今年で10回目となる光とレーザーの科学技術フェアは、赤外線フェア(第10回)を母体として、分光フェア(第7回)、光学薄膜フェア(第7回)、紫外線フェア(第7回)、レーザー科学技術フェア(第5回)、オプティクスフェア(第5回)、可視光・次世代レーザー応用ゾーン(特設)といった各種フェアが集まり、毎年秋に開催される研究者・技術者の技術交流や商談会を兼ねた光学系の展示会です。
今年の会場は浜松町に新しくできた東京都立産業貿易センターで各フェアに3階から5階に分けて行われ、新型コロナ感染防止対策を施して開催されました。新型コロナの影響もあり、2019年の来場者5,193名(3日間)より減ったようですが、専門性の高い業種の関係者が多く、普段からよく顔を合わせているのか、来場者と和気あいあいといった雰囲気で意見交換するなど、どこか和やかな展示会といった印象でした。出展の中からいくつか興味深い技術を紹介しましょう。
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スペックル・ノイズの定量的な測定技術、レーザーディスプレイの画質改善に向けて
可視光・次世代レーザー応用ゾーンに出展していた株式会社オキサイド(山梨県北社市)は、レーザー光がザラザラした面に当たった際にランダムに散乱してギラギラした明暗の斑点模様(スペックル・ノイズ)が発生することによる、レーザーディスプレイの画質劣化につながる現象を軽減させるための測定装置を展示していました。
レーザーディスプレイを実用化するにあたってこのスペックル・ノイズの低減は大きな技術的課題です。通常私たちが画像や映像を映して見る時は、レーザーディスプレイから対象物が光学的に投影され、スクリーンに反射した観測光を自らの網膜で検出して見ています。
この時照射されたレーザー光を広い角度に散乱させるためにスクリーンはザラザラしていますが、これによりヒトの目の網膜上でランダムなレーザー光干渉現象としてスペックル・ノイズが発生することがあり、これが画像ノイズとして見る人に不快感を与える原因となっているのです。
また、測定装置と新たに開発したカラースペックル測定ソフトウエアを組み合わせ、このノイズを定量化してレーザープロジェクターの客観的な評価もできるそうです。ソフトウエアは、カラースペックル分布を色度図上にプロットし、カラースペックル分布の評価指標を算出してグラフ描画や疑似カラーの表示ができます。
同社の装置は、個人差のある網膜上の点像強度分布をソニー製のCCDカメラ(140万画素)を用いて、光学的に忠実に再現させていると言います。重さ4.8㎏(フィルタホイール装着時は約5.2㎏、別に2.3㎏の電源ボックス)で可搬でき、レーザーディスプレイを開発するために欠かせないスペックル・ノイズの正確な定量的測定手段として活用できるそうです。
また、同社は大阪大学の半導体レーザーシステム工学グループ(山本和久教授ら)と産学連携でスペックル・ノイズや走査型可視光レーザーの研究開発を進めており、スペックル・ノイズを注意喚起に利用する逆転の発想的な技術なども開発しているそうです。

半導体レーザーを使った光無線給電技術、まだ安全性と熱対策の課題も
東京工業大学工学院・電気電子系、宮本智之純教授の研究室が展示していたのが光無線給電OWPT(Optical Wireless Power Transmission)の技術です。これは半導体レーザーの一種であるVCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER、垂直共振器面発光レーザー)を使った高効率なエネルギーの供給システムで、原理は面発光の高出力レーザーから光ビームで電気エネルギーを遠距離の太陽電池へ送るそうです。
OWPTは約16%の給電効率になっていて、すでに実用化段階にあるそうです。固定機器の間では数mから数㎞までで、将来的には50%を超える給電効率を目指しています。
ただ、実際にレーザー光を発生させるとそれが当たった場合、失明するなど人体に有害なため、瞬時にオンオフを制御しなければならず、現在は安全性と熱対策の研究を進めているそうです。日常的に使う電気自動車やドローンなどへの給電を考えると安全性が重要となるためです。
OWPTが実用化されれば、いつでもどこでも給電が可能になり、バッテリーを搭載する必要も少なくなるそうです。将来的には、短波長で72%の給電効率を実現させたいといいます。

独自のイメージング分光システムによるスペクトル分析技術、食品の異物検査に
分光フェアにハイパースペクトルカメラを出展していたのは、エバ・ジャパン株式会社(東京都港区)です。ヒトが見える波長380nmから780nm付近の可視光線を細かく分析することを分光技術と言いますが、ヒトの目でわからない物体の特性を探ることができるそうです。
同社のハイパースペクトルカメラは、外部のスキャン装置を必要とせず、同社が独自に開発したイメージング分光システムにより内蔵分光をスキャンする技術を搭載しています。カメラはCMOSで赤外インガスカメラによる近赤外成分分析で可視光線を5nmずつ色分析し、光学的な調整をするPC専用ソフトウエアによって数値データ化するそうです。
こうしたスペクトル分析により、食品の異物検査や鮮度計測、生化学や医薬分野での顕微鏡分析、鉱物や建造物、半導体などの成分の可視化、ドローン空撮による地形や地表の観察といったことが可能になると言います。例えば、染色すると死んでしまう細胞や線虫などの実験動物を染色せずに分析できるそうです。

小型赤外線センサーの測定誤差を軽減させた、非接触温度測定カメラ
赤外線フェアに体表面温度測定用サーマルカメラを出展していたのはインフィニテグラ株式会社(神奈川県横浜市)です。新型コロナ対策において非接触で体温を測定する場面が増えましたが、説明してくださった同社開発部部長、馬場鉄平(ばば・てっぺい)氏によると、小型でシンブルな遠赤外線センサーは測定誤差が大きく、体温測定には不向きだそうです。
同社は2つの遠赤外線センサーを連携させ、時間経過とともに変動する測定温度のブレを軽減させたと言います。また、それぞれのセンサーの前面に温度計を搭載することでリアルタイムに測定誤差を修正しているそうで、測定誤差±0.6℃未満(2020年10月20日時点)を実現させたそうです。
従来のものは温度補正のための黒体炉という機器が必要ですが、同社のカメラは黒体炉を内蔵しているため、設置してすぐに測定が可能です。また可視画像カメラを使用しないため個人識別ができないことから、公共の場での使用に適しているそうです。同社の小型サーマルカメラの技術は現在特許出願中だと言います。

いろいろな光技術が一堂に会した光とレーザーの科学技術フェア2020。新型コロナ禍でも、多様性と奥深さを実感させられた展示会でした。
文/石田雅彦
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