沖合浮体方式の「海流発電」、「小型」での実験成功と「大型化」実現への課題~OISTの物理学者が語るものづくり研究(5)

INTERVIEW

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
教授 新竹 積

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の量子波光学顕微鏡ユニット代表、新竹積教授の電子顕微鏡や波力発電など多岐にわたる研究テーマに注目し、同氏の今までの研究活動や「ものづくり」への姿勢について伺う本連載。5回目は、加速器の研究をされてきた同氏が「発電」の研究開発をするようになったきっかけのほか、波力も海流も風力発電も同じ方程式で解けることに気づいた同氏が取り組んだ、沖合浮体方式の「海流発電」のモデル実験成功(小型)と大型化を実現するための課題について伺いました。

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最近、日本のアカデミアの中で急速に注目が集まっているのが沖縄県にある沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University、以下、OIST)でも異彩を放っているのが量子波光学顕微鏡ユニットを率いる新竹積教授です。新竹教授は、これまで高エネルギー加速器研究機構(KEK)で加速器を使った素粒子物理学に関する研究やX線自由電子レーザー施設SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)での研究開発で成果を上げ、OISTに着任してからは特殊な電子顕微鏡による病原体構造の解明や新型コロナウイルスの検出などの研究、さらに海流や波力を使った発電の研究開発といったように幅広いジャンルで評価されてきた研究者です。そんな新竹教授に近年、取り組んでいる波力発電などについてお話をうかがいました。

「発電」の研究開発へ向かわせた重要な転換点は、東日本大震災と先輩物理学者の言葉

──── 先生は波力発電の研究もされていますが、なぜ加速器やレーザーから海流発電や波力発電の研究をするようになったのですか。

新竹(以下、同様):
2011年にSACLAでレーザー発振を成功させた後、ある国際学会へ行ったとき、スタンフォード大学で私の上司だったバートン・リヒター(Burton Richter)先生に『おめでとう』と声をかけられました。リヒター先生というのは、私も所属していたSLAC(Stanford Linear Accelerator Center、現・SLAC国立加速器研究所)の所長で、1976年にノーベル物理学賞を受賞されています。その場でリヒター先生から『これからの時代はエネルギー開発だよ』と言われたんですが、彼の言葉、そして2011年に起きた東日本大震災と福島第一原発の原発事故が、私を発電の研究開発へ向かわせた重要な転換点になったのは確かです。


──── 先輩研究者の言葉と原発事故が、自然エネルギーの研究を始めるきっかけになったのですか。

そうですね。その国際学会の後、帰国する航空機の窓からオランダの風車を見たとき、エネルギー開発といえば風車も自然エネルギーだし、波力発電もそうだよなと考えました。その時、風力発電と波力発電がどう違うのか、座席でスケッチと方程式を書いて考えてみたんです。すると、波力発電も海流発電も風力発電も同じ方程式で解くことができるとわかりました。

もちろん、水と空気とでは密度が違います。水の密度は空気より1,000倍も大きいんですが、実はその後、風力発電の風車はなんと水槽実験するということを知りました。風力発電の風車を実験するためには、ミニチュアを作ったりして普通は風洞実験をするんですが、風洞実験室というのはコストもかかりますし、空気というのは乱流が入りやすいんです。しかし、既存の施設であるプール、つまり水槽を使えばコストも安くすむし、プールの中は静かですから性能試験に適した環境です。巨大な風洞を作るのは大変なのでプールで引っ張って性能試験をし、そのデータから設計して風車を作るというわけです。

風力発電の方程式から海流や波力でも同じ方程式で可能ということを計算したスケッチ
風力発電の方程式から海流や波力でも同じ方程式で可能ということを計算したスケッチ


──── OISTに来てから発電の研究を始めたのですか。

これも私の意志とは無関係な転職でしたが、オランダの風車から着想して帰国後、スタンフォード大学へ行くことになっていたのが、前述した通り、スタンフォード大学のジョナサン・ドーファン(Jonathan Dorfan)先生がOISTの初代学長(現在、名誉学長)になるので私も一緒にOISTに籍を置くことになったんです。それが東日本大震災と同じ2011年で、原発事故を起こした原子力発電に変わるエネルギー開発をOISTでやってみようと考えました。


──── 先生は小さい頃、自作の発電機が新聞記事に紹介されたそうですね。

そうです、中学3年性の時、宮崎日日新聞という新聞で記事になりました。私の場合、祖父の代から自分でモノ作りをするという家系で、私の母方の祖父は用水路から水を引いて水力発電所を作ってしまうような人でした。

祖父の家では実際にタービンに水を落として回して発電し、その電気を使っていました。祖父の家へ遊びに行くと、水力発電所からの電気で目の前の白熱電球が煌々と光り、団扇を差し込んだ手製扇風機が回転していたんです。その様子には本当に驚かされましたし、興味をそそらされました。中学3年生の頃、私も見よう見まねで風力発電機を作ってみたら新聞に取り上げてもらったんです。発電という技術はハマると面白いんですよ。


──── OISTでの研究はどのように始まったのですか。

最初は、沖合の浮体方式で海流発電をやってみることにしたんです。構想を始めたのが2011年、プロジェクトが本格的にスタートしたのは2013年です。小型の風力発電を作っている会社からユニットを70万円で買ってきて、上下逆にして海中に下ろしてみようと考えました。上部には浮力を与える円盤状のフロートがあり、下に伸びたシャフトの先に3枚羽根のプロペラをもつ発電機を配しました。

