SACLA(X線自由電子レーザー施設)建設の予算取りで役立った「子ども時代のスケッチ」とは~OISTの物理学者が語るものづくり研究(1)

INTERVIEW

沖縄科学技術大学院大学(OIST)
新竹 積教授

近年日本のアカデミアの中で注目が集まっている沖縄科学技術大学院大学(OIST)。科学分野の5年一貫制博士課程を置く大学院大学で、国内外から優れた研究者や学生を集め、質の高い研究を行っていることで知られています。今回から6回にわたって、電子顕微鏡や波力発電など幅広いジャンルで評価されてきた同校の量子波光学顕微鏡ユニット代表、新竹積教授の研究テーマに注目し、今までの研究活動や新しい「ものづくり」への姿勢について伺いました。1回目は、同氏が子ども時代から続けている工作のスケッチと、SACLA(X線自由電子レーザー施設)の研究開発に携わった経緯についてお話を伺いました。

▽おすすめ関連記事

近年、日本のアカデミアの中で急速に注目が集まっているのが沖縄県にある沖縄科学技術大学院大学(Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University、以下OIST)です。OISTは科学分野の5年一貫制博士課程を置く大学院大学で、学生の外国人比率が83%、事務職員含む教職員の外国人比率が40%と国内外から優れた研究者や学生を集め、質の高い研究を行っていることで知られています。そんなOISTの教授陣の中で異彩を放っているのが量子波光学顕微鏡ユニットを率いる新竹積教授です。

新竹教授は、これまで高エネルギー加速器研究機構(KEK)で加速器を使った素粒子物理学に関する研究やX線自由電子レーザー施設SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)での研究開発で成果を上げ、OISTに着任してからは特殊な電子顕微鏡による病原体構造の解明や新型コロナウイルスの検出などの研究、さらに海流や波力を使った発電の研究開発といったように幅広いジャンルで評価されてきた研究者です。そんな新竹教授にX線自由電子レーザー施設SACLAの研究開発に携わった経緯や現在、取り組んでいる波力発電などについてお話をうかがっていきます。


子ども時代からの習性、「工作のスケッチ」

──── 新竹先生の論文を拝見すると、ほとんどにご自身で描かれたスケッチでの説明があります。これは難しい加速器やレーザーに関する論文でも同じなのですが、スケッチを描くことは先生にとってどういう意味をもっているのでしょうか。

新竹(以下、同様):
私は物心つく頃からモノ作りが大好きで、モノ作りに際してスケッチを描くことは、まさしく小さな頃からの私の習性みたいなものなんです。小中学校でも授業中にやることといえば、帰宅してから何を作ろうか、作っている工作のどこをどう修正しようかと考えながらスケッチを描くことでした。小学校3年か4年の頃、理科の先生にそのスケッチが見つかって、すごく驚かれて喜ばれた記憶があります。その時はどうして先生がそんなに喜んでくれるのか、よくわからなかったんですが、まだ設計図という概念はなくてスケッチを描いてその通りに作っていたんですね。


