ネプコンジャパンとオートモーティブワールドは、東京と名古屋で年に2回開催されてきた展示会です。オートモーティブワールドでは自動運転、クルマの電子化・電動化、コネクティッド・カー、軽量化といった自動車業界における技術に関する企業・団体が出展し、カーエレクトロニクス、EV(Electric Vehicle)・HV(Hybrid Vehicle)・FCV(Fuel Cell Vehicle)、軽量化、自動運転、部品加工などの併設展示会があります。CASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric)、MaaS(Mobility as a Service)といった展示も増えている傾向にあります。
このようにエレクトロニクスと自動車という、大きな2つの分野をまとめて開催されているのがこの展示会の特徴です。前編ではネプコンジャパンを中心にしたエレクトロニクス関連分野の出展社を紹介しましたが、後編ではオートモーティブワールドを中心にした自動車関連分野とロボティクスに分け、特に目についた出展・団体の展示内容をご紹介します。
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電気自動車業界のニーズに合わせて開発した「インホイールモーター」
内燃機関のシリンダーに使われるピストンリングの開発メーカー、日本ピストンリング株式会社(埼玉県さいたま市)が出展していたのは、インホイールモーター(In-wheel motor)です。内燃機関から電気自動車で使われるモーター開発へ新しい技術開発の成果を展示していました。
焼結による粉末冶金技術を長く培ってきた同社は、薄型モーターが求められている電気自動車業界のニーズからアキシャルギャップ型モーターのための三次元形状をもった圧粉磁心を開発し、そこから小型で高トルク、低速なダイレクト駆動も可能となるインホイールモーターを開発したそうです。エアギャップ(ステータとロータの鉄心のあいだの空隙)が可変なため、相互の磁気吸引力のパラメーターをコントロールでき、モーターの特性を速度やトルクなどの用途に合わせて変更できます。

小型電気自動車のタイプによって組み合わせ可能な「モーターユニット」
かつて武生松下電器株式会社として松下電器産業株式会社でモーター事業を手掛ける企業だった株式会社TOP(福井県越前市)が出展していたのは、小型電気自動車用のモーターで、実車に搭載したデモカーも併せて展示していました。説明してくださった同社営業部長、宮崎昌彦(みやざき・まさひこ)氏によると、買い物用などの近距離の街乗りで、1人から2人乗りの小型電気自動車に適したモーターで汎用性に富んだものが少ないと言います。
そのため同社では将来のニーズの増加のため、モーターとインバーター、ギアを組み込んだ小型・軽量・低コストの車載用モーター・ユニットを開発したそうです。それぞれの構成部品はモジュール化され、使う電気自動車の大きさや用途、タイプに合わせ組み合わせが可能で、このアイディアは意匠出願中とのことです。
モーター自体のサイズは全長177㎜、全幅188㎜、高さ173㎜、重量はインバーター込みで20kg以下になる予定だそうで、出力(60分)は6kw(3,400rpm)、モーターの最大トルクは38Nm、モーターの最高回転数は9,000rpm、搭載された電気自動車の速度は時速40㎞になると言います。

バックラッシュゼロ、超小型の「カム機構」とアクチュエーターへの活用
株式会社ミューラボ(福島県福島市)が出展していたのは、バックラッシュ(backlash、一対の歯車をかみ合わせたときの歯面間のあそび)がゼロ、超小型で精密な非平行軸伝導を可能にするカム(cam、回転軸によって運動の方向を変える機械要素)機構と小径で精密な角度制御を可能にするリング型ギアです。説明してくださった同社技術担当の千野大樹(ちの・たいき)氏によると、カム機構は特許を取得しており、入力軸と出力軸にオフセットを設けたことで出力動作範囲を広くすることができるようになったそうです。

