小型車のハイブリッド化に向けた、新開発「トランスミッション(自動MT)」の可能性とは~現場のエンジニアに訊く電気自動車の最前線

INTERVIEW

スズキ株式会社
四輪パワートレイン技術本部
四輪パワートレインシステム開発部
宇田 裕一
赤川 真也

CO2削減のトレンドが世界的に加速しています。2020年、菅首相は所信表明演説でカーボンニュートラルへの取り組みを宣言し、バイデン大統領は就任後すぐにパリ協定への復帰へ署名しました。もとより、欧州議会(EU)も自動車に対する厳しいCO2規制を決めています。

コスト面およびスペース的にも電動化技術を導入するのが難しい小型車においても、CO2削減への要求は日増しに強くなっています。そのような状況のなか、他のメーカーとは違うユニークなアプローチのハイブリッドシステムを展開しているのがスズキです。これは軽量コンパクトで低コストでありながら十分な性能を発揮する、いかにも「スズキらしい」アイデアにあふれたハイブリッドです。

AGS(Auto Gear Shift)と組み合わされるハイブリッドシステムの技術的な特徴と将来性について、ハイブリッドシステムの開発に携わる四輪パワートレインシステム開発部システム適合設計グループの宇田裕一(うだ・ゆういち)氏と、同部システム開発グループの赤川真也(あかがわ・しんや)氏にお話を伺いました。

▽おすすめ関連記事

「ハイブリッド」へのステップアップ、軽量コンパクトな「トランスミッション」の開発へ

────御社は以前からマイルドハイブリッド(Mild hybrid、乗用車に搭載されている発電機を強化し、エンジンの補助モーターとしても利用)を広く展開してきましたが、AGS(Auto Gear Shift)と組み合わせたハイブリッドをラインナップしたのはどういった経緯があったのでしょうか?

宇田裕一氏(以下、同様)
もともと弊社はアイドリングストップに始まって、エネチャージ、S-エネチャージというように電動化の技術を少しずつステップアップさせていきました。それをさらにもう一段上のハイブリッドをやっていこうと考えた時に、2014年くらいからオートギアシフト(AGS)というマニュアルのトランスミッションを自動で変速させる、いわゆる自動MTを使っていました。


────これはアルト(ALTO(R)、スズキの現行型)が最初ですか?

日本では商用車のキャリイ(CARRY(R))に最初に搭載して、乗用車ではアルト(ALTO(R))が最初でした。このAGSが軽量コンパクトで効率も良いので、それとモーターを組み合わせることで、自動変速機としての性能・質を高めることができて、さらに燃費も向上できて、ハイブリッドとしてのいろいろなメリットを活かせると考えました。

特に小さな車に搭載するには、軽量コンパクトなトランスミッションであるAGSとの組み合わせがベストだと考えて開発をしたという経緯です。


────このハイブリッドは、AGSの変速時のトルクの谷をモーターのトルクで埋めてスムーズに走りますが、開発のきっかけはAGSのトルクの谷を埋めたかったのが先なのか、あるいはハイブリッドへのステップアップがまず頭にあったのか、出発点としてはどちらだったのですか。

実のところ両方なんですね。AGSを展開していて、自動MTとしては変速時のトルク抜けを上手く処理して、一定のお客様には認めてもらえる商品にできていると思っていますが、それでもやはり一部のお客様からは変速時のトルク抜けが気になるといった声があるも事実ですので、できるだけ良くしていきたいという思いも当然ありました。

一方で世の中の燃費規制がどんどん厳しくなっており、環境問題に対応するためにはマイルドハイブリッドからハイブリッドへのステップアップが必要です。その両方を取りにいくことを考えた時に、AGSとモーターの組み合わせに行き着いたということですね。


────そもそもの話ですが、例えばアルト(ALTO(R))にはCVT(Continuously Variable Transmission、連続可変トランスミッション)があって、そちらが主力だと思うのですが、あえてAGSを設定したのは、CVTよりAGSの方が効率が高いということなのでしょうか?

そうです。AGSはマニュアルのトランスミッションをベースにしていますので、伝達効率としては凄く高いです。それに軽量コンパクトですので、その点でも燃費には有利ですね。


────CVTがだいたい50kgくらいだとすると、AGSはCVTよりどれくらい軽いのでしょうか。

2〜3割軽いですね。2〜3割だとしても全体としては大きな数字です。

CVT(Continuously Variable Transmission、連続可変トランスミッション)より2~3割は軽いというAGS(Auto Gear Shift)ユニット
CVT(Continuously Variable Transmission、連続可変トランスミッション)より2~3割は軽いというAGS(Auto Gear Shift)ユニット

マニュアルのトランスミッションに小型モーター一つを組み合わせた構成

────AGS+ハイブリッドは他メーカーのハイブリッドと比べてどういう特徴があるとお考えでしょうか?

