C-band加速器のものづくり、重要なのは実際につくれるかどうかの「ものづくりの感覚」~OISTの物理学者が語るものづくり研究(2)

INTERVIEW

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
新竹 積教授

沖縄科学技術大学院大学(OIST)の量子波光学顕微鏡ユニット代表、新竹積教授の電子顕微鏡や波力発電など多岐にわたる研究テーマに注目し、同氏の今までの研究活動や「ものづくり」への姿勢について伺う本連載。2回目は、引き続きSACLA(X線自由電子レーザー施設)建設にあたって、同氏がもつ「ものづくりの感覚」がC-band加速器や増幅装置のものづくりにどう生かされたかについてご紹介します。また、同氏が小学生の時抱いた「電波」に対する疑問からだという、ものづくりに心酔するようになった過程を伺いました。

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日本のアカデミアの中で急速に注目が集まっている沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University、以下、OIST)でも異彩を放っているのが量子波光学顕微鏡ユニットを率いる新竹積教授です。

新竹教授は、これまで高エネルギー加速器研究機構(KEK)で加速器を使った素粒子物理学に関する研究やX線自由電子レーザー施設SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)での研究開発で成果を上げ、OISTに着任してからは特殊な電子顕微鏡による病原体構造の解明や新型コロナウイルスの検出などの研究、さらに海流や波力を使った発電の研究開発といったように幅広いジャンルで評価されてきた研究者です。そんな新竹教授にX線自由電子レーザー施設SACLAの研究開発などについてお話をうかがいました。

SACLA建設に重要な「ものづくりの感覚」、C-band加速器の加工精度と増幅装置の小型化

──── SACLAで加速器を実際に作る上でどのような苦労があったのでしょうか。

新竹(以下、同様):
装置が小さくなれば加速度が増大するということは理論的にはわかるわけです。しかし、本当にそれを実現できる装置を作ることができるかどうかというモノ作りの感覚、直感のようなものが重要です。

SACLAの線形粒子加速器では、C-band加速管セルという無酸素銅製のディスク状リングを1万3000枚も積層した導波管の中を電子が進んでいくわけですが、銅製のセルを作るためには真空チャック旋盤を使用し、天然のダイヤモンド工具によって超精密切削加工して内側をキレイに仕上げないと十分な加速性能が出ません。研磨すると実は性能はガタ落ちになるのでダイヤモンドの歯で切り出します。「かんながけ」する感覚ですね。

この加工技術は、加工対象物が小さくなっていけばいくほど要求される精度が非常に厳しくなります。銅という素材は柔らかいですから、単純に加速器を半分の大きさにするといっても一枚一枚のセルが薄くなってしまい、なかなか精度を高くできないんです。

加速器というのは、削るときの旋盤の回転速度や工具の送り出しや工具の選択、切削油の選択、熱処理など前処理の加工手順の問題といった、非常に泥臭いモノ作り技術の固まりなんです。もちろん、加速器が設置されているトンネル内部の装置も同じようにすべて小型化し、設置密度を高くしなければ期待する実験成果が出ません。加速器だけでなく、周辺の機器についてのモノ作りもまた重要になるんです。


C-band加速管セルという無酸素銅でできたディスク状リングを持つ沖縄科学技術大学院大学(OIST) 新竹積(しんたけ・つもる)教授
C-band加速管セルという無酸素銅でできたディスク状リングを持つ沖縄科学技術大学院大学(OIST) 新竹積(しんたけ・つもる)教授


──── 先生にはモノ作りの感覚があったというわけですね。

そうです。小さい頃からモノ作りをしてきましたし、大学時代からも実験装置を自作してきましたから、私の中にはどの程度のサイズまで小さくできるかという直感がありました。もちろん、理論的にはC-band(4GHz〜8GHz)より小さな加速器、例えばX-band(8GHz〜12GHz)の加速器はできるでしょうけれど、現実のモノ作りを考えれば、C-bandが最適ということが感覚的にわかります。

