ダイナミックマップ、車と交通インフラが収集した道路情報がもたらす可能性とは~自動運転に向けた知的交通インフラの構築(後編)

INTERVIEW

情報通信研究機構(NICT)
ワイヤレスネットワーク総合研究センター
主任研究員 表 昌佑
研究室長 児島 史秀

ドライバーが一切ハンドルやブレーキを操作することなく、設定した目的地まで自動で運転してくれる自動運転社会はいつ頃実現するのでしょうか。車の進化には段階があり、現在、高速道路を走行中の一定の条件下で自動運転が可能な車(レベル3)が市場投入されようとしている段階です。ただしレベル3は、システムから要請があった時には運転操作をいつでも人ができる状態であることが条件となっています(運転席にドライバーが必要)。

その先に、ドライバーが必要のない自動運転車(レベル4以上)の開発及び社会実装が望まれています。これは日本では2025年ごろから高速道路に限定して解禁になると予測されています。一般道も含めて自動運転社会が実現するのはその先になります。

自動運転分野では、グーグル系のWaymo(ウェイモ)、GMクルーズ、テスラなどに加え、アップルやBaiduなどの企業の参入も発表され、自動運転車の開発がますます加速化しています。ただ、自動車やアプリケーションだけを開発しても自動運転は実現できません。さまざまな安全対策が必要です。

車にカメラやレーダーのセンサーを積んで、車同士が近づけばわかるという技術はすでにあり、進化を続けていますが、それだけでは自動運転の安全確保には不十分であると考えられます。車自身に搭載するセンサーだけでなく、交通インフラ側にもセンサーを設定して、車とインフラが通信することで、自分がいる位置を特定したり、周辺の道路環境を把握したりすることが必要です。

 

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「ダイナミックマップ」、道路情報をリアルタイムに取得し3次元のデジタルマップを作成

情報通信研究機構(NICT)のワイヤレスネットワーク総合研究センターでスマート電子カーブミラーの研究を担当する主任研究員の表昌佑(ぴょう・ちゃんう)氏
情報通信研究機構(NICT)のワイヤレスネットワーク総合研究センターでスマート電子カーブミラーの研究を担当する主任研究員の表昌佑(ぴょう・ちゃんう)氏



たとえば、ドライバーが不要なレベル4の自動運転では、車のセンサーが信号機を見て、通常ではそれを赤か青かを判別できるとしても、もし万が一、故障や不良によるセンサーの誤認識やコンピューターの誤作動があっては、事故が起きてしまいます。しかし「万が一」があってはなりません。そのために、車のセンサーの識別に加えて、信号機から赤や青の情報を送り、2つの情報が一致した時に走行するようにすることで、より高い安全性を確保するということが必要になると考えられます。

そうした観点を含め、総務省が中心になって構想しているのが、道路などのさまざまなインフラからリアルタイムで情報を収集配信する「ダイナミックマップ」です。車やインフラにセンサーを搭載して道の情報をリアルタイムに取得し、3次元のデジタルマップを作成。道の情報を車などに配信するものです。


Connected Car 社会の実現に必要な通信(ダイナミックマップ)の概念図。総務省「Connected Car社会の実現に向けた研究会検討結果取りまとめ」の公表(平成29年8月4日)から抜粋。
Connected Car 社会の実現に必要な通信(ダイナミックマップ)の概念図。総務省「Connected Car社会の実現に向けた研究会検討結果取りまとめ」の公表(平成29年8月4日)から抜粋。


どのようなデータをどのように管理するか。ダイナミックマップに使用するデータには4つの区別があります。
まず、車線情報、路面情報、建物情報などの長期間変わらない情報は、①「静的情報」。道路工事や交通規制など、時間単位で変動する情報は、②「準静的情報」。交通事故や渋滞などの分単位で変動する情報を③「準動的情報」、信号の移り変わり、人や車の動きなど秒単位で変わるものは④「動的情報」と定義します。

情報通信研究機構(NICT)で、この②と③の運転に必要な情報を取得しようという中で、選択肢の一つとして採り上げたのがスマート電子カーブミラーでした。現在は、④「動的情報」の取得、利用も視野に入れています。

スマート電子カーブミラーは、カーブミラーの支柱に取り付けたセンサーが、その付近を通行する車に対して、死角となる側に車や自転車が近づいている情報を収集して伝えるなど、交通安全の確保などを目的として開発が進む通信システムです。前編でも述べたように、どんなに高性能のセンサーが車についていたとしても見ることができない物陰や、カーブの向こう側にある危険をセンサーで感知して、車がそこを通るよりも前に情報を送り、自動運転の車が予測して動けるようにするのです。

