『第11回 高機能素材Week』現地レポート

高機能素材Weekは、毎年5月に大阪、12月に東京で開催されてきたフィルム・プラスチック・複合材・金属・セラミックスなど、多種多様な製品の高付加価値化に欠かせない素材技術、要素素材を研究開発・製造販売している企業・団体が出展する展示会です。母体になっているのはファインテックジャパン(第30回)、光・レーザー技術展(第20回)で、素材・材料メーカーはもとより、加工技術、製造装置、検査関連技術の企業・団体などが出展しています。自動車、エレクトロニクス、医療機器、航空・宇宙といった産業の技術者や研究開発・製造担当者らの情報収集や商談の場となっています。

今回の東京展は、2020年12月2日から幕張メッセで開催され、前回の東京展の来場者5万4,036人(3日間)に比べ、今回はコロナ禍において、さすがに来場者数が大きく減っていましたが、展示会場には実物の素材や機器、デモなどを間近でリアルに見たり触ったりできることを期待した来場者、それを訴求したい出展社が集まっていたようです。そんな高機能素材Week東京の出展の中から興味深い技術を紹介しましょう。


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遮光・反射防止の「黒色フィルム」、スマートフォンカメラに欠かせない材料

中堅の化学メーカーとして高分子合成や複合化学材料の分野の研究開発により、高機能性フィルム、エレクトロニクス材料、ファインケミカルなどの製品化をしてきたのがソマール株式会社(東京都中央区)です。同社が出展していたのは、光学機器用、遮光・反射防止黒色フィルムと反射防止の黒色塗料です。

説明してくださった同社営業本部の菊池秀樹(きくち・ひでき)氏によると、スマートフォンに備え付けられるカメラの数は近年どんどん増え、1つのカメラには何枚ものレンズが必要であると同時に、リング状になっている遮光・反射防止のフィルムが7〜8枚も必要になっていることから、こうしたフィルムの需要もまた増え続けているのだそうです。同社は、銀塩カメラの時代から反射防止や消し塗装や遮光・反射防止フィルムで長年の実績があると言います。

菊池氏によると、これらはフィルムの端面で反射率を低減させ、スマートフォンなどのレンズユニットの内面への遮光に効果を発揮できるそうです。今回は耐熱性を向上させ、近年需要が急増しているドライブレコーダー用車載カメラでの使用に耐えられる製品も出展していました。この製品はポリエステルフィルムにカーボンブラックを同じ厚さでサンドイッチ状に練りこんであり、薄くてもシワがよらずに遮光性が担保でき、また寸法安定性や打抜きの加工性にも優れている素材だと言います。

端面での遮光率は、同社の従来製品が14.4%なのに比べ、スマートフォンなどのフィルムでは3.13%へ、また耐熱フィルムでは3.26%へ向上されました。またフィルム自体の厚さ(基材厚)も従来製品が25μmだったものを、スマートフォンなどのフィルムで8μmへ、耐熱フィルムで12μmへ薄くすることができたそうです。

さらに、傾き60°での光沢度は、従来製品が10.3%だったものをスマートフォンなどのフィルムで0.7%へ、耐熱フィルムで0.8%へ低減させ、導電性のための表面抵抗率も格段に下げることができたと言います。カメラ以外にも多くの光学機器に採用されているそうで、こうした黒色フィルムは遮光や内面反射の防止には欠かせない素材となっています。


同社の光学機器用の遮光・反射防止黒色フィルム。カメラのシャッター、絞りなどの光学機器関連の遮光部材に使われており、スマートフォンのカメラや車載カメラでの需要が急増しているそう。
同社の光学機器用の遮光・反射防止黒色フィルム。カメラのシャッター、絞りなどの光学機器関連の遮光部材に使われており、スマートフォンのカメラや車載カメラでの需要が急増しているそう。


PETボトルのリサイクル原料を使用した「ポリエステル系合成紙」

繊維大手の東洋紡株式会社(大阪市北区)が出展していたのは、PETボトルから作った合成紙です。これは製品ラベルなどに使われるポリエステル系合成紙で、以前から同社にある空洞含有ポリエステルフィルムの技術を応用して紙の内部に空洞を含有させ、軽量化と原料の削減を実現させるとともに、PETボトルのリサイクル原料を25%以上使っているそうです。

軽量化や原料の削減、PETボトルのリサイクル原料の使用によって、同社では同じ厚みのPETフィルムを生産することと比べてCO2を約34%削減できたと言います。また耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、強度に優れた特徴をもち、印刷用に白色であることからさまざまな印刷に適応でき、インクやコート剤との密着性も高いそうです。

同社によると、このリサイクル合成紙には透明なフィルムバージョンもあり、飲料瓶のラベル、自販機まわりの販促用POP(Point of Purchase、購買時点の広告)、自販機のダミー缶などのベースフィルムなどに使われているそうです。こちらの透明フィルムも従来の透明PETフィルムと比べCO2を24%以上削減できるものだそうで、また同社の従来品とも全光線透過率、引張強さなどに遜色のない品質になっていると言います。

一方でリサイクル品とはいえ安価ではなく、食品包装などには利用できない、伸び率や摩擦係数などの物性では従来品に劣るといった面もあります。それでも環境保全意識の高いエンドユーザーへの訴求などを考えると需要があると言い、今後もこうした工業用フィルムの分野で環境に配慮した製品開発を進める考えだそうです。


