オンライン診療の変遷、そして遠隔ICUやデジタルセラピーの可能性 《遠隔医療の過去と未来:後編》~医療現場に聞く遠隔医療のものづくり(2)

INTERVIEW

日本遠隔医療学会
専務理事・事務局長

高崎健康福祉大学
健康福祉学部 医療情報学科
教授 東福寺 幾夫

現在、遠隔医療には、大きく3つに分類されます。(1)遠隔診断。医師が専門医に画像読影(読影:病変や異常所見を見つけること)や病理の診断をする医師-医師(D to D)が基本です。(2)オンライン診療。医師と患者間でスマホやパソコンを用いて診察する(D to P)、医師や看護師が患者と一緒にいることもあります(D to P with D,Nr)。(3)遠隔モニタリング。患者の生体情報(体温・脈拍・血圧・心電図等)を情報通信機器によってモニタリングします(D to P)。

<表1>遠隔医療の分類

遠隔医療 概要・具体例
遠隔診断 医師-医師
D to D
【遠隔画像診断】他医療機関の専門医が画像の読影や診断をすること
【遠隔病理診断】術中迅速病理検査で他医療機関の専門医が標本画像等を診断すること
オンライン診療 医師-患者
D to P
医師が患者と離れた場所から診察・診断・処方をすること
医師-患者
+医師や看護師
D to P with D,Nr
訪問診療時、患者の同意のもと、患者が医師や看護師とともに遠隔地の医師とオンラインで連携すること
遠隔モニタリング 医師-患者
D to P
体内植込式心臓ペースメーカーを使用している、または、在宅酸素療法、在宅CPAP療法等している患者に対して、医師が療養上の指導をすること

 

(1)遠隔診断については、前編で紹介しました。本稿では、(2)オンライン診療、(3)遠隔モニタリングに関する現状と課題、そして、遠隔医療の未来へと話をつなぎます。

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1990年代~2000年代、「オンライン診療」解禁の背景と急速な発展

患者に対する遠隔診療は、1990年代からその模索は続いていました。当初は、医師不足の地域やへき地などの医療体制を補うために推進されていました。

当時の課題は、法律上の制約でした。特に、医師法20条の「対面診療の原則」は大きな壁でした。転機は1997年、厚生省が医師法20条について「初診は対面で、遠隔診療は補完的役割とする」と解釈する通知を出したことです(参考文献2)。再診以降の補完的役割であっても遠隔医療が医療として初めて認められたのです。

さらに2003年、および、2011年、厚生労働省が遠隔診療を離島・へき地以外でも可能とする通知を発出したことで、徐々に日常的な遠隔医療が解禁となりました。この時期は、在宅医療でどのように使うことができるか、実験を繰り返してきました(参考文献3)。

その後、スマホやタブレットの高機能化、高性能化、および、安定した高速通信や無線LANが普及したことで、遠隔診療実施に向けた環境が整備されていきました。

2015年、内閣府の規制改革会議で遠隔診療が取り上げられたことがきっかけとなり、次々とオンライン診療のアプリが開発されました(参考文献3)。

現在、▽㈱メドレー「CLINICS(R)」、▽㈱MICIN(マイシン)「curon(クロン)」、▽㈱インテグリティ・ヘルスケアのオンライン診療・服薬指導システム「YaDoc(R) Quick」、▽㈱オプティムとMRT㈱「オンライン診療ポケットドクター(R)」▽㈱アイソル「リモートドクター(R)」、▽スピンシェル㈱「Live Call(R)ヘルスケア」、▽ポート㈱「ポートメディカル」等がアプリを販売・運用しています。

2020年の新型コロナウイルス感染拡大によって、社会でオンライン診療の必要性が増しました。慢性疾患の患者がかかりつけ医への定期受診を躊躇したからです。そこで、クリニックや診療所(以下、医療施設)を中心として、急速にシステムの導入が進んでいます。

