『中小企業 新ものづくり・新サービス展2020』現地レポート

中小企業庁および独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施する「ものづくり補助事業(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助事業)」に取り組んだ事業者が、補助を活用して開発した新しい製品やサービス、技術などの成果を出展し、販路開拓や拡大などのために開催するのが本展示会です。体温測定、マスク着用、3密の回避といった新型コロナ感染予防対策を施し、東京お台場で開かれました。そんな同展の出展社の中から目に止まった成果をいくつか紹介しましょう。

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NC旋盤と特殊なガンドリルを使った、金属棒に対し100㎜の深さの穴開け

株式会社ミクニ(山梨県上野原市)が出展していたのは、自動旋盤で細長い金属棒に対し、直径の100倍の深さまで穴開けできる加工技術です。自動旋盤は数値制御(Numerical Control、NC)旋盤で、これまでこれほどの深さまでの穴開けは難しかったそうです。

説明してくださった同社製造部の石井悠介(いしい・ゆうすけ)氏によると、例えば直径1㎜の穴の場合、従来の数値制御旋盤では1㎜で30㎜がやっとだった穴あけを、数値制御旋盤と特殊なガンドリルを使い、ステンレスなどの金属棒に対し、100㎜の深さまでの穴開けを可能にしたと言います。

特徴は、これまでは旋盤加工とガンドリルによる穴開けを2工程でやらなければならなかったものを、旋盤にガンドリルを合体させて1工程にしたことです。真円度や同軸度に優れた穴を開けることができ、こうした金属棒に穴を開けた製品はパイプでは代替が難しい半導体製造装置の洗浄ノズルなどに使われているそうです。

同社の穴開け技術と断面のカットモデル。同社では最小0.2㎜の穴開け加工などもできる。
同社の穴開け技術と断面のカットモデル。同社では最小0.2㎜の穴開け加工などもできる。

シアンの代替を使った、ノンシアン・ニッケルフリーの合金メッキ処理技術

創業73年のプレス加工会社がメッキ処理技術を出展していたのが株式会社久永製作所(千葉県四街道市)です。説明してくださった同社常務取締役営業本部長の鶴川陽子(つるかわ・ようこ)氏によると、従来のメッキ処理は人体や環境に悪影響をおよぼすシアン(青酸化合物)やニッケルを使うため、労働環境改善や環境負荷軽減が求められ、ノンシアンの処理技術が広まっているそうです。

同社は2007年からノンシアンのメッキ処理に進出し、もともと服飾用の金属製ボタンやホックのプレス加工をやっていた関係で、プレスボタンのメッキ処理をノンシアンで内製化できないか試行錯誤を重ねてきたと言います。その結果、ある食品添加物をシアンの代替に使ったノンシアン・ニッケルフリーの合金メッキ処理技術を確立したそうです。ちなみに使用する物質はノウハウで秘密だとのこと。

ノンシアンのため、前工程の脱脂に有機溶剤を使うことなく、界面活性剤で水などを使った脱脂洗浄も行うことができ、廃水処理工程での青酸ガス発生もなくなったことで、地下水汚染の危険度も低くなったと言います。鶴川氏によれば、アパレル用の金属ボタンは100万個のオーダーで製造するため、ノンシアン技術の開発と量産化・品質安定性の確保に苦労したそうです。

SGDsにも貢献できるという同社のノンシアンでメッキ処理された金属製ボタン。月産数億個も製造している。
SGDsにも貢献できるという同社のノンシアンでメッキ処理された金属製ボタン。月産数億個も製造している。

小惑星探査機のインパクタに使われた、電子ビーム溶接による異材接合

昨年(2020年)12月6日、小惑星リュウグウから物質を回収して帰還した小惑星探査機「はやぶさ2」で、鉱物の採取の際、リュウグウの表面に人工的なクレータを作るために射出された銅の弾丸が話題になりましたが、この射出装置を作るための重要な技術を出展していたのが東成エレクトロビーム株式会社(東京都西多摩郡、東成イービー東北株式会社として出展)です。

接合同社営業部係長の朝倉朋亨(あさくら・ともゆき)氏によると、同社は電子ビーム溶接による銅とステンレスなど異材接合を得意とし、航空自衛隊のブルーインパルスのエンジン部品など防衛需要を展開してきた企業ですが、JAXA(宇宙航空研究開発機構)に納品している取引先企業から同社の技術を射出装置に応用できないか打診されたと言います。

