半導体製造の前工程では、回路パターンに沿って絶縁膜や半導体を削ったり、堆積させたりするためにリソグラフィ技術が使われており、半導体製造装置と検査装置を提供する米国や日本企業が高いシェアを示しています。一方で、かつて前工程より注目度が低かった後工程でも、技術の発展と分業化が進み台湾、中国系の企業が優位を示しています。今回は、前工程と後工程を簡単に解説しながら、各工程で高い市場占有率(シェア)を占めている企業らの最新動向をご紹介します。
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半導体製造装置・検査装置、日本は米国と並んで強い
半導体の製造では、回路パターンに沿って絶縁膜や半導体を削ったり、堆積させたりする。部分的に削る、堆積するために、写真工程のようなリソグラフィ技術を使う。それら加工するための装置が製造装置である。製造装置分野では、日本は米国と並んで強い。米市場調査会社のVLSI Researchによると、世界最大手は米アプライドマテリアルズ(Applied Materials、AMAT)である。2位オランダのリソグラフィメーカーASML、3位の東京エレクトロン(Tokyo Electron, TEL)と続く<表1>。
<表1>2019年の半導体製造装置・検査装置の売上額上位15社ランキング(提供:VLSI Research)

上位15社の装置サプライヤーには製造装置メーカーだけではなく、テスト装置メーカーも含まれており、第5位に米KLA、第6位に日本のアドバンテストとなっている。この15社の中に含まれる日本のメーカーは8社もあり、最も多い。
最近の製造装置は年々価格が高騰しており、ASMLが製造するEUV装置は100億円を超える、と言われている。因みにASMLの2020年第3四半期の決算報告書によると、製造装置の売上額30億9,600万ユーロの内の66%がEUV装置であり、その出荷台数は14台だったので、1台当たりの平均単価が求めると、約1.46億ユーロ、すなわち平均単価は180億円程度になる。
EUV技術は7nmプロセス移行から本格的に使われるようになってきた。それまでの間は、波長193nmのArFレーザーの液浸技術を使っていたが、14/16nmを加工するためには、1回露光し、現像・水洗したのち、パターンを半分ずらしてもう一度露光するという、面倒なダブル露光技術を使っていた。しかし、7nmとなると、2回露光ではすまない。さらにもう1回ずらすという3回露光を使わざるを得なくなった。これほど微細ではない従来の露光技術だと1回で済む工程が3倍も長くかかることになる。
一方、EUV露光に必要な光(といっても目には見えない)の出力が上がったため、EUVなら1回露光で済む。このため、7nmではEUVが主力になりつつあり、その先の5nmはEUVしか使えなくなった。従来のレーザー露光ではスループット(1時間当たりのウェーハ処理量)が1/3に落ちるためである。
リソグラフィ以外の工程の半導体製造装置なら、ほぼすべてをカバーしているトップメーカーのアプライドマテリアルズ(AMAT)は、2020年度(2020年10月期)の売上額は172億ドル(約1兆7,900億円)、営業利益が45.3億ドル(約4,711億円)、営業利益率26.3%と立派な業績を誇る。
アプライドマテリアルズ(AMAT)は、シリコンの上に絶縁膜や多結晶シリコンを形成するCVD(Chemical Vapor Deposition、化学気相成長)法やメタルを形成するPVD(Physical Vapor Deposition、物理気相成長)法、ごく薄い絶縁膜を形成するALE(Atomic Layer Epitaxy、原子層エピタキシー)法などの成膜装置や、不要な部分だけを除去するエッチング装置でも絶縁膜やメタル、シリコンなどを垂直に除去する装置や、高く積んだ種類の異なる成膜を一様に削り取るCMP(Chemical Mechanical Polishing、化学機械研磨)装置などを持つ。さらに、不純物ドーピングするためのイオン注入装置や、それによるダメージを回復させるアニール装置、シリコン窒化膜を形成するプラズマCVDなどもある。
これらの成膜・除去などの処理装置でシリコン上に多数のMOSトランジスタを形成し、それらを互いに分離し回路を形成するための製造装置だけではなく、形成した回路パターンを検査するためのパターン検査装置や計測装置も持っている。
また、東京エレクトロン(TEL)も、成膜やエッチング装置に加え、リソグラフィでレジストを塗るコーターや、露光した後の現像を行うデベロッパーの装置、さらには化学処理する前と後でウェーハをきれいにする純水洗浄装置なども持つ。
<表1>に見られるように、3位の東京エレクトロン(TEL)に続き、6位にテスターのアドバンテスト、7位に洗浄に強いSCREENホールディングス、9位に計測装置に強い日立ハイテクという日本勢が入っている。
アドバンテストは、ウェーハが完成し、チップに切り離した後パッケージした後に、集積回路(IC)をテストする装置、すなわちテスターを製造供給する。メモリだけではなく、システムLSIと言われるSoC(System-on-a-chip)を検査するテスターに加え、集積回路(IC)を恒温槽などに搬送するハンドラーも製造している。
後工程で組み立てとテストを請け負うOSAT、台湾・中国が強く
かつて半導体産業は、ウェーハプロセスの前工程に価値があり、パッケージングの後工程は価値が少ないとされ、日本も米国もアジアに後工程の拠点を設けた。
完成したウェーハをチップにカットし、台となるリードフレームにチップ裏面をボンディングし、表面をワイヤーボンディングで端子を取り出し、最後にモールディングして組み立てを終えた。最後にテストして良品なら検印し出荷していた。ここではシリコン半導体の知識ではなく、小さなチップから端子を取り出すことが回路上最大の目的だったからだ。チップは1辺が1mm~数mmしかないシリコン片から数十本のリード端子を取り出して扱いやすくしてきた。