沖縄科学技術大学院大学(OIST) 新竹積(しんたけ・つもる)教授
1955年、宮崎県生まれ。量子波光学顕微鏡ユニット代表。1978年、九州大学工学部応用原子核工学科卒業。1983年、同大学院工学研究科で博士号(工学)を取得。1983年から2002年まで高エネルギー加速器研究機構(KEK)に所属。トリスタン計画、スタンフォード線形加速器センターSLAC(現・SLAC国立加速器研究所)などの研究開発に携わる。2002年から理化学研究所(播磨研究所・放射光科学総合研究センター)でX線自由電子レーザー施設SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)などの開発に参加。2011年から現職。1995年にUS Particle Accelerator School Award(新竹モニターの発明と開発)、2007年にRIKEN award for First Lasing of SCSS FEL(X線レーザーの技術開発)、2011年に第33回自由電子レーザー国際会議・自由電子レーザー賞(FEL賞、X線レーザーSACLAの技術開発)、2012年に兵庫県科学賞(X線レーザーSACLAの成功)、2014年に欧州物理学会2014年Gersh Budker賞(X線レーザーSACLAの成功)、2015年に応用物理学会・第16回(2014年)光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞、コンパクトSASE型X線自由電子レーザーSACLAの開発)など多数の賞を受賞している。
沖縄科学技術大学院大学(OIST) 新竹積(しんたけ・つもる)教授
1955年、宮崎県生まれ。量子波光学顕微鏡ユニット代表。1978年、九州大学工学部応用原子核工学科卒業。1983年、同大学院工学研究科で博士号(工学)を取得。1983年から2002年まで高エネルギー加速器研究機構(KEK)に所属。トリスタン計画、スタンフォード線形加速器センターSLAC(現・SLAC国立加速器研究所)などの研究開発に携わる。2002年から理化学研究所(播磨研究所・放射光科学総合研究センター)でX線自由電子レーザー施設SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)などの開発に参加。2011年から現職。1995年にUS Particle Accelerator School Award(新竹モニターの発明と開発)、2007年にRIKEN award for First Lasing of SCSS FEL(X線レーザーの技術開発)、2011年に第33回自由電子レーザー国際会議・自由電子レーザー賞(FEL賞、X線レーザーSACLAの技術開発)、2012年に兵庫県科学賞(X線レーザーSACLAの成功)、2014年に欧州物理学会2014年Gersh Budker賞(X線レーザーSACLAの成功)、2015年に応用物理学会・第16回(2014年)光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞、コンパクトSASE型X線自由電子レーザーSACLAの開発)など多数の賞を受賞している。



──── 小さい頃はどのようなスケッチを描いていたのですか。

自動車のマネ、飛行機のマネ、ロケットのマネというように普通にあるものを模倣し、自分なりにできる範囲でなぞらえたスケッチをもとにモノ作りをしてきました。X線自由電子レーザーSACLAを進めている時に、私が子どもの頃に作った工作のスケッチをお見せして文部科学省の方々に説明する機会があったんです。

理研でSACLAの予算が取れるかどうかという場面で、政府の担当者や民間の人を相手にお話するわけです。まだ予算が確定していなかったので、私のプレゼンで盛り上げなければなりません。プレゼンの相手はX線の技術に関しては素人さんなので、そうした場面では専門的な内容ではなく、どちらかといえば我々が数百億円という莫大な予算を使ってちゃんとやってくれる研究者かどうかをみているわけです。

つまり、私は小さな頃からモノ作りをしてきた人間ですということをアピールしたんですが、もちろんスケッチの思い出話だけではなく、X線レーザーの原理や意義といった真面目なお話もさせていただきました。幸いプレゼンの最後に皆さん感動して泣いていたくらい効果がありました。その後、予算委員会に正式によばれ、予算をいただくことができたんです。


SACLAのプレゼンテーションで見せた小学生当時のスケッチを再現したもの。セスナ機、ロケット、スポーツカー、現在の波力発電につながるような水力発電のスケッチもあります。(提供:OIST)
SACLAのプレゼンテーションで見せた小学生当時のスケッチを再現したもの。セスナ機、ロケット、スポーツカー、現在の波力発電につながるような水力発電のスケッチもあります。(提供:OIST)


SACLAに携わった経緯、前職の「C-band(マイクロ波)」加速器研究から

──── そのSACLAですが、どのような経緯で参加することになったのでしょうか。

2002年に理化学研究所(以下、理研)のある理事の方から誘われたんです。当時、理研でやっていた研究プロジェクトで、私が研究していたC-bandの加速器をぜひ使いたいということでした。私はそれまで高エネルギー加速器研究所(現・高エネルギー加速器研究機構(KEK))で公務員をしていましたから、そこを辞めて理研という民間研究団体に転職したわけです。

