今度は海流ではなく「波の力」で、海岸砕波帯に並べる「小型波力発電」の特徴とは~OISTの物理学者が語るものづくり研究(6)

INTERVIEW

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
新竹 積教授

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の量子波光学顕微鏡ユニット代表、新竹積教授の電子顕微鏡や波力発電など多岐にわたる研究テーマに注目し、同氏の今までの研究活動や「ものづくり」への姿勢について伺う本連載。最終回は、5回目で登場した「海流発電」の実現の難しさから、次に取り組んでいる「小型波力発電」に関して、発電機の制作話や本波力発電の特徴、今後の課題についてお話伺いました。また、同氏が考案中である波力揚水発電とでも呼ぶ発電技術についてもお聞きしました。

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日本のアカデミアの中で急速に注目が集まっているのが沖縄県にある沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University、以下、OIST)でも異彩を放っているのが量子波光学顕微鏡ユニットを率いる新竹積教授です。新竹教授は、これまで高エネルギー加速器研究機構(KEK)で加速器を使った素粒子物理学に関する研究やX線自由電子レーザー施設SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)での研究開発で成果を上げ、OISTに着任してからは特殊な電子顕微鏡による病原体構造の解明や新型コロナウイルスの検出などの研究、さらに海流や波力を使った発電の研究開発といったように幅広いジャンルで評価されてきた研究者です。そんな新竹教授に現在取り組んでいる波力発電などについてお話をうかがいました。

海岸沿いの砕波帯に並べる回転タービン付き「小型波力発電」の特徴

──── 沖合浮体方式による海流発電の後、モルディブでも実証実験をした沿岸の小型波力発電のほうへ向かうのですか。

新竹(以下、同様):
そうです。巨大プロペラによる沖合浮体方式の海流発電は諦めざるを得ないということになったのですが、海の力を利用する発電技術は捨てがたいので、今度は海流ではなく波の力で発電する方法を考えようということになりました。それで沖合の海流発電ではなく沿岸の波力発電、岸辺で波が砕ける砕波帯での回転タービン付き小型波力発電に転換したんです。沖合浮体方式と同じで数式は簡単です。しかし、沿岸の砕波帯で使う発電機を実際に作ろうとしても最初はなかなか難しかったのです。


2014年にはすでに消波ブロックの上に設置する小型波力発電機のスケッチを描いていたと言います。
T Shintake, “Harnessing the Power of Breaking Waves” Proceedings of the Asian Wave & Tidal Energy Conference (AWTEC2016)
2014年にはすでに消波ブロックの上に設置する小型波力発電機のスケッチを描いていたと言います。
T Shintake, “Harnessing the Power of Breaking Waves” Proceedings of the Asian Wave & Tidal Energy Conference (AWTEC2016)


──── 小型のラジコン飛行機のようで技術的には難しくなさそうですが。

いや、まず発電機を作ってくれる企業を探すのが本当に大変でした。さすがに沖縄県内に海中で使う発電機を作ることのできる企業はありません。そこで私たちは水中モーターや水中ポンプを作っている日本中の会社に2017年から1年間くらいかけて相談に行ったのです。日本を代表するような大企業ばかりですが、どの会社からも海中に沈める発電機は必ず壊れるからできないと言われました。

困り果てて、最後に私の大学時代の友人が原子力関係の仕事をしていたので、どこか協力してくれる会社がないか聞いたところ、教えてくれたのが兵庫県の鳥取県寄りにある宍粟市の一宮電気というモーターを作っている会社です。

自社ブランドのモーターを作っているというより、自動車や電気など大手企業の部品として供給している会社ですが、特にパワーステアリングなど車載用の部品のシェアは世界トップクラスと言います。相談したところ、ほかの会社同様、一宮電気の技術のトップの方から最初は断られました。しかし、その話を耳にした先代の社長さんが『そんなにお困りならぜひ我社でやってあげたい』と言ってくださったんです。


消波ブロックの上に設置する小型波力発電機の模型を持つ新竹教授(提供:OIST)
消波ブロックの上に設置する小型波力発電機の模型を持つ新竹教授(提供:OIST)


──── 先生が開発した波力発電機の特徴はどこにありますか。

最初、プロペラ・ブレードのデザインと素材は、砕波帯の波の力に耐えられる柔らかいものにしようと実際にイルカの尾ビレを触ってヒントをいただき、3Dプリンターを使ってABS樹脂で作りました。

