「第7回 町工場見本市2021」現場レポート(後編)

2021年2月9〜10日に、東京国際フォーラムにて「第7回 町工場見本市2021」が開催されました。町工場見本市は葛飾区およびその近隣地域の製造業かつ中小企業のための展示会。多くの下町の町工場が自慢の技術を持ち寄り、商談から受注につなげようと出展していました。後編では、「町工場だから実現できた」無人小型深海探査機の開発プロジェクトや、同じ地域の町工場だけの技術で実現した「水着専用脱水機」など、町工場ならではの技術や取り組みについてご紹介します。

 

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2021年2月9日より2日間、東京国際フォーラムで開催された第7回 町工場見本市2021。「中小にしかできない『技術(こと)』見本市」というサブタイトルにある通り、東京都葛飾区、足立区、墨田区、江戸川区、埼玉県八潮市、三郷市、千葉県松戸市、市川市など、8区4市から、機械、金属加工、ゴム、プラスチック、ガラス、皮革、紙、繊維、めっきなどさまざまな技術を持った中小企業が出展しました。会場では、来場者参加型のワークショップや、セミナーも開催されました。

「町工場だから実現できた」無人小型深海探査機の開発プロジェクト

株式会社杉野ゴム化学工業所が展示したゴムで作った鎧兜
株式会社杉野ゴム化学工業所が展示したゴムで作った鎧兜

千葉県柏市の特殊ガラスメーカー岡本硝子と東京下町の町工場4社が中心となって、2013年に開発された深海8,000メートル以上の海底調査をする無人小型深海探査機「江戸っ子1号」。その開発プロジェクトの提唱者として知られているのが、防振ゴムや電気関連ゴム、その他各種のゴム製品を開発製造する株式会社杉野ゴム化学工業所同社代表取締役の杉野行雄(すぎの・ゆきお)氏です。

「江戸っ子1号」は日本の海洋研究の中心である海洋研究開発機構(JAMSTEC)、芝浦工業大学、東京海洋大学等の協力のもと、2013年11月に房総半島沖深海実験にて水深7,800mの深海での生物撮影に世界で初めて成功するなど、国内外から大きな注目を集めましたが、プロジェクトをスタートさせた2009年頃は「誰にも相手にされなかった」と杉野氏は言います。

「当初、私が役員を務めていた東京商工会議所の方々にプロジェクトの構想を話したのですが、そのときは誰からも相手にされませんでした。その後、説得を続け、開発メンバーも集まったのですが、材料費に1億円、開発費に3億円かかることを伝えたところ、次々に離脱していってしまったのです」(杉野氏)

そこから、杉野ゴム化学工業所、岡本硝子を含め、東京や千葉の精密板金、電子機器、試作加工の企業など5社で「小規模企業でも手の届くもの」にすることを意識して開発を続けていきました。

「1年ほど検討を重ねた結果、耐圧ガラス球を用いたフリーフォール(Freefall)型の探査機を開発するアイデアに行き着きました。フリーフォール型であれば機体に重りを付けて重力で海底に沈め、3Dカメラで撮影をしたり、スポイト状の採取器で泥を採取し、作業が終わった時点で、船上から音波で重りを切り離す指令を出して、浮力で海面まで上昇してきたところを回収できます。また、耐圧容器に市販のガラス球を用いることでコストも削減できるのではないか、と考えたのです。そこからはあっという間のスピードで約2年で無人小型深海探査機を完成させることができました」(杉野氏)

実際、小型深海探査機の開発には一般的に1機300億円以上の資金が必要となりますが、江戸っ子1号は予算を総額2,000万円程度に抑えて開発を実現しました。杉野氏「町工場だから実現できたこと」と言い、「資金が乏しかったからこそ、なるべく安価で使いやすく、小さいものを作ることを考えた結果、たどり着いたアイデア」と語りました。

また、2018年には杉野ゴム化学工業所を含めた葛飾区内の町工場5社が水深1,000メートルでもリアルタイムで映像を撮影できる小型の水中探査機「ド・ボーン」を開発しています。

「町工場には、開発のスピード感、細かな注文への対応力など、大手メーカーが時間をかけている間に形にしてしまう力があります。低迷している町工場が元気になる一翼を担うことができたらいいなと思っています」と杉野氏は語りました。

水着専用脱水機、町工場の技術によって瞬間の超高速回転とブレーキを実現

ハヤブサ技研が展示している水着専用脱水機
ハヤブサ技研が展示している水着専用脱水機

高速回転脱水機、除菌消臭液・洗浄液の製造・販売を手がけるハヤブサ技研。同社は多くのスイミングクラブやフィットネスクラブなどで導入され、国内で高いシェアを獲得している「水着専用脱水機」を展示していました。

同社が展開する水着専用脱水機の特徴は、超高速モーターです。独自に開発した毎分約3,500回転の超高速モーターによって、濡れた水着を最短5秒で94%以上脱水します。

同社代表取締役の濱義人(はま・よしと)氏は、「プールの更衣室などに設置する脱水機を、多くの人に利用してもらうためには、いかに短時間で脱水するかが重要です。使った水着をそのまま持ち帰るには90%以上を脱水したい。5秒程度でその脱水を可能にするには、毎分3,000回転以上で回転するモーターが必要でした。私は過去に関係した企業が高速回転のモーターを開発していたため、そのモーターが水着の脱水機にも使えると思い、技術を転用することにしました」と語ります。

家庭用洗濯機の場合、濡れた水着を90%以上まで脱水するには、フル回転になった状態で40秒ほど回さなければいけません。加えて、洗濯機が回転を始めてからフル回転になるまで、また脱水が終わってからストップするまで、これらの時間がかなりかかることも、皆さん実感されているでしょう。

