンパス」の強みはなにか、どのような産業やビジネスに応用できるのかを、株式会社天地人広報担当の木村華(きむら・はんな)氏、取締役COOの百束泰俊(ひゃくそく・やすとし)氏に伺いました。

人工衛星の種類、「通信・放送衛星」「測位衛星」「地球観測衛星」

人工衛星にはさまざまな目的や用途がありますが、人工衛星には大きく分けて、通信・放送衛星、測位衛星、地球観測衛星の3種類があります。

通信・放送衛星

通信・放送衛星は、衛星放送や携帯電話などの情報通信に使われます。地上の送信局から送ったデータをいったん人工衛星で受け取り、人工衛星から地上の各受信局に送信します。 

測位衛星

測位衛星は、GPS(全地球測位システム)などの衛星測位システム(GNSS)が位置情報を計測するのに必要な信号を送信する人工衛星を指します。複数の衛星から同時に電波を発し、地球上で受信したカーナビやスマートフォンの位置を割り出します。異なる場所にある衛星が信号を発信した時間と、端末がその信号を受けた時間の差から、衛星からの距離を測定し、地球上の位置を測定します。今後普及する自動運転車には欠かせないデータです。

地球観測衛星

地球観測衛星は、リモートセンシング技術を使って、衛星に載せた測定器(センサー)で地球の表面を観測することを目的としています。気象情報や地形情報が典型的です。もう少し詳しく言えば、オゾン層破壊の様子、火山の噴火活動、天災の被害状況、流氷の様子、台風・降雨の様子、地球規模の気候変動、市街地、森林、農地などの土地の利用状況、植物の分布状況、原油流出事故などによる海洋汚染の被害状況、海面温度及び植物性プランクトン濃度などがわかります。

リモートセンシングに使われるのは、光を測る「光学センサー」と電波を測る「マイクロ波センサー」の二種類です。
光学センサーのうち、可視光線や赤外線を測るセンサーは、太陽光線があたって跳ね返る可視光線や近赤外線の反射の強さで、地表の地形などの形状をとらえます。ただし、夜は太陽光がないため観測できず、雲があっても光線がさえぎられるので観測できません。
熱赤外線を測る光学センサーもあります。太陽の光で暖められた地表の表面から放出される熱赤外線をとらえることで、火山活動や、地表の表面温度を測ります。こちらは雲がなければ夜でも観測できます。
 
マイクロ波センサーでは、可視光線や赤外線よりも波長の長いマイクロ波(電波)を観測します。マイクロ波は暗闇でも観測でき、厚い雲も通りぬけるため、昼夜を問わず、天候にも左右されずに観測を行うことができます。地表面から自然に放射されるマイクロ波を拾って観測するものと、観測衛星からマイクロ波を発射して、地表で跳ね返るマイクロ波から観測するものがあります。


地球観測衛星からの「リモートセンシングデータ」が、民間で十分に活用しきれていない理由

JAXA人工衛星「だいち」の衛星画像。東京都中央区とその周辺地域:(C)
JAXA人工衛星「だいち」の衛星画像。東京都中央区とその周辺地域:(C)


「大きく分けて3種類ある人工衛星のうち、通信・放送衛星と測位衛星の2つはすでに、私たちの生活の中でも多く活用されており、ビジネスでも利用されています。一方、衛星リモートセンシングデータは、気象情報や地図にはもちろん使われていますが、それ以外の分野ではまだまだ活用が進んでいません。JAXA、NASAをはじめとしてたくさんの地球観測衛星のデータが公開されています。

これらをうまく活用すれば、一次産業を含むさまざまなビジネスにイノベーションが起こせたり、都市開発や防災、環境保全などにも役立てる貴重な情報を含んでいるにもかかわらず、世界中の企業や、国や自治体などで、十分に活用しきれていないのです。というのは、データが膨大すぎて、ビジネス用途として、切り出して使うことが難しいからです」(木村氏)。

テクノロジーの先端企業が開発するリモートセンシングの測定器(センサー)は日々進化し、分解能が高まっており、データの質は上がっています。数十cmの単位まで分解できるようになりつつあります。

一方で、データの量も今後、増えていきます。従来、軍事目的をはじめ国家主導で進められてきた地球観測は分解能を高めることに注力し、そのために人工衛星は大型化してきました。コストも高く、1プロジェクトに1機の人工衛星というのが基本でした。しかし1機のみの人工衛星では、同じ地点を観測できるのは数日〜数週間に1回程度です。

しかし最近、小型人工衛星を数十機から数百機用い、地球を覆うように配備して観測する「コンステレーション(Constellation、星座)」という構想が出てきました。基本的に、1機1機に搭載する観測装置のコストを下げるため、大型装置に比べて分解能は落ちますが、その反面、撮影頻度を増やすことができます。同じ地点を1日に何度も観測でき、刻一刻と変化する様子を細かく観測していくことが可能になるのです。コンステレーションには日本のスタートアップ企業「アクセルスペース(Axelspace)」が取り組んでいます。

このように、宇宙データは質、量ともに高まっています。そうでありながら、民間の「宇宙データ活用」は進んでいないというのです。

確かに、JAXAやNASAから公開されている地球観測データの中から、民間の企業や地方自治体が必要なデータを抜き出し、独自に分析を行い、事業に結びつけるのというのは、ハードルが高いかもしれません。リモートセンシングの知見、データ解析の知見の両方が必要になるからです。将来、宇宙ビッグデータ解析の専門家を育成する学部が増えるかもしれませんが、今はまだそれができる人材はそれほど多くはありません。