はやぶさ2で銅の弾丸となる「インパクタ(衝突装置)」とよばれる装置の一部。円形の中央部が銅で火薬の爆風によって射出され、円盤状の銅が銅の弾丸になる。
はやぶさ2で銅の弾丸となる「インパクタ(衝突装置)」とよばれる装置の一部。円形の中央部が銅で火薬の爆風によって射出され、円盤状の銅が銅の弾丸になる。

朝倉氏によると、インパクタ(衝突装置)と呼ばれる装置はステンレス製の円周と柔らかい無酸素銅の円盤とで構成されていますが、ステンレスと銅では融点が1,000℃ほども異なり、異材接合自体が難しい技術だそうで、JAXAから要求されたのはステンレスと銅を電子ビーム溶接する際、溶け込みを均一にするということだったそうです。

均一にしなければ、爆風を受けた銅が宇宙空間を直進できず弾丸にもならないと言い、ヘリウムによる漏れ検出基準1×10-10‏Pa・㎥/sec以下という高い気密性、打ち上げの耐Gや振動、高温・低温への耐久性も要求されたそうです。

電子を高速でワークに衝突させる電子ビーム溶接では、真空に引いたチャンバーの中で作業しますが、ステンレスと銅の溶け込みを均一にするため何度も試行錯誤を繰り返し、ビームの形状やパラメータを調整しながら適正な条件を探っていったと言います。その結果、溶け込みを約3㎜にすることでインパクタを作ることができ、10数個をJAXAへ納品することができたそうです。

化学研磨技術を使った、チタン合金の鏡面研磨

ミナミ化工産業株式会社(長崎県諫早市)が出展していたのは、チタン合金を化学処理して研磨する技術です。説明してくださった同社技術部主席の小堀晃作(こぼり・こうさく)氏によると、航空宇宙分野などで使われるチタン合金は表面粗度の要求スペックが高く、一般的な加工である機械加工やフェルトなどのパフ研磨といった物理的な研磨では、コストや納期などの問題で効率が悪いそうです。

同社は化学研磨技術をもっていたため、チタン研磨の分野でもその応用を考え、チタン表面の変質層を除去するエッチング加工の原理を応用して大型のチタン合金のための新しい研磨液と技術を開発。今回出展したのは、さらに難度の高いチタン合金の鏡面研磨で、小堀氏によるとマンガン鋼やタングステン鋼などの表面を化学的に研磨するのも技術的に難しいそうです。

同社のチタン合金を科学的に研磨処理した例。金属表面を平滑化するだけでなく、酸化皮膜などの除去や微細な寸法調整が可能。
同社のチタン合金を科学的に研磨処理した例。金属表面を平滑化するだけでなく、酸化皮膜などの除去や微細な寸法調整が可能。

火力発電所向けガスタービン用シール(難削材)の精密加工技術

株式会社みのる製作所(兵庫県神戸市)が出展していたのは、火力発電所のガスタービンで使われるシールの精密加工技術です。もともと航空機用の治具を作っている会社だそうで、説明してくださった同社代表取締役社長の松口健一(まつぐち・けんいち)氏によるとこれまでも鉄より硬い素材を加工してきたと言います。

出展していたガスタービンの回転部分は、直径5mという巨大な円周状の一部でハステロイ(R)・インコネル(R)というステンレス系の耐熱合金を利用しているそうです。この素材は粘度が高く硬い難削材だと言います。この円周を繋げていって環状にするそうですが、最終的に完全な円周に仕上げるのは難しいそうです。

同社が加工したハステロイ(R)・インコネル(R)による次世代の高効率火力発電向けガスタービン用シール部品。難削材のため、マシニングセンターに使う刃物を何種類も試し、刃の角度や回転数などを調整し、歪みや変形のないように加工しなければならないそう。
同社が加工したハステロイ(R)・インコネル(R)による次世代の高効率火力発電向けガスタービン用シール部品。難削材のため、マシニングセンターに使う刃物を何種類も試し、刃の角度や回転数などを調整し、歪みや変形のないように加工しなければならないそう。

このように全国各地から興味深い出展が多かった中小企業 新ものづくり・新サービス展。厳しい新型コロナ時代、ものづくりと技術開発を担う中小企業の底力に期待したいものです。


文/石田雅彦


参考情報
・ハステロイは、ヘインズ インターナシヨナル インコーポレーテツドの登録商標です。
・インコネルは、ハンティントン アロイズ コーポレイションの登録商標です。

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