オンライン診療とは、そしてそのメリットとデメリット

オンライン診療のしくみを説明しましょう。通常(平時)、初診は対面医療を受けることとされています。直近の3か月で対面診療を受けたことがあれば、その後は患者の同意を得たうえで、電話や情報通信機器(パソコンやタブレット、スマートホン)によるオンライン診療と対面診療を組み合わせることができます(<表2>参照。 参考文献4)。そのとき自宅から遠い地域でなく、おおむね30分以内の医療施設で対面診療を受けることと決まっています。

<表2>対面診療とオンライン診療の組み合わせの例

1月目 2月目 3月目 4月目 5月目 6月目
初診
(対面診療)
対面診療 対面診療 対面診療 オンライン
診療
オンライン
診療
7月目 8月目 9月目 10月目 11月目 12月目
対面診療 オンライン
診療
オンライン
診療
対面診療 オンライン
診療
オンライン
診療

 

日本医師会は長年にわたって、「初診からのオンライン診療は、情報のない中での問診と視診だけの診断や処方となるため、大変危険である」と主張を繰り返してきました(参考文献5)。

ただし、やむを得ない事情がある場合は医師の判断で初診からオンライン診療を受けられることもあります。例えば、希少性の高い疾患、専門性の高い疾患の場合は、かかりつけ医と事前に情報共有したときに限り、初診の医師からでも受診できます(参考文献4)。また、在宅医療の場合は、複数の医師がチームを組んで同じ患者を診ることがあるため、その場合も初診でオンライン診療を受けることは可能です(参考文献4)。

さらに、2020年から新型コロナ感染拡大期(非常時)は、すべての医療施設において、初診から電話や情報通信機器によるオンラインで診療を受けることができるように要件が緩和されています(参考文献5)。このとき、患者情報が不足している場合は、薬の処方日数が7日間までとされています(参考文献5)。また、治療計画を作成していなくても診療できます(*5)。

非常時に限り、患者が希望し、薬局薬剤師が患者にオンラインで服薬指導を適切に実施できると判断した場合は、医療施設が薬局へ処方箋をファックスで送信することで、薬局から患者宅へ薬を配送することもできます(参考文献5)。

オンライン診療のメリットは、患者にとって移動の時間的、労力的、経済的負担がとても軽くなることです。患者は病院での待ち時間がなく、キャッシュレスで受診できます。移動にともなう転倒等のリスクも減少できます。
また、患者からは「家のほうがリラックスして、医師と話しやすい」という声も聞かれます。医師も患者の自宅での様子を見ることができ、「アドバイスしやすい」という声を聞きます。

医師にとっても、オンライン診療のメリットとして、訪問診療の場合に比べ、移動の時間的、労力的な負担が軽減されます。問診以外の診察が必要な場合でも、看護師だけが患者宅を訪問するケースがあります。例えば、訪問看護師が患者の自宅へ訪問し、ベッドのそばで血圧や血糖値等を測定し、遠隔地の医師へデータを送ります。医師はテレビ電話で患者の様子を観察したり問診したりしながら、データをもとに診察します。

一方、オンライン診療のデメリットや課題について、現場の医師は次のような点を挙げます。

(1)現在は触診、聴診、検査ができない。においも診察時の参考になることが少なくないが、画面越しにはわからない。
(2)オンライン診療と外来診療が二本立てになるため、事務作業が煩雑になる。
(3)診療報酬が、オンライン診療よりも対面診療のほうが高い価格で設定されているため、医師が導入を躊躇する原因になる。
(4)医師も患者もなりすましがいる可能性がある。
(5)病院情報システムや地域連携ネットワークとのリンクも未整備な部分が多くある。

現在、医療保険が適用になるオンライン診療は、診療報酬が算定できる項目(疾患名)で限定されています。例えば、▽病状の安定した慢性疾患(特定疾患療養管理料:糖尿病、高血圧、心疾患、脳血管疾患等)、▽小児療養中の疾患(小児科療養指導料:脳性麻痺、先天性心疾患、ダウン症などの染色体異常、ネフローゼ症候群など)、▽てんかん(てんかん指導料)、▽難病(難病外来指導管理料)、▽認知症(認知症地域包括診療料)、▽精神科医療(精神科在宅支援管理料)、▽在宅医療(在宅時医学総合管理料)等が適用になっています。