そこで天地人は、人工衛星からのリモートセンシングによって取得された膨大なデータを解析する独自のアルゴリズムを開発。さらに、地上で測定されるさまざまなデータを組み合わせ、解析・加工し、土地評価を行うデータベース「天地人コンパス」の形で提供しています。企業や自治体の地球観測データ活用をサポートしているのです。

「農業や漁業などの一次産業だけでなく、不動産、エネルギー、都市開発、インフラメンテナンスなど幅広い分野での適用の検討を進めています」と木村氏。同社は日本の人工衛星だけではなく、NASAや欧州のConstellRの衛星のデータも提携して利用しています。



膨大な衛星データを解析・加工し、民間に土地評価を行うデータベースを提供

天地人は、もともとIoT農業のウェブ・アプリ開発やサービスマネジメント、新規事業開発などに関わった経験を持つ桜庭康人(さくらば・やすひと)氏と、JAXAで人工衛星のハードウェアの開発に携わっていた百束泰俊氏らがチームを組み、設立しました。
百束氏は、JAXA主任研究開発員として、日米をはじめ国際協力のもとに世界中の雨や雪を観測する全球降水観測計画(GPM)の「GPM主衛星」や、二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスの濃度分布を宇宙から観測する「いぶき2号衛星」の全開発工程を経験。NASAゴダード宇宙飛行センターの駐在経験もあります。

「JAXAでの仕事は研究開発が主で、とてもやりがいがありますが、私たちが作って打ち上げた人工衛星のデータが社会で十分に活用されているかと考えると、残念ながら今ひとつその実感がありませんでした。そこで、JAXAの中で、衛星データをどう活かすかという議論をしていました。国家プロジェクトとして、多くの税金を使って得られた貴重なデータなのだから、もっと民間企業の方々や生活者の方々がその恩恵を受けることができるよう、ビジネスにも活用できないかと考えていたのです。そのテーマの一つが農業でした」(百束氏)。

そんな折に、IoT農業スタートアップ企業「SenSprout(センスプラウト)」のマネージャーだった桜庭氏と百束氏との出会いがありました。
SenSproutが高機能ビニールハウスソリューションを提供していることもあり、出会ったその日に「衛星データから海上の栽培適地を見つけ出し、ビニールハウスを海に浮かべ、作物を育てる」というアイデアが出てきたそうです。2人を中心としたメンバーはそこからビジネスモデルを練っていきました。

そして、内閣府主催の宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster 2017」に、「ツナガル次世代農業 Smart Agri Floatプロジェクト」というタイトルで出場します。結果は残念ながら最終選抜会で敗退しましたが、メンバーの情熱が冷めることはありませんでした。ビジネスアイデアを練り直し、翌年行われた「S-Booster 2018」に再び応募します。

そこでプレゼンしたのは、「宇宙から見つけるポテンシャル名産地」というプランです。農産物にはそれぞれに栽培に適した条件が異なります。特に果物はその条件が厳しく、栽培に適しているかわかっていない土地が多く存在します。農産物は実際に育ててみなければわからないものですが、特に苗を植えて木を育てて初収穫まで何年も育てなければならない果物はハードルが高いです。

マンゴーやキウイフルーツ、ライチといった高級フルーツは、日本でも栽培可能であり、生産すれば大きな利益が期待できますが、ほとんどの農家はどういう条件が栽培に適しているのかを知らないため、そのことに気づいていません。そこで、目的の農作物の栽培に適した「ポテンシャル名産地」を、衛星データなどを活用して見つけ出そうというのです。これは日本の農業の活性化に結びつきます。

「通常の農業は土地は選べない前提で、その土地でなにを作るのかを考えますよね。でも、私たちのモデルでは、先に育てたい作物があって、この作物に適した農地は、こんな気候で、こんな土壌で、これくらいの降水量で……というように、目的に応じて土地を選ぶことができます。それが我々のアイデアのポイントだったのです」(木村氏)。

衛星データで地域活力を創造する ~キウイフルーツ ポテンシャル名産地発掘プロジェクト~(提供:天地人)
衛星データで地域活力を創造する ~キウイフルーツ ポテンシャル名産地発掘プロジェクト~(提供:天地人)


この時、「天」=衛星データ、「地」=土地のポテンシャル、「人」=栽培ノウハウ、の3つを掛け合わせて新しい農業を作りたいということで、後に社名となる「天地人」というキーワードができました。「S-Booster 2018」では審査員特別賞と2つのスポンサー賞のトリプル受賞。捲土重来を果たしたのです。

桜庭氏と百束氏らのメンバーは、このプランをもとに、2019年5月に天地人を創業。百束氏はJAXA主任研究員を続けながら、天地人の取締役COO(Chief Operating Officer、最高執行責任者)を兼務しています。
「起業においては、社会実装を応援するためにJAXAの知的財産やJAXAの業務で得た知見を利用して事業をおこなう『JAXAベンチャー』の認定を受けました」(百束氏)。

そこに、新規事業開発、衛星画像解析、ビッグデーダ解析、機械学習、衛星ハードウェア開発等、多様な専門性を持つメンバーたちが「宇宙からの情報を使い人類の文明活動を最適化する」というミッションに共鳴し、参画しています。

続く後編では、そんな天地人が行う複数のプロジェクトを紹介します。

文/奥田由意

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)