世界半導体市場統計から学ぶ非IC半導体製品3分類「個別半導体」「センサ」「オプトエレクトロニクス」〜半導体入門講座(19)

市場にはおびただしい数の半導体が流通しているが、それらはどのような半導体なのだろうか。半導体製品の分類として、WSTS(World Semiconductor Trade Statistic、世界半導体市場統計)という協議会が統計を取っている半導体製品は、一つの指標になる。WSTSは、2020年12月1日現在、46社が加盟する世界半導体市場の統計を取っている団体である。46社の半導体メーカーが加盟している。この機関は、半導体製品を大きく分けて、IC(Integrated Circuit、集積回路)とICではない半導体にまず分類している。

前回に続けて、IC以外の半導体を紹介しよう。そもそも、ICが生まれる前は半導体といえば単体のトランジスタかダイオードしかなかった。その単体のトランジスタやダイオードは今でも存在する。WSTSが定義している個別半導体とは、単体のトランジスタやダイオードの意味である。

 

▽おすすめ関連記事

パワートランジスタ、小信号トランジスタに代表される「個別半導体」~非IC半導体製品①

トランジスタやダイオードは一つのシリコン上にどんどん集積化されるため、個別トランジスタやダイオードの数量は減る方向にあるが、集積化しにくい数十A以上の大電力パワートランジスタやダイオードは単体が多い。WSTSによると、個別半導体の7〜8割がパワートランジスタだとしている。

パワートランジスタ以外の個別トランジスタは小信号を扱うもので、今では大工仕事に例えると「ネジ・釘」の類となっている。ICやシステムを設計中に、「ここの回路にスイッチを入れておこう」といった場合には、小信号トランジスタで電子スイッチ代わりに配置する。新しい回路の開発している時に使われることが多い。大規模の回路を少し変更したり調整したりするときに使われる場合が多い。量産になると、そのようなトランジスタは集積回路に入れてしまうケースが多い。

個別のダイオードも昔のような整流器や検波器などの応用ではすでに集積化されるケースが多く、超高周波や、超大電力、特殊な用途が多い。例えば、交流100Vの電源を直流に変換する場合はトランスを通して交流12Vや5Vに変換した後に全波整流のダイオードを4個使う回路はすでに4個集積化されている。用途が明確で、汎用的なダイオード回路では集積化されていることが多い。

しかし、特殊な、例えば整流ダイオードだと、ショットキーバリアダイオードのように、接合電圧の低いダイオードが求められるが、数十~数百Aという大電流を扱うため、集積化されない。また、数百GHzで動作させるようなトランジスタはまだないため、そのような超高周波にも使えるダイオード(共鳴トンネリングダイオード)を使ってミリ波やテラヘルツ波を発生させようという研究も出ている。特殊なダイオードでは一定の電圧を出力するツェナーダイオード(定電圧ダイオード)やPINダイオード(高周波ダイオード)などがある。


MEMSが大部分を占める「センサ」~非IC半導体製品②

WSTSが定義しているセンサとは大部分がMEMS技術を利用したものが多い。MEMSとは、Micro Electro Mechanical Systemsの略であり、シリコン半導体を深いエッチングで加工して薄いメンブレン膜やカンチレバー(片持ち梁)を形成する電気機械技術を指す。直径が0.1mmという超小型のモーターを試作した研究もあった。

MEMSは大学の研究室から生まれた例が多く、1970年代終わりころに米国のミシガン大学やドイツのフラウンホーファー研究所、東北大学、豊田中央研究所などがMEMS研究に盛んに取り組んでいた。研究までは日本がリードしていたのに製品化では大きく出遅れた。大学の研究と企業が共同でプロジェクトを進めることが日本ではできていなかったためだ。欧米は産学共同が盛んであり、特に米国は大学教授の給料が通常夏季休暇を除いた9〜10か月分しか出ないこともあって、企業との共同研究で稼ぐケースが多い。

MEMS製品は、精度の高い加速度センサや圧力センサ、回転する強さを検出するジャイロセンサ、超小型マイクロフォンなどが普及している。最初に自動車のエアバッグの衝突検出に使われ、その後、産業機器や特殊の民生機器に使われていたが、さほど大きな規模には成長しなかった。

MEMS製品が急速に立ち上がったのは、「半導体入門講座(8)」でも簡単に紹介したが、AppleのiPhoneに採用された時だった。iPhoneはもともと縦長で使うケースが多いが、横にすると写真を横長に拡大してくれる機能がある。ここに加速度センサが使われた。スマートフォンを縦長にして使う場合は垂直方向に地球の重力がかかり、センサ部分のカンチレバーを下向きに置いていればカンチレバーはまっすぐになっているが、スマートフォンを横にするとカンチレバーはひなって曲がってしまう。このため電気抵抗値が変わり、その変化を読み取ることでスマートフォンが横に回転したことを検出する。