ところが最近は変わってきた。組み立て装置も自動化が進み、数mm角のチップとほぼ同じ大きさのパッケージができるようになったからだ。加えて、チップ同士を重ねる3次元パッケージ技術も始まった。こうなると、ウェーハプロセスの前工程でウェーハ同士を重ねてからチップに切り出すことも可能になる。後工程が前工程側に取り込まれることになる。現実にファウンドリ(Foundry、設計せずに顧客の設計データに基づいて製品作る会社)最大手のTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)が3次元パッケージを手掛けるようになっている。
シリコン上の集積回路(IC)を形成した最終的なウェーハそのものをプラスチック樹脂で覆ってしまい、リード端子をチップの外側に取り出すFOWLP(Fan Out Wafer Level Package)や、リード端子が少ない場合はチップの裏側だけで形成できるFIWLP(Fan In Wafer Level Package)、といった超小型パッケージの半導体チップが急速に発達してきた。iPhoneをはじめとするスマートフォンの心臓部となるSoC(System-on-a-chip)に使うためだ。特にリード端子の多いSoCではFOWLPが普及してきた。
このFOWLPパッケージ技術をファウンドリ企業のTSMCが独自に開発しており、InFO(Integrated Fan-Out WLP)と呼んでいる。この方法では、従来のパッケージング方法と違い、リードフレームやプリント回路基板のような支持基板が要らない。
チップを切り出すところまでは、従来方法と同じだが、ウェーハからカットされたシリコンチップ(ダイともいう)をウェーハとほぼ同じ大きさの仮の支持台に載せる。支持台全体をプラスチックのモールド樹脂で覆った後、全体を研磨し電極部分を露出させる。再配線層を形成したのち、プリント配線基板にハンダ付けできるようにハンダボールを再配線層の電極の上に形成する。
TSMCは、スマホ用のアプリケションプロセッサのパッケージとして、このInFO技術を使ったが、プロセッサとメモリ(DRAM)との距離を短縮して性能を上げると共に高密度実装するため、パッケージの上にDRAMを載せている。いわばPoP(Package on Package)と呼ぶ形を取る。コンピューティングではプロセッサとメモリとの距離が近ければ近いほどシステムは高速になるからだ。
かつて、前工程はTSMCが請け負い、後工程とテストはASE Group(Advanced Semiconductor Engineering, Inc)が請け負うという分業が完全に成り立っていたが、近年ではTSMCの上の例で見るように、TSMCは最新の半導体パッケージング技術でASE Groupとライバル関係にもなっている。
後工程の請負製造サービスをOSAT(Out-sourced Semiconductor Assembly and Test)と呼ぶ。OSATは最先端パッケージ以外の後工程をパッケージングだけではなく、最終のテストも請け負っている。最大手のOSATはASE Groupで、その次がAmkor Technologyとなっており、OSAT企業の上位10社では<表2>のように台湾系の企業が非常に強い。
<表2>2020年3Q(第3四半期)における半導体後工程請負サービスのOSATの世界トップ10社
順 位 | 企 業 | 地 域 | 3Q2020 ($M) |
3Q2019 ($M) |
シェア(%) | 年成長率(%) |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ASE | 台湾 | 1,520 | 1,321 | 22.5 | 15.1 |
2 | Amkor | 米国 | 1,354 | 1,084 | 20.0 | 24.9 |
3 | JCET | 中国 | 982 | 1,006 | 14.5 | -2.3 |
4 | SPIL | 台湾 | 897 | 763 | 13.3 | 17.5 |
5 | PTI | 台湾 | 647 | 566 | 9.6 | 14.2 |
6 | TFME | 中国 | 398 | 352 | 5.9 | 13.0 |
7 | Hua Tian | 中国 | 319 | 324 | 4.7 | -1.5 |
8 | KYEC | 台湾 | 251 | 225 | 3.7 | 11.6 |
9 | Chipbond | 台湾 | 197 | 174 | 2.9 | 13.1 |
10 | ChipMOS | 台湾 | 194 | 173 | 2.9 | 12.4 |
日本ではこの後工程でも米国や欧州、アジアとも異なる形態をとっていた。すなわち自社で後工程も持っていた。米国のファブレス(Fabless、工場を持たず設計などを行う企業)は前工程だけではなく、後工程でもOSATに依頼しており、自社で抱え込まなかった。
しかし、日本はつい数年前まで自社で持っていたが、結局手放した。国内では唯一、大分県に拠点を構えていた当時の株式会社ジェイデバイスが東芝の後工程を譲り受け独立系のOSATサービスを展開していた。富士通セミコンダクターやルネサスエレクトロニクスの後工程工場を譲り受け、工場を増強していた。ところが、2015年にAmkor Technologyがジェイデバイスを吸収合併し、日本からOSAT企業がいなくなった。
著者:津⽥建二(つだ・けんじ)
技術ジャーナリスト。東京⼯業⼤学理学部応⽤物理学科卒業後、⽇本電気(NEC)⼊社、半導体デバイスの開発等に従事。のち、⽇経マグロウヒル社(現在⽇経BP 社)⼊社、「⽇経エレクトロニクス」、「⽇経マイクロデバイス」、英⽂誌「Nikkei Electronics Asia」編集記者、副編集⻑、シニアエディター、アジア部⻑、国際部⻑など歴任。
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