量産試作のための基礎知識(5)~量産を意識した製品設計において気を付ける点、「抜き勾配」「肉厚」「角R」

樹脂部品を生産する際、数百個といった単位で量産するため射出成形という製造方法が使われます。射出成形は、金型を製造する必要があるために初期コストはかかりますが、製品1個あたりの単価を大きく下げることができます。そのためよい量産品を成形するためには、製品設計者自身が金型側の事情をある程度理解しつつ、製品設計にそれを反映させて検討する必要があります。今回は、量産を意識した製品設計において気を付ける点、「抜き勾配」「肉厚」「角R」について解説します。

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樹脂部品を生産する際、数個から数十個程度の生産であれば、3Dプリンターや、切削加工で製造するのが良いかもしれませんが、数百個といった単位で樹脂部品を量産するためには、製造方法として射出成形が良いでしょう。射出成形は、金型を製造する必要があるために初期コストはかかりますが、製品1個あたりの単価を大きく下げることができます。

今回は、射出成形の金型を設計するための基礎知識を学びましょう。実際の金型の製作は加工会社にお願いするので、製品設計者に金型についての詳しい知識が必要なわけではなく、これまで解説したような金型の仕組みや用語について最低限の理解があればひとまず大丈夫でしょう。

前回までには、金型のさまざまな動作や成形品の各部位のことなど、基礎知識について説明しました。まず「ゲート」「ランナー」「スライド」「アンダーカット」「パーティングライン」といった基本的な言葉を知らなければ、金型技術者との打ち合わせや会話ができません。過去の回では、そのための下地となる知識が学べたのではと思います。

今回は、金型での成形を意識した時の製品設計の基本について解説していきます。

量産を意識した製品設計において気を付ける点

量産を意識した製品設計について気を付ける点は多々ありますが、その中でも特に次の5項目は押さえておくべきです。

1. 抜き勾配(こうばい)
2. 肉厚(ヒケやたわみの対策として)
3. 角R
4. パーティングライン
5. アンダーカット

なおパーティングラインやアンダーカットなどがどういうものかについては、連載4回目で説明していますので、そちらをご覧ください。

さて以降では、その一つひとつについて、留意点を解説していきます。

抜き勾配を付ける~量産を意識した製品設計の注意点①

抜き勾配」とは、製品を金型からスムーズに取り出す(離型する)ために必要な勾配のことを言います。プリンなどの製菓の型と同じことで、抜き方向に対して製品の壁が斜めになっていれば、金型から製品が抜けやすいということです。

<図1>は抜き勾配がない状態での断面になります。

<図1>抜き勾配を付ける理由
<図1>抜き勾配を付ける理由

このような図を見ていると、真っすぐでもスムーズに抜けるように思えますが、実際はそうはいきません(ただし、このような形状をスムーズに抜く方法や条件はあります)。

もし抜き勾配がなければ、製品と金型が干渉してしまい、製品不良や金型の破損などの不具合を生じてしまいます。成形した製品が金型に突っかかってしまう、こびり付いてしまう、取り出せないなどです。

一方、次の<図2>のように、抜き勾配が付いていれば、製品と金型が干渉することはありませんので、勾配のないときのような製品不良や金型の破損などは起こりません。このことからも、抜き勾配は金型で良品を成形するためには欠かせないものだということがわかるでしょう。

<図2>抜き勾配を入れたらこすれない
<図2>抜き勾配を入れたらこすれない

抜き勾配は大きいほど金型からの離型性が良くなりますので、大きければ大きいほど良いということになります。一方、勾配の付け方次第で、実際の製品そのものの印象がかなり変わってしまったり、設計で決められた寸法や公差、相手部品との勘合関係などによる制約があったりします。つまり、製品設計においては「勾配の大きさが制約される場合が多い」ということになります。

よって、設計の時点で、勾配による製品形状への影響を考慮する必要があります。たとえば製品のデザインや機能上、「どうしても勾配を入れたくない」場合などは、金型の技術的にうまく解消できないか、金型技術者と一緒に、現実的な案を探ることになります。

