有人試験飛行に成功した小型の垂直離着陸機(VTOL)が見せた安定した飛行とは~CTOに聞く、空飛ぶクルマの実現に向けて(前編)

INTERVIEW

株式会社SkyDrive
技術最高責任者(CTO)
岸 信夫

世界各国で多種多様な試作がなされている「空飛ぶクルマ」。日本では、2018年から公的なプロジェクトとして日本発の技術開発が進められています。空飛ぶクルマを目指して活動する企業や団体は日本にいくつかありますが、その中で最も実現に近いといわれているのが株式会社SkyDriveです。今回から3回にわたって、同社のCTO(技術最高責任者)岸信夫氏に、同社が開発している「空飛ぶクルマ」の実現に向けた技術的な取り組みについてお話を伺いました。1回目は、2020年8月に行った有人飛行試験の成果と、同社が検討している搭乗者の数と座席配置について伺いました。

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いわゆる「空飛ぶクルマ」については、これまでも世界各国で多種多様な試作がなされてきました。日本では、2018年8月には経済産業省と国土交通省が主体となって「空の移動革命に向けた官民協議会」が作られ、日本発の技術開発が進められています。

都市の渋滞を避けた通勤、通学や通園、離島や山間部での新しい移動手段、災害時の救急搬送や迅速な物資輸送などの実現のため、姿勢制御や電源に関する技術的な進化発展を背景に、まずドローンが性能面や安全性で広く活用され始め、その結果、小型の有人ドローンによる空飛ぶクルマの実現も現実味を帯びてきています。

空飛ぶクルマを目指して活動する企業や団体が日本にいくつかありますが、その中で最も実現に近い存在といわれているのが有志団体CARTIVATOR(カーティベイター)と共同開発を進める株式会社SkyDrive(スカイドライブ、東京都新宿区)です。CARTIVATORはトヨタ・グループをはじめNEC(日本電気株式会社)など80社を超える企業から支援を受け、SkyDriveは東京都の「未来を拓くイノベーションTOKYOプロジェクト」平成30年度採択企業になるなど、空飛ぶクルマの実現が期待されているようです。

SkyDriveは2020年8月25日、小型の垂直離着陸機(Vertical Take-Off and Landing aircraft、VTOL)の新型機「SD-03」による有人飛行試験を公開しました。この空飛ぶクルマはどんな技術なのでしょうか。そのビジョンや実現性などについて、同社のCTO(Chief Technology Officer、技術最高責任者)である岸信夫氏にお話を伺いました。

有人試験飛行に成功、手動及び遠隔操縦で安定した飛行を実現

────この「SD-03」は、これまでの「SD-02」から機体の形状を変更し、操縦性と安定性を高めた改良型だとのことです。どのような機構になっていて、開発ではどのあたりが難しかったのでしょうか。

岸氏(以下同様):
そうですね。これまで有人を目指して開発してきましたが、この「SD-03」で難しかったのは8個のモーターで8個のローター、プロペラを回し、回転数をうまくコントロールさせて安定を保つように飛行させることでした。この安定性はフライトコントロールが制御しています。サイズの小さなドローンでは、ほとんど変形や歪みがありません。

しかし小さな模型の試験から少しずつ機体を大きくしていった際、小さな機体の時には現れなかった、構造全体が変形したり歪んだりする現象が現れます。そうすると、例えば垂直になっていなければならないモーターの角度が、構造の変形や歪みによって垂直にならなくなってしまうんです。


────では、機体の剛性を高めたんでしょうか。

そうですね。機体の剛性を高めるのは、特に難しい問題ではありません。設計段階で剛性は計算すれば予測できますし、実際に機体を作ってみて弱い部分が見つかれば、そこに加重を考えながら必要最小限の補強材を入れればいいわけです。ある程度は設計段階で予想しつつ、もし足りなければ現場で補強するなり、いろいろと対処していきました。ただ、プロペラの回転数などを考慮しつつ、モーターの角度、つまりプロペラの向きがフライトコントロールで安定的に制御して飛行できるような機体の構造を作らなければなりませんでした。