沖合浮体方式のフロートや発電機などは、沖縄県内や国内の企業にお願いして作ってもらいました。直径2mのプロペラの海流発電の装置は、フロートやシャフト、ギアを沖縄県内の企業に頼んで作ってもらっています。例えば、シャフトは与那原の奥原鉄工という町工場に依頼しました。


最初に作ったフロート式の沖合浮体海流発電機。OISTのエレベーターホールに展示してあります。
最初に作ったフロート式の沖合浮体海流発電機。OISTのエレベーターホールに展示してあります。


沖合浮体方式の海流発電、「小型」はモデル実験成功たが、「大型化」実現にはまだ課題が

──── 実験はどうでしたか。

設計の発案から3か月で完成させ、こいつを沖縄本島南部の糸満の漁港から出港した船で引っ張ったら、一回目はバリバリっとユニットが割れて壊れてしまったんです。失敗してOISTに帰ってきたら、すでに学長に失敗の報告が伝えられていて『新竹、お前、物理学者として恥ずかしくないのか、強度計算くらいちゃんとやれ』と叱られました。それならと、タービンの羽根をステンレスで補強して稠密(ちゅうみつ)にし、全体に強度を高めたものを作り、1回目から3か月後、大学近くの海でモーターボートで牽引して、1kW発電できました。


──── 深度はどのくらいですか。

約100mです。深度100mまで沈めれば、海面の波の影響はほとんどありません。海の波の波長はだいたい100mくらいですから、波の影響が伝わる半波長が約50mになるのでそれより深い海中では大きな台風の時でさえ、ほとんど波の影響を受けないんです。


──── 沖合浮体方式の海流発電が成功したわけですね。

小型のものですけれど、陸上の小型風車を海中でも動かしたいということで、発案から約半年で沖合浮体方式による海流発電のモデル試験に成功しました。しかしプロペラの直径が2mの海中発電機では発電量が物足りません。

そこで直径80mのプロペラが海中で回転する夢の風車を作ろうと考えたんです。ところが、これだけ大きなプロペラだと、海中では10秒に1回転くらいのごくゆっくりとした回転数になります。ゆっくりなのですが、回転軸には100tくらいの大きな力がかかるので、ベアリングの中でスチールボールの皮膜オイルが機能しなくなって金属同士が摩擦してしまうというネックがあるんです。

例えば、観覧車や天文台のようにゆっくり回転する回転軸の場合、ベアリングは使えず、滑り軸受になっています。しかし、海流発電では、軸方向の大きなスラスト力があるために、すべり軸受でも使えません。ベアリング・メーカーの技術者と1年間くらい相談して、どうにか解決できないか、いろいろ調べてもらったんですが現在のオイルでは100tという加重を受け止められず、技術的に難しいということになったんです。


フロート式沖合浮体海流発電機のモデルを手にする沖縄科学技術大学院大学(OIST)新竹積(しんたけ・つもる)教授
フロート式沖合浮体海流発電機のモデルを手にする沖縄科学技術大学院大学(OIST)新竹積(しんたけ・つもる)教授


──── 沖合浮体方式で大型化するのは技術的に難しかったのですね。

ほかにも課題がありました。当初は設置場所を屋久島と奄美大島の間にある吐噶喇(とから)列島にしていたので、気象庁に周辺海域のデータをもっていないか聞いたんです。日本近海で最もエネルギーの大きな海流は黒潮です。黒潮はフィリピンの東岸を北上し、台湾と石垣島の間から東シナ海へ入り、沖縄本島の北側から吐噶喇列島を通って九州や四国の南岸へ蛇行して流れています。ちょうど東シナ海から太平洋へ出る吐噶喇列島あたりの海流は安定しているだろうと思い、その海流を利用しようと考えたわけです。

しかし、気象庁でデータを見せてもらうと、吐噶喇列島周辺の海流は渦潮が起きるような、かなり不安定な海域ということがわかったんです。そこではやはり大きなプロペラ方式の海流発電は難しいということになりました。


──── 海流発電の場合、設置場所は難しそうですね。

沖縄県那覇市に対馬丸記念館がありますが、第二次世界大戦中の1944年、疎開学童など1,788名を乗せた対馬丸という輸送船が、吐噶喇列島で米国の潜水艦の攻撃によって沈められたんです。1,500名近い犠牲者が出て船の引きあげが計画されましたが、未だに引きあげられていません。吐噶喇列島というのは、それくらい海流が激しくて渦を巻いている海の難所ということです。


──── 海流の問題なら別の海域で可能性はないのですか。

吐噶喇列島以外にも高知県や和歌山県など、黒潮沿岸の自治体に相談したんですが、漁業への影響などさまざまな事情で難しいことがわかりました。例えば、沖縄の近海にはパヤオという浮漁礁が100個ほどあって、そこにはキハダマグロや本ガツオ、シイラなどの大型回遊魚がやってくるんですね。沖縄以外では、海流発電のフロートがそのパヤオの代わりになってしまい、密猟者を呼び込む恐れがあると難色を示されたわけです。

沖合浮体方式にはさまざまな課題があり、現実的に難しいという新竹教授。そこで諦めず、次なるステップである小型波力発電の研究開発へ進んでいきます。次回は、実証実験が成功している小型波力発電についてうかがいます。

文/石田雅彦


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