肉厚はできるだけ均等に~量産を意識した製品設計の注意点②

成形品の肉厚は、部品を断面で見た際の製品の厚みのことです。成形品の肉厚は薄過ぎても、厚過ぎてもいけません。成形品の大きさや形状の複雑さ、用途、材料などによるので、一概に「何mmの肉厚が良い」とは言えませんが、一般的な雑貨品や自動車部品などの場合、一般的な値とされているのは1~3mmの範囲です。

また、良品を成形するためには、製品の肉厚はできる限り全体で均一とし、強度や剛性が必要な部分はリブなどで補強するのが望ましいです。肉厚が極端に薄くなる、あるいは厚くなる部分があると、ソリやヒケ、ボイドなどの成形不良を引き起こす可能性があります。

<図3>右図のように、製品の肉厚はできる限り全体で均一に
<図3>右図のように、製品の肉厚はできる限り全体で均一に

しかし、製品の機能や用途によっては肉厚を均一にするのが難しい場合もあるでしょう。そのような場合には、急激に肉厚を変化させてしまうのではなく、徐々に肉厚を変化させることで樹脂の流動性を良くして成形不良を回避します。目安としては、「肉厚の変化量tの3倍以上」で変化させるとよいでしょう<図4>。

<図4>肉厚の変化を緩やかにする
<図4>肉厚の変化を緩やかにする

角にR(丸み)を付ける~量産を意識した製品設計の注意点③

身近にある樹脂製品を見てみると、ほとんどの製品の角には丸みが付いています。製品形状の「丸み」のことを、「Round(ラウンド)」の頭文字Rから「R(アール)」と言い、角に付けるRは「角R(カドアール)」と言います。射出成形品では、一見角に見えるような箇所も、よく目を凝らすと微小なRが付いていることが多いので、確認してみてください。

<図5>右図のように、角Rをつけると良い
<図5>右図のように、角Rをつけると良い

製品設計の観点からRを付ける理由としては、大きく以下の2点が挙げられます。

・理由その1:「製品の耐久性」

例えば製品をぶつけてしまった時に、角にRが付いている場合と付いていない場合では、その耐久性が違ってきます。Rが付いていないということは、製品がとがっているわけですから、製品が欠けやすくなってしまうということになります。

・理由その2:「使いやすさ、安全性」

その製品を持ち上げた時に、角がとがっている場合とRが付いている場合では、持ちやすさが大きく異なります。また、乳幼児が使うおもちゃなどの製品では、製品の角で手や肌を傷つけてしまう可能性もあります。見かけ上の問題ということではなく、ユーザーの利便性や安全を確保するために非常に重要な要件であると言えます

ただし、金型加工のことを考慮した場合には、必ずしもRが付いていれば良いとは限りません。例えば、<図6>のような断面の場合、パーティングライン(PL)の位置はRがあるときとないときとで異なってきます。

<図6>Rがある場合と、ない場合のパーティングライン(PL)の違い
<図6>Rがある場合と、ない場合のパーティングライン(PL)の違い

Rがある場合の金型では、このR部分を成形できるようにする必要があるため、Rがない場合の金型に比べて金型の加工工数が余分にかかってしまいます。コストや手間のことを考えると、設計面でよほど譲れない条件でもない限りは、このRはない方が望ましいということになります。

例えば、この位置に人の手が触れるようであれば、製品の使いやすさや安全性を考慮して、Rはどうにかして付けなければいけません。「製品としての使いやすさ」と「金型としての加工のしやすさ」がトレードオフとなる場合、そのどちらを優先するかどうかは、製品設計者自身が判断しなければなりません。

今回解説したことは、よい量産品を成形するためには、製品設計者自身が金型側の事情をある程度理解しつつ、製品設計にそれを反映させて検討しなければならないという一例です。他にもさまざまな状況に応じて気を付けるべきポイントがあります。また、課題が高度になるほど、金型技術者との連携による解決が必要になります。

これまで解説してきた金型の基本や、量産を意識した製品設計のポイントが、スムーズな製品開発に少しでも生きれば幸いです。

文/落合孝明

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