「SD-03」は全長4m、全幅4m、全高2m、重さは約400kg。2重反転式の8つのモーターとプロペラ(ローター)を備えています。公開された試験飛行では、手動操縦により、高度2〜3mへ浮上し、時速約4kmで約4分間、飛行しました。技術的な詳細や操縦方法については非公開となっています。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020
「SD-03」は全長4m、全幅4m、全高2m、重さは約400kg。2重反転式の8つのモーターとプロペラ(ローター)を備えています。公開された試験飛行では、手動操縦により、高度2〜3mへ浮上し、時速約4kmで約4分間、飛行しました。技術的な詳細や操縦方法については非公開となっています。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020

────試験飛行の動画を拝見するとかなりスムーズに移動していますね。

「SD-02」(「SD-03」以前の型)と「SD-03」の飛行の様子を比べると、ある一定の高度を維持しつつ、ピタっと安定して浮上し続けたり、安定して横にスーっと移動するような飛行制御ができたりと、フライトコントロールが格段に向上しています。フライトコントロールで安定して飛行させることができるようになっているんです。


────操縦はどのようにしていますか。

2020年8月の試験飛行では、パイロットである安藤寿朗(あんどう・としお)氏がコックピットに乗り込みましたが、安藤氏が乗り込む前にドローンのように遠隔操縦で飛行させています。手動操縦でも遠隔操縦でも安定した飛行を実現しました。

「SD-02」の遠隔操縦では1mm以下の操舵を繰り返す細かなコントロールをしていましたが、安藤氏によると前のタイプの「SD-02」は遠隔操縦で乗っていると息ができないくらい不安定だったと言います。そうしたコントロールを改良し、今では手動操縦で操作するジョイスティックから手を離せば、その高度を維持しながらピタっと空中で静止できるようにまでなっているんです。移動も安定かつスムーズにできていますから、手動操縦が極めて楽になっています。


────自動車の自動運転と同じような操縦でしょうか。

遠隔操縦で飛行する場合、電波のネットワークのセキュリティなどの安全性の確保が重要ですし、完全自律飛行の場合は技術的なハードルがかなり高くなってしまいます。ですからまずは、できるだけパイロットの操縦を手助けするオートパイロット機能を付け、専門のパイロットの手動操縦との併用で飛行します。

つまり、オートパイロットが人間のパイロットのアシストをし、回避行動や緊急時などの最終的な判断はパイロットが行うわけです。これは自動車の自動運転レベルのレベル1やレベル2、運転支援や部分運転自動化といったものと同じです。

パイロットが操縦して飛行する「SD-03」。空中での挙動は安定しているようです。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020
パイロットが操縦して飛行する「SD-03」。空中での挙動は安定しているようです。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020

搭乗者の数と座席配置、2人乗り座席は前後並びか左右並びか

────パイロットの挙動は機体の制御に影響しないのですか。

そうですね。搭乗者が身動きしたり機体の中で重心が移動すれば多少の影響は出ますが、シートベルトをしていることもあり機体制御への感度はそれほど大きくありません。これは1人乗りの場合で、重心が多少動いても安定性は確保できるようになっています。


────現状の機構が最もいい選択肢なのでしょうか。

1人乗りタイプの小型の電動垂直離着陸(eVTOL)である「SD-03」では、現状で入手可能なモーター、バッテリー、インバータなど電動関連部品の組み合わせはこれが最適解だと考えています。これが2人乗りになった場合、モーターとローターが8個のままでいいのかとか、機体の形状も変えなければならないのではないかといったことを社内で議論しています。2人乗りになった場合の機体の形状についてはまだ確定していません。


────搭乗者が増えていくとどうなるのでしょうか。

試験飛行した「SD-03」という機体は1人乗りのタイプです。ただ今後は搭乗者を1人以上にしたいということで、どういうシート位置にするのか考えています。前後に1人ずつタンデムに位置する2人乗りの場合、後方の搭乗者が乗るか乗らないかでも重量配分が大きく変わります。その場合、後方座席を機体の重心にすれば、乗っても乗らなくても重量配分はそれほど変化しないでしょう。