やはり軽量コンパクトなところです。もともとがマニュアルのトランスミッションという非常にシンプルで効率も良いユニットに、今回は10kWのわりと小型のモーターを組み合わせており、しかもモーター一つで構成しているからです。


────つまり、重さもさることながらコンパクトさが非常に重要だったということですね? 軽自動車には設定されていないのですが、これは理由があるのでしょうか。

軽自動車用のユニットを開発すれば搭載できるのですが、燃費の観点で言うと小型車をまず良くしたいといったところがありました。軽の方はいろいろなことで燃費をそうとう頑張っていますし。AGSはもちろん、S-エネチャージでもそれなりの燃費は出せていると思っていますので。


────コスト面はどうですか。それよりも大きさや重さが問題になるのでしょうか?

両方課題はあります。軽に対してはコスト面でそれなりのインパクトがありますし、大きさの点も、軽に載せるとなるともうワンステップ越えなければいけないという課題もあります。

ハイブリッドシステムの開発を担当する、スズキ株式会社 四輪パワートレイン技術本部 四輪パワートレインシステム開発部 システム適合設計グループ 宇田裕一氏(右)と、トランスミッションの開発を担当する、同部システム開発グループの赤川真也(左)氏
ハイブリッドシステムの開発を担当する、スズキ株式会社 四輪パワートレイン技術本部 四輪パワートレインシステム開発部 システム適合設計グループ 宇田裕一氏(右)と、トランスミッションの開発を担当する、同部システム開発グループの赤川真也(左)氏

モーターの駆動力をギアではなく「チェーン」で接続させた狙い

────具体的に他のハイブリッドシステムと比べてこういうところが違うという点があれば教えてください。

まずAGSという非常にコンパクトで軽量なトランスミッションと組み合わせたところと、モーターも10kWという比較的小さなモーターを使っているところです。

そしてこのモーターをトランスミッションの出力軸側、タイヤに繋がる軸上に配置していますが、モーターとの接続をチェーンで繋いでいるのが特徴です。

一般的にはギアを使って接続すると思いますが、レイアウト上、ギアを複数連ねて繋いでいく必要があるなどして重量的には不利なので、チェーンという非常にシンプルで軽量なものを使ってそこを接続しました。

それからモーターも小型ですので、バッテリーのサイズもそれに合わせてコンパクトなものを使っています。小さなモーターを上手く使って、その相乗効果で全体を軽量に仕上げていきました。


────バッテリーはリチウムイオンですね。容量はどれくらいですか?

0.44kWhです。


────リチウムイオンバッテリーは値段が下がってきているんですか?小型車にも採用できるくらいまで。

その実感はあまりないです。それほど大きくは下がっていないですね。


────では、コストが高い中でも最適な容量のものを載せたということですね。

それとインバーターも、モーターの出力を小さくできたおかげで、水冷ではなく空冷にすることができて、軽量化になっています。


────モーターとアクスルをチェーンで繋いでいるとのことですが、大きな駆動トルクがかかる部分をチェーンできっちり動かすための工夫は何かありますか?

チェーンガイドを使ってチェーンの振れ・暴れを抑えています。開発中はチェーンのうなり音も課題になりましたが、ガイドの設定を詰めて対策することができました。


────そういったもろもろの工夫によって、マイルドハイブリッドとは、どれくらいの重量差になったのでしょうか。

システムとしては、マイルドハイブリッドとの重量差は40kgプラスですね。なかでもバッテリーが一番重いです。


────モーターはこの出力だとどれくらいの重さがあるのですか?

このモーターは7~8kgくらいですね。そのほかにもインバーターとケーブルもそれなりの重さがあります。高電圧のケーブルですので。


────インバーターはそんなに重いものなんですか?

インバーターも数キロはありますね。放熱板がどうしても必要になるので、それなりの重さはあります。

モーターの駆動力をチェーンで伝えることにより、軽量化とレイアウトの柔軟性を図ったという
モーターの駆動力をチェーンで伝えることにより、軽量化とレイアウトの柔軟性を図ったという

小型車のハイブリッド化における「シリーズハイブリッド」の課題

────以前御社はスイフト(SWIFT(R))のシリーズハイブリッド(レンジエクステンダー)をモーターショーに出展されていました。いま他社ではシリーズハイブリッド系の車が増えていますが、これについてはどのように捉えていますか?