ところで、実は欧米にもダイナミックマップに似た概念の構想はありますが、日本はいち早くプロジェクトが始動し、研究も欧米より進んでいます。NICTのワイヤレスネットワーク総合研究センターでスマート電子カーブミラーの研究を担当する主任研究員の表昌佑(ぴょう・ちゃんう)氏によれば「日本は世界一のカーナビ大国であるといわれており、カーナビなどのナビゲーション技術や地図の概念は日本がもともと強い分野だったため」だということです。世界で初めて民生用カーナビを販売したのは本田技研工業であり、かつては世界のカーナビ製品の8〜9割は日本のメーカーが製造していました。DX関連では、何でも欧米に遅れをとっていると思いがちですが、このように日本が先んじている分野もあるのです。


「電子カーブミラー」からの収集情報を、ダイナミックマップ作成に

画像データをAIで処理し、車や人や自転車をアイコンなどで表現した3D画像を生成 (提供: NICTワイヤレスネットワーク総合研究センター)
画像データをAIで処理し、車や人や自転車をアイコンなどで表現した3D画像を生成 (提供: NICTワイヤレスネットワーク総合研究センター)


情報通信分野を専門とする国の唯一の公的研究機関であるNICTのワイヤレスネットワーク総合研究センターワイヤレスシステム研究室では、もともと自動運転やダイナミックマップの構想とは関係なく、5Gの普及にあたって、ローカル5Gでの支援技術などを研究していました。

その一環で、どのような場所に5Gの基地局を設置するかといったことも研究していました。「基地局の場所として、全国に設置されているカーブミラーも視野に入っていました。たまたま総務省でダイナミックマップの構想が進んでいたところへ、寄与できる形として検討したところ、スマート電子カーブミラーの開発につながったという経緯もあります」とワイヤレスネットワーク総合研究センターワイヤレスシステム研究室長 児島史秀(こじま・ふみひで)氏はいいます。

スマート電子カーブミラーのカメラは映した画像をそのまま利用するのではなく、画像データをAIで処理し、自動車なのか人なのか自転車なのかを認識してから、情報を圧縮し、車や人や自転車をアイコンなどで表現した3D画像を生成します。その情報をダイナミックマップにも送ることができます。


自動運転における安全性を実現するため、車と交通インフラの情報収集には役割分担を

NICTで開発中の小型化したスマート電子カーブミラー
NICTで開発中の小型化したスマート電子カーブミラー


AIが情報を圧縮してやりとりするのは無線通信の負担を軽減するためです。5G通信は、最高伝送速度は10Gbps程度と言われており、4G通信の速度と比較すると約100倍になります。そのため、通信環境は格段に良くなりますが、今後、インターネットに常時接続されるコネクテッドカーが普及し、また、スマート家電などのIoT機器は増え続けます。IoTでさまざまなものがインターネットにつながり、かつ自動運転の車も多数道路を走るようになると、おびただしい量のデータが常時、空間を飛び交うことになります。ですから、いかにAIが必要な情報を抽出して不要な情報を捨て、情報を軽くするかということもポイントになります。

さらに2030年〜2040年に開発されると予想される6Gでは最高伝送速度は100Gbpsから1T(テラ)bpsと5Gのさらに100倍になるとも考えられています。

スマート電子カーブミラーなどを活用した、すでにあるインフラを活用した情報提供による地図の3D化は、自動運転のためだけではなく、さらに通信技術が向上した6G時代の未来にも応用可能性があると表氏は言います。「リアルとヴァーチャルの融合が進み、ヴァーチャルのベースのマップにリアルな世界を取り込んで、ヴァーチャルを切り替えるVRの世界が到来することは必至で、そのためにも、情報を3Dにしておくことが必要になる」(表氏)からです。

児島氏によれば、この技術はまた、道路だけではなく、現実空間にある工場や設備、製品、オペレーションシステムなどをデジタル空間に再現し、リアルタイムで現実のデータを取り込んで更新しながらリアルとデジタルを連携する「デジタルツイン」という産業イノベーションを促進する技術とも深く関連するものだそうです。

ともあれ、「まずは車の自動運転を進め、車に載せたセンサーで情報を取得することに世の中の注目が集まっています。それが実際に実現した場合に、インフラの情報でどうサポートするかということが、現実の課題や目的が出てきたときに、それに対応した形で実用化されるというのが今後の展開です」(表氏)。

今は自動運転の車自体にさまざまな機能が求められ、負担が大きくなっています。「車にすべてのデータを取得させるのではなく、重い処理が必要なものは、インフラに任せるという役割り分担をしたほうが、より効率よく、高い安全性を実現できる」と表氏は言います。

スマート電子カーブミラーの実用化には、いかに自動運転の車やほかのIoT機器と干渉せずにデータをやりとりできるかという問題や、道路情報を車やクラウドに送るという目的に合った無線機をどう開発するか、電波の規格の統一なども含め、単独では進められない事情もあります。

ただ、すでに述べたように、自動運転の車だけではどうしても取得できない情報や車には負担が大きい情報もあり、それを補うインフラのサポートは必ず必要になります。そうしたことを勘案すると、2025年以降に一般道を走るレベル4の自動運転の車が出てくるのと軌を一にして、スマート電子カーブミラーも世に出ることになりそうです。


文/奥田由意


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