実際、X-bandで加速器を試作してみたら、特に内側のビームホールというR部分の鏡面粗度をミクロンの精度で加工しなければならず、どうしても難しいとわかりました。小さなセル自体の加工はNC(Numerical Control)工作機械があればできますが、加速器に使用するセルはC-bandで1万3000枚、仮にX-band加速器ならその倍の2万6000枚を量産しなければなりません。そんな数を同じ精度で再現することはたいへん難しいんですね。


──── 周辺装置を小型化するというのは、どう難しいのでしょうか。

C-bandの加速管はできましたが、次には加速器に入れるマイクロ波の制御の問題があります。マイクロ波の制御には増幅装置を使うんですが、C-bandの話に出てきたように周波数が上がっていくと増幅装置のソリッドステート(半導体)も小さくしていかなければなりません。

しかし、小さなソリッドステートに電波を通すと熱をもってしまいます。S-band(2GHz〜4GHz)やC-band(4GHz〜8GHz)くらいのマイクロ波ではそれほど発熱の問題はないんですが、X-band(8GHz〜12GHz)くらいになるとソリッドステートのシリコンウエハやチップが熱膨張します。そのため、空冷や水冷で冷却しますが、かなり不安定になってしまうんです。

スマートフォンで使われている3GHzや4GHzが発熱の問題をクリアできるデバイスの限界でしょう。X-bandのほうがメリットあるでしょうが、発熱を含めたいろんな問題でここしばらくは実装はできないと思います。同じような課題がC-bandの加速器でも起きるということです。


小学生の時「電波」に対して抱いた疑問から、大学で物理学に夢中になる

──── 小さな頃からなぜそんなにモノ作りが好きだったのですか。

私が生まれたのは宮崎県小林市という田舎町です。昔なのでスマホがあるわけでもゲームがあるわけでもなかったので、自分で遊び道具を作るしかなかったんですね。昭和30年代で牛馬で耕作していたような時代ですから、私の父は町でエンジンをもらいうけ、耕運機のようなものを作って使っていました。そのエンジンがよく壊れるんですが、私が5歳か6歳の頃でしたか、父親から修理を手伝えと言われて何度もそれを眺める機会があったんです。

父親といっしょに午前中にエンジンを完全に分解し、おかしなところを探しだし、中を掃除してパッキンが悪くなっていたら段ボールで代用させて直したりするうちに昼ご飯です。午後からは分解したエンジンの部品を一つずつ組み上げていき、夕方になってエンジンを始動させるんですが、これがなかなかうまく回り始めないんです。

ガソリンを入れて調整しつつ、点火プラグに電気がきているかどうか、指を突っ込まされて軽く感電したり、そんな調子でエンジンを修理していました。そうすると、ある瞬間にエンジンがまるで息を吹き返したかのように大きな音を立てて回転を始めます。

あの当時のエンジンはピストンが丸見えだし、発電機もガタガタと音を立てて振動していました。昼ご飯の頃まではバラバラになっていた金属の部品が、夕方になって組み上がると突然、音を立てて動き出すわけです。その音を聞いた瞬間に感動して、もう本当にモノ作りにハマりましたね。


子供の頃の記憶をたどって描いたスケッチ。バラバラの部品が農機具のエンジンに組み上がり、息を吹き返す様子に感動したそうです(提供:OIST)
子供の頃の記憶をたどって描いたスケッチ。バラバラの部品が農機具のエンジンに組み上がり、息を吹き返す様子に感動したそうです(提供:OIST)


──── そうした体験からX線自由電子レーザーや電子顕微鏡などへ、どうつながっていったのですか。

それは電波に対して抱いた疑問が最初だったような気がします。小学校5年生の時に家にテレビがやってきたんですが、どうしても理解できないことがありました。当時のテレビのアンテナは、放送局の方向を向いて屋根の上に立てられた八木アンテナでしたが、当時の私はどうやら放送局のほうからなにかが飛んで来るらしいと考え、その飛んできたものはアンテナからの一本のフィーダー線を伝わってテレビまで引っ張られているということくらいまではわかりました。