同社のPETボトルからのリサイクル合成紙の展示案内。環境負荷の低減とコストパフォーマンスを追求した製品。
同社のPETボトルからのリサイクル合成紙の展示案内。環境負荷の低減とコストパフォーマンスを追求した製品。


高温耐熱性、高耐溶剤性、低誘電性、加工性をもつ「熱可塑性ポリイミド」

CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic、炭素繊維強化プラスチック)は、樹脂に炭素繊維を含ませて作られますが、最近では熱硬化性樹脂から加熱して加工できるようにした熱可塑性のCFRPへ移行しつつあります。

熱可塑性CFRPでは、PEEK(Poly-Ether-Ether-Ketone)やPEKK(Poly-Ether-Ketone-Ketone)といった樹脂が使われることが多いのですが、今回の展示会では三菱ガス化学株式会社(東京都千代田区)が新しい熱可塑性ポリイミド(芳香族を含む高分子化合物)樹脂を出展していました。

説明してくださった同社基礎化学品事業部門の和田友孝(わだ・ともたか)氏によると、これは3年前から開発を始めた製品で、融点が323℃、固化するガラス転移点が185℃というバランスのとれた性質をもっているそうです。ちなみにPEEKの融点は343℃、ガラス転移点は143℃です。

そのため、同社の熱可塑性ポリイミドは、高い強度、高温耐熱性、高い耐溶剤性、低い誘電性をもち、成形加工が容易という特性があるといいます。同社ブースでは、この製品の粉末やペレット、アプリケーションとしての加工例などが展示されていましたが、航空宇宙用部材、自動車用部材、次世代通信機器用部材などに可能性があるそうです。また、この樹脂を使ったCFRPは、高強度と高剛性、耐熱性をもち、成形加工性も高いため、ギヤなどの摺動特性が求められる部材にも応用が可能と言います。


同社が新開発した熱可塑性ポリイミド樹脂。同製品の融点(323℃)がPEEK(343℃)より低いため、炭素繊維になじみやすく、固化して結晶化した後の外観も良好のまま。
同社が新開発した熱可塑性ポリイミド樹脂。同製品の融点(323℃)がPEEK(343℃)より低いため、炭素繊維になじみやすく、固化して結晶化した後の外観も良好のまま。


ビジョンセンサーを利用、「3Dレーザースキャン」による筐体の粉体塗装

株式会社IEC(名古屋市名東区)が出展・デモをしていたのは、3Dレーザースキャンシステムによる筐体の粉体塗装です。これは同社が自社開発した技術で、レーザーセンサーで対象の形状を三次元的にポイント検出し、演算を行ってから塗装用などの多軸ロボットへ転送するシステムだそうです。なお、粉体塗装は流体塗装よりも環境負荷が低いために多く使われるようになってきた塗装技術で、静電気によって塗料を付着させます。

同社によれば、少量多品種を対象にしたロボット技術ではティーチングが対応できないことがあり、そうした課題を解決するためにこの3Dレーザースキャンシステムを開発したと言います。同社がこのシステムに導入した米国製のビジョンセンサーは赤外線カメラを使っており、外乱光の影響を受けずに対象物の形状を三次元画像で認識することができるそうです。

例えば、デモで行われていたような粉体塗装を大きな筐体に一つひとつ行う場面では、高精度レーザーによって得た情報を瞬時にPCがデータ化して動作ポイントをロボットへ伝えて塗装していきます。これによって約1/3の省人化が期待できるそうです。また、粉体塗装だけでなく、ワニス塗布ゲル化装置も使うことができ、電気自動車などでの需要が高まるモーターステーター製造におけるコイル保護のためのワニス塗布も自動化できるそうです。


同社の3Dレーザースキャンシステム。赤外線カメラで対象を三次元的にセンシングすることでティーチングが不要なロボット活用ができるという。
同社の3Dレーザースキャンシステム。赤外線カメラで対象を三次元的にセンシングすることでティーチングが不要なロボット活用ができるという。


スラリー金型による成形、ファイバーレーザー用の「石英ガラスキャピラリー」

光部品やデバイス、リード端子などを製造している湖北工業株式会社(滋賀県長浜市)が出展していたのは、ファイバーレーザー用の特殊形状石英ガラスレンズ、石英ガラスキャピラリーなどです。

同社では、スラリー(泥状)金型による成形で石英のレンズを作っているそうで、具体的には、粉状にした石英とジルコニアなどの電解質、水、結合剤の樹脂などを混ぜ、それを金型へ入れて1,000度以上に加熱焼成させた後に冷却することにより石英レンズが製造されています。

ファイバーレーザーや紫外線ライトなどに使う場合、石英レンズはプラスチック製のレンズより透過性が高く、プラスチック製レンズが波長300nmからようやく透過性が高くなるのに比べ、石英レンズは260nmからも90%以上の一定した透過性を保つことができるそうです。


同社のスラリー金型による円筒形の石英レンズ。プラスチック製レンズより耐熱性や耐薬剤性に優れているのも特徴。
同社のスラリー金型による円筒形の石英レンズ。プラスチック製レンズより耐熱性や耐薬剤性に優れているのも特徴。


今回の高機能素材Weekは昨年より来場者数がやや減った(5万9,094人、2018年実績)ものの、ものづくりに関係する要素技術が集まっていたため、会場内は技術者や研究者らの熱気であふれていました。初展示の技術も多く、興味深そうにそれらの説明を聞く来場者が目立った展示会でした。

文/石田雅彦


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