シリーズハイブリッドとなると、駆動用モーターと発電用モーター、この大きなモーターが二つは必要になるんですね。そこに発電用のエンジンを搭載する必要があり、それぞれ同程度の出力のエンジン、発電用のモーター、駆動用のモーターを組み合わせなければなりません。

やはりユニットとしての大きさをコンパクトに仕上げるには課題が大きいという点と、大きなモーターが2つ必要になるのでコスト的にも課題があるという点で、我々もかつては検討しましたが、お客様にリーズナブルな価格で提供できるところまではいきつけなかったと。量産化まではいかなかったということです。


────PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)あるいはレンジエクステンダー(Range extender、EVの航続距離延長を目的にエンジンを純粋な発電機として使うシステム)は補助金の話も出ていますし、またEUのCO2規制もかなりきついと思いますが、そのへんはどうお考えですか?

やはりさらに燃費を良くしていくことが必要で、ひとつはEVも当然視野には入れた開発をしていますし、ハイブリッドをさらに燃費を良くしていく、CO2を下げていく手段としては、プラグインも必要になってくるという気がしています。

CO2規制に対応すべく、新「トランスミッション」の「プラグイン化」必要か

────AGS+ハイブリッドをプラグイン化することは可能なのでしょうか。

AGS+ハイブリッドをプラグインに発展させていくことも可能です。モーターがトランスミッションの出力軸側、つまりタイヤに繋がる側に付いているという特徴を活かして、そのモーターを大きくすることでモーターの走行領域を広げることも可能です。エンジンとトランスミッションの間にモーターを挟む形だと、そのモーターを大型化するのはなかなか大変ですので。


────チェーンでレイアウトも柔軟に考えられるということですね。

そうですね。


────プラグインへの対応は今後必須だとお考えですか?

EVへすぐにシフトするのは簡単では無いと思っていますので、プラグイン化は必要だと思っています。


────例えばAGS+ハイブリッドをプラグイン化するとして、日常ユースをバッテリーで賄える程度の、プラグインに最適なバッテリー容量があると思いますが、どのようにお考えですか?

そこは考え方次第ですが、EV走行レンジをどれくらいに設定するのかによりますね。EVレンジを長くするためにバッテリーをたくさん積むと、エンジンの出番が非常に少なくなる。すると、使い方によってはせっかく積んであるエンジンを使う機会があまりない。高いお金を払ってエンジン付きの車を買っているけれども、出番のないものをわざわざ搭載して走っているといったことにもなります。しかし逆にあまりにもEVレンジが短いとプラグインの意味がなくなってしまいます。

そのへんは各社各様の考えでやられているのかなと思いますし、弊社も検討しているところですが、ただ欧州の動向を見ると、いわゆる街中の走行はEV走行でないとダメですよという方向になってきています。


────EVレンジが広いほど有利な計算式ですよね?

そういったことを考えると、例えば郊外を走っている時はハイブリッド走行で街中用に電池を温存しておいて、街中に入ったらEV走行に切り替えて走る。そういった需要も出てくるだろうとは思っていますので、街中を走るのにどれくらいの電池が必要かといったところから電池容量を決めていくことも一つの解かなと思います。

スイフト(SWIFT)ハイブリッドのシステム透視図。モーターと減速機がトランスミッションの外側に配置されているのがわかる。
スイフト(SWIFT)ハイブリッドのシステム透視図。モーターと減速機がトランスミッションの外側に配置されているのがわかる。

まとめ

EVやプラグインハイブリッドへの社会的な要請は日増しに強くなっていますが、現在のリチウムイオンバッテリーは、まだガソリンに対してエネルギー密度が低いため、重量がかさみ、コストもかなり高くなってしまうことも事実です。

今回のインタビューでは、特に小型車には難しい課題に対して、小型車づくりの経験値とアイデアでは世界でも随一のスズキが、真剣に取り組んだ結果生み出されたハイブリッドだということ、そしてプラグインへの展開も見込んだ将来性のあるシステムだということがインタビューを通じて伝わってきました。

小型車の電動化に対するスズキのアイデアにあふれた提案は、これからも見逃せません。


文/佐藤耕一


参考情報
・ALTOは、スズキ株式会社の登録商標です。
・CARRYは、スズキ株式会社の登録商標です。
・SWIFTは、スズキ株式会社の登録商標です。

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)