しかし、放送局のほうから飛んできてアンテナがひろっているなにかは目に見えないなにかであって、それが電波ということは耳にしたことがあったんですが、電波がいったいどんなふうに飛んでくるのか、どうもよく理解できませんでした。また、テレビのチャンネルは当時、ダイヤル式でチャンネルを回すと各テレビ局を選ぶことができましたが、私はなぜ一本のフィーダー線でチャンネルをいくつも選ぶことができるんだろうと疑問を感じたんです。


──── その疑問は長く解明できなかったのですか。

そうですね。学校のクラスのみんなに聞いてもわからなかったので、クラスを代表して昼休みに理科の先生のところへ行って電波って何ですかって聞いたんです。その先生は、なぜかヒモを出してきて波うたせ、これが電波だともっともらしく説明してくれたんですが、私は直感でどうやら先生もよくわかっていないようだと思ったんです。

その時に私は、自分が大人になったら電波のことを勉強し、みんながわかるような説明ができるようになってやろうと思ったんです。小学校5年生の時、宇宙の理論といった目に見えないことを理解できるように勉強しなければいけないことを実感したんですね。


──── では、電波というのは何なのでしょうか。

電子を揺すると波が広がっていくんですが、それが電波です。放送局のアンテナの中の電子が揺すられて、それが伝わっていき、テレビに伝わります。我々のスマートフォンのアンテナも本体の中の電子を揺すって会話ができるというわけです。こちらから電話をかける時にはスマートフォンの中の電子を電池を使って揺さぶってやると、それが伝わっていきます。いってみれば、糸の見えない一種の糸電話なんですね。


──── そういった理解はやはり大学時代に身についたものなのでしょうか。

実は私は高校時代、大学へ進学しようとは思ってませんでした。宮崎に残ってもいいかなくらいに考えていたら、高校3年の10月くらいだったか、高校の先生からまだ3か月あるから特訓して九州大学へ行けと言われたんです。自分の学力では九州大学は無理だろうと思っていたら、その時は入りやすかった応用原子力工学科になんとか合格できました。

さすがに大学に行くと、ニュートン力学、電気磁気学、電気工学、熱力学などから始まるようなちゃんとした学問があるんですね。大学では毎日のように理論の勉強でしたし、教科書にはマックスウェルの方程式とかアインシュタインの相対性理論なんかも書いてあります。そして、相対性理論のちょっと前に電子が揺さぶられて波が出るという方程式がありました。なんだそうだったのかと腑に落ちたわけです。ただ、けっこうその数式が込み入っていて、だいたい皆さん、そこで挫折してしまいます。

例えて言えば、つるつるの氷でできた壁を登るようなもので、ちょっと登ると滑り落ちてまた手がかりを探りながら登るといった難しい数式なんです。そこで、なんとか氷の壁を回避する方法を自分なりにいろいろ考え、自分なりの理論を作り出して、それをソフトウェアに書き込んでおいたところ、後にインターネットで公開したら膨大な数ダウンロードされて驚いたこともありました。Radiation2Dというソフトウェアですが、ちゃんと方程式を解いてあり、マウスを動かすと視覚的に波が出るようになっていて、とても喜ばれたんです。


電波、熱輻射、放射光などの動きを見るソフトウェアRadiation 2Dによるアンジュレーター(Undulator)の画像。マウスで直感的に画像を見ることができます(出展:Tsumoru Shintake,“Real-time animation of synchrotron radiation”, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Volume 507, Issues 1–2, 2003, Pages 89-92)
電波、熱輻射、放射光などの動きを見るソフトウェアRadiation 2Dによるアンジュレーター(Undulator)の画像。マウスで直感的に画像を見ることができます(出展:Tsumoru Shintake,“Real-time animation of synchrotron radiation”, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A: Volume 507, Issues 1–2, 2003, Pages 89-92)


加速器でもモノ作りの感覚が重要だという新竹教授。次回は30年経ってもリニアコライダーにとって重要な発明であり続ける新竹モニターについて伺います。

文/石田雅彦

▽OISTの物理学者が語るものづくり研究

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