マイクロプラスチックを「微細藻類」の粘着性物質によって除去~湖や海洋汚染問題解決に向けた取り組みとは

INTERVIEW

ノベルジェン株式会社
代表取締役
長浜バイオ大学 教授

小倉 淳

1億5,000万t──これは世界の海に存在しているプラスチックごみの量です。さらに年間800万tが新たに流入していると推定されており、世界経済フォーラム(World Economic Forum、WEF)は「2050年には世界のプラスチック生産量は約4倍になり、海洋プラスチックごみの量が海にいる魚を上回る」と警鐘を鳴らすなど、海洋汚染や生態系への影響が懸念されています。

また、海洋プラスチックごみの問題が顕著になっており、滋賀県の調査では、琵琶湖のマイクロプラスチック量は、日本近海の2.7倍もあることが明らかになっています。

こうした問題を解決するべく、長浜バイオ大学発のベンチャー企業、ノベルジェン株式会社はマイクロプラスチックを分解する能力がある「微細藻類」を利用し、水産物のマイクロプラスチックの除去・回収に取り組んでいます。ノベルジェン代表取締役で、長浜バイオ大学教授の小倉淳(おぐら・あつし)氏に話を聞きました。

▽おすすめ関連記事

マイクロプラスチックとは

ノベルジェン株式会社 代表取締役 長浜バイオ大学教授 小倉淳氏
ノベルジェン株式会社 代表取締役 長浜バイオ大学教授 小倉淳氏


マイクロプラスチックは5mm以下の微細なプラスチックを指しますが、小倉氏は「マイクロプラスチックはさらに分類すると、2つに分けられる」と言います。その2つが「一次マイクロプラスチック」と「二次マイクロプラスチック」です。

「一次マイクロプラスチック」は、洗顔料や歯磨き粉などに含まれるマイクロビーズやプラスチック製品の中間原料であるレジンペレット(resin pellet)など、1mm以下で製造されたものです。サイズが小さいため主に排水などを通じて環境中へ流出していきます。

もうひとつの「二次マイクロプラスチック」は、大きなプラスチック製品が自然環境中で破砕されたもの。それを魚介類が食べた結果、魚の幼魚を致死させるほか、植物の成長を阻害するなど生態系に多大な影響を及ぼしています。実際、東京湾に生息する約8割のイワシの体内からマイクロプラスチックが見つかっている、と言われているほどです。


生態系に多大な影響を及ぼすマイクロプラスチックとは (提供:ノベルジェン)
生態系に多大な影響を及ぼすマイクロプラスチックとは (提供:ノベルジェン)


「マイクロプラスチックそのものに毒性はありませんが、毒性のある残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants、以下POPs)を吸着する傾向があるため、さまざまな毒性物質の集約に関わっています。また、単体ではあまり人体に直接影響がない濃度であったとしても、食物連鎖を介して間接的にPOPsを摂取することで胎児や幼児への影響も懸念されています。実際、プランクトンを介してさまざまな食物連鎖の枠組みで上位層にマイクロプラスチックが集約されているという研究結果もあり、200種以上の生物が摂食していると言われています」(小倉氏、以下同)

POPsは食物連鎖によって生体濃縮が行われ、その頂点にいるヒトは毎年12万個のマイクロプラスチックを食べているという研究結果もあります。

海洋汚染、生態系に悪影響を及ぼしているマイクロプラスチックですが、実は9割は陸上で発生し、海に流入したもの。この問題を根本から解決するには、人間が出すプラスチックゴミをいかに海洋に流出させないようにするかが重要になってきます。


藻類が体外に出す粘着性物質に着目、マイクロプラスチックを絡めとる

ノベルジェンの粘着性多糖類分泌藻類によるマイクロプラスチック除去技術 (提供:ノベルジェン)
ノベルジェンの粘着性多糖類分泌藻類によるマイクロプラスチック除去技術 (提供:ノベルジェン)


そんなマイクロプラスチック問題を解決すべく、小倉氏が着目したのが「微細藻類」です。藻類とは、酸素発生型光合成を行う生物のうち、コケ植物、シダ植物、種子植物を除いた生物の総称。小倉氏は分子進化学、ゲノム科学を研究の専門分野にしているため、藻類がさまざまな粘着性物質を体外に出す性質を知っており、それをマイクロプラスチックの除去・回収に活用できないか、と考えたのです。そして珪藻や藍藻、ユーグレナ、クロララクニオ藻、ミカヅキモ、褐藻、ヤコウチュウなどの藻類でマイクロプラスチックを吸着できるかどうかの実験を行うことにしました。