MEMS技術でメンブレンと呼ばれる薄い膜を形成しその膜に付ける電極と、中空の下部に電極を設けることで、静電容量(キャパシタンス)が変わる。メンブレン膜の上下運動によりキャパシタンスの変化を検出して圧力の違いを検出するのがマイクロフォンなどに使われる。また圧力センサはさらに高感度にするため、メンブレン膜上に抵抗を設けてホイートストンブリッジ(Wheatstone bridge)回路を形成し、その抵抗値の変化で圧力を検出している。

MEMSはシリコンを深いエッチングなどの技術を用いて空洞を作るため、ウェットエッチングを使うことが多かった。このため、通常の半導体ICの生産ラインとは別のラインを設ける必要があったが、日本の大手半導体メーカーは別ラインによるコスト上昇を言い訳にしてMEMSへの参入を嫌ってきた。このため海外のSTMicroelectronicsやAnalog Devices、Infineon Technologiesなどに差を付けられた。

MEMSマイクは、1個が1〜2mm角程度と非常に小さいため、スマートフォンには3〜4個程度搭載されており、左右のステレオだけではなく、通話中に周囲の騒音を打ち消すノイズキャンセラにも使われている。また、スマートスピーカーにも使われ始めており、やはり複数個簡単に入れられるため、音の向きを位相で変えるフェーズドアレイにより10メートル程度離れていても、「ヘイ、シリ」や「サンキュー、グーグル」というメッセージを高感度で受け入れられることのできるシステムも開発されている。


受光・発光ダイオード、レーザーが含まれる「オプトエレクトロニクス」~非IC半導体製品③

オプト(光)エレクトロニクス製品では、発光するものと受光するものが含まれている。シリコンは光らないが、化合物半導体の中には光る半導体材料がある。GaAsやInGaAs、GaNなどの化合物半導体はPN接合ダイオードを形成するとLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)になり、PINダイオードに共振器を設けるとレーザーになる。

LEDは光の3原色である赤(Red)、緑(Green)、青(Blue)の内、赤と緑は1970年代にできていたが、より光の強い赤色LEDは1980年代になってできるようになり、その頃からクルマのバックライトに使われ出した。青色が実用的な明るさになってきたのは1990年代になってからだ。ノーベル物理学賞を受賞した中村修二教授、赤崎勇教授、そして天野浩教授が発明したと認められた。この3原色により、どのような光も照明に使えるようになった。新型コロナウイルス対策に関しては、青色よりももっと波長の短い紫外光(UV)を発射し殺菌に使うようになりつつある。

レーザーはこれまで光ファイバー通信の送信器やCDやDVD、Blu-Rayなどのディスクの読み取りピックアップに使われてきたが、最近になって面発光レーザー(Vertical Cavity Surface Emitting Laser、VCSEL)が注目されるようになってきた。従来の光ファイバーやディスクのピックアップに使われたレーザーは、チップの端面(チップ表面に垂直な側面)から光が出ていた。これに対して、面発光レーザーは、レーザー発振させるための共振器をチップ表面と裏面との間で形成することにより、レーザー光を表面から出せるようにした。そうすると、集積化しやすくなる。

面発光レーザーは、iPhone Xの顔認証に使われるようになってから急速に商品化が進んだ。面発光レーザーを発明したのは、東京工業大学の学長も務めた伊賀健一名誉教授であるが、実際にこれを量産してiPhone Xに採用されたのは米国のレーザーメーカー2社(II-VI Incorporated(旧Finisar Corporation)とLumentum)のものである。

受光素子にはシリコンの他、化合物半導体も多い。受光素子は光ファイバーを通してオン・オフ変調された光を受信するデバイスである。光ファイバーの受信だけではなく、光センサと呼ばれる素子はすべて受光素子の仲間である。受光素子は光ファイバーシステムでは、一つのファイバーを通して光を送り、その光を受けて電気信号に変換するという役割を持つ。

一つの光で一つの受光素子ではなく、多数の光を受ける2次元上の受光素子アレイを持つ半導体はイメージセンサと呼ばれる。イメージセンサはデジタルカメラに多数使われており、今やスマートフォンには欠かせないカメラ機能の一つとなっている。イメージセンサはかつてCCD(電荷転送デバイス)方式が主流だったが、最近は画素ごとにトランジスタで増幅するCMOS回路を備えたCMOSイメージセンサが主流となった。


著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。


▽半導体入門講座

▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)