「モノからコトへ」の価値変革で モノづくりはどこへ向かうのか (2/3)

商品やサービス(モノ)ではなく、体験(コト)を売るためのビジネスモデルとは

浅羽 登志也(株式会社情報工場 シニア・エディター)
浅羽 登志也
株式会社情報工場 シニア・エディター

商品やサービス(モノ)ではなく、体験(コト)を売るためのビジネスモデルとは

『リカーリング・シフト 製造業のビジネスモデル変革』
 
 青嶋 稔 著
 日本経済新聞出版
 2021/04 288p 2,860円



キリンビールのサブスクリプションサービスが人気に

キリンビール株式会社は、「ビールタップ」という、ビールのサブスクリプションビジネスを展開している。

定額制のこのサービスに申し込むと、無償の専用ビールサーバーが自宅に届く。そして、ペットボトルに入った、でき立ての生ビールが毎月2回送られてくる。

顧客は、これまでは飲食店でしか飲めなかったでき立ての生ビールを、自宅で堪能するという新たな「体験」が得られる。

キリンにとってのメリットとして、季節の限定ビールなどを試験提供し、顧客からダイレクトにフィードバックを得られることがある。それをもとに新たな商品開発に取り組めるというわけだ。

コロナ禍の「巣ごもり需要」にもフィットし、ビールファンの間で大人気だそうだ。

本書『リカーリング・シフト 製造業のビジネスモデル変革』は、サブスクリプションをはじめとする、顧客との継続的な関係をベースにしたビジネスモデルを「リカーリングモデル(リカーリングは繰り返されるという意味)」と呼び、その特徴や移行における課題などを解説する。

著者の青嶋稔氏は、野村総合研究所コンサルティング事業本部フェロー。グローバル事業、技術、電機・精密・素材産業などのコンサルティングを手がけてきた。

納品後の機械の稼働データを介して顧客と「価値共創」を行うコマツ

青嶋氏は、製造業がリカーリングモデルで成功するには、顧客との「価値共創」が重要なポイントになると説いている。

建設機械などを製造販売するコマツは、「コムトラックス」という、販売した機械の稼働情報を収集し、遠隔で稼働やメンテナンスを管理するリカーリングモデルを、世界中で展開している。

このサービスでコマツは、機械の稼働状況をきめ細かに監視し同社に送信する設備を、納品するすべての機械に無料で標準搭載している。

コムトラックスが導入される以前は、顧客側が単独で故障の修理やメンテナンス時期を判断していた。

だが、コムトラックスを搭載した機械の稼働を、コマツが遠隔で常時把握すれば、顧客の利用状況に合ったメンテナンスや、データから読み取った不具合の予兆をもとにした予防保全の提案ができる。また、コマツから送られる利用状況のレポートをもとに、顧客自身が計画を立てることも可能だ。

結果として機械が常に安定稼働し、故障が減り、稼働率が大幅にアップするという「価値」が生まれる。

一方、コマツは、世界中の顧客から収集した膨大なデータを分析することで、サービスの改善や新しいサービスの開発ができ、それによっても新たな「価値」が生まれることになる。

すなわち、コマツと、コムトラックスによるデータの送信に同意した顧客は、顧客の体験価値を「共創」しているのだ。


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