ただ、大手タイヤメーカーに協力してもらい、ゴム製のプロペラを作ろうと考えていたんですが難しいということで、結局、イルカの尾ビレのプロペラは使っていません。ゴム製のブレードを作るのは難しく、反発力など期待した特性がなかなか出ないんです。

発電機は4本足の消波ブロックに設置し、支柱は花の茎のような柔軟性を持たせたいと考えました。また、風力発電の巨大なプロペラに鳥類が衝突するという問題がありますが、プロペラ・ブレードの回転速度は魚類など海中に住む生物が安全に逃げることができるようにしてあります。発電機は平均海水面に設置し、波のエネルギーを最も効率的に取り込めるように考えました。


イルカの尾ビレから考えた小型波力発電機用のプロペラ。美ら海水族館のイルカの尾ビレを実際に触らせてもらって作ってみたそうです。
イルカの尾ビレから考えた小型波力発電機用のプロペラ。美ら海水族館のイルカの尾ビレを実際に触らせてもらって作ってみたそうです。


──── プロペラ・ブレードは波力発電機の性能を左右しそうですね。

小型波力発電機のプロペラには、先端速度比(Tip Speed Ratio、TSR)という値が重要です。これは自動車で言えばローギア、セカンドギア、サードギアのギア比のようなもので、通常の風力発電の場合、プロペラのピッチが一定でギア比は6で速くなります。モーターボートのスクリューは、ギア比が2:3で、先端速度比は発電機のトルクと電圧の比率から決まります。

また、小型波力発電機のプロペラには、ドラッグフォース(流体抗力)という力が作用します。海中で海水を受けるプロペラには揚力と抗力が働いていますが、プロペラには水の流れに対して角度(迎角)がつけられていて、水の流れに垂直に働く力が揚力、水の抵抗が抗力になります。

空気の流れを受ける風力発電のプロペラ・ブレードの場合、性能が高くなるように開発されてきましたから揚力と抗力の比率である揚抗比でいうと抗力は1%くらいしかなく、風の力を最大限、揚力にして高効率の回転にするように作られています。波力発電の場合、実際の海の波の動きや海水の流れはプールとは違い、不安定でパラメーターがたくさんあり過ぎるので、実は現状あまりドラッグフォースにはこだわっていません。


モルディブで実証実験した1/2サイズの波力発電機試作機。当初、考えていた柔軟性のあるプロペラ・ブレードではなく高強度のアルミニウム合金ジュラルミンで作ったそうです。(提供:OIST)
モルディブで実証実験した1/2サイズの波力発電機試作機。当初、考えていた柔軟性のあるプロペラ・ブレードではなく高強度のアルミニウム合金ジュラルミンで作ったそうです。(提供:OIST)


──── この波力発電機を海岸にズラリと並べるわけですね。

そうです。波が岸に近づくと水深が浅くなることで波の速度が遅くなり、波のエネルギーは海面近くに凝縮されます。その結果、波が高くなり、沿岸の砕波帯で波が砕ける直前の波の速度は秒速4mから8mに達します。海岸沿いの砕波帯にこうした発電機を並べれば、大量の電気エネルギーを得ることができます。既存の消波ブロックと組み合わせることで、発電と同時に波の侵食から海岸を保護することもできるんです。

発電機は小型なものでいいので、設置やメンテナンスにそれほど問題はないでしょう。驚くことに、1時間あたりの発電量を平均すれば、波力は風力や太陽光よりもはるかに安定しています。波力発電の設備を設置しておけば、昼夜を問わず電力を安定的に得ることができるからです。


これは2015年のスケッチ。波が砕ける砕波帯の消波ブロックの上に並べるという発想です。T Shintake, “Harnessing the Power of Breaking Waves” Proceedings of the Asian Wave & Tidal Energy Conference (AWTEC2016)
これは2015年のスケッチ。波が砕ける砕波帯の消波ブロックの上に並べるという発想です。T Shintake, “Harnessing the Power of Breaking Waves” Proceedings of the Asian Wave & Tidal Energy Conference (AWTEC2016)


「小型波力発電」実証実験と今後の課題、そして新しい波力揚水発電の発想

──── モルディブでの実証実験は成功したのですか。

成功しました。現在までモルディブでは1/2サイズでやっています。これから2倍の大きさの発電機を4台使って、ホテルに送電を開始する予定です。20kWです。20kWというとたいしたことないように思いますが、太陽光発電の100kWを競争相手とすれば、太陽光発電は夜間は発電しませんので、効率はだいたい1/3くらいになります。波力発電は昼夜問わずに発電し続けるので、トータルを考えれば競争相手の太陽光発電とほぼ同じくらいの効率になるんです。