一方、前後縦に座るより、左右で横に並んで座るほうが自動車として自然ですし、空飛ぶクルマというコンセプトに合っていますが、シート位置を左右にする場合には、搭乗者1人だけだと左右に傾いてしまいます。


────縦位置のタンデムがいいのでしょうか。

空気抵抗を考えれば、前方からの投影面積、断面積は縦のタンデムのほうが小さくなるでしょう。つまり、機体の重心や空気抵抗などを考えると縦に位置するタンデムのほうがより良いのですが、空飛ぶクルマの将来的な広まりを考えれば横に並んだほうがいいという意見が多く、これは技術的には悩ましいところです。

「SD-03」のコックピット。縦に並ぶタンデムか横に並ぶサイドバイサイドか、いずれにせよ将来的には2名乗りになると言います。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020
「SD-03」のコックピット。縦に並ぶタンデムか横に並ぶサイドバイサイドか、いずれにせよ将来的には2名乗りになると言います。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020

────将来的には何人乗りになる予定ですか。

最初に販売する機体は2人乗りを考えています。この搭乗者数というのは、事業展開を考えた場合、技術的な問題から開発費の問題まで社内でもさまざまな意見があり、議論してきました。世界的に空飛ぶクルマの研究開発は、大きく分けて大型の機体と小型の機体に二分されてきています。米国のベル・ヘリコプターのベル・ネクサスやジョビー・アビエーション(ウーバー・エレベート)の機体などはタクシーのように5、6人搭乗でき、飛行距離は200から300kmです。しかし、この大型機の場合、1機あたりの価格は10億円以上になるでしょう。


────期待の大きさと開発費の関係についてはどうなのでしょうか。

座席数約300のボーイング787の開発にはおよそ5,000人のエンジニアが必要で、私が携わっていた三菱スペースジェット(MRJ)の場合は座席数100程度で千数百人のエンジニアが必要です。つまり、設計や試験、開発などに関わる必要なエンジニアの数というのは、飛行機の大きさに比例しているんです。

エンジニアが増えれば単純に開発費もかさみますから、大型の航空機を開発するためには巨額の開発費がかかることになります。こうしたことを考え、身の丈に応じた身近な空へというコンセプトを踏まえれば、我々はまず2人乗りの空飛ぶクルマを実現しようということになったんです。

岸信夫(きし・のぶお)SkyDrive技術最高責任者(CTO)
大阪府立大学工学部卒業。三菱重工、三菱航空機にて戦闘機、旅客機などの開発に37年間従事。 この間先進技術実証機プロジェクトマネージャ、MRJ(Mitsubishi Space Jet)のチーフエンジニア、技術担当副社長を歴任。 2018年から大阪府立大学大学院でシステムインテグレーション、プロジェクトマネージメントを研究。 2020年4月からSkyDrive技術最高責任者(CTO)に就任。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020
岸信夫(きし・のぶお)SkyDrive技術最高責任者(CTO)
大阪府立大学工学部卒業。三菱重工、三菱航空機にて戦闘機、旅客機などの開発に37年間従事。 この間先進技術実証機プロジェクトマネージャ、MRJ(Mitsubishi Space Jet)のチーフエンジニア、技術担当副社長を歴任。 2018年から大阪府立大学大学院でシステムインテグレーション、プロジェクトマネージメントを研究。 2020年4月からSkyDrive技術最高責任者(CTO)に就任。©SkyDrive/CARTIVATOR 2020

技術的には、パイロット1名で安定した飛行を実現しているというSkyDriveの空飛ぶクルマですが、搭乗者の増員すなわち機体の大きさは開発費の増額に関係してくるようです。次回は実際の開発の苦労や今後のロードマップなどを伺います。

文/石田雅彦

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