「モノからコトへ」の価値変革で モノづくりはどこへ向かうのか (1/3)

浅羽 登志也(株式会社情報工場 シニア・エディター)
浅羽 登志也
株式会社情報工場 シニア・エディター

ICTの発展により、近未来の社会が大きく変わるのは間違いない。例えば、すでに「良いものを作れば売れる」という時代は終わりを告げている。これからは、モノを介した「価値」や「体験」の、継続的な提供に成功した企業が顧客に選ばれる。そのような時代に備え、モノづくり企業にはどのような変革が必要となるのか、2冊の書籍から考察する。

Amazonがヘアサロンをはじめる本当の理由

『2025年を制覇する破壊的企業』
 
 山本 康正 著
 SBクリエイティブ(SB新書)
 2020/11 280p 990円



次々に異業種に参入しビジネスを拡張するAmazonの脅威

2021年4月、米Amazonは、英国ロンドンに「Amazon Salon」というヘアサロンを開店すると発表した。

Amazon Salonで顧客は、タブレットでAR(拡張現実)によるバーチャルヘアカラーを試すなど、最新技術を使用したさまざまな「体験」ができる。

なぜAmazonがヘアサロンに進出したのだろうか。

本書『2025年を制覇する破壊的企業』を読むと、その理由が見えてくる。本書では、2025年の世界で大きな影響力を持つと予想される最先端企業11社を分析。その結果をもとに大きな変化のトレンドを読み解き、企業や個人が生き抜くためにどうするべきかを提言している。

著者の山本康正氏は、東京とシリコンバレーに拠点を持つベンチャーキャピタル、DNX Venturesのインダストリーパートナーだ。

相乗効果でビジネスを急拡大する3つの大きなトレンドとは

山本氏が11社の事例から抽出した大きなトレンドは以下の3つ。

 1.業界の壁崩壊とコングロマリット化の再来
 2.ハードでもソフトでもなく「体験」が軸になる
 3.データを制するものが未来を制す

Amazonのヘアサロン業界への新規参入、ARなどの技術を使った顧客の新たな「体験」の提供は、上記の1と2に従う動きだ。

ここで3の動き、すなわち顧客の髪型やヘアカラーデータを蓄積し、Amazonがすでに有する他領域のデータと組み合わせて分析したら、「この髪型にはこの服が似合います」とか、「このヘアカラーに、この色のバッグを合わせてみては?」といったリコメンデーションができそうだ。

すると顧客は、自分自身では思いつかなかった新たなコーディネートを楽しむという、さらに「新しい体験」を得ることができる。

自社の製品やサービスを通じて顧客は何を「体験」するのか

本書には、上記1、2、3に通じる動きとして、ANA(全日本空輸)による、「アバター」を使った取り組みが紹介されている。

ANAは2018年からアバター開発を開始しており、昨年2020年4月にavatarin株式会社を設立。アバターを活用したさまざま新事業開発を本格化した。

顧客は飛行機で移動する代わりに、遠隔地にあるアバターに「アバターイン」する。分身に乗り移るような感覚だ。

その後はアバターを遠隔操作し、街を散歩したり、博物館を観覧したり、ショッピングをしたり、会議に出席したりといった疑似体験ができる。

これはANAが自社の存在意義を、人の「物理的な移動」のみから、「移動先での体験」を含めて提供する、と拡張して捉え直した取り組みといえる。

ビジネスの大きなトレンドに乗るには、まずは自社の商品やサービスが顧客にどんな「体験」を提供しているのか、再定義する視点が重要となろう。


商品やサービス(モノ)ではなく、体験(コト)を売るためのビジネスモデルとは 次ページ

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