──── 砕波帯での小型波力発電の今後の課題はどこにありますか。

課題はたくさんあります。発電機を海中で使うことができるというのはある程度、実現可能という段階になっていますが、やはりまだまだコストが高いという点が大きな問題です。発電機で起こせる電力はたかが知れていますから、発電機のコストをかなり抑えなければなりません。コンピューター・シミュレーションした結果と発電機の実際の性能も比較にならないほど現実のほうが低い状態です。波は多種多様で同じ波は二度と現れません。自然の中で起きる波はとても複雑なので、コンピューターでは再現しきれないんです。

また、砕波帯に波力発電機を並べる手法だと、やはり動力部分が多いのでメンテナンスが必要になります。3年後くらいを想定していますが、いずれ軌道にのってきたら、ある大手の船外機メーカーの協力が得られる話も出ています。そうなった場合、そのメーカーの船外機の部品を使って発電機を作り、途上国でも機能するシステマティックなメンテナンスができるようになるはずです。

そうしたメーカーとタッグを組むビジネスの話でいえば、例えばモルディブには観光用の大きなホテルがたくさんありますから、ホテルの敷地内の海岸に波力発電機を並べてホテルの電力をまかなうというビジネスモデルも考えられるでしょう。


──── 現在、沖縄県内で実証実験を継続して行っていますね。

モルディブでの実証実験が成功したので、2019年の夏からOISTの少し北に位置する沖縄県の恩納村瀬良垣に新型の波力発電機を設置しました。これは発電機の前にダクトを取り付け、海水が速くプロペラに流れ込むように設計しました。ダクトにより波から効率的にエネルギーを得られ、発電量が増加します。また、電気は二重層型コンデンサに貯めることができるようにもしてあります。


新型の波力発電機。プロペラの前方に波を取り込むダクトを付け、コンクリートブロックに固定して設置すると言います。(提供:OIST)
新型の波力発電機。プロペラの前方に波を取り込むダクトを付け、コンクリートブロックに固定して設置すると言います。(提供:OIST)


──── ほかにも海の自然エネルギーを使った発電技術を考えていらっしゃるようですね。

ある日本海側の県と政府と一緒に、波力発電の新しい手法を考えています。それは、波打ち際の海底をお椀型に湾曲させ、砕波帯の波を高く打ち上げて、海水を貯め、海水を下に流してその力で発電させようという一種の揚水発電の技術です。

私もそうした現象があることを知らなかったんですが、犬を連れて残波岬を散歩している時に打ち寄せる波を眺めて観察していると、ある場所ではまるでパイプのように海水が打ち上がるんです。そうした現象が起きる海底はお椀型になっているんですが、人工的にそうした形状の海底を作って海水を汲み上げて海岸のプールに貯め、発電に利用しようというわけです。


──── これは堤防を乗り越える方式の波力発電ではないのですか。

海岸を利用した同じような発電手法に堤防を乗り越えた波を貯水して海面の高低差を利用する越波型というものがありますが、私のアイディアは越波型よりも高効率です。波を汲み上げるので波力揚水発電とでも呼ぶこの方法の発電量は、例えば1km設置すると10MW(1万k W、一般家庭3000世帯分)になります。日本海は夏の波は穏やかなので夏の間に土木工事やメンテナンスをしておき、冬の波が荒い時に発電すれば、夏の季節の雇用にも繋がりますし、暖房などで電気が必要になる冬に稼働させることができるというわけです。

冬の日本海の場合、一度、波が立てばだいたい1週間は発電に適した条件が続きます。また、日本海には西風が吹きます。沖縄もそうですが、風は海面のゴミをさらうので海岸にマイクロプラスチックなどのゴミが吹き寄せられるんです。この波力発電は、海水を汲みながら電力を得るのと同時に雇用も創出し、ゴミもさらうという一石二鳥、一石三鳥のプロジェクトなんです。

SACLAや新竹モニター、電子顕微鏡、波力発電と、さまざまな領域で精力的に研究を進める新竹教授。OISTという自由でユニークな環境で楽しそうに語る姿が印象的でした。今後の新たな挑戦にも期待したいと思います。


文/石田雅彦


▽OISTの物理学者が語るものづくり研究

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