空飛ぶクルマを操縦する「パイロット」に求められる技量や資格とは~CTOに聞く、空飛ぶクルマの実現に向けて(中編)

INTERVIEW

株式会社SkyDrive
技術最高責任者(CTO)
岸 信夫

空飛ぶクルマを目指して活動する日本の企業や団体の中で、最も実現に近いといわれている株式会社SkyDriveのCTO(技術最高責任者)岸信夫氏に、同社が開発している「空飛ぶクルマ」の実現に向けた技術的な取り組みについてお話を伺う本連載。同社の空飛ぶクルマはパイロット1人、搭乗者1人の2人乗りの機体を想定しているといいます。この機体を操縦するパイロットになるためにはどのような資格が必要なのでしょうか。2回目は、同機を操縦するパイロットの技量や資格について伺うほか、次の飛行試験エリアや試験項目、適切な飛行高度についてお話を伺いました。

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パイロットの技量と資格、ヘリコプターよりずっと簡単な操縦を

────搭乗者はパイロットと乗客の2人ということでしょうか。

岸氏(以下同様):
我々の空飛ぶクルマの場合、パイロットが1人、ほかの搭乗者が1人の、2人乗りの機体で、飛行距離は地域内・都市内・湾岸エリアなどの近距離を移動する20〜30kmになると想定しています。そうなると価格は大型の機体に比べて1桁低くなるはずで、ランボルギーニやフェラーリのような超高級スポーツカーと同程度になるでしょう。もしかすると将来的にはもっと大型の機体を作るかもしれませんが、現状ではこうした目標を定めて社会に受け入れていただこうと考えています。


────実際に飛行させる場合、パイロットが操縦することになるのでしょうか。

そうですね。パイロットの技量や資格については、国土交通省と経済産業省が主導して官民の協議会が開かれていますが、その中には「機体の安全性」、「運航・管制」、「パイロットと整備員の資格」の3つの分科会があり、これが同時並行で進んでいます。

例えば、ヘリコプターのパイロットの場合はかなりの訓練が必要になってきますが、空飛ぶクルマではそのような多くの訓練は必要のないように検討が進められています。これまでヘリコプターではできなかったこと、例えば手軽にどこでも空を飛びたい、小さな音で周囲に影響を与えずに飛びたいといったことを実現できるようにしたいわけで、これらを実現するためには操縦もヘリコプターよりずっと簡単でなければなりません。


────自動車の運転感覚と同じですか。

最近、ドローンのような技術がなぜ出てきたのかといえば、やはり空を飛ぶ物体の飛行制御や自動飛行が進化してきたからです。ドローンは無人航空機ですが、これに人が乗る場合、最初はパイロットが操縦し、自律制御の技術が進化した時に自動飛行にするにせよ、操縦が簡単というのは1つの大きなポイントなんですね。

ですから現在考えているのは、機体の安全性の基準も含め、事業用ヘリコプターなどのように専門的なパイロットが操縦しなければならないほど難しくない操縦で飛行させられる、新しい航空機のライセンスのジャンルにしたいと考えています。

試験飛行をする「SD-03」。ジョイスティックで操作して飛行するそうです。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020
試験飛行をする「SD-03」。ジョイスティックで操作して飛行するそうです。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020

次の試験飛行エリアと試験項目、もっと広い屋外で難度の高い飛行を

────試験飛行から今後はどのような段階で改良を重ねていくのでしょうか。

2020年8月に試験飛行をしたのは、元テニスコートだった場所の周囲にネットを張って「SD-03」が万が一にでも飛び出さないようにしたテストフィールドです。機体を上昇させたり、傾けて素早く方向転換をしたりといった飛行は試していません。ネットを張った中で行っていたため、特別な飛行許可は必要ありませんでした。技術的には自律でも飛行させられますし、回転などクイックな操作性も可能ですが、逆にいえば、飛行許可も必要ない代わり、あのネットを張った中では制約があって、そんなふうに自由自在に飛行することはできないんです。


────次にはさらに自由度の高い飛行試験になるのでしょうか。

もっと広い屋外の試験場で実施できれば、高度や操縦性についてもより難度の高い飛行にチャレンジできると考えています。元テニスコートのテストフィールドのすぐ横に、元は野球場だったエリアがあります。その場所であれば広さや高さがさらに期待できますが、もし外へ飛び出してしまった場合には必ず野球場のテストフィールドから出ないようにし、第三者にご迷惑をおかけしないよう試験を遂行しなければなりません。こうしたことを考慮しつつ、次の試験飛行はより広くより高いテストフィールドで行う予定です。