カム機構を複数組み合わせると2爪、3爪の小型チャックが可能になり、またこうしたチャックだけでなく、自由度の多い多関節のマニピュレーター(操作機構)を回転軸だけで作ることもでき、小径で精密な動作を必要とするロボティクス分野での活用が期待できると言います。このカム機構に組み合わされているのが、こちらも特許を取得しているリング型の減速ギアで、歯数の異なった3組の歯車(例えば49歯から50歯)の噛合を順繰りに送り込むことで回転数を減少させ、4Nから5Nという高い減速比を実現しているそうです。
この減速ギアは独自のカム機構で使われていますが、将来的な発展として、減速ギアを使わずにモーターの回転をダイレクトに受けるカム機構を現在開発していると言います。どちらの技術もバックラッシュがゼロ、逆駆動性をもち、現在は直径8㎜までの小型化が可能だそうで、将来的には技術が不足している1㎜から10数㎜のミリサイズ精密マシン分野で汎用性の高いアクチュエーターにしたいそうです。

宇宙でも高精度と安定性を保つ、「熱硬化性CFRP」で挟んだハニカム構造
CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic、炭素繊維強化プラスチック)で用いられる母材には、大きく熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂がありますが、より強度の高いのは熱硬化性樹脂を用いたCFRPとされています。スーパーレジン工業株式会社(東京都稲城市)は、JAXAの「はやぶさ2」の構造体に使われるCFRPを手掛けた会社ですが、本展示会では熱硬化性樹脂によるCFRPを出展していました。
CFRPは、軽くて強く変形や熱膨張をせず腐らない、熱や電気を伝えるといった特徴をもっていますが、同社によれば宇宙探査機に使われているように、やはり現状では熱硬化性樹脂を母材に使ったCFRPがより実用性が高いと言います。宇宙空間という過酷な環境で高い精度と安定的に保つため、部位に合わせて炭素繊維と樹脂を選んでCFRPでサンドイッチしたハニカム構造にし、強度を保つために繊維の方向を変えた低熱膨張配向設計を行い、独自開発の治具を使って組み立てた結果、線熱膨張係数を0.01ppm/℃平均に抑えることに成功したそうです。

反応射出成形技術で「熱可塑性CFRP」を使った車両用部品を
プラスチック製品の製造販売会社、株式会社タカギセイコー(富山県高岡市)が出展していたのは、熱可塑性のCFRPを使った車両用部品です。特にCFRPと他素材の複合材料成形により、鋼材より軽量で高剛性の部品となる事例を紹介していました。もともと自動車や二輪車用のバンパーやカウリング(エンジンカバー)などをRIM(Reaction Injection Molding、反応射出成形)で一体成型する技術をもつ会社ということで、これまで培ってきた技術を熱可塑性樹脂によるCFRPに応用しているようです。

幅広い温度変化に対応可能な通気防水の「シリコーンゴムパッキン」
シリコーンゴムなどのシール部品の製造メーカー、東和化学株式会社(兵庫県三木市)が出展していたのは、車載用部品などに使われる通気防水構造体、ベントフィルター付きパッキンです。説明してくださった同社マーケティング営業戦略部の藤井徹(ふじい・とおる)氏によると、同技術のシリコーンゴムは特許取得済みで水は通さず空気を通すため、自動車のセンサーケースなどの精密機器が内蔵された密閉容器の通気用部品に使うことができると言います。
こうした密閉容器では、内部の湿度や温度、気圧などの環境が極力変化させないことが求められているそうですが、同社が開発したシリコーンゴムと多孔質膜との一体成型のベントフィルター付きシールゴムは-40℃から140℃までの温度変化に対応し、防塵・防水・撥油機能をもたせることができているそうです。これまでの同じような製品は、製造工程が複数になり、一体成型によるコスト削減も期待できると言います。

コロナ禍の中で行われたネプコンジャパンとオートモーティブワールドを前編・後編で紹介しました。多種多様な技術が出展され、来場者は昨年と比べ少なかったものの、なかなか活気のある展示会でした。
文/石田雅彦
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