ところが、同社の水着専用脱水機であればスイッチを入れてから、毎分約3,500回転に達し、十分に脱水し、スイッチを離して止まるまで、最短5秒です。スイッチを押してからあっという間にフル回転になるモーターと、高速回転でも軸がブレない制御、ボタンを離した瞬間に止まるブレーキ。シンプルなニーズですが、実現するには高度な技術が必要です。それを実現したこの脱水機には、多数の企業の卓越した技術が詰まっているそうです。

これまで後発で参入する企業も複数あったそうですが、そのほとんどが、同程度の性能を実現できないまま、撤退していったそうです。

また、フタを閉じないとスイッチを押しても脱水槽が回転しない二重安全方式を採用しているほか、感電防止のためにわずかな電流の漏れでも電源が切れる安全装置を付けるなど、安心・安全にも配慮した設計になっています。濱氏によれば、発売以来約30年にわたって無事故記録を更新しているとのことです。

「水着専用脱水機の開発には4年ほどかかっているのですが、そのうちの2年半はブレーキの開発に取り組んでいます。運転ボタンを離してから数秒間でも動いていると、万が一でも手の巻き込み事故が発生してしまうリスクがあります。そのため、ブレーキには産業用ロボット用の電磁ブレーキを使用することで、4回転以下で停止することを実現しました」(濱氏)

壊れにくいこともポイントです。スイミングクラブや市民プールなどのヘビーユーザーでは毎日何十回何百回と使用されますが、平均寿命は10年を超えているそうです。

また、振動もほとんどなく、15dB前後の静かな動作音で動くといいます。開発に関する技術はすべて葛飾区の企業のものを使うなど「オール葛飾」で実現したそうです。

金属加工過程で出た端材を部品にして組み立てたオブジェから技術力をアピール

ザオー工業株式会社が加工技術をアピールするため制作した恐竜型のオブジェ
ザオー工業株式会社が加工技術をアピールするため制作した恐竜型のオブジェ

自動結線のワイヤーカットを用いた精密金型製作、15t〜200tのプレス機を用いた金属プレス加工、特殊シルク印刷を手がけるザオー工業株式会社。金型製作と金属プレスの両方ができる企業は多いのですが、そこに印刷までワンストップで提供できる数少ない企業です。製作した精密部品に管理番号の印字までできる点がポイントです。

そんな同社は、プレス加工や金型・銘板製作の際に出る端材を部品にして組み立てたオブジェを展示していました。よく見れば同じ部品ばかりでなく、いろいろな形状のパーツが組み立てられています。

同社代表取締役である鈴木国博(すずき・くにひろ)氏によれば、オブジェ制作は「技術をアピールするとともに、製品の製作依頼やプレス加工や金型・銘板製作の受注につなげる狙いがあります」と言います。

会場でひときわ目をひく大きな恐竜型のオブジェは普通版と戦闘版の2種類で展開しているそうで、普通版に使用されている部品の数は約2,800個。大きさは奥行き82cm×横幅28cm×高さ52cmとなっています。重さは8kgとのことです。

「製作は当社の若手社員が担当しています。小さなボルトとナットをつまんで締める作業はなかなか難しいと思います。恐竜型のオブジェで使用している一部のパーツは金型のマシンで特別に開発しています」(鈴木氏)

ザオー工業は恐竜型のオブジェの他にも、観覧車とクレーン車を製作しており、これらは「第6回TASK(台東区、荒川区、足立区、墨田区、葛飾区の5区共同の産業活性化プロジェクト)ものづくり大賞」で、単独開発部門の奨励賞を受賞しています。

カメラを使用してワークの図柄の正逆を自動で判別する装置

有限会社樋口工作所が製作した「カメラ式ワーク正逆判別装置」。サイコロの1の目のみを選別して、1が出たら前に出す仕組み。
有限会社樋口工作所が製作した「カメラ式ワーク正逆判別装置」。サイコロの1の目のみを選別して、1が出たら前に出す仕組み。

金属や樹脂、ゴム、セラミックスのみならず、紙やドライアイス、ガラス、発泡材など様々な素材の加工や組立、検査をする自動機や省力機械、検査機、治具などの設計・製作を手がけているのが有限会社樋口工作所です。

同社はラベル貼り自動機や紙管切断自動機、洗浄装置、底蓋加工自動機、ゴキブリシート切断機など、企業の要望に応じて、さまざまな自動機械の開発を行っています。

今回の展示会で出展しているのは「カメラ式ワーク正逆判別装置」。この製品はカメラを使用してワークの図柄を登録することによって、ワークの正逆を自動で判別する装置です。機械自体は紙管を測定するために作られているため、ワークを回転させながら写真を撮影。正解の図柄のみ搬送し、図柄が認証できなかった場合には不良品として排出します。

サンプルとして、サイコロの「1の目」のみを判別するものを展示していました。同社代表取締役の樋口満(ひぐち・みつる)氏は「この機械は選んだ数字をカメラで判別し、1が出たら前に出すというものです。弊社はこうした機械の設計から組み立てまで、すべて自社で行えるのが大きな強みとなっています」と語ります。

樋口氏によると、受注した仕事の約5割がOEM生産で大学や研究所に開発した製品を収めつつ、残りの5割は展示会やホームページからの問い合わせをもとに、企業ごとのニーズに合わせて一品ずつ自動機械を設計製造しているとのことです。

今回で7回目の開催となった町工場見本市ですが、多くの出展社が「逆境に負けず、アイデアを生かして活路を切り拓いる姿勢」がとても印象的でした。まだまだ町工場の技術には大きな可能性がある、そう思わせてくれる展示会でした。

文/新國翔大

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