株式会社堀場製作所
代表取締役社長
足立 正之氏

京都市の間口3間半で奥行きが3間ほどの民家からスタートして、今や世界28か国と地域に展開している分析・計測機器の総合メーカー、堀場製作所。ベンチャー精神は大企業に成長したいまも、続いています。コロナの逆境下での現状と、「おもしろおかしく」を社是にして未来をみすえる取り組みを、堀場製作所のトップに伺います。
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100年に1度の危機 売るのは開発効率


────新型コロナウイルスの拡大は世界的にいまだ収まる気配がありません。第2波、第3波で感染者が増える中、ものづくり企業として受けている影響についてお教えください。
「全体的にいえば、自動車ビジネスがかなり影響を受けています。自動車の販売台数は昨年春から夏にかけて各国のロックダウンで落ち込み、世界各国の自動車会社の研究開発投資へのパワーが落ちました。我々は、その影響を直接受けていると言えるでしょう。
ただ、自動車業界は(新型コロナウイルス感染拡大の)かなり前から変革の時期にありました。燃焼エンジンだけだった時代から電動化や自動運転などの新技術に対応するため産業全体の変革が求められています。新型コロナについて『100年に1度』*と言われています。
ウイルスと直接の関係はありませんが、自動車産業は、環境意識の高まりで産業自体が刺激され、変革の動きが加速されてきています」
*2020年8月のテドロス・WHO事務局長が『100年に1度の公衆衛生上の危機』と表現。

1962年11月京都市生まれ。1985 年 立命館大学理工学部数学物理学科物理課程卒業後、株式会社堀場製作所入社。88 年から2年間、米・カリフォルニア大学アーバイン校燃焼研究所研究員。99年、同志社大学工学部博士(工学)取得。2005 年~07年 早稲田大学大学院非常勤講師を務める。同年から3年間、米国のホリバ・インスツルメンツ社(旧ホリバ・インターナショナル社)社長、14年にホリバ・フランス社(旧ホリバ・ジョバンイボン社)社長、16年、ホリバ・フランス社チェアマン、18年から代表取締役社長に就任して現在に至る。18年から公益社団法人日本環境技術協会会長、19年5月から一般社団法人日本分析機器工業会副会長。
────コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化といった最先端技術開発の頭文字をとった「CASE」や情報通信技術を使って快適な移動を提供する「MaaS(Mobility as a Service)」などといった、変革の動きですね。
「一時的に自動車産業の投資力は下がりましたが、これから新しい形態の自動車のエネルギー源に対する技術開発が増えてくると思います。
我々の自動車のビジネスは自動車の販売台数に比例しません。新しいタイプのエンジンの開発や、同じエンジンでもアメリカに出す、ヨーロッパに出す、中国に出すといった提供する国や地域によっても『味付け』が変わります。R&D(研究開発)で電動化や複雑さが増してくると、我々の仕事は増えてくると思います。我々は計測器を販売しているというより開発効率を販売しているからです。
新しい自動車の開発、つまり新しいエンジンやエンジンシステム、電動化も含めた新しいパワーユニットを作る場合、どれだけ早く作り、どれだけ人手をかけずにできるかという自動車開発を効率化するソリューションを自動車産業に提供しているビジネスだととらえていただきたい。
徐々に自動車の販売台数も回復しますが、これが直接的に(我々のビジネスに)比例するわけではないのです。自動車産業のキャペックス(CAPEX:CAPital EXpenditure〜資本的支出、設備投資)は投資の原動力になります。それが戻ってくると、我々のビジネスも回復するようになると思います」

好調な半導体ビジネス
────半導体分野はいかがですか。
「メモリーがダブついたこともあり、2019年の前半ぐらいが半導体景気の踊り場でした。同じ年の12月ごろから回復傾向にありましたがそこで新型コロナウイルスによりのパンデミックが起こりました。感染予防のためリモートワークが増え、データの容量が増え、データセンターを大きくしなければならず、市場が拡大しました。
我々は、半導体の製造装置に欠かせない主要部品を販売しています。携帯電話が売れたり、データセンターの容量が増えたり、5Gなどで通信量が増えるとそれがポジティブに効き、売り上げも堅調です。これは少なくとも、今年前半ぐらいは続くと思っています」

────堀場製作所は、5つのビジネスセグメントとして自動車、環境・プロセス、医用、半導体、科学をあげています。新型コロナの感染拡大で医療分野のニーズがあがっているのでは。
「医用分野は新型コロナウイルス感染拡大で活況と思われがちですが、感染を恐れて患者が医者にかからなくなり、検査数が少なくなっています。我々は、試薬販売である一定の売り上げ、利益を保っていましたがそれが急に落ち込みました。医用分野も少し苦戦しているのが現状です。

多品種少量グローバルがキー
────全体を通してみれば、甚大な影響は受けていないということでしょうか。
「多品種少量、グローバルが我々の特徴です。日本で作ったものを世界に売っているだけではありません。生産量の半分ぐらいが日本で、残りは主に欧米です。日本以外はアジアがメインという会社も多いですが、我々は、欧米の比率が高く、そこでは主に高付加価値製品、多品種で少量生産である特徴がこういう有事に幸いしたかもしれません」
────ものづくりの現場での影響はいかがですか。
「ものづくりは現場に出ないと作ることができません。工場は基本的にできる限り継続することが我々の使命だと考えてます。我々はエネルギー分野における発電所向けの計測器も生産しています。これを止めたら大変なことになります。パンデミックによる緊急事態宣言があっても電気は必要です。情報も入手しなければいけませんから、半導体部門も絶対に止めることはできない。そう考えてみると、我々のものづくりの多くが人々の生活を支えるエッセンシャルビジネスなのです。
ただ、現場で働くサービスエンジニアはかなり辛い思いをしたと思います。簡単にPCR検査を受けられる時期ではなかった頃は、お客様の製品メンテナンスの際に『どこから来た』と誰何されるなど、精神的に厳しい環境の中でも使命感をもって働いてくれたと思います。
────生産調整もされましたか。
「下方修正をしたのは主に自動車分野で、逆に、上方修正したのが半導体です。事業を継続するために、感染拡大を防止し、クラスターを発生させないということにも注力しています。現時点でコロナの感染拡大で生産をストップしたことはありません」
────2019年に計画を2年前倒しして、2023年に売上高3,000億円をめざす中長期経営計画「MLMAP(Mid-Long Term Management Plan)2023」を策定されましたが、影響していますか。
「定量的な議論が残念ながら今は難しい局面です。現時点では、そのぐらいしか言えません。感染の2波、3波などある程度想像していても、どのぐらいの規模かこれから先もどうなるのかは想定困難です」
《中編に続く》
文・写真/杉浦美香
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