『nano tech 2021 第20回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議』現地レポート

世界最大級のナノテクノロジー総合展示会として、2020年12月9日~11日に20回目の開催を迎えた「nano tech 2021 第20回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」。今回のテーマは、「新しい社会変化を支えるナノテクノロジー(Nanotechnology with New Social)」。環境・エネルギー、次世代電池、自動車、ポスト5G、バイオテクノロジー、IT&エレクロニクスなどさまざまな分野への応用が出来るナノテクノロジー技術のビジネスマッチングが行われる展示会です。

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ラマン分光分析装置、イメージングの高速化や自動調整機能の進化

堀場製作所グローバル本部マーケティングコミュニケーション部 貫名春美氏とラマンイメージング装置
ラマン分光法による写真(中央列のカラー写真)。光学像観察(左列の白黒写真)に比べて細胞種の判別がしやすい。


同展示会の会場に入り、まず訪れたのは堀場製作所のブースです。堀場製作所は、光学機器メーカーとして200年の歴史を持つジョバンイボン(Jobin Yvon)社を1997年に買収しており、同社の技術をもとに物質の成分分析や分子構造解析などに有用な「ラマン分光分析装置」を展開しています。

今回のブースでは、ラマン分光分析装置の新製品となるラマンイメージング装置を展示していました。そもそも、ラマン分光分析とは「光」の性質を利用した分析方法。光を物質に照射すると、相互作用により光の一部は散乱されます。散乱した光の大部分は、入射した光と同じ波長(レイリー散乱光)ですが、一部で入射光と異なる波長をもつラマン散乱光と呼ばれるものが発生し、この波長の差は、物質がもつ分子固有の振動エネルギーに相当します。

ラマン分光分析とは、このラマン散乱光の性質を用いて物質に含まれる成分や、分子構造などさまざまな性質を調べる手法のこと。製薬や半導体、化学製品など多様な市場における研究開発用途から、生産現場での品質管理や異物検査に至るまで、幅広い分野で貢献しています。

同社のラマンイメージング装置は「高機能」と「使いやすさ」を徹底的に追求。イメージングの高速化や自動調整機能のさらなる進化、直感的に操作できるソフトウェアなどを実現しています。具体的には、試料を動かさずに高解像度・高速で3Dイメージングが実現するほか、独自の新アルゴリズムで従来製品の約100倍の速度で2Dの全体像イメージングが可能です。

そのほか、これまでは熟練した技術が必要とされてきた「レーザーの光軸自動調整」や「対物レンズ倍率の自動認識」、「ワンクリックでのレーザー切り替え」といった分析時間の効率化を実現する機能も多数搭載されています。

ラマン分光分析装置において、約30%の世界シェアを誇る堀場製作所。同社のグローバル本部マーケティングコミュニケーション部の貫名春美(ぬきな・はるみ)氏は今後「新型コロナの感染拡大で重要性が高まるバイオ・ライフサイエンス市場でのビジネス拡大を目指していく」と言います。

「ワクチン開発や検査体制の整備はもちろんですが、人々の健康な生活を守るための研究分野であるバイオ・ライフサイエンスの重要性がいま、改めて注目されています。同社の製品は製薬・創薬から細胞・遺伝子まで、幅広い領域での研究開発活動に役立てていけるのではないか、と思います」(貫名氏)

ナノエマルション製造装置、製造時間短縮による開発コストを削減

国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC) 新機能開拓グループ 丸岡敬和氏
同社製品によって製造されたナノエマルション


牛乳、マヨネーズ、バターといった食品など、さまざまな産業分野で基礎技術として必要とされている「エマルション(emulsion)」。エマルションは本来、水と混ざり合わない油を微小な油滴として水に分散したものですが、昨今は油滴のサイズを極限まで小さくした「ナノエマルション」に注目が集まっています。すでに肌への浸透性を高めた機能性化粧品など、新たな製品が続々と生み出されています。

そんなナノエマルションを10秒で製造できる装置を、高温高圧機器専門メーカーのAKICOと共同で開発したのが、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)です。JAMSTECは同機構が保有する有人潜水調査船「しんかい6500」を使い、マグマで熱せられた熱水が深海底から噴出す深海熱水噴出孔の周辺環境を研究。

熱水噴出孔では、高温・高圧(374℃、218気圧以上)の極限である超臨界状態の水が海底から噴き出しています。そのような極限状態では、水の性質ですら大きく変化し、さまざまな油と自由に混じり合うようになります。

その知見をもとに、同製品の開発に至った、と同機構 新機能開拓グループの丸岡敬和(まるおか・ひろかず)氏は言います。

「通常のエマルションの製造では、高圧ホモジナイザーなどを使って大きなエネルギーを加えることで、油滴を繰り返し引きちぎって小さくします。ただ、本装置では油を超臨界水に溶解させた後、毎秒200度を超える速度で急冷することで、油と水を再び分離させます。その過程で油の分子は互いに集合し、ナノサイズの油滴を形成します」(丸岡氏)