「微細藻類は細胞外にさまざまな粘着物を放出します。その大部分が多糖類であり、例えばテングサなどの紅藻類であればアガロースやポルフィラン、コンブなどの褐藻類であればアルギン酸やフコース含有多糖といった物質が吸着に関わってくれます。

また微細藻類は形状もサイズもさまざまですが、表面積の大きな多孔性藻類や糸状の群体を形成する生物が存在します。このような構造にマイクロプラスチックを絡めとる機能があるんです。糸状の藻類であればマイクロプラスチックを物理的に絡めとったり、糸状の仮足を出す藻類であればマイクロプラスチックに接着したりします」

小倉氏は、滋賀県内に拠点を置く理工系大学や第二創業を目指す企業などからモノづくりおよび水・環境などの分野に関連したビジネスシーズを発掘し、事業プランをブラッシュアップする「SHIGA TECH PLANTER(滋賀テックプランター)」に2017年にエントリー。最終選考会の結果、関西アーバン銀行(現:関西みらい銀行) 賞、タカラバイオ賞、オーディエンス賞を受賞。さらに2020年にもエコテックプランターにおいてマイクロプラスチック除去技術を核としたプランで日鉄エンジニアリング賞を受賞。

小倉氏はこれをきっかけに藻類を用いたマイクロプラスチックの除去・回収の仕組みの事業化、社会実装を目的に2019年10月にノベルジェンを設立しました。

現在、ノベルジェンは珪藻、藍藻、渦鞭毛藻などを含む多数の藻類において、細胞濃度を調整した培養液にマイクロプラスチック被処理水を混和後、1日静置した状態でマイクロプラスチックを十分に除去できることを確認。この技術に関しては、特許出願を行っています。そのほか、微細藻類に栄養塩と二酸化炭素を吸収させやすい濃度勾配の決定など、最適な培養条件の確立とプラスチック分解除去効率の測定も進めています。


マイクロプラスチック処理技術の実用化に向けて

ノベルジェンが目指すマイクロプラスチックフリーの水循環 (提供:ノベルジェン)
ノベルジェンが目指すマイクロプラスチックフリーの水循環 (提供:ノベルジェン)


現在、マイクロプラスチックは燃やすことができないため、埋め立て処理しかできず問題視されつつあります。そうした中、ノベルジェンはこれまでの研究をもとに、ごみの分別処理を必要としない粗処理のための高圧・高温の亜臨界水処理装置の開発、また取り除いたマイクロプラスチックをペレット化して飼料にする構想の実現に着手しています。また、分解後に出てくるマイクロプラスチックフリーの処理水を陸上養殖に活用すべく、養殖センターと提携し、実証実験をすでに開始します。

「マイクロプラスチックの分解槽に関しては、浄化槽の活性汚泥法をイメージしていただければ分かりやすいと思います。あまり詳細な仕組みについては話せませんが、藻類は太陽光で繁殖する性質を持っているので、光を当てて繁殖させ、マイクロプラスチックや汚染物質を除去していきます。また藻類によって、汚染物質はまとまってくるので、粗い目のフィルターでこしとっていくような考えです」

小倉氏によれば、他にも化学物質を水に入れてマイクロプラスチックを除去する試みはあるそうですが、常に化学物質を投入しなければならず、コスト面、システム面で現実的に難しいとのこと。「基礎技術の開発は進みつつありますがが、コスト面からも実用に耐えうるのは藻類のみだと思っています」と小倉氏は話します。

マイクロプラスチックの分解槽の実現に向け、ノベルジェンは3つの企業と「Eco Trinity」を結成。Eco Trinityは、日本財団とJASTO(日本先端科学技術教育人材研究開発機構)、科学技術領域の事業を手掛けるリバネスが立ち上げた「プロジェクト・イッカク」に事業採択され、2020年度から3カ年で総額1億円の助成を受けることも決まっています。

ノベルジェンは実証実験を通じて3年後の実用化を目指すとともに、海洋に流出したプラスチックごみの60%以上を流出させている東南アジアでも活用できるよう、低価格でごみの分別処理を必要としない、自立型のマイクロプラスチック処理装置の開発も目指しています。

「現在、数百ℓの水に対して、90%の除去率を計測しています。分解槽に関しては水処理施設に入れていきたいと思っていますが、水処理施設に導入するには処理能力を大規模化しなければいけません。2年くらいは大規模化のステップが必要だと思っています」

こう話す小倉氏ですが、同時に「まずはマイクロプラスチックを除去・回収する技術自体を世間に知ってもらうことが重要だと思うので、2021年中に陸上養殖に使えるシステムを構築し、マイクロプラスチックを除去した水産物の生産、試験販売を行いたい」との意向を示していました。



文/新國翔大


▽おすすめ関連記事

こちらの記事もおすすめ(PR)