しかし、実際に研究施設のある兵庫県の播磨に行ってみたら、想像していたものの1/10くらいの小さな装置だったんです。こんな小さなプロジェクトのために公務員を辞めてきたんじゃないと驚き、当時、海外で計画中だったX線自由電子レーザーを日本でもやろうと研究責任者を説得してSACLAのプロジェクトにつながっていったんです。


──── 今のお話にC-bandという言葉が出てきましたが、C-bandというのは何でしょうか。そして、SACLAにはなぜC-bandが必要だったのでしょうか。

C-bandというのは周波数5.712GHz、波長が約5㎝(ちなみに携帯電話は3.6~4.6 GHz)のマイクロ波を使う加速器のことです。もともとは、前任地のKEKでリニアコライダー計画向けに開発した加速器技術です。線形粒子加速器を直線(リニア)の衝突型加速器(コライダー)にする、つまり「リニアコライダー」と言っています。

SACLAはリニアコライダーの技術を使った全長400mの加速器です。電力は送電線からやって来ますが、その電力を直流高圧に変換して、さらにマイクロ波にします。加速器にとってマイクロ波の周波数の選択がとても重要なんです。5GHz付近の周波数では、大電力化が可能なクライストロン(Klystron)という増幅電子管が開発しやすく、リニアコライダーを実現できるという結論だったのです。


──── C-bandのほかにどんな波長があるのでしょうか。

加速器に用いられるマイクロ波の候補としては、L-band(1GHz〜2GHz)からX-band(8GHz〜12GHz)、さらに30GHzまで多様な周波数が研究開発されてきました。従来の加速器ではそれまで家庭にある電子レンジで使われているのと同じS-bandという2GHz〜4GHzの周波数(加速器では2.856GHz、波長は約10㎝)で実験していました。


──── S-bandからC-bandへ転換したということですか。

そうです。S-bandの周波数帯の場合、加速管はだいたい12㎝〜13㎝の直径になります。リニアコライダー加速器計画には当時、ドイツのL-band超電導加速器があったんですが、それは大型の線形加速器で長さがトータルで50㎞以上になる予想でしたから膨大なコストがかかってしまいます。また、加速に使うマイクロ波源である高出力のクライストロンの開発が難しく、また電力効率を向上させながら装置の寿命を伸ばし、製造コストも削減しなければ、リニアコライダーはとても成功しないと私は考えていました。


──── SACLAではなぜC-bandが必要だったのですか。

前述したように、直線の線形粒子加速器であるリニアコライダーでは、加速に最適な高周波(RF)源の選択が必要になってきます。私たちは、S-bandの加速器の長さを半分にしたいと考えました。半分の長さですから、ざっと2倍の出力が必要になります。そのためには電子を加速させる効率である加速電界を2倍以上、高くしなければなりません。それまでの加速管は、たくさんマイクロ波を入れなければならない樽型の巨大なものでした。私たちはマイクロ波の密度を上げ、速く加速させるためにこの巨大な加速管を小型化しようと考えました。

加速管の直径は使うマイクロ波の波長にほぼ比例するので、5.712GHzのC-bandで加速管を作った場合、2.856GHzのS-bandの半分の直径になります。直径は半分ですから面積は1/4で、マイクロ波は4倍の高密度になるわけです。では、加速度がどれくらい速くなるかというと、ルートで開くのでS-bandの約2倍の加速度という計算になります。つまり、C-bandの加速器の長さは、S-bandの加速器の半分でいいということになり、加速器の小型化はC-bandの選択によって可能になると考えました。


SACLAでも紙と鉛筆によるスケッチやメモなどが重要だったと言います(提供:OIST)
SACLAでも紙と鉛筆によるスケッチやメモなどが重要だったと言います(提供:OIST)


X線自由電子レーザー施設SACLAに役立った新竹教授によるC-bandの研究開発。次回は加速器と泥臭いモノ作りとの関係についてうかがいます。

文/石田雅彦

▽OISTの物理学者が語るものづくり研究

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)