ナノエマルションの製造にかかる時間はわずか10秒で、同製品を使えば乳化を必要とする製品の開発コストを大幅に削減することが可能です。

また、同機構は産学官共同研究プロジェクトも実施しており、その成果として食品添加物などを扱う三栄源エフ・エフ・アイ、奈良先端科学技術大学院大学(NAIST)、大阪大学といった、食品用天然色素の高付加価値化に向けた応用例を披露していました。

これまで、色の分離や色むらを防ぐために、飲料や食品の糖度に応じて乳化製品を使い分ける必要がありましたが、独自の安定化付与技術によって年単位での乳化が可能となり、幅広い飲料、食品でも使い分けを気にせず活用できるようになったとのこと。ナノエマルションの活用は今後、さまざまな業界で広がっていきそうです。

走査電子顕微鏡(SEM)、低加速電圧(1kV)でも高分解能を実現

カール・ツァイス株式会社 インダストリーセールス 亀山遼平氏
カール・ツァイス株式会社 インダストリーセールス 亀山遼平氏

1846年にドイツで設立、170年以上の歴史を持つ光学機器メーカー「CARL ZEISS(カール・ツァイス)」は今回の展示会で新製品の走査電子顕微鏡(SEM)を出展していました。



走査電子顕微鏡は表面観察および分析を主な目的にしているため、比較的低い加速電圧が用いられています。加速電圧を下げるとSEMの解像力が低下するため、従来はある程度高い加速電圧が使われてきましたが、昨今は装置の高分解能化によって、より低い電圧で観察が可能です。

同社インダストリーセールスの亀山遼平(かめやま・りょうへい)氏は「我々の走査電子顕微鏡のウリセールスポイントは低加速電圧でありながら高解像なイメージングが得られることです」と言い、新製品はより高機能になり、かつ解像度もさらに上がっているとのことです。

「表面観察や分析を行う際に必要な調整時間を短縮しました。例えば、従来は10秒ほどかかっていたオートフォーカスが数秒で出できるようになっています。さらに新製品では加速電圧1kV時の分解能が0.8nmに向上しており、この数値は市販されている走査電子顕微鏡の中では最高クラスです」(亀山氏)

そのほか、非破壊三次元X線顕微鏡 (X線CT)も展示されていました。従来のXCT装置はサイズが大きなサンプル(作業距離も長い試料)及び軽元素サンプルにおいて分解能・コントラストを保持することが困難で克服すべき大きな課題と言われていました。

同製品はそうした課題を解決。同社 XRM責任者の平野一秀(ひらの・かずひで)氏はつぎのように語ります。

「独自の2段階拡大(幾何学分解能+光学分解能)の採用により性能がX線源性能(スポットサイズ)に制限されないほか、独自のRaaD(Resolution at a Distance)技術によってさまざまな試料サイズと作動距離で高分解能・高コントラスト観察が可能となっています」(平野氏)

リチウムイオン電池におけるプロセスレシピの開発とサプライチェーン管理、安全性と品質の検査、生物学的試料の自然環境下における3Dイメージング、材料研究における3D構造の特性評価、不良のメカニズム、劣化現象、内部欠陥の観察などで活用されているそうです。


海外パビリオンは「カーボンナノチューブ」に注目が集まる

同展示会には海外パビリオンもあり、韓国とカナダパビリオンでは「カーボンナノチューブ」を開発する企業が注目を集めていました。中でも単層カーボンナノチューブは軽量でありながら、強度は鋼の20倍、熱伝導性は銅の10倍、電気伝導性は銅の1,000倍と極めて優れた素材として注目を集めていますが、なかなか量産化には至っていませんでした。

そうした中、韓国企業のJEIOはカーボンナノチューブを10年以上研究・開発、生産し、直径や長さ、形状などを制御できる独自の技術を開発。これにより、単層カーボンナノチューブと同様の特性を持つ薄層ナノチューブの生産に成功しています。

また、5年以上の研究のもと独自で開発した連続生産設備を保有。年間100万t以上の生産を可能とするなど、世界的にも注目を集めています。

一方、カナダパビリオンではカナダとアメリカに28か所の施設をもつ電力会社として有名なCapital powerが出展。同社は排煙から出る産業二酸化炭素を回収し、費用効果の高い電解方法によって、産業二酸化炭素をカーボンナノチューブに直接変換し、安価にカーボンナノチューブを生産できる技術を開発しています。

現在、同技術の商用化を推し進めているとのことで、将来的には最大7,500tものカーボンナノチューブを生産できる見込みとのことです。

2020年から2025年まで15%の年平均成長率(CAGR)で成長すると予想されているカーボンナノチューブ市場。今後も国内外でプレイヤーが増えていきそうです。


文/新國翔大

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