────テストフィールドからさらに実際の飛行環境に則した場所で飛ばすというわけですね。

今後も、2020年8月に試験飛行をしたテストフィールドで試験飛行をもう少し続けます。故障を模擬した試験など、何段階かの試験飛行を行おうと考えています。今後予定している大阪湾の海上での社会実装までの間には、最初にサービスされるエリアを含め実際に使われることを想定したエリアで、まずトライアルの試験飛行をやる必要があるでしょう。

試験飛行の候補地としては、まず福島県の南相馬市にあるロボットテストフィールドというロボットやドローンなどの開発拠点があります。そこはかなり広いエリアになります。また、ここからは個人的な考えですが、第三者に迷惑がかからないようなもっと広いエリアでの試験飛行も必要だとも思っています。

2020年11月に開催された「N+ エヌプラス2020」、「フライングカーテクノロジー」に出展された「SD-03」。意外に小型なことに驚きます。
2020年11月に開催された「N+ エヌプラス2020」、「フライングカーテクノロジー」に出展された「SD-03」。意外に小型なことに驚きます。

適切な飛行高度、飛行機より低く飛ぶが(150m以下)障害物回避のため上昇も

────そうした場所で飛行する場合、どんな点が重要でしょうか。

湾岸エリアなど最初の実証実験ではGPSを受信できる場所を専用空域にすると思いますが、GPSは途切れる場所もありますから、特に都市部では自機に備え付けた慣性航法装置などを活用することになるでしょう。また、最終的な高度が何mになるかですが、あまり高く上昇するとそれだけでバッテリーを消費してしまいます。逆にあまり低すぎると、空飛ぶクルマとしてはどうなのかという意見もあります。


────どの程度の高度を飛行するようになりますか。

航空法では高度150m以上が航空機扱いになりますが、適切な高度は我々が決める必要があると考えています。空飛ぶクルマは、空港から飛び立って決められた空路を飛行し、目的地の空港へ着いたら着陸するという旅客機とは違い、管制空域が定まっているわけではありません。今後は特定の飛行空域を特別に許可していただき、そこを飛行するという行政との調整が始まりますが、旅客機との違いを考えれば高度150m以下を飛行することになると思います。


────障害物などの影響はないのでしょうか。

そうですね。川にかかっている橋梁の橋桁は150m以上になることもあり、さすがに橋脚の下をくぐるわけにもいかないでしょうし、その場合は250mから300mに高度を上げないといけなくなるでしょう。航空法上は、ある飛行速度以上の航空機を想定し、ビルや橋梁などの建造物から何m距離を取らなければならないと決められていますが、空飛ぶクルマのように速度が遅ければこうした距離の議論にも影響し、航空機よりも距離を取らなくてもいいということになるかもしれません。

この議論は航空法を改正するというより、当面は空飛ぶクルマの専用空域を特別に許可してもらうような方向になるのではないかと考えています。


────市場への投入はいつ頃になる予定ですか。

ロードマップ上で我々のターゲットは2023年度中の型式証明(Type Certificate)取得ですが、取得した数か月後には市販を始めたいと考えています。ですから、2024年の早い時期にはSkyDriveの空飛ぶクルマを販売できるようになっているはずです。そうなれば2025年の大阪万博に間に合いますので、大阪万博を契機にして広く使われるようになることを期待しています。

岸信夫(きし・のぶお)SkyDrive技術最高責任者(CTO) 
大阪府立大学工学部卒業。三菱重工、三菱航空機にて戦闘機、旅客機などの開発に37年間従事。 この間先進技術実証機プロジェクトマネージャ、MRJ(Mitsubishi Space Jet)のチーフエンジニア、技術担当副社長を歴任。 2018年から大阪府立大学大学院でシステムインテグレーション、プロジェクトマネージメントを研究。 2020年4月からSkyDrive技術最高責任者(CTO)に就任。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020
岸信夫(きし・のぶお)SkyDrive技術最高責任者(CTO) 
大阪府立大学工学部卒業。三菱重工、三菱航空機にて戦闘機、旅客機などの開発に37年間従事。 この間先進技術実証機プロジェクトマネージャ、MRJ(Mitsubishi Space Jet)のチーフエンジニア、技術担当副社長を歴任。 2018年から大阪府立大学大学院でシステムインテグレーション、プロジェクトマネージメントを研究。 2020年4月からSkyDrive技術最高責任者(CTO)に就任。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020

2030年の本格普及を目指すSkyDriveですが、かなり具体的な社会実証が視野に入っているようです。次回は、技術的な安全性や空飛ぶクルマの未来について伺います。

文/石田雅彦

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