 

今後の遠隔医療の可能性と、システム開発における課題

日本遠隔医療学会専務理事・事務局長、高崎健康福祉大学健康福祉学部(医療情報学科) 東福寺幾夫教授
日本遠隔医療学会専務理事・事務局長、高崎健康福祉大学健康福祉学部(医療情報学科) 東福寺幾夫教授


今後の遠隔医療については、日本遠隔医療学会で17種類の分科会が検討を重ねています(<表3>参照、参考文献6)。

 

<表3>日本遠隔医療学会の分科会

分科会名 概要
国際医療分科会 遠隔医用通訳分野だけではなく、幅広い国際医療モデルを研究対象とする。
在宅見守り支援分科会 「ひと」と「もの」を連携した「社会連携ユニットの構築」を提言し、在宅見守り支援の確立と普及を目指す。
周産期医療分科会 日本産婦人科医会で取り組んでいる「周産期電子カルテネットワークプロジェクト」を日本全国、および、世界に展開する。
睡眠遠隔医療分科会 睡眠医療の診断及び治療全般のレベル向上を図る。
オンラインバイタルモニタリング分科会 高度障がい者の在宅療養において必要な生体モニターデータの遠隔伝送に関するガイドライン案の策定により、機器メーカーの機材開発を促進する。
精神科遠隔医療分科会 日本精神神経学会「オンライン精神科診療検討委員会」と連携しながら、精神科領域でオンライン診療が可能になる活動をする。
遠隔医療モデル研究分科会 遠隔医療でAI、IoT、VR、5Gによって何ができるか、何が障壁となるか遠隔医療モデルを研究対象とする。
市民に遠隔医療をやさしく学んでもらう分科会 理解度に関する意識調査を適時実施し、市民向けのやさしい勉強会の開催や教材の制作等、市民教育の確立を目指す。
歯科遠隔医療分科会 遠隔医療を応用した新たな歯科医療の可能性を提言し啓蒙する。
①病院、高齢者施設における歯科オンラインサポートの実践と普及啓発。
②オンライン診療に対応するスタッフの育成(BOC(Basic Oral Care)プロバイダー)。
③デンマーク王国とのデジタルヘルス領域での研究、連携を推進。
デジタル療法分科会 医薬品や医療機器とは異なるアプリを活用した新たな治療法(デジタル療法)に関する普及啓発・診療モデルの検討・エビデンスの創出に取り組む。
皮膚科遠隔医療分科会 皮膚科遠隔医療の正しい利用に関するガイドライン等作成のために皮膚科学会と協議を進める。国内でのエビデンスの創出に取り組む。
循環器における在宅医療分科会 循環器疾患と睡眠時無呼吸症候群と脳卒中の関連性を突き止め、社会保障費の軽減に努める。在宅医療における循環器疾患の管理、医療・介護の連携、家族等の連携に関して研究する。
遠隔ICU 分科会 日本集中治療医学会で遠隔ICU委員会を設立し、日本版遠隔ICUに対する検討を始めた。遠隔ICUに関連する課題について検討する。
オンライン診療分科会 様々な視点からの討議を通して、オンライン診療の現状と課題とその可能性を追求し、関連領域同士での共同研究を結実させる。
遠隔医療法務分科会 遠隔医療分野において想定される事業形態に潜在する法的リスクの検討・分析を通じ,今後の医療安全や予防法務,法的整備のあり方を探求する。
遠隔医療基盤検討分科会 今後の統合化とAI、IoT, robotの技術応用と制度の基盤を検討する。
へき地遠隔医療分科会 へき地における遠隔医療、オンライン診療等について現状や課題を関係者で共有し、医療の確保や地域包括ケア推進につながる学術活動を実施する。

 

また、2021年2月にオンライン上で開催した「第24回日本遠隔医療学会学術大会」、「第25回国際遠隔医療学会」(同時開催、大会長:利根中央病院外科 郡隆之医師)では、「臨床医学」「国際協力」「政策」「ソフトウェア」「ハードウェア」「ネットワーク」「セキュリティ」「ウェアラブル」「ロボット工学」「人工知能」「ビックデータ」「5G」「テレナーシング(遠隔看護)」のキーワードが並びます(参考文献7)。

同学会専務理事・事務局長で、高崎健康福祉大学健康福祉学部(医療情報学科)の東福寺幾夫(とうふくじ・いくお)教授は、今後「遠隔ICU」、および、「遠隔による精神科医療支援(遠隔心理カウンセリング等)」に注目しています。

遠隔ICUとは、複数の病院のICU患者の生体情報を遠隔でモニタリングして集中的に監視することです。その背景には、ICU専門医が不足していることも挙げられるため、「スタッフを少人数に絞って効率的に活用できます」と東福寺教授は説明します。

「遠隔による精神科医療支援」は、日本のオンライン診療ではてんかん、認知症、精神科疾患の在宅療養が保険適用とされています。遠隔による精神科医療支援の一つに、デジタルセラピーがあります。

「デジタルセラピーは、スマホアプリ等を用いて継続的に介入することで、治療効果を高めようとするプログラム医療機器です。従来は医療者と患者が接する機会は診察の場に限られており、それ以外の期間は患者は医療者から切り離されていました。デジタルセラピーは対面あるいはオンラインの診療と診療の間を埋めるもので、患者の治療に連続的な介入を実現することで治療成績の向上を図ろうとするものです。そこには、患者の心身に関わる情報の継続的モニタリングや日々の服薬実績把握の機能も含まれ、また治療や疾病に対する教育(知識提供)も含まれることがあります」と東福寺教授は言います。

東福寺教授はまた、遠隔による精神科医療は、海外赴任者等の在外日本人にもニーズがあるのではないかと提案します。
「現地の言葉でストレスによる症状を話すより、オンラインでつながり、日本語で相談できるほうが安心感を得られるでしょう」と東福寺教授は話します。

この場合、費用はオンライン決済できます。しかし、在外日本人が日本の医師からオンライン診療を受ける場合、「海外における医療提供体制の規制に関する調整」や「薬の処方に関する対応」等の課題も出てくるでしょう。

今後の遠隔医療のシステム開発における課題については「遠隔医療は社会システムの一つです。厚労省は導入時だけ助成金で支援するため、医療施設は持続的な運営でつまずきやすい。診療所やクリニック、病院がどのように財源を確保し、経済循環できるか、その仕組みづくりが肝要になるでしょう」と東福寺教授は指摘しています。


次回からは各論として、遠隔医療ものづくり技術の最新動向について順次紹介していきます。

※本稿は2021年1月11日時点の情報です。

参考情報
・CLINICSは、株式会社メドレーの登録商標です。
・YaDocは、株式会社インテグリティ・ヘルスケアの登録商標です。
・ポケットドクターは、MRT株式会社と株式会社オプティムの登録商標です。
・リモートドクターは、株式会社アイソルの登録商標です。
・Live Callは、スピンシェル株式会社の登録商標です。



▽参考文献
厚生労働省 『オンライン診療の適切な実施に関する指針』のほか以下の通り
参考文献1:厚生労働省 『オンライン診療の推進,未来投資会議・構造改革徹底推進会合「健康・医療・介護」会合第4回』 2018年
参考文献2:厚生省 『平成9年12月24日付健政発第1075号厚生省健康政策局長通知』 1997年
参考文献3:日本遠隔医療学会HPの 『遠隔診療 通知・指針』
参考文献4:厚生労働省 『令和2年度診療報酬改定 Ⅱ―11 医療におけるICTの利活用』 2020年
参考文献5:厚生労働省 『新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて(令和2年4月10日事務連絡)』 2020年
参考文献6:日本遠隔医療学会HPの『分科会』 2020年
参考文献7:第24回日本遠隔医療学会学術大会、第25回国際遠隔医療学会 2021


文/福原麻希(医療ジャーナリスト)

▽医療現場に聞く